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2007年7月13日 (金)

中国の地方政府による無秩序な土地開発

 地方政府が中央の方針を守らないで勝手に権限を振るっていることが、今、中国では大きな問題になっています。中国では、改革開放路線の中で、企業による市場での競争を経済発展の原動力にしてきたように、地方行政の面においても、中央は、できるだけ地方に権限委譲し、地方政府の判断で処理できる範囲を拡大し、地方政府の間で競争をさせて、それを地方の発展の原動力にしてきました。中央政府自身は、地方政府がルール違反をしないよう監督する立場という一歩退いた位置に自分を位置づけています。

 しかし、地方政府が大きな行政権限と経済的裁量権を持ったために、今、各地方政府が勝手に事業を行い、国全体からするとマイナスになりかねない事態がいろいろなところで起きています。河川や湖沼の水質汚染、大気汚染などの環境問題もそのひとつですが、土地問題ももうひとつの大きな問題です。本来は、全国レベルでは食糧確保等のため一定量の耕地面積を確保しておく必要があるのですが、地方では、それぞれの独自の判断で農地をつぶし、住宅や工業団地に開発する計画が進んでおり、全国レベルで耕地面積が減少傾向にあります。これら全国の土地利用の現状について、7月12日、中国政府の国土資源部の部長(日本の大臣に相当)ら幹部が記者会見で説明しました。この記者会見での説明によると、国として守るべき最低の耕地面積である18億ムー(120万平方km)は確保できているものの、2007年1月~5月だけで24,245件、土地面積にして22万ムー(約147平方km)の違法な土地使用が見つかった、とのことです。

 記者の質問に答えて、国土資源部の幹部は、違法案件の土地の面積にして80%が地方政府または政府関係機関が主体となって違法行為を行ったものであると説明しています。

(参考1)「新京報」2007年7月13日記事
「違法な土地利用の主体の80%は政府」
 http://news.thebeijingnews.com/0565/2007/07-13/014@024657.htm

※国土資源部長らの記者会見の議事録(全文)は下記のサイトで見ることができます。

(参考2)中国網(2007年7月12日「国家土地監察制度の実施状況に関する記者会見ネット実況中継」(文字記録))
http://webcast.china.com.cn/webcast/created/1346/36_1_0101_asc.htm

 違法な土地の開発の8割が地方政府または政府関連機関自身が主体となって土地開発を行ったもの、という状況では、一般の商業開発業者は、法律に基づき、必要な許可をきちんと取ってから土地を開発しようという気持ちは起きないと思います。

 また、中国中央電視台(CCTV)が7月5日に放送した番組「焦点訪談」では、浙江省のある村で村の政府自身が農地をつぶして別荘群を建設したことを取り上げていました。中国では、「新農村建設」といって、農民の住居を新しく建て直す開発計画がどんどん進んでいます。基本的にこのような宅地の建設は、農地をつぶして行う場合、上部機関である鎮(村のひとつ上の地方行政単位)の許可が必要ですが、この別荘建設は、許可が得られる前に建設を開始してしまった違法な開発でした。

 上部機関である鎮の政府は、この別荘の建設に対して「許可が得られていないので建設を中止するように」との通知を2年前に出しましたが、村による建設は続けられました。鎮政府の方では、建設中止通知を出した以降は、何のアクションも取っていませんでした。

(参考3)中国中央電視台「焦点訪談」2007年7月5日放送
「村での違法な別荘建設」
http://news.cctv.com/society/20070705/108976.shtml

 上記のページの写真を見れば、相当に立派な別荘団地が造られていることを御覧いただけると思います。番組では、この別荘の価格は1戸60万元(約960万円)であるのに対し、村の一般的な村民の収入は年間1.1万元(約18万円)であるので、村の中ではごく少数の金持ちしか買えないのではないか、と指摘しています(村の中で売れ残った場合は、買うとすれば、一定の収入のある近くの都市に住む都市住民が購入することになります)。この村では、一人あたりの農地面積が0.3ムー(200平方メートル)であるのに対し、別荘58棟を建設するのにその230倍以上の70ムーの水田をつぶしたのでした。これだけの農地をつぶして造った別荘に、ほとんどの農民は入居することができません。一方、この58棟の別荘が完売すれば村は260万元(4160万円)以上の利益を得るのだそうです。このプロジェクトは、村にとっては、農民のための新しい家を建設するために進められている「新農村建設」という「うたい文句」に名を借りたひとつの金儲けプロジェクトだったのです。

 このような状態に対して、この番組では、農民の農地を取り上げ、村民自身が買えないような別荘の建設を許可を得ないままに進めてしまった村と、その村の行為に気づいて建設中止の通知を出していながら、通知を出した後、何もしなかった上部機関である鎮政府の無責任な対応を批判していました。

 村や鎮政府の行為を批判するのは簡単ですが、現実問題として、このように違法な状態で建てられてしまった別荘群を今後どうするのか(取り壊すのか、できあがったものはしかたがない、として現状を認めて合法化するのか)が大きな問題として残ります。また、もし合法化されたとして、できあがった別荘が大幅に売れ残った場合、建設資金はどうやって回収するのか、という問題も残ります。別荘が売れ残って借金が残った場合、最後の奥の手として、村としては、まだ開発されていない農地(中国の場合、原則として、農地は私有地ではなく、「村」という単位の集団の所有地とされています)を開発業者に売って借金を返す、という方法があります。ただ、これもそういった土地開発を上部機関が承認するかどうか、という問題がありますし、それよりも何よりも、村が自分たちの生活基盤である農地を切り売りして借金を返したら、最終的には村民は借金を返したあと生きていくよすがを失ってしまうことが最大の問題なのです。

 地方政府による無秩序な土地開発に関して最も問題なのは、中央政府が、農地が無秩序に減らないように、農地を開発するためには必ず上部機関の許可が必要である、という法制度を作っているにもかかわらず、その制度を執行すべき地方政府自らがその制度を守っていない、という実態です。地方政府自らが法律違反をして平気な顔をしている現状は、一般市民に「法律を守るなんてバカバカしい」という法意識を定着させる結果になっており、社会全体にとって大きなマイナスだと思います。

 ですから、今、中国の中央政府は、法律や制度によって地方政府をコントロールできていないことにかなりの危機感を持っています。だからこそ、メディアに問題点を指摘させ、警鐘を鳴らしているのです。ただし、メディアが警鐘を鳴らしただけでは問題は解決しないと思います。中央と地方とが危機感を共有して、経済全体が一気に崩壊しないように、少しずつ問題解決が図られるように努力して欲しい、と私は願っています。

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