« 中国のマンション・バブルはいつまで続くのか | トップページ | 悪徳レンガ工場事件で山西省長が謝罪 »

2007年6月22日 (金)

新しい社会階層の台頭

 今月に入ってから中国の新聞で見た興味深い論調を御紹介します。6月11日の「人民日報」に掲載された「新社会階層~その影が日に日に明らかに見えてきている~」という記事とそれに続く一連の記事です。

 社会がどういう階層から成り立っているか、についての認識は、社会主義社会においては重要な観点です。日本では、ブルジョアジー(有産階級=資本家階級)やプロレタリアート(無産階級)といった言葉は、既にすっかり死語になってしまっていると思いますが、社会主義の理論では、ブルジョアジーとプロレタリアートが闘い、プロレタリアートが勝利するのが革命である、と位置づけられていますので、これらは重要な言葉です。中国では、中華人民共和国が成立した後は、ブルジョアジーはいなくなったので、国内にはともにプロレタリアートである二つの「階級」、即ち労働者階級と農民階級が存在し、このほかにひとつの「階層」として「知識分子階層」(=インテリ階層)が存在する、とされてきました。今、知識分子階層に加えて、社会の中に新しい階層が生まれ、その影響力が大きくなってきている、この新しい階層をどう扱うべきか、というのが、この記事が言わんとしているところです。

(参考1)「人民日報」2007年6月11日付け記事
「新社会階層~その影が日に日に明らかに見えてきている~」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2007-06/11/content_13186008.htm

 この記事のポイントを簡単にまとめると以下のとおりです。

○今、新しい社会階層が台頭してきている。彼らは、改革開放政策の受益者であり、改革開放政策の積極的な推進者である。彼らは、全国の半数以上の技術特許を使っており、全国の3分の1の税収を負担しているほか、新たに増える就業者の約半数を雇用している。

○この階層は、約5000万人と見積もられており、彼らに関連する事業の従業員も含めると約1億5000万人がこの階層に属していると考えられている。

○この階層は、非公有企業(私営企業)の経営者及び自分で自由に職業を選択した知識分子階層(弁護士、会計士など)から構成されている。現在の中国経済の中では、彼らの影響力が日に日に増大してきている。

○中国共産党統一戦線部の陳喜慶副部長は、これらの新しい階層の人々を適切に評価する体制を確立し、これらの階層の人々の中から党外(共産党以外の)人民代表(=国会議員)になれるような人々を養成しようとしているところである、と説明している。
※中国では、基本的に共産党の推薦がないと人民代表にはなれない。

 この記事の脇には、全国政治協商会議副主席・全国工商連合主席の黄孟復氏が以前ある会議で述べた内容を紹介する記事も合わせて掲載されていました。

(参考2)「人民日報」2007年6月11日付け記事脇にある「意見」の欄
「黄孟復:民営企業は内外で『和諧』しなければならない立場に置かれている」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2007-06/11/content_13186009.htm

 黄孟復氏は、「民営企業は、企業内部では労働者との間で賃金その他の面で『和諧』を図ることを常としているほか、企業外部との関係では、製品に対する責任、省エネルギー、環境汚染対策などで努力しており、企業の外との間でも『和諧』を図ることを常としている。」として、民営企業の存在を「和諧社会」建設の中でも重要なものであると、肯定的に評価しています。

 さらに6月15日付けの人民日報では、「新階層を成熟へ向けて歩ませよう」と題する記事の中で、新社会階層の台頭に関して「政府が直面する新課題」と題する、中央党校党建部主任の王長江氏のインタビュー記事を載せています

(参考3)「人民日報」2007年6月15日付け記事
「新階層を成熟へ向けて歩ませよう」の後半部分にある「政府が直面する新課題」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2007-06/15/content_13197469.htm

 このインタビュー記事の中で、王長江氏は、新社会階層が出現する中で様々な問題が生じているのは、彼らの台頭に呼応した法律や制度がまだ健全にできあがっていないからだ、と指摘しています。また、王長江氏は、「新社会階層の政治に対する要求に十分関心を払うと同時に、労働者、農民その他の社会大衆が広く政治に参加する道をどのようにするかを考え、彼らの権益の保護を図るようにしなければならない。」と指摘しています。この指摘が、政治の民主化までを視野に入れたものなのかどうかは、即断することは慎むべきだと思いますが、こういう主張が党校幹部の発言として人民日報の記事として掲載される、という点は注目に値すると思います。

 これらの記事は、日に日に経済的な発言権を増してきている私営企業家や弁護士、会計士などの新社会階層が持っている政治的な要求を、共産党としても無視することはできない、と認識し始めている、ということを示している点で重要だと私は思います。経済的な発言権を増してきている新社会階層の政治的発言権を封じることは、経済的な混乱を招くとともに、今後の経済発展にブレーキを掛けることになるからです。しかし、このことは、現在の中国の政治体制の根本である「共産党の指導」という問題に触れる非常に機微な問題です。というのは、新社会階層は、自由な経済活動の中で力を発揮したいと願う階層ですから、彼らの政治的な要求とは、ややもすると「共産党の指導」を弱める方向に向けられかねないからです。中国の指導部は、これから「共産党の指導」という柱を堅持しながら、新社会階層の政治的要求に耳を傾ける、という難しい舵取りに直面することになります。

 ひとつの注目点は、この問題点が、党の機関紙たる人民日報に堂々と掲載されたことです。この記事を注目すべきと考えるのは、こういった問題点の存在を党・中央自らが認め、これに前向きに対応していくことを内外に宣明したことを意味すると考えられるからです。この「新社会階層」の政治的要求をどのように吸い上げていくのか、という問題は、今年秋の党大会へ向けて、党内でのひとつの重要な議論点になるだろうと思います。

|

« 中国のマンション・バブルはいつまで続くのか | トップページ | 悪徳レンガ工場事件で山西省長が謝罪 »

中国の民主化」カテゴリの記事

社会主義と市場経済とのはざま」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 中国のマンション・バブルはいつまで続くのか | トップページ | 悪徳レンガ工場事件で山西省長が謝罪 »