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2007年7月21日 (土)

「楊尚昆生誕100周年座談会」と軍の位置付け

 昨日(7月20日)「楊尚昆生誕100周年座談会」が開かれ、胡錦濤総書記・国家主席、温家宝総理ほか、党と政府の重要メンバーが参加しました。楊尚昆氏は、1907年生まれ、1988年~1993年まで国家主席を務め、1998年に亡くなったいわゆる「長老」の一人です。

 楊尚昆氏は、確かにかつての元勲・有力政治家の一人ではありますが、「生誕100周年座談会」を大々的に開催し、現在の国家指導者が打ち揃って出席するのは、ちょっとやりすぎ、というのが私の印象です。こういう昔年の元勲の業績を偲び、過去の歴史を改めて学習する、というのは、別に悪いことではないと思うので、この「座談会」が、例えば中国共産党の歴史について議論する研究者によるシンポジウムという形で開かれただけだったならば、私としても何も注目はしなかったと思います。しかし、胡錦濤主席、温家宝総理ら党と政府の重要メンバーが揃って参加し、中央電視台の夜のニュースのトップで報道され、翌日(つまり今日:7月21日)の人民日報の1面トップ記事になる、となると、この座談会の開催が何がしかの政治的メッセージを含むものだったのではないか、と私には思えたのでした。そもそも、楊尚昆氏の誕生日は5月なのに、なぜこの7月に「生誕100周年座談会」をやったのかわかりません(単に、今は夏休みの時期で、主要幹部の政治日程の都合が付けやすかっただけ、という単純な理由かもしれませんが)。

(参考1)「人民日報」2007年7月21日付け1面記事
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2007-07/21/node_17.htm

(参考2)「中国中央電視台」(CCTV)2007年7月20日にアップされたニュース
「中国共産党中央は、楊尚昆同志の生誕100周年記念財団会を開催。胡錦濤総書記が重要講話を発表」
http://news.cctv.com/xwlb/20070720/111192.shtml
※通信環境がよければ、上記のページのタイトルの右端にあるメディア・プレーヤーのボタンを押すと、7月20日夜7時のニュース「新聞聯播」で放映されたニュースを見ることができます(この手のお堅いニュースでも、冒頭にコマーシャルが入るところが、今の中国らしいところです(^^;))。

 楊尚昆氏は、軍の関係の有力者であり、1989年6月当時、中央軍事委員会の副主席(主席はトウ小平氏)で、1989年6月の事態の際の人民解放軍の動きに重要な役割を果たした人物だった、ということがポイントなのかもしれません。つまり今回の「楊尚昆生誕100周年座談会」に胡錦濤主席、温家宝総理らが参加し、中央電視台、人民日報がトップで取り上げたことには、この秋の党大会へ向けての様々な動きの中で、下記のような政治的メッセージが込められているのではないか、と私は思っています。

○改革開放が進み、市場経済が進展し、社会の問題を告発するメディアの報道も活発になってきており、新社会階層(私営企業経営者、弁護士、会計士などの無産階級ではない人々)の重要度が増し、一部に政治的な民主化を進めることについての議論もなされているが、党・中央としては、中国共産党が中心となって政治運営を進めていくという根本方針は微動だにしないと考えており、それを支える人民解放軍の重要性も全く揺らいでいない。党・中央としては、今後とも軍を重要視する方針には全く変化はない(という軍関係者に対するメッセージ)。

○党・中央としては、1989年6月の事態のようなことは全く許すつもりはない。1989年6月の時点での楊尚昆氏の判断は正しかった、という党・中央の認識は全く微動だにしていない。もし仮に、今の中国の一部に1989年6月の事態を引き起こした考え方と同様の考え方があるのだとしたら、党・中央はそれを絶対に許さない(という一般人民へ向けてのメッセージ)。

 表には出てこないのでよくはわからないのですが、中国の政治において、軍が占める位置はかなり大きいと思います。他の国の軍隊と違って、中国の人民解放軍は、中国共産党の軍隊であって、国家の軍隊ではありません。中国共産党が政権を担っている以上、中国共産党の軍隊=国家の軍隊なので、現在のところこの軍の位置付けを気にする必要はないのですが、中国の動きを考える上ではこの点は重要なポイントです。今、中国の地方政府は、中央政府のコントロールが効かず、いろいろ勝手なことをやっているように見えますが、人民解放軍は党中央の統率の下、ひとつの組織として統率の取れた機能を果たしている(と私は思っている)ので、軍の存在は、中国の統一及び社会の安定において重要な役割を果たしているのは事実だと思います。

 一方、例えば、高速道路の料金所には必ず「軍用車両専用ゲート」があるなど軍関係者には一定の優遇措置が採られているので、軍の幹部が特権意識を持つようになり、既得権益を守ろうとする「抵抗勢力」になることが党・中央としては最も懸念されるところだろうと思います。かつてトウ小平氏が、晩年、政府の要職を全て辞職して次の世代にその職を譲った後も、「中央軍事委員会主席」のポストだけは最後まで辞めなかったのも、トウ小平氏が軍を掌握することを最重要課題と考えていたことを示したものだ、と言われています。

 人民日報のトップ記事には、1週間に一度くらい、例えば「胡錦濤主席が人民解放軍の功労者を表彰した」といった記事が載ったりしています。こういった記事が時々載るのは、党・中央は常に軍を重要視していることを示したいからだと思います。これは、胡錦濤総書記が、改革開放を進める一方、軍関係者などの中にいる保守派にも配慮していることを示す、胡錦濤氏の政治的バランス感覚のひとつだと思います。今回の「楊尚昆生誕100周年記念座談会」に胡錦濤総書記・国家主席ら党・中央の幹部が揃って参加したのも、そうした「バランスを取りながら政治運営をしていこう」という胡錦濤総書記のやり方のひとつだと思います。

(2007年9月7日追記)

 上記の記述に「かつてトウ小平氏が、晩年、政府の要職を全て辞職して次の世代にその職を譲った後も、『中央軍事委員会主席』のポストだけは最後まで辞めなかったのも・・・」という記述がありますが、トウ小平氏は亡くなる7年ちょっと前の1989年11月に中央軍事委員会主席のポストを辞任していますので、「最後まで」の部分は正しくありません。お詫びして訂正致します。ただ、トウ小平氏は、他のすべての役職を辞任した後も「中央軍事委員会主席」のポストに留まっていたのは事実であり、これはトウ小平氏が軍の掌握を重要視していたことの現れである、との認識は間違っていないと思います。

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