« 中国にいる日本の特派員の苦労 | トップページ | 「楊尚昆生誕100周年座談会」と軍の位置付け »

2007年7月19日 (木)

「段ボール肉まん」報道は「やらせ」だった

 「段ボール入り肉まんが売られていた!」というテレビの報道が実は「やらせ」だった、というニュースは、中国の人々を怒らせています。この件は、最初の「段ボール肉まんが売られていた」という報道がなされた時から、「それが実は『やらせ』だった」とテレビ局が謝罪するまで、ほとんどタイムラグなしに日本でも報道されているので、知っている方も多いと思いますが、事実関係を並べると以下の通りです。

○7月8日、19:00からの北京電視台生活チャンネルの「透明度」という報道番組で、記者がカメラの隠し撮りで北京市内で段ボール入りの肉まんを売っている業者がいると伝えた。この報道によると、古い段ボールを苛性ソーダで軟らかくして香料を入れ豚肉の色に着色したものを6割、残りの4割に腐って崩れかけて軟らかくなった豚肉を入れて肉まん(中国語で「包子」)を作って売っているとのこと。

○7月10日、「透明度」の報道内容を北京電視台第一チャンネル(総合チャンネル)のニュースの時間に放送。その後、中央電視台第一チャンネル(総合チャンネル)のニュースでも放送。(私は中央電視台の朝のニュースでこの報道を見ました。隠し撮りのカメラの向こうで、「段ボール肉まん」を作っている人に対して記者が「これは自分でも食べるの?」と聞くと、作っている人は「自分じゃ食べないよ。」と言っていました)。

○これらの報道を受け、外国のメディアも「北京で『段ボール肉まん』が売られていた」と報道した。

○7月16日、報道を受けて緊急調査を行った北京市食品安全弁公室は、全市23個所の肉まん販売業者のサンプル抜き打ち検査を行ったが「段ボール肉まん」は見つからなかった、と発表。しかし、肉まんの売り上げは「段ボール肉まん」報道によって激減した。

○7月18日、北京電視台は夜のニュースの中で「『段ボール肉まん』の報道は、虚偽の報道であったことが確認された。撮影者は刑事当局によって拘留されている。北京電視台としては、社会に対して深く謝罪する。」との告知を放映。

○北京電視台が放送した告知の内容は以下の通り。

「今年6月中旬、北京電視台生活チャンネルの番組『透明度』の臨時雇用スタッフが、北京市内で、人を使って肉まん販売員に頼み、自分で用意した肉、段ボール、肉まんの皮などを使って肉まんを作るように要請し、その様子を自分で持ってきたデジタル・ビデオで撮影した。この臨時雇用スタッフは、公安当局によって現在刑事拘留されている。局内での審査制度が十分に機能せず、虚偽のニュースを放送したことに対し、北京電視台は社会に対して深く謝罪する。」

北京電視台の「告知」そのものは北京電視台の以下のページで視ることができます。

(参考1)北京電視台ホームページ「北京新聞」2007年7月18日
「北京電視台は、社会に対して深く謝罪する」
http://www.btv.org/btvweb/07btv1/2007-07/18/content_199465.htm

 なお、下記の「新京報」の記事によると、7月12日に北京電視台が発表した数字によると、「透明度」の視聴率は6.77%(占有率は21.63%)で、北京電視台10チャンネルの中の報道関連番組の中では4番目の高視聴率番組だった、とのことです。

(参考2)「新京報」2007年7月19日付け記事
「BTV(北京電視台):『段ボール肉まん』は虚偽報道だった」
http://news.thebeijingnews.com/0558/2007/07-19/015@277353.htm

 下記のページには、北京電視台の「謝罪報道」の場面の写真が載っています。

(参考3)新華社ネット上の「中華新聞メディアネット」のページ2007年7月19日アップ
「中国記者協会、『段ボール肉まん』の虚偽報道に付いて通知を発出」
http://news.xinhuanet.com/zgjx/2007-07/19/content_6401303.htm

上記の記事によると、事態を重視した中国記者協会は、関係者に対し、職業倫理に基づく報道をするように、との通知を発出した、とのことです。

 「ニセモノ報道が実はニセモノだった」という今回の事件は、中国の人々にかなりのショックを与えたようです。そもそも当局の厳重な管理下にあるはずのテレビ局が「ニセ報道」をやる、などということは、中国のテレビの歴史にとって前代未聞のことで、多くの人は「いったい何を信じたらよいのか。」という気持ちでいるようです。

 「あちこちでニセモノが売られている」という報道が相次いでいる中、豚肉の価格が高騰していることから、多くの人がこのニュースを聞いて、「まさか」とは思いながら、「あり得る話だ」と思ってしまったことが、「やらせ」がそのまま放送され、なかなか「やらせ」だとわからなかったことの背景にあると思います。今回の「やらせ」事件は、今、中国の多くの人が「こういうこともあり得る話だ」と思ってしまうような疑心暗鬼の状態にあることを、いみじくも表面化させてしまったと私は思います。

 一方、今回の事件は、最近、中国製品の安全性について外国でいろいろ取り上げられているのを何とか収めようとしている政府関係者にとっては、かなりの痛手だったと思います。今回の「段ボール肉まん報道」は、「中国では、国内でも『食』の安全が守られていない!」という形で外国に報道されてしまって、中国に対するマイナスイメージを更に一層ショッキングな形で高めてしまったからです。しかも、ニセ報道をやったのが、街で売られている大衆新聞などではなく、公式メディアの最も権威あるものであるはずのテレビ局だっただけに、当局の権威にも傷が付いた形となり、二重の意味で、今回の「やらせ事件」は中国政府当局にとっては痛手だったと思います。

 この件に関して、ネット上に新聞社などが設けている掲示板には、様々な「ナマの声」に近い人々の意見が載っています(もちろん、管理人がいるので一定のスクリーニングは掛かっていますが)。「何を信じてよいのか!」といった怒りの声はもちろん、「外国で『中国製品の品質は信用できない』と言われているけど、そもそも国内の人が信用してないんだから、他人に信用しろ、と言っても無理だよな。」などと言った声も散見されます。「『臨時雇用』のスタッフを捕まえておしまいかよ。北京電視台の正式職員はどうした? 『深く謝罪する』と放送するだけでおしまいなわけ?」と言っている人もいます。

 一方、掲示板では、「何が『やらせ』をさせたのか。この件で一番損害を受けるのは誰か。一番得をするのは誰か。」と言った違った見方をする人もいます。この掲示板の発言ではハッキリは言っていませんが、この「やらせ事件」をきっかけとした報道機関への締め付けを警戒する人たちもたくさんいると思います。

 私などは、これだけ「何を信じてよいのか」といった事態が続くと、この「やらせ報道」自体が、報道に対する管理を強化するために誰かが仕組んだ「やらせ」なのではないか、などと疑いたくもなってしまいます。

 それは考えすぎだと思いますが、今度の事件で、多くの人の、何を信用してよいのかわからない、という疑心暗鬼の気持ちが更に強まったのは事実だと思います。

|

« 中国にいる日本の特派員の苦労 | トップページ | 「楊尚昆生誕100周年座談会」と軍の位置付け »

中国の報道機関」カテゴリの記事

著作権・ニセモノ・食品薬品の安全性」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 中国にいる日本の特派員の苦労 | トップページ | 「楊尚昆生誕100周年座談会」と軍の位置付け »