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2007年8月11日 (土)

「新左派」と「新自由主義派」

 2007年8月6日号(8月4日発売)の経済専門週刊紙「経済観察報」は、「観察家」(オブザーバー)のページで、この7月11日に三聯書店が発行する雑誌「読書」の共同編集長を突然に更迭された汪暉氏と「経済観察報」編集部との対談を掲載しています(タイトルは「汪暉:『現代化自体を考え直す必要がある』」)。雑誌「読書」は、1979年から発行されている思想誌で、汪暉氏は、1996年初からその共同編集長を務めていました。汪暉氏は、急速な経済発展は都市と農村の格差を拡大させ、国有企業の無秩序な民営化は大規模な腐敗と国有資産の流失を招いたとして、現在の経済政策を批判し、経済の行き過ぎた市場化を抑制し、経済の中に占める公有制経済の重要性をもっと高めるべきだ、と主張しています。もちろん、彼は、文化大革命時代のような原理主義的な共産主義を求めているのではなく、改革開放政策を進めることは認めていますが、急激な市場経済化による「歪み」を批判しているのです。彼のような考え方を持つグループは「新左派」と呼ばれています。

 一方、「経済観察報」が累次掲載している社説や論評では、「中国共産党による指導による政治運営」という大前提の下で、誤った政治運営を人民が是正し、納税者の声が政治に反映できるような民主的な制度にすることを提唱しています。それは、例えば、中国共産党が多数を維持しつつも、他の政党の声が政治に反映できるような多党制を目指すもの、と言ってもいいかもしれません。そもそも中華人民共和国成立当時は、中国共産党が政治の全てを支配していたわけではなく、中国共産党の指導の下で、知識人や中小商工業者等の代表からなる複数の政党が話し合いで政治の方向性を議論する体制でしたので、そういった中華人民共和国の建国の原点に戻るとともに、「中国共産党による指導」という原則の範囲内で、できるだけ民主化を進めることを主張しているわけです。このような方向性を目指している考え方を持つ人たちは「新自由主義派」と呼ばれます。

 現在の中国では、「中国共産党による指導の下での政治運営」という基本原則を覆そうとするものでない限り、比較的自由な言論が行われていますから、「新左派」と「新自由主義派」とは、いろいろな雑誌、新聞を通じて議論を行ってきました。雑誌「読書」は「新左派」を代表する思想誌と思われてきましたが、発行元の三聯書店は、7月11日、共同編集長を努めていた汪暉氏と黄平氏を突然更迭しました。その理由については、様々な憶測が行われていますが、真相はわかりません。

(参考)gooニュース(産経Web)2007年7月27日03:30配信
「新左派系編集長を更迭 中国の雑誌「読書」 市場経済…販売政策を転換?」
http://news.goo.ne.jp/article/sankei/world/m20070727030.html

 この産経の記事では、この共同編集長の更迭の背景には、雑誌「読書」の発行部数が落ちたことと、本来の「学術誌」から離れ過ぎてしまったことへの読者の不満がある、と分析しています。

 「新自由主義」の旗手である「経済観察報」が「新左派」の先頭に立ってきたと見られている汪暉氏を招いて対談を行ったことについては、この「経済観察報」の対談記事の冒頭で、漢代の劉向が言った言葉「君子が人と交わろうと思えば、水と火のように合わない相手でも憂えてはならない。鼎(かなえ:古代の鍋)を置いて、水と火が混じり合わなければ、おいしい料理はできないのと同じだ。」を引用し、あえて自らと意見の異なる論客を招いて議論を深めたいと思ったからだ、と述べています。一定の条件ははめられているものの、その範囲内で理性的に活発な議論が行われている現在の中国の言論界の状況を示すひとつのエピソードだと思います。

 なお、現在の中国には、「新左派」でも「新自由主義派」でもない、いわば「既得権益グループ」とでも称すべき人々が存在します。一部の地方政府の幹部などのことで、社会主義に基づく政治権力をバックにして、市場経済化の波に乗る一部企業と結託して「金儲け」をしている人たちです。彼らは、自らの権力の源である社会主義の原則は守られる必要があると考えている一方、「金儲け」を続けるためには、市場経済化による急激な経済発展が今後も続くことを望んでいます。人民による選挙などの民主的な方策によって自らの地位を追われることを最も嫌うグループです。しかし、この「既得権益グループ」は、単に金儲けに走っているだけで、崇高なる思想などありませんから、「新左派」と「新自由主義派」の論争、といったまじめな思想上の議論には登場してきません。今後の中国の行方は、良識ある思想家・政治家たちが、思想なき「既得権益グループ」をどのようにコントロールしていけるかに掛かっていると思います。

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