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2007年6月24日 (日)

スウェーデン社会民主党を紹介した意味

 中国の経済専門週刊紙「経済観察報」2007年6月18日号(6月16日発売)の特集で、スウェーデンにおける社会民主党を紹介する記事が大きく掲載されていました。この記事は「観察者」(Observe)という紙面の部分に楊啓先という人が顔写真と署名入りで2面にわたって書いている「一編の遅れてやってきた『検討の要約』」と題する長大な評論です。

 6月初めに胡錦濤主席が、G8サミット時に開かれたドイツでの会合の帰りにスウェーデンに立ち寄ったタイミングを捉えて書かれたものと思われます。なお、胡錦濤主席自身、この訪問を「スウェーデンの社会公平の促進、社会保障体制に学ぶための訪問」と言っていました。

 スウェーデンは、東側諸国を除いては、世界の中で最も早く1950年に中華人民共和国を承認し国交を樹立した国なので、中国ではスウェーデンは重要な友好国として位置付けられています。そういった背景もあるため、以下の評論でも、スウェーデンの社会については、かなり好意的に書かれています。

 この評論文には以下のような副題が付いています。

○「彼らがいうところの社会主義には条件がある。それは前に必ず『民主』という二文字が付くことである。」

○「民営企業には多くの財産を造成することを認め、政府は合理的にそれを分配して労働者の要求を満たしている。」

○「スウェーデンの貿易赤字・貿易黒字は、世界各国の中でも最小の部類に入る」

○「いわゆる都市と農村の格差、工業と農業の格差、頭脳労働者と肉体労働者との格差は、スウェーデンにおいては基本的に解消されている」

 この副題の意味するところは、上記の4つの点が中国では解決されていないので、スウェーデンの例に学ぼう、ということだ、と私は理解しました。

 この論文の筆者は、1985年以来、何回かスウェーデンを訪問したとのことです。筆者は、スウェーデン社会民主党が1889年に結成され、その後1920年の選挙で社会民主党と保守党との連立政権ができたが、この時の選挙の結果、社会民主党の方が議席が多かったので、首相は社会民主党から選ばれたこと、その後、選挙のたびに、社会民主党の議席数は増減し、保守党との間で政権交代が行われてきたことを、自分がスウェーデンで見聞きしたことを踏まえながら、紹介しています。この中で、選挙で多数の議席を獲得するため、社会民主党は、歴史的に国民が要望する政策を次々と取り入れていったことが紹介されています。

 注目されるのは、この評論では、スウェーデンにおける以下の3つの点を指摘していることです。

1.社会的不公正が起きないような法律制度が完備されていること。

2.情報が公開され、世論の監視がなされていることが社会的不公正が発生することを抑えていること。

3.政党間の競争が激しく、選挙で負ければ政党の存続すら危ぶまれるので、政党関係者及び指揮下にある各レベルの公務員は、平等な態度で国民に接し、公正な原則に基づいて行政事務を行わざるを得ないこと。

 さらに、スウェーデンは西欧型民主主義国家なので、国から支給される政党費用なども国会議員の議席数で決まるので、国会議員の議席が少ない時期には、党の職員の数も少なくせざるを得ない時もあった、などということも紹介されています。

 裏を返せば、これらの点は、今の中国に最も欠けている点だ、と筆者は言いたかったのだと思います。

 この論文で、私が最も「強烈」だと感じたのは、20世紀におけるスウェーデン社会民主党とソ連共産党の歴史の比較をしている部分です。スウェーデンとソ連とでは、歴史や国情が全然違うので単純に比較はできない、として、次のように述べています。

○スウェーデンは、20世紀初頭に既に民主主義制度が確立しており、社会主義的政策を実現するためには、社会民主党は、選挙を通じて多数の議員を当選させ、平和的に社会主義的政策を実現することが可能だった。

○一方で、民主主義制度が確立しておらず、封建主義的な政治制度が残っていたロシアでは、旧体制を打破するためには、武力闘争による革命を経ざるを得なかった。

○しかし、ソ連共産党については、武力革命が社会主義実現の「産婆」の役割を果たしたが、次の2つの点で、マルクス主義が求める最終的な目標に対して不合格であった。

(1)社会主義にとって必要な生産力の発展のためには「不合格」だった。

(2)社会主義が求める完全な民主主義を確立するためには「不合格」だった。

○ソ連共産党は、武力闘争による革命が成功した後には、外国からの介入を排除しながら、上記の二つの「宿題」を解決する必要があった。

○ソ連共産党は、武力闘争による革命が成功した後、上記の二つの「宿題」が残っていることを認識せず、既に自分の国が「合格した」社会主義国であると認識してしまったので、それに同意しない者、またはそれに疑義を挟む者は容赦なく排斥した。従って、ソ連共産党は、本当の意味での「合格した」社会主義国家を建設することができなかったばかりか、封建的あるいは半封建的な権威主義を変えることができず、かつてのスターリン時代のように、不完全で正しくない社会主義を作ることになり、幅広い人民の反対を受け、ついには「揚棄」されたのである。

(このブログの筆者による注)
「揚棄」とは哲学用語の「アウフヘーベン」、即ち、悪いことが捨て去られ、更に上の段階へ上昇することを指します。従って、普通は「歴史を前に進める」というプラスの意味を現します。この部分、1991年にソ連共産党が結局は国民の反感を買って解体されたことを説明しているのですが、ここで「揚棄」という単語を使ったことに、私はこの論文の筆者の意図を感じます。

○ソ連共産党とスウェーデン社会民主党とを比較すると、宗教における原理主義者と改良主義者になぞらえることができる。両者の「教祖」は同じであるが、ソ連共産党は、「教祖」の元々の原典を一字一句そのまま実施しようとし、原典を超えることができない「原理主義」に似ている。一方、スウェーデン社会民主党は、その時代その時代の発展状況や社会の変化に対応し、絶え間なく革新と創新を繰り返している。結局は、後者の方が「教祖」が主張した理想を、より多く獲得することに成功しているのである。

 この論文の最後で、筆者は「基本的には私の記憶に頼って書いているところがあり、十分に正確じゃないところがあるが、だいたいこのようなものだと理解して頂きたい。従って、これは『検討報告』というより『検討の要約』と位置づけた方がいいかもしれない、と思ってこの評論に「一編の遅れてやってきた『検討の要約』」という表題を付けた。読者には、単にひとつの検討の素材として考えて頂ければ幸いである。」と結んでいます。この最後の文章は「私は、どのやり方が正しいとは主張しません。判断は読者におまかせします。」と述べているわけですが、ここのところは、現在の中国の新聞が置かれれている事情を勘案して、この論文の筆者の本当の気持ちを汲み取っていただれば、と私は思っています。

 この評論は、同じ「経済観察報」の5月18日号に載った社説「根本は、政治体制改革にある」(この私のブログの5月30日付け記事参照)と同じ路線上にある、と考えてよいと思います。「経済観察報」に載っている記事は、経済動向や株、不動産、各企業のニュースなどが中心であり、自家用車やゴルフ場等の広告が多いことから考えても、読者は「小金持ち」が中心だと思います(「小金持ち」とは、最近の人民日報でいう「新社会階層」の人々のことです。「新社会階層」についてはこの私のブログの6月22日付け記事を参照)。この評論は、おそらく「小金持ち」=「新社会階層」の人々の気持ちを代弁していると思います。

 今、中国で、地下深いところで、まだ目には見えない大きな動きが始まりつつあり、上記の論文がその「地鳴り」を伝えるものだと私は感じたので、紹介させていただきました。

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