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2007年7月 8日 (日)

教育部が大学生の学外での宿舎賃借を原則禁止

 中国の教育部は、7月6日、学生が大学の外で部屋を借りて住むことを原則として禁止する通知を発表しました(通知自体は6月19日付け)。

(参考1)中国教育部のホームページ
「教育部事務局による大学生の宿舎を更に一歩良好にするための管理に関する通知」
http://www.moe.gov.cn/edoas/website18/info30102.htm

 これによると、「教育管理を強化するため」、今後は、大学内での学生用宿舎の整備を行うので、原則として、大学生が自分で学外に部屋を借りて住むことは認めない、とのことです。やむを得ず、学外に住む必要がある学生は、その旨必要な手続きをするように、とのことです。この通知には「学生宿舎と学生用アパートは、大学生の思想政治教育を展開するための重要な陣地である。」という表現もあり、今の中国社会の空気からすると、随分と保守的な雰囲気の漂う通知になっています。

 6月19日付け通知を7月に入ってから発表したのは、多くの大学が既に夏休みに入り、夏休みの間に新入生(中国の新学期は9月から)が宿舎を探したりすることから、その際の参考になるようにと、この時期に発表したものと思われます。この類の通知は、今までにも2004年、2005年に出されてきたけれども、必ずしも厳密には守れれてきていなかったようです。

 現在の中国の学生宿舎は、普通、大学の敷地内にあり、大学によって状況は様々ですが、学部学生の場合、1部屋に4人または1部屋に8人が寝泊まりする寄宿舎のようなタイプのものが一般的のようです。

 現在、中国の都市部ではアパートやマンションの類は数多くあります。ただ、中国の「大人たち」の中には「学生は寄宿舎生活をするのは当然。一人で部屋を借りるなんてぜいたく。だいたい、そういうことができるのは金持ちのこどもだけであって、部屋を借りたくても借りられない苦学生のことを考えるべきだ。」と考えている人も多いのは事実だと思います。 

 ただ、ちょっと意外なのは国営通信社の新華社が、この教育部の方針について、中立的な立場を採っていることです。新華社は下記のように、ネット上に掲示板を掲げ、掲示板に寄せられた教育部の通知に対する賛成意見、反対意見、建設的な提案を平等に紹介しています。

(参考2)
「新華社」2007年7月8日07:38にアップされた掲示板
「大学生の学外での部屋借りについては、禁止してすぐ効果があがるだろうか?」
http://news.xinhuanet.com/forum/2007-07/08/content_6340748.htm

 この新華社の掲示板に書かれている「素油湯麺」というペンネームの記者が書いた記事によると、教育部の担当者は「これは校外での居住に安全性の問題があるためと、学生を集団宿舎に寄宿させて管理を強化し、学生間の交流を強化するためだ。この通知は原則であって、各大学はこれを基にしてそれぞれ具体的な措置を決めればよい。」と述べている、とのことです。一方、この記者がある大学の事務局に聞いたところでは、大学事務局は、学外に住んでいるかどうか、学生が自主的に報告して来ない限り把握しようがないので、学外に住んでいたとしても処罰することはできない、と言っていることを伝えています。

 また、この記者が学生に聞いたところでは、学内の寄宿舎は不便だし、夜遅くまで勉強したくてもできない、と教育部の「禁令」に不満を述べていた、とのことです。ある女子学生は、「大学の宿舎内の2人の友達が宿舎に帰ってきていないが、一人は進学試験のために夜遅くまで勉強しているようだし、もう一人はボーイフレンドと『二人の世界』を持っているからのようだ。でもみんなもう大人じゃないですか。」と言っていた、とのことです。

 この掲示板では、ほかにも、いろんな人が「そもそも大学の宿舎も結構高い。街には結構安い部屋もある。」とか「いや、やっぱり学生は大学内の宿舎にいて当然。」といった意見をいろいろ書いています。中には「『原則として禁止』と言っている、ってことは、『禁止しなくてもよい』ってことじゃないの」といった冷めたことを言っている人もいます(この手の掲示板には、管理人がいて、書き込まれた全ての意見が掲載されているわけではないことには、御留意下さい)。

 さらに、ちょっと意外だったのは、7月8日(日)の中央電視台の朝のニュース「新聞天下」の「皆さんからの御意見募集」のコーナーで、この問題を取り上げたことです。このコーナーは、日頃話題になっている案件について、携帯メールで視聴者の意見を募集するコーナーで、いつもは「夏休みの計画は皆さんはどうしますか?」といったたわいのないテーマが多いのですが、7月8日は「大学生が学外に宿舎を借りることをどう思うか」でした。

 新華社や中央電視台でこういった動きがあるのは、教育部が通知を出したものの、学生から強い反発が出ても困るので、政府が世論の動向を探っているからではないか、と私は思いました。

 なお、7月8日付けの北京の大衆紙「新京報」では、この教育部の方針に批判的なコラムを掲載しています。

(参考3)
「新京報」2007年7月8日付けコラム「観察家」
「大学生には学外で部屋を借りる権利があるか」
http://comment.thebeijingnews.com/0845/2007/07-08/021@011611.htm

 このコラムのポイントは以下のとおりです。

○大学生は法律上は成人であり、その権利を根拠なく奪うことはできない。

○今、中国は開放化、自由化の流れの中にある。人々が自分の才覚で手にした自由は大切にしなければならない。

○教育部のこの通知を厳格に守ろうとすれば、既に学外に部屋を借りている学生は、部屋を解約しなければならないが、その違約金などの賠償金は誰が払うのか。

○ただでさえ大学の教授、学生は学内にいて社会との関係が希薄になる傾向がある。学生が学外に住んで学外の社会との関係を保つのは悪いことではない。

○今、外国の大学生の状況は、1人1部屋が普通である。我が国では博士課程の学生でも2人1部屋であり、学部学生の場合は8人1部屋が一般的である。今、大学は立派な事務棟や立派な校門を作っているところが多いが、禁止令を出す前に、まず学生宿舎の環境を整備することの方が先決である。

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 上記の新聞記事などには出てきませんが、私は、もう一つ、別の背景があるのではないか、と思っています。それは、大学内の学生宿舎のインターネット環境が必ずしもあまりよくないことに関連しています。大学によってもちろん違いますが、北京の有名大学でも、学生用に無料のインターネット回線が開放されているそうですが、この学生用の回線では、国外のサイトへはアクセスできないのだそうです。理由は、インターネット回線は回線数が限られており、大学教授の部屋など教育研究に必要な部署へ優先的に割り当てられるため、数が多い無料の学生用回線には十分な太さの回線が割り当てられず、外国のサイトへのアクセスはできないようにせざるを得ない、ということのようです。学内には、外国のサイトへアクセスできる有料のアクセスポイントもあるようですが、やはり学生は、お金がもったいないので、無料のアクセスポイントを使いたがるようです。

 今、中国でも、街にインターネット・カフェがありますので、お金があれば、誰でも外国のサイトへアクセスすることはできます(ただし、中国にとって「有害な」サイト(中国語版ウィキペディアなど)は国境のところでブロックされるので、中国国内(注)からは、どこからでもアクセスできません)。ただ、中国のインターネット・カフェは、ブースを借りるのに身分証明書(学生の場合は学生証)を提示する必要があるので、誰がどこへアクセスしているかは把握できるようなシステムになっています。こういうことを考えると、教育部は、学生が大学の管理の外にある宿舎からインターネットへアクセスするのは好ましくない、と考えているから今回のような方針を発表した、と考えることもできるかもしれません。

(注)インターネット上の中国の「内と外」の堺は中国本土と香港との間にあります。香港からは、日本などと同じように世界中のどこのサイトへでもインターネットでのアクセスが可能です。香港は中国の一部ですから、上記の文章中で「中国国内から」と書くのは正確ではなく、正しくは「中国本土境内から」と書くのが正しいのです。

 いずれにせよ、今回の「原則として大学生は学外に宿舎を借りて住むことは認めない」という教育部の方針は、もし厳格に適用されるとなると、大学生たちからかなり強い反発を受ける可能性があります。新華社や中央電視台の動きを見ていると、政府は世論の反響を見極めようとしていると思われるので、あまり厳格には適用されることはないかもしれません。いずれにせよ、9月の新学期が始まるときには、どの程度厳しく適用されることになるのか、はっきりすることになると思います。私は、個人的には、政府は学生から不必要な反発を受けるのを防ぐため、この方針はあまり厳格には適用されないのではないか、と思っています。

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