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2007年6月28日 (木)

次々と打ち出される過剰流動性対策

 今、中国の外貨準備高は1兆2000億ドルを超える、という天文学的な数字に上っています。これは大幅な貿易黒字と人民元為替レートを人為的に低く抑えようとするために大量のドル買い・元売り介入を行ってきた結果です。

(参考1)中国人民銀行ホームページ
「調査統計」-「統計数データ」-「黄金及び外貨準備高表」
http://www.pbc.gov.cn/diaochatongji/tongjishuju/gofile.asp?file=2007S09.htm

 元安を維持する政策が行われているのは、人民元レートを高くすると

○「人件費が安いから売れる」という中国製品のメリットが失われ、経済成長の柱である輸出産業が打撃を受けるため

○外国の安い農産物が輸入され、中国の農業が打撃をうけるため

だと言われています。こういった中国の為替政策については、アメリカ等から強い圧力が掛かっています。アメリカ等からの外圧や外貨準備高があまりにも巨大になりすぎたため、「いつかは人民元レートは上がるだろう」と見られているので、外国から中国への投資がどんどん行われています。元が安い今のうちに中国国内に投資して、元が高くなってから投資を回収すれば、為替差益の分がまるまる儲かるので、外国の投資家が「こんなうまい話はない」と思ってどんどん中国国内に投資するからです。

 中国人民銀行によるドル買い・元売りによって市場に出回る人民元と、外国投資家が儲けを見込んで海外から流し込む資金とで、中国国内には資金がダブダブに余っている状態になっています。これが今の中国の過剰流動性問題です。余った資金は、株やマンション・オフィスビル等の不動産の投資に回され、バブルとも言える株高・不動産高を招いています。また、過剰流動性により、消費者物価も上昇しています。一方、ここ1年の間、全国の貯蓄率は下がり続けています。多くの人が貯金を下ろして、株や不動産に投資しているからだと言われています。

 天文学的な数字の外貨準備高や、株・不動産の価格がバブル的に高騰している中、地方の農民の苦しい生活は一向に改善されません。このような状態では、いくら党や政府が「和諧社会の実現」をスローガンにしても、それがすぐに実現できるとは誰にも思えない状況になっています。土地開発やビルの建設ラッシュで、農村から出稼ぎに来ている農民工たちが働いて給料をもらって、それを故郷の農村に送金しているので、今のところ表立った不満の動きは表面化していませんが、どこかで何かひとつ歯車が狂うと、農村部の人民の貧しさと都市部など一部での金余り現象とをかろうじて共存させている巨大な細木細工が崩壊してしまう危険性があります。

 そこで、党と政府は、いま必死で「バブル」の動きにブレーキを掛けようとしています。そのために、ここへ来て、また、矢継ぎ早に「バブル」の原因となっている過剰流動性に対処する対策が打ち出されました。

(1)貯蓄利子に対する個人所得税の減税または免除

 現在開かれている第10期全国人民代表大会(全人大=日本の国会に当たる)の常務委員会第28回会合で、貯蓄利子に対する個人所得税の減税又は免除の決定を国務院(日本の内閣に当たる)に授権する法案の審議が行われています。これは現在20%になっている貯蓄利子に対する個人所得税の減税または免除を、その時の経済情勢に合わせて、国務院が随時決定できるようにするものです。現在、急激に貯蓄残高が減ってきており、その分が株や不動産の投機に回っていると見られることから、資金を貯蓄に戻そう、という狙いをもったものです。

 ただし、これについては、例え税率がゼロになっても、今の状況では、貯蓄するよりは株や不動産に投資した方がリターンが大きいので、この政策の効果はあまり大きくないのではないか、という見方もなされています。

(参考2)「新華社」2007年6月28日付け記事
「利息税調整は、必ずしも貯蓄動向を変えるものではない 株式市場への影響もあまり大きくない」
http://news.xinhuanet.com/fortune/2007-06/28/content_6300576.htm

(2)1兆5500億元(2000億ドル)の特別国債の発行

 これも今開かれている全人大常務委員会で議論されている政策です。現在、巨大に膨らんだ外貨準備を適切に運用するため、国家外貨投資公司の設立が計画されていますが、この政策は、外貨投資公司の設立に際して特別国債を発行しようというものです。その意図は、人民元で特別国債を買ってもらって、それをもとにして外貨を運用する、つまり市場に出回っている人民元をこの特別国債で吸収しよう、というものです。この政策については、2000億ドル(約25兆円)という額の巨額さから、この特別国債の発行がいろいろな面で別の角度からのインパクトを与えるのではないか、と心配する人もいます。一方、利率などの詳細はまだ決まっていないことから、これが市場の人民元をどれだけ吸収し、過剰流動性対策としてどの程度効果があるのか、今のところまだわからない、という人もいるようです(この「特別国債」は、普通に販売したのでは売れないでしょうから、各銀行に強制的に買わせるようなことをするのかもしれません)。

(参考3)「新華社」2007年6月27日付け記事
「新華社の視点:1兆5500億元の特別国債の『特別』な狙いを透視する」
http://news.xinhuanet.com/politics/2007-06/27/content_6299746.htm

 いずれにせよ、そもそもの過剰流動性の原因は人民元のレートを人為的に低く抑えていることにあるのであって、為替政策を変えずに、小出しにいろいろと過剰流動性対策を発表しても根本問題は解決しない、という見方もあります。

 こういった「金余り減少対策」として資本主義社会でなされるようなマクロ経済対策が次々と打ち出される一方、今日(6月28日)の人民日報の1面には、「中央と国家機関、人民団体は、胡総書記の重要講話を真剣に学習しきちんと理解しよう」「全党の思想認識を更に一歩統一させよう」といった「これぞ社会主義国家!」といった雰囲気の見出しが踊っています(胡錦濤総書記の「重要講話」については6月26日の私のブログの記事「北京では耕地などに作ったマンションの売買を停止」を参照)。バブリーに見える活気にあふれる街の様子と、打ち出される政策と、人民日報の見出しとが、全然マッチしないために、多くの人がまじめに議論し、いろいろな政策が出されているにもかかわらず、私には、かえって「これからいったいどうなっていくのだろうか」という不安な気持ちを起こさせてしまうのです。

(参考4)人民日報2007年6月28日1面トップ紙面
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2007-06/28/node_17.htm

 7月1日の香港返還10周年記念式典に出るために、胡錦濤主席が香港へ行くそうです。できるのかなぁ、と心配する人もいた香港復帰を見事に成し遂げ、混乱を起こさず、10年間、香港の発展を維持してきた政策は(いろいろ意見のある方はいるでしょうが)、それなりに評価はできると思います。ですから、今の中国国内のバブルに対しても、うまく対処してくれるよう期待したいものです。

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