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2007年7月15日 (日)

中国の地方政府の監督には民主的監督制度

 中国の地方政府に勝手に権限を振るわせないようにするにはどうしたらよいか、という問題について、7月14日付けの「新京報」に「最終的には民主的監督制度を作るしかない。もし、地方の選挙民がその地方の人民代表を通じて予算をコントロールできれば、地方政府が豪華な庁舎を造るような問題は起こらない。」と指摘している署名入り論評記事が掲載されています。

「新京報」2007年7月14日付け
「豪華な庁舎は、単なる道徳の問題ではない」(張千帆)
http://comment.thebeijingnews.com/0732/2007/07-14/014@073024.htm

 この評論の論旨は比較的明快で、以下のようなポイントのことを言っています。

○インドやパキスタンなどの発展途上国はもちろん、アメリカの裕福な地方政府の庁舎でもそんなに立派ではない。100年以上前に建てられた古い建物を使ったりしている。これは別にアメリカの地方政府が思想的に立派だからではない。地方政府の予算は、住民の選挙で選ばれた議員による議会で決められているが、議員は豪華な庁舎を造るのを認めて住民の反発を買ったら、選挙で負けて職を失うからである。

○中国共産党中央規律委員会は、この4月末に庁舎建設プロジェクトを整理するよう通知を出し、問題があったら報告するように求めているが、問題は、地方政府が問題があるのに中央に報告しなかった場合、どうするかだ。

○中国は30以上の省・直轄市、2,800以上の県、37,000以上の郷鎮という地方政府が非常に多く存在する国である。中央政府は、いくら努力してもこれら全ての地方政府を監督することはできない。

○例えば、中央電視台が「豪華な庁舎がある地方では、インターネットで写真を送るように」といったキャンペーンをやったりしているが、こういうネットやメディアで取り上げられることは、問題を摘発するきっかけにはなるのは確かだが、問題が解決するのは、みなメディアなどが問題を取り上げた後のことである。

○地方の人民代表が地方政府の予算をコントロールできれば、豪快な大庁舎が建てられるような問題は起きないだろう。

 現在、中国では、一番下のレベルの地方行政組織である村民委員会では、複数立候補による選挙が行われていますが、それより上の郷鎮レベル、県レベル、省レベルの人民代表は、基本的には中国共産党の推薦による立候補なので、一種の信任投票のような形になっています。上記の「新京報」の論評は、選挙制度について何か意見を言っているわけではなく、地方政府の予算に対して既存の制度で選ばれた人民代表によるコントロールが効くようにすべき、と主張しているのです。人民代表は、本来は全国人民代表(国会議員)を選ぶための選挙人であり、地方政府の動きをチェックする機能はありませんが、上記の評論の主張は、地方政府の行政に対して(信任投票とは言え)住民の選挙で選ばれた人民代表のチェックが働くようにすべき、としている点が新しい視点だと思います。

 中国では、憲法において、中国共産党による指導が明示的に規定されていますので、中国共産党が多数派を占められない可能性があるような選挙制度は、そもそも憲法上認められません。そういった原則の下で、省や県といった地方政府レベルで、住民のチェックが働くようにすべき、という主張は、今の中国における新しい動きとして注目されるところだと思います。

 地方政府に対する住民によるチェックとは、また違った別の観点ですが、同じ7月14日に発売された「経済観察報」(2007年7月16日号)の「観察家」(オブザーバー)という欄に、政府による福利と経済的自由との関係について論じた清華大学歴史学科教授による秦暉のネット上での議論のやりとり(5月24日に実施)が掲載されています。秦暉教授は、経済的自由をどの程度認め、政府がどの程度経済活動に介入して福利政策を行うか、は、最終的には、国民が選挙を通じて決めるべきものである、と述べています(この問題は、中国共産党による指導が大前提である中国においてはなかなか微妙な問題であり、あまりズバリと明確には主張がなされていないので、文章はかなり難解です)。中国の場合、完全な民主的制度を確立するのは、現時点では、非常に難しい、という見方もあり、うんぬん、とあまり明確に結論は出していないのですが、民主的選挙を今の村民委員会のレベルから一歩進めて、郷鎮レベルにまで拡大することは有意義なことだと思う、と秦暉教授は述べています。

 秦暉教授の議論は、憲政民主制度の基本は「代表なくして納税なし」である、という観点から出発していますので、上記の「新京報」の論評と考え方として相通じるところがあると思います。

 上記のような評論や議論が新聞に登場しているということは、地方政府の行政をどのようにしてチェックしコントロールするか、が今一番大きな問題になっていますので、もしかすると、この秋の党大会では、郷鎮レベル程度の下層の地方レベルでの選挙制度の改革も議論の俎上に上ることになるのかもしれません(今は、新聞にいろいろな意見を書かせて、世論の反応を見ているところだと思います)。

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