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2007年8月 1日 (水)

小売価格を政府がコントロールしないようにとの通知

 最近、中国の消費者物価の上昇はかなりの高いレベルです(6月の消費者物価指数は対前年比4.4%高)。そこで、今、物価の安定が政府の重要な課題なのですが、この6月頃、セン西省(センはこざとへんに「狭」のつくり)の蘭州市で、蘭州名物の「牛肉麺」の値上がりが激しいため、市政府が「牛肉麺の価格は2.5元以下にせよ」という通知を出して話題になったことがありました。この時は、「そもそも市政府が牛肉麺の価格をいくら以下にしろ、などと指示することはおかしい」「いや、貧しい市民ためには必要な政策だ」「値段の上限を決められたら、お店は品質を落として売るだけだから、消費者としては全然ありがたくない」など、様々な議論がなされました。

 最近、ときどきこういうことが起こるので、中国政府の国家発展改革委員会は、地方政府に対して「物価の安定には努力すべきだが、正常な経済活動が行われている限り、地方政府は価格決定に直接係わるべきではない」との通知を出しました。

(参考1)「新京報」2007年7月31日付け記事
「発展改革委員会、地方政府に価格を提示するのを控えるようにと指示」
http://news.thebeijingnews.com/0546/2007/0731/011@280084.htm

 これに対して、翌日の今日(8月1日)の「新京報」の「観察家」という評論欄では、「市場のことは市場に任せ、政府は政府がやるべきことをやるべき」として、この発展改革委員会の通知を肯定的に論評しています。

(参考2)「新京報」2007年8月1日付け評論欄「観察家」
「物価が上昇すればするほど、政府権力の境界を明確にすべき」
http://comment.thebeijingnews.com/0845/2007/08-01/011@012142.htm

 この論評では、市場の動きは市場に任せるべきで、政府は、価格設定を自ら行うようなことをせず、政府が行うべき政策の範囲を明確にして、低所得者に対する保護対策としては、補助金の支給や社会保障を充実させるなどの対策に集中すべきだ、と指摘しています。

 長年、自由主義経済の中で暮らしている日本の人々にとっては、政府が牛肉ラーメンの値段を決めるなんておかしい、と感じる人が多いと思いますけど、中国は社会主義国なので、日本の感覚よりも政府がかなり細かい経済活動にまで直接的なコントロールをしようとする傾向があります。日本などの自由主義経済の国々でも、電気、ガスなどの公共料金やタクシーなどの交通機関の料金は、かなり政府によるコントロールがなされてきました。政府が、具体的な価格にどこまで介入するかは、まさに政策判断の問題です。今、日本などでは政府のコントロールをできるだけなくす方向に動いています。中国の場合は、社会主義という大前提の中で市場経済が導入されてきており、経済発展とともに、いろいろ制度改革を行ってきているので、政府や企業、消費者などの経済活動に参加しているプレーヤーたちの間に、政府がどの程度具体的な小売り価格に介入すべきか、という「相場観」が共通認識としてまだでき上がっていません。「牛肉麺」のような、一般小売り商品の価格を政府が決めてしまおうとした蘭州市の試みは、現在の中国経済の現状には合わないものだと私は思うのですが、地方政府の当局者の中には、まだまだ「政府が価格をコントロールできる(コントロールすべき)」と思っている人がたくさんいるようです。

 先月、広東省深セン市(センは「土」へんに「川」)の市長が、車が増えすぎた市内の状況を憂慮して「市民は、公共交通機関を利用すべきで、車を買うのは控えるべきだ。」と発言して不評を買ったことがありました。

(参考3)China Daily 2007-07-06
"Shenzhen mayor: Stop buying cars"
http://www.chinadaily.com.cn/cndy/2007-07/06/content_911196.htm

 車を買う買わないは個人の判断であり、政府がコントロールすべきものでも、コントロールできるものでもありません。香港に隣接し、最も経済的に最先端を行っていると思われている深セン市の市長の発言だっただけに「まだ政府がそんなに市場経済に介入できると思っているのか」という市民の反発があったようです。

 地方政府の担当者が、現実の市場の実情とかけ離れた政策を取ってしまうのは、地方政府が市場のことをよく知らないから、と言えばそれまでですが、地方政府のトップが住民の選挙で選ばれているのではない、という実情、つまり経済は市場経済化されているが、行政には市場経済のようなフィードバック機構が働いていない、というところに原因があると私は思っています。

 中国は、改革開放政策を採るようになって以来、社会主義と市場経済との間の「さじ加減」をいろいろな経験を踏まえながら、うまくコントロールしてやってきていると思います。しかし、いまだに「牛肉麺」の値段を政府が決めようとする動きがあるところを見ると、改革開放後既に29年が経とうとしているのですが、まだうまい「さじ加減」は見つかっていないようです。経済社会は日々変化していますから、うまい「さじ加減」がわかった、と思ったら、実体経済は既に変化してしまった、ということの繰り返しなのかもしれません。昔から、中国は「実事求是」(事実に即して真理を追求する)をモットーとしてきましたし、毛沢東は特にこれを重要視しました。逆の見方をすれば、今回の発展改革委員会による地方政府が原則として価格に介入することのないように求める通知は、中国の経済政策システムが、ひとつのシステムとしてまだ固まっておらず、正しい回答を求めて今でも流動的に動いていることを端的に示しているものだと思います。

 中国と関係を持って行こうとする人は、常に「動きながら考える」という姿勢が大事なのだろうと思います。

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