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2007年6月 1日 (金)

中国の急速な都市化は「多すぎで、速すぎ」

 2007年5月23日付けの中国の英字紙チャイナ・ディリーは、解説ページで「急速な都市化は『多すぎで、速すぎ』」("Rapid urbanization 'too much, too quickly'") と題する記事を載せていました。

この記事は、チャイナ・ディリーのホームページの下記のURLで読むことができます。
http://www.chinadaily.com.cn/cndy/2007-05/23/content_878321.htm

 この記事では、急激な都市化が、地方政府による農民からの土地の取り上げ、農村から流入した労働者による都市のスラム化を引き起こしている、という問題について、具体的な数字も盛り込んでかなり詳しく解説しています。政府関係者は都市化を進めるべしと主張し、学者はそれに対して警告を発している、というふうに、二つの意見があることを客観的に記述しています。

 チャイナ・ディリーは英字紙ですが、私の認識では、人民日報とともに党中央の「主流派」の意見を代表する新聞、と思っていましたので、このような率直な記事を見てびっくりしました。最近の各紙の論調を見ると、以下の二つの方向性が、大きく割れて議論がなされている(今の時点では意見が一本化されていない)ことが窺えます。

(1)高めの成長率(7~8%を超える成長率)の経済成長を維持し、場合によっては、二重戸籍制度を廃止して、農村人口の都市への流入も認める考え方

(2)高度成長はいつかは壁にぶち当たることを懸念し、経済成長を抑制し、二重戸籍制度は改革はするものの、今すぐに廃止することはしないでしばらくは継続し、農村から都市への人口移動を抑制しようという考え方

 今の政府の政策実行の担当部署においては、(2)の考え方では農村地域の人々の不満を解消することはできない、従って少なくとも2010年の上海万博までは(1)の考え方で行くしかない、と考えている、と私は推測しています。

 一方で、人民日報などの論調は(2)の考え方に近く、むしろ(2)よりずっと保守的な雰囲気で社会主義思想の重要性を強調しています。最近の人民日報は、20年前より更に古い雰囲気の論調が目立っており、政府の実際の政策と党の機関紙たる人民日報の論調が合っていないのではないか、という印象を受けることすらあります。今年秋の党大会へ向けて、党内でもかなりの論争が行われているのかもしれません。

 チャイナ・ディリーの記事では、具体的には下記のようなポイントのことが記されています。

○民政部の高官は、「中国は都市化の『非常に重要な段階』 ("crutial phase") にあり、そのペースを落としてはならない。なぜならそうしないと多くのよくないことが起こるからだ」と、最近、中国語の雑誌に書いている。

○国家発展改革委員会都市化局の高官は、都市化は、農民の生活水準を高め、工業やサービス業を発展させ、「投資に基づく」経済から「消費に基づく」経済へ移行するために必要なのだ、と述べている。

○しかし政府のこういった都市化政策に対し、学者の中にはこのような速度での都市化に疑問を投げかけている人がいる。あまりにも急激な都市化は、都市貧困層を増やし、農地と5000万人の農民の居場所をなくしてしまう、と懸念しているのである。

○中国科学院のある学者は「1億3000万人の農村出身の労働者が『都市住民』としてカウントされているが、彼らは教育、住居、医療などの点で、都市住民が受けている便益を得られていない。」と指摘している。

○政府と学者の考え方の違いは、農民たちをどうするか、という点に集中している。都市化は、一方では出稼ぎ賃金を地方に流すという形で、地方経済を改善させるのに役立っている。

○「もし『二重戸籍制度』がなくなって、社会保障制度がうまく改革できたら、農民は自由に都市に住めるようになり、都市と地方のギャップは埋まるだろう」と発展改革委の高官氏は雑誌の寄稿の中で書いている。

○しかしながら、多くの地方政府は、農民から土地を取り上げて都市化を進めている。中国科学院の上記の学者は、2000年までに5000万人の農民が土地を失ったが、2001年から2004年までに670万人が土地を失い、このままの傾向が続けば、さらに6000万人が土地を失うだろう、と指摘している。

○よく行われているのは、地方政府が農民から土地を買い、それを開発業者に売ったり、インフラ建設にあてたりしていることである。農民は「最小限」の補償しか受けていないという。例えば、北京郊外では、1畝(ムー:667平方メートル)あたり10万元(12,821米ドル)という価格で農民から買い上げられ、1畝あたり数百万元で開発業者に売り渡されている、とのことである。上記の中国科学院の学者によると、更に1畝あたり3000元(384米ドル)で買い上げられている地方もあるという。

○彼は「もし、いつかGDPの成長率が正常な値と思われる5~6%に落ちる日が来たら、そこには1000万人の土地を持たない農民が取り残され、恐ろしいことになるだろう。」と述べた。

○中国都市計画設計院の別の学識経験者は、上記の中国科学院の学者の見方に賛成した上で「地方の土地を都市化することによって得ている収入は、地方政府の収入の3分の2にも上っている。」と述べた。

○彼は「都市化は労働力を供給するが、同時に『都市貧困層』を作り出している。これらの人々は、もともとは外地(農村)から来た労働者だったが、定職がなく、医療保障もなく、昇進の見込みもなく、出身地ごとに『村』を作って北京の中に住んでいる。」と述べた。
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 チャイナ・ディリーの記事は「これらの『村』は、公式にはそうは言われていないが、現実的にはスラムとなっている。」という言葉で結ばれています。このような解説記事が、最も権威ある英語の全国紙であるチャイナ・ディリーに掲載されたことを考えると、中国の社会は、現在、かなり深刻な状況にあり、党・中央もそれに対する対策を真剣に考えざるを得ない状況になっている、と考えてよいと思います。

 この記事は、最近、矢継ぎ早に出されているバブル警戒・インフレ対策のための諸施策に見られるように、中国政府の中心ベクトルが、経済「引き締め」の方向へ向かおうとしていることの現れだと思います。ただ、まだ上記の記事の中の政府高官の発言にもあるように、「引き締め」へ向かおうとする中心ベクトルはあるのだけれども、政府部内の各部署では、まだ当分高度成長を続けるべき、と考える人も多いのだと思います。

 いずれにせよ、こういった二つの見方が英字紙とは言いながら中国の全国紙に掲載される、ということは、中国政府が世論の反応を探っている、と考えることもできます。私は、政府関係者、学者、一般の人々などが虚心坦懐に議論して、最もしなやかで安定的な経済の舵取りの仕方を見つけることができることを期待しています。

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