2017年10月14日 (土)

狼少年「党大会後に中国バブルは崩壊」の今回の信憑性

 中国税関総署が昨日(2017年10月13日)発表した中国の貿易統計では、中国の輸出入は順調に推移していることがわかりました。私は、現在の中国経済は10月18日から始まる中国共産党大会の終了後は下落トレンドに入ると見ており、世界の多くの関係者の中にもそういう見方をする人が多いと思われるので、8月頃から中国経済には「ピーク到達感」が出てくると思っていました。しかし、実際は9月の時点でも、中国経済は比較的順調のようです。「中国経済は思っていた以上に好調を維持している」と感じた人も多いようで、そのためか世界の株価はかなり高いレベルを更新し続けています。

 しかし、例えばニューヨーク・ダウが連日のように史上最高値を更新したり(10月11日(水)の終値は史上最高値:2万2,872.89ドル)、日経平均が21年ぶりの最高値を更新したり(10月13日(金)の終値は2万1,155円18銭)しているのを見ると「恐いよう~」と感じている人もいるかもしれません。

 日経ヴェリタスの先週号(2017年10月8日号)の1面トップの特集は「危機に備える投資」でした。日経CNBCが10月10日(火)に放送した「日経ヴェリタス・トーク・スペシャル第二回投資戦略会議」の副題は「山一破綻から20年~危機対応はできているか」でした。一方、日本経済新聞は今月から毎週土曜日朝刊に「平成の30年 陶酔のさきに」という連載企画記事を掲載していますが、今日(10月14日(土))の記事は「バブル許した『国際協調』の金看板」でした。これらのまるで「バブルの崩壊に備えよ」と呼び掛けるような企画がなされたのは、「そろそろ『バブルに始まった平成』が終わろうとしている」「山一證券などの破綻から20年」「日経ヴェリタス発売500号記念」というタイミングが重なったためであり、別に今がバブル的状況であることを意味しているわけではないとは思いますが、先週までの株価の状況や来週10月18日(水)から中国共産党第19回全国代表大会が始まる、というこのタイミングを考えると「なかなか意味深」とも言えます。

 「中国共産党は5年に一度の党大会へ向けて経済状況の好調さを強調するため公共事業投資をはじめとする様々な政策手段を打つので、党大会終了後はそうした当局による下支えがなくなって中国経済は下落に転じ、それまで無理して押し上げられていた中国経済のバブル的状況は崩壊する」といった話は過去何回も語られてきており、その都度、「経済の減速」は確かにあるものの「バブルが崩壊」するところまでは行かないので、この手の話は既に「狼少年状態」となっています。なので、今回の党大会についても、「党大会後の中国経済が心配」と主張する人は少なくないのですが、多くの人は「また狼少年でしょ。多くは心配し過ぎであって『バブルが崩壊する』といったことにはならない。」と考えていると思います。

 そもそも私は十年前北京に駐在していた頃既に「中国経済はバブルではないのか」とこのブログなどでも散々書いてきました。「十年経ってもはじけないなら、そりゃバブルじゃなかったってことでしょ。」と言われれば、返す言葉はありません。

 ただ、「バブルが崩壊する」とまでは行かなくても、党大会後に中国経済が減速することは、ほぼ間違いなく毎回起きています。

 2002年の党大会の後の状況は、私は当時中国とは関係のない職場にいたので詳しくは知りませんが、中国は2002年暮から2003年夏にかけてSARS(重症急性呼吸器症候群)騒動に襲われて、経済的にも大きな影響が出た、と聞いています。

 2007年10月の第17回党大会後の中国経済の状況については、私は北京に駐在していたのでよく記憶しています。当時、党大会後の中国経済の変調を示していると思われる当時の私がこのブログに書いた文章を掲げると以下のとおりです。

・2007年12月22日付け記事「中国の不動産ブームはピークを越えたのか?」

・2008年1月22日付け記事「中国の不動産を巡る報道に『崩壊』の文字」

・2008年3月31日付け記事「不動産や株のバブルの終わりが明確になった」

・2008年6月23日付け記事「中国国内航空:便によっては激安?」

・2008年7月6日付け記事「『中国の不動産市場:急を告げる』との記事」

・2008年7月28日付け記事「中国経済は既に『オリンピック後』に突入」

 これらの2007年暮~2008年夏にかけての中国経済の「変調」が2007年10月までの中国共産党大会へ向けて無理をした中国経済への当局の「押し上げ政策」の反動なのか、あるいは2008年9月にリーマン・ショックとして顕在化する世界経済の変調を受けたものなのか峻別は困難ですが、中国経済は2007年10月の党大会をピークとして、その後「変調」を来していったことは事実です。

 2012年の第18回党大会の時は、2008年秋にリーマン・ショック対策として打ち出さされた「四兆元の超大型経済対策」がまだ効いていたためかすぐには「党大会終了」の影響は出ませんでしたが、翌2013年3月の全人代で中国政府の「習近平国家主席・李克強国務院総理」の体制が固まり「経済改革」が本格化したことで、中国経済は「変調」をきたし始めました。「変調」が最初に明らかになったのは、2013年6月8日に発表された中国の貿易統計で2013年5月の中国の輸出に急ブレーキが掛かった(4月は対前年比+14.7%だった伸びが5月は+1.0%に急減速した(いずれも米ドル・ベース))ことでした。これについて当時の報道では投機マネーを中国国内に流入させるために行われていた香港への「偽装輸出」(実際の価格より高い価格で中国大陸部から香港に商品を輸出し、輸出代金の形で投機マネーを外国から中国大陸部に流入させる手法)が取り締まり強化によって急減したからだ、と言われました。

 この中国当局による「偽装輸出取り締まり」による「投機マネー流入抑制」の措置と5月に起きた「バーナンキ・ショック」により、中国国内の流動性枯渇が起き、上海銀行間短期金利は乱高下しました。その後中国経済は落ち着きましたが、2014年秋にマンション価格がピークを打ち、その後投機資金は株式市場に流れ込んで、2015年前半の上海株バブルが起きました。2015年の上海株バブル崩壊に対する中国当局の右往左往と同年8月の突然の人民元切り下げにより、2015年8月と2016年年初に「中国発世界同時株安(いわゆるチャイナ・ショック)」が起きたことは記憶に新しいところです。

 2003年のSARS騒動が2002年の党大会の直後だったのは単なる「偶然」だと思いますが、2007年の党大会以降は、中国経済が世界経済の中の重要なプレーヤーとして成長したこともあり、党大会へ向けた当局の意図(及び中国企業・人民の期待)による中国経済の押し上げと世界経済の変化から受ける影響が共鳴して、だいたいは中国経済は党大会直後の年末から翌年夏に掛けての変調を来すのが「通例」になったと言っていいと思います。

 中国共産党トップが代わる党大会(2002年と2012年)は、政府側のトップ(国家主席・国務院総理)が交代するのは翌年3月の全人代なので、習近平政権の「中間期」に当たる今回(2017年)の党大会後の影響については、党トップの交代がなかった2007年の党大会後の状況が参考になると思います。ただし、今回の党大会で李克強氏が党政治局常務委員のナンバー2として残るとしても、来年3月の全人代で全人代常務委員長になり、国務院総理が交代する見通しが打ち出されるのであれば、具体的な政策の実施は来年3月の全人代以降になるので、その場合は2012年の党大会後の状況の方が参考になるかもしれません。

 いずれにしても、中国人民自身が「党大会がひとつのピークだ」という認識を持っていますから、私はこの10月第一週の国慶節の連休中のマンション販売は低調になるだろうと予想していました。先週、このブログに「もし仮に『マンション市場での売れ行きが意外に低調だった』ことが事実だったとしても、党大会が終わるまでは、そうしたことは報道されないと思いますけどね。」と書きましたが、これは私の「勘ぐりのしすぎ」でしたね。実際、この国慶節休み期間中のマンション販売は低調だったようで、そのことは中国でもきちんと報道されていました。

 マンション市場の動向は、多くの中国人民にとって関心事項ですから、「人民日報」ホームページ内にある「財経」チャンネルには「房産(マンション資産)」と題する専用のページがあり、マンション市場の動向に関するニュースをまとめて見られるようになっています。この「房産」のページに2017年10月9日付けで「国慶節連休中のマンション市場はひっそり:ホットな大都市(中国語で「一、二銭城市」)でのマンション成約は低調 マンション市場は早々と冬に突入か?」という記事が載っていました。この記事によれば、国慶節の連休期間中、中国指数研究院がモニターしている19の重点都市では、一日の契約成立面積が前年比51.4%の下落だった、とのことです。このうち大都市(中国語で「一線城市」)の下落幅は7割に達し、中都市(中国語で「三線城市」)でも下落幅は5割を超えている、とのことです。また、中原地産研究センターの統計データによると、重点的にモニターしている30都市のネットを使った契約は大幅に減っており、平均下落幅は8割に達し、契約量は2014年以来最低だった、とのことです。

 2014年秋のマンション市場の低調により、マンション市場に流入できなかった資金が株式市場に流入して2014年暮れから2015年6月に掛けての「上海株バブル」に繋がったわけですが、今回はこの「国慶節期間中のマンション成約の低調」は、どのような形で中国経済の中で表面化してくることになるのでしょうか。

 この「人民日報」ホームページ内「財経チャンネル」の中の「房産」チャンネルでもう一つ興味深い記事を見つけました。10月12日付けの「経済参考報」に載っていた記事で「マンション市場の調整政策においては市場の理性は有限である点を考慮すべきだ」というタイトルのものです。この記事は2017年のノーベル経済学賞を受賞したリチャード・セイラー教授が研究している行動経済学(実際の経済活動に携わる人間は、必ずしも常に経済合理性に基づいて行動するわけではないことを考慮すべきとの考え方)を念頭においたものです。この記事では、近年、マンション市場に出現している「頭金ローン」「超短期ローン(中国語では「過橋貸」)」「消費者金融の異常な増加」「偽装離婚」「深夜の隊列」など「理性的とは思えない現象」を指摘しています。

 最初の三つは、中国当局が投資目的のマンション購入を抑制するため、既に住宅を持っている人がマンションを買う場合には一定の割合以上の頭金を用意しなければならない、との規制を導入したところ、頭金を作るための資金貸しが横行していることを指摘しているものです。「偽装離婚」とは、一世帯で二件以上のマンションを購入する行為を規制する当局の政策に対して、夫婦が離婚して二世帯であると偽装してマンションを買う行為を指します。「深夜の隊列」は、マンションを買うために発売日に深夜から並ぶ人たちが現れる現象を指します。この記事は、こうした「理性的ではないマンション購入行為」がある以上、そういう現状を念頭においた政策を採るべきだ、と提言しているのです。

 日本でも、高度経済成長期には深夜に並んで良い条件のマンションを買おうとした人たちはいましたが、それはあくまで「自分が住むためのマンション購入」でした。この記事は、現在の中国では「自分が住むためではない投機のためのマンション購入」が日常的な光景になっている現状を表していると思います。

 「中国のマンション・バブルは崩壊する」という警告に対して、「また狼少年でしょ」と軽くいなす人も多いと思いますが、私は、今でも「中国のマンション・バブルは『いつか』必ず崩壊する」と考えています。ただ、その「崩壊」は、今回(2017年の)中国共産党大会の終了がひとつの切っ掛けになるのか、もっと先の話になるのか、は私にはわかりません。ただ、去年(2016年)12月の中央経済工作会議で「不動産バブルのリスクの防止」が議題の一つとして議論され、今年(2017年)4月の中国共産党中央政治局会議の際に開かれた「集団学習会」において「金融安全の維持」が議論されたことは軽く考えるべきではないと思います。これらの会議は中国共産党中央自身がマンション・バブルの崩壊の危険性を重要視していることを示しているからです。

 今、アメリカ、ヨーロッパ、日本ともに政治面でのリスクを抱えているし、北朝鮮の動向には全く読めないものがあるので、現在の中国経済の状況については相対的に楽観視している人も多いようですが、「中国のマンション・バブル」の問題については「また狼少年だ」と考えずに慎重にウォッチしていく必要があると思います。

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2017年10月 7日 (土)

中国が「暗黙の保証」の問題に対処できていない現状

 今週も「中国バブルはなぜつぶれないのか」(朱寧著、森山文那生訳。日本経済新聞出版社)で述べられている「暗黙の保証」に関する問題点についてです。「訳者あとがき」によれば、この本の中国語版は2016年3月に初版が出版されて以降、中国でもベストセラー経済書上位50冊にランクインするほど売れたのだそうです。「中国では、政府による『暗黙の保証』の認識の下、リスクの実態とは関係なく多くの借金がなされて投資に使われている」と警告しているこの書が中国国内でもよく売れている、という事実は非常に重要だと思います。

 経済学者がこうした「警告」を鳴らし、そうした「警告」を鳴らす本がよく売れていることは、中国社会のひとつの「健全性」を示していますが、一方で、政策面ではこうした「警告」に対して適切な対応が採られているとは言い難い、という点が、中国経済のたぶん最も重大なリスクだと私は思います。中国共産党中央は、こうした「警告」を真剣に受け止めていると思いますが、「現場」では「よくわかっていない人たちによる適切ではない対応」がなされているように見えるからです。

 私がこのブログ内に書いてきたいくつかの点をここで改めてピックアップしておきたいと思います。

○2016年11月26日付け記事:中国の「地方政府の債務リスク応急処置事前対策」

 私はこの記事で、国務院弁公庁が出した「地方政府の債務リスク応急処置事前対策」において「地方政府の債券は、地方政府が法に基づいてその全ての償還責任を負う」とされていることを指摘しました。この部分は国務院が地方政府が持っている「暗黙の保証」意識の問題点を認識していることを示していますが、逆に言えば、現実問題として地方政府はややもすると「最後は中央政府が尻拭いしてくれるさ」と考えてしまう現状があることを示しています。

○2017年4月29日付け記事:中国共産党政治局で金融安全について議論

 この記事で述べたように、習近平総書記自身が、「中国の金融リスクはコントロール可能である」としながらも、外国からの国際金融上の衝撃(具体的には、アメリカFRBにより利上げや資産の縮小、ヨーロッパ中央銀行(ECB)による量的緩和の縮小など)を切っ掛けとした金融リスクに対する対応を考えるべき、と指摘している点は重要です。「暗黙の保証」で膨れあがった経済は、何かの切っ掛けでその信頼の一部が崩れると、雪崩を打って崩壊する可能性があることを、中国共産党中央もよく認識しているわけです。

(注)2008年のアメリカの「リーマン・ショック」はまさに「雪崩を打って」という表現にふさわしい急激なバブルの崩壊でしたが、日本の「平成バブル」は、1989年末の株価のピークの後、1990~1991年頃をピークとした地価の下落、1997年の北海道拓殖銀行と山一證券の破綻、2003年のりそな銀行への公的資金注入と足利銀行の破綻あたりまでを考えると、十年単位の長期間にわたるゆっくりとした地滑りのような「崩れ」でした(りそな銀行と足利銀行はその後の関係者の努力により現在は復活しています)。

○2017年7月8日付け記事:またぞろ「中国の理財商品は大丈夫なのか」という話

 私はこの記事で「人民日報」ホームページ内にある特定の会社と人民日報社が共同で運営管理する「理財商品」を販売する「人民信金融」という名前のサイトを紹介しました。私は、中国共産党中央が本当に真剣に「暗黙の保証」を問題だと考えているならば、こんなサイトは作らせなかっただろうと思っています。というのは、多くの中国人民は、中国共産党の機関紙である「人民日報」を発行する人民日報社が共同運営するサイトで売っている「理財商品」ならばデフォルト(債務不履行)を起こすことはないだろう、と思うはずであって、このサイト自身が「暗黙の保証」の感覚に基づく「理財商品」の販売拡大を助長する役割を果たしているからです。中国の一般人民は、この「人民日報」ホームページ上の「理財商品」販売サイトを見て、このサイトで売っている「理財商品」だけでなく、広く中国全土で売られている「理財商品」全体について、「最後は中国共産党がなんとかしてくれるはずだから、デフォルトするはずはない」と感じているかもしれません(私は、この「人民信金融」サイトについては、今度の中国共産党大会での議論の中で問題視され、共産党大会終了後にはサイトが閉鎖されてしまうのではないか、とすら考えています)。

○2017年8月19日付け記事:中国のインフラ投資とPPPと社債との関係

 この記事の中で、私は中国国家発展改革委員会が「経済参考報」の取材に対して「デフォルト(債務不履行)リスクのある債券については、事前に介入し、市場を使い、法的手段を用い、企業を指導し、仲介機関に償還方法を制定させ、システミック金融リスクを発生させない、という最低ラインを断固として守る」と述べたことを紹介しました。この中国国家発展改革委員会の発言は、「中国政府はデフォルトしそうな社債は事前に介入してデフォルトさせないようにする」と言っているようにも読めます。これは「中国バブルはなぜつぶれないのか」の中で著者の朱寧氏が述べている「デフォルトと破産を容認せよ」という主張とは真逆のものです。

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 以上を比べてみると、中国においては「経済学者や中国共産党中央は『暗黙の保証』の問題点についてはよく理解しており、その対処も必要だと考えているが、現場(経済主体や政策執行部局)においては対処できていない」ことを示していると思います。別の言葉で言えば「頭ではわかっているが、バブルに踊る企業や人民からの反発を恐れて対処できない」のかもしれません。

 なお、経済主体や経済政策執行の現場では「バブルに踊る企業や人民からの反発を恐れて対処できない」のではなく、「全ては市場が決めるべき」という自由主義経済の大原則を理解しておらず、「デフォルトを出さないことが金融リスクを防ぐことに繋がる」と誤って理解している人が多くいる可能性があるのが気掛かりです(そもそも1978年暮に改革開放経済が始まって40年弱、「六四天安門事件」の後、トウ小平氏による「南巡講話」(1992年)で市場経済の重要性を再認識してから25年しか経過していないので、特にそれ以前に教育を受けた人の中には、そもそも「自由主義経済」がどういうものかをわかっていない人が意外に多い、というのが、二回の北京駐在を通じて得た私の中国の人々に対する素直な印象です)。

 この一週間、国慶節の連休中、中国全土のマンション市場でマンションがどれだけ売れたか(順調に売れたか、意外に売れ行きがよくなかったか)が気になるところです。もっとも、もし仮に「マンション市場での売れ行きが意外に低調だった」ことが事実だったとしても、党大会が終わるまでは、そうしたことは報道されないと思いますけどね。

 マンション市場の動向は、中国の新聞等では報道されないとしても、国際的な商品市況(鉄鉱石、原料炭、スクラップ、銅、アルミなど)に現れて来ますし、中国市場でビジネスを行う諸外国の企業のビジネスに必ず影響が出てきますから、そういった国際商品市況や中国でビジネスを行う外国企業からの情報発信には注意深くアンテナを張っておく必要があると思います(今、上海株式市場は「国家隊」(政府系ファンドなど)による買い支え等でコントロールされているので、上海の株価を見ていても、おそらく現状はよくわからないと思います)。

(注)人民元の対米ドル相場と「アメリカ国債の金利が不自然に上昇していないか」を見るのも、ひとつの「手」かもしれません。アメリカ国債の最大の保有者は中国ですが、「マンション価格の下落=資本の外国への流出圧力の増大」により人民元安圧力が強まった場合、人民元安を防ぐために中国当局が「米ドル売り・人民元買い」の為替介入を行おうとすれば、手持ちのアメリカ国債を売却して米ドル資金を得る必要があるからです(中国が米国国債を大量に売却すれば、米国国債の価格は下落(金利は上昇)します(結果としてドル高になる))。2017年10月2日(月)にテレビ東京で放送された「Newsモーニング・サテライト」でソシエテ・ジェネラル銀行の鈴木恭輔氏は、去年(2016年)後半のドル高局面で中国の米国国債保有額が大きく減少していることを指摘した上で「9月ドル高の影に北京あり」と述べていました。

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2017年9月30日 (土)

中国のマンションにおける「住む価値」と価格との差

 今「中国バブルはなぜつぶれないのか」(朱寧著、森山文那生訳。日本経済新聞出版社)という本を読んでいます。アメリカ・イェール大学のロバート・シラー教授(2013年ノーベル経済学賞受賞)が序文を書いている経済書です。著者の朱寧氏は、上海交通大学上海高級金融学院副院長です。著者による「まえがき」には2015年11月の日付があり、今年(2017年)7月25日に出版された日本語版は、英語版から翻訳されたものです。

 中国語の原題は「剛性泡沫」です。邦題は「中国バブルはなぜつぶれないのか」となっていますが、私は「中国バブルはなぜ今までつぶれなかったのか」の方が適切だと思います。というのは、この本では、中国バブル崩壊を防ぐための政策提言もしていますが、著者は「今後とも中国経済のバブル的状況は崩壊しない」とは言っていないからです。

 多くの人は「中国国内では言論統制が厳しく、自由な政策論議が行われていない」と考えていると思います。中国共産党による統治を批判したり、例えば「南水北調」のような国家的プロジェクトについて「生態系や気候を変動させる」と批判的に論じたりすることができないのは事実ですが、「中国バブルはなぜつぶれないのか」で論じられているように、中国経済の現状について警鐘を鳴らし、解決策を提言するようなまじめな議論はきちんと行われていることは認識すべきです。この「中国バブルはなぜつぶれないのか」は、中国の経済の専門家が正直に中国経済の現状を分析して論じている観点から、中国経済の現状を把握する上でも非常に貴重な本だと私は思います。

 この本の重要な点は「中国の経済主体(企業や家計)が『いざとなったら政府が救済してくれる』という認識の下、実際のリスクとは関係なく借金をして投資を行っている」という中国経済の最大の問題点を真正面から分析していることです。この本では、これまで例えば社債のデフォルトや不動産価格の下落が大きくなるような場面で、関係者が騒ぎ出して社会を混乱させることを恐れるあまり、銀行や不動産デベロッパー、最終的には中国政府自身が「下支え」的な行為を繰り返してきたことにより、中国の企業や国民の間に「最後は誰かがなんとかしてくれるのでデフォルトやマンション価格の下落は起こりえない」という「暗黙の保証」の認識が広がっていることを指摘しています。

(注)日本やアメリカにおいても「大きすぎてつぶせない」問題により、過去にいくつかの大型企業に対して公的支援がなされてきていることを考えると、このあたりの指摘は他の先進国の政策を考える上でも非常に示唆的です。また、銀行や不動産デベロッパーなど「政府ではない経済主体」でさえ、多くの人々による社会的騒ぎの勃発をおそれて、経済的損失を被ってでも顧客の損失補填を行うケースがある点は「中国的」であるとは言えますが、日本の平成バブル期以前は、証券会社が顧客の「損失補填」と受け取られるような行為を陰でやっていた、という歴史を振り返れば、中国のことだけを批判するのは適切ではないと私は思います。

 こうした「暗黙の保証」に対する認識と、実際、過去においては不動産価格の下落は一時的かつ限定的で、長期的に見れば不動産価格は常にインフレ率よりも高い割合で上昇してきた、という事実に基づき、中国では多くの人は「住む」という目的ではなく、「資産運用」という観点で(場合によってはローンを組んで借金して)マンションを購入してきました。その結果、中国のマンションは、「住む」という本来目的から見た適正価格とは全く掛け離れた非常に高いレベルまで価格が上がってしまっているのです。「『住む』という本来目的から見た価格」に比べて相当に高い価格で売買がなされている、という事実は、別の言葉で言えば、中国のマンションはバブル化している、ということです。

 中国のマンションの「住む価値」と売買価格との差については、「中国バブルはなぜつぶれないのか」では、賃料利回り(マンションを売買する時の価格とそのマンションを賃貸に出した時の賃料との比)について、中原集団という不動産業者が公表している下記のような数字を紹介しています(第3章「損失を出せない住宅購入者」の「中国の住宅価格はどれほど高いのか」より引用)。

2008年の賃料利回り
北京:3.5%
上海:3%
広州:4.5%
深セン:3.9%

2013年末の賃料利回り
北京:1.8%
上海:2.0%
広州:2.5%
深セン:2.2%

 賃料利回りの低下は、マンションの「住む価値」に対して売買される価格が高騰していることを示しています。2013年末の賃貸利回りは、銀行預金金利(3.5%程度)より低く、2013年末でのマンション購入動機は「将来マンション価格が値上がりすることを見込んだ投資」であることは明らかです。「マンション価格は将来も現在と変わらない」と考えられるのであれば、「投資目的」ならマンションを購入してそれを賃貸するより同じ資金を銀行に預けておいた方が有利だし、「住むこと」が目的だったら、マンションを購入する資金があるのなら、それを銀行に預けておいて、賃貸に住んで賃料を払った方が購入するより得だからです。

 マンション価格の下落傾向が定着した時、または「中国政府はマンション価格が下落することをなんとしても防ぐはずだ」という「信頼」がなくなった時、現在のマンション市場を支えている基盤が崩壊することになります。

 私自身の個人的経験から言っても、中国の「住居の価格」は異様に高い、というイメージがあります。私は、1998年~2000年のアメリカ・ワシントンD.C.勤務(ポトマック川対岸のバージニア州北部の賃貸アパートメントに居住)と2007~2009年の北京勤務(北京市内の賃貸アパートメントに居住)を経験しており、その他の期間は東京で賃貸住宅に住んでいます。引っ越しのたびに不動産屋さんに頼んで複数の賃貸物件を実際に見て住む場所を決めているわけですが、東京とバージニア州北部の家賃については物価水準を考えても「まぁ、そんなもんかなぁ」という程度の違いでほとんど違和感はありません。しかし、北京の家賃は為替レートで計算した東京の家賃とほぼ一緒ですが物価水準(北京地下鉄2元=30円、日刊新聞1元=15円、タクシー初乗り料金(2kmまで)10元=150円)を考えたら北京は東京より5倍程度高い、ということになります。

(注)家賃を考える際には、賃貸物件の物理的条件のほかに、直近の鉄道駅までの距離や周辺にコンビニやスーパーマーケットなどがあるか、といった周辺環境条件も重要ですが、現在の社会経済状況で、日本・アメリカと中国とを同じレベルで比べるのは、そもそも無理があるのかもしれません(別の観点から見れば、緑豊かな自然環境を考えれば、北部バージニアは東京よりは住居の価格は相当に安いと言えるかもしれません)。

 アメリカの場合は現地のアメリカ人も外国人も同じような家賃を払って同じように住んでいるのに対し、中国の場合は外国人用アパートメントは中国人用アパートメントに比べて家賃を相当高く設定している、という事情の違いはありますが、中国の場合、物価水準と比べて住宅価格は高すぎる、というのは、2007年~2009年に北京に住んだ私の実感です。上の賃貸利回りの数字を見ると、現在の中国のマンション価格は、2007~2009年頃に比べてもさらに上がっているようですから、現在の中国のマンション価格は「住むという実態」からは掛け離れたレベルになっているのは明らかだと思います。

 中国では明日(10月1日)から国慶節の連休です。国慶節の連休は、マンションを買いたいと思っている人が現地の物件を見るチャンスなので、マンションを売る不動産屋さんにとっては大きな「かき入れ時」です。なので、毎年、マンション価格を抑制したいと考える都市の政府では、国慶節前にマンション価格抑制策を打ち出すのが「恒例」になっています。今年も国慶節を前にしていくつかの都市でマンション価格抑制策が打ち出されようです。「人民日報」のホームページの「財経チャンネル」には9月25日付けの経済参考報の記事「全国の多くの都市ではマンション上昇抑制策が打ち出され、不動産市場の『脱投資化』のすう勢はさらに顕著になってきている」が載っていました。この記事によると、石家庄、重慶、南寧、長沙、南昌、貴陽、武漢(いずれも省政府があるような地方の有力都市)でマンション価格の抑制政策が打ち出されたとのことです(例えば、不動産権証書を取得した後3年を経過しないと転売してはならない、等)。

 去年の同じ時期には、北京などの大都市でマンション価格の抑制策が出されました。これらの大都市では、この一年間、マンション価格の上昇にはブレーキが掛かりましたが、価格が大きく下落するところまではいきませんでした。今年の有力地方都市でのマンション価格上昇抑制策がどの程度効果を発揮するのかは現時点ではわかりません。2007年(第17回党大会のあった年)にはマンション価格抑制策は実態的に効果を発揮し、2007年12月頃をピークに2008年前半にはマンション価格はかなり下落しました(ただし、2008年の時は、この年後半に出されたリーマン・ショック対応の4兆元の超大型経済対策により、マンション価格は結局は再上昇することになりました)。

 今年の「マンション価格抑制策」がどの程度効くのかは、党大会終了後、中国政府がどの程度までのマンション価格の下落を容認するのか、に掛かっています。上の記事では「『脱投資化』のすう勢はさらに顕著になってきている」と述べていますが、実際に中国のマンション価格が現在売買されている価格ではなく、「住む」という行為に着目した適正な価格に落ち着くのであれば、上記に紹介した賃料利回りのデータを元にして考えれば、マンション価格は現在の半分程度に下落してもおかしくない、ということになります。ただ、実際にマンション価格が半分に下落したら、多くの企業や家計の名目資産が半減することになりますので、「バブル崩壊」的状況になり、単に不動産市場に閉じることなく、中国経済全体に多大な影響を与えることになると思います。

 よく日本の新聞記事等では「中国の不動産市場の軟着陸は可能か」などと書かれます。日本の平成バブルやアメリカのリーマン・ショックを見ればわかるように、不動産市場がバブルになったら「軟着陸」は不可能であり、そうした状態を終わらせるには「バブル崩壊」しか道はないでしょう(そもそも軟着陸可能な状態なのだったら、それは「バブル」ではなかった、ということでしょう)。一方、上に述べたように、中国のマンションについては「住む価値」と売買されている価格が相当にかい離していることから、中国のマンション市場が「バブル」であることは明らかです。なので、中国のマンション市場については「崩壊は避けられるのか」ではなく「崩壊するのは確実であり、それがいつ起きるのか」が問題なのだと私は思います。

 10月18日からの党大会で、来年3月の全人代で李克強氏が全人代常務委員会委員長に「昇格」し国務院総理は退任するという方向性が決まるのかもしれません。もしそうなのだとしたら、私は、李克強氏が住宅バブル崩壊のリスクを察知し、実際にバブルがはじける前に国務院総理を退任しておいた方が得策だと判断しているのかもしれない、などと最近勘ぐるようになってきています。

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2017年9月23日 (土)

「新疆生産建設兵団」の扱いと軍の統率問題

 ここ数日、今度の中国共産党大会で最大の焦点と言われた政治局常務委員の王岐山氏の再任問題について、「再任しない」ことで決着する見通し、と日本の各紙が報道しています。日経新聞と時事通信が報じたところによると「王岐山氏が退任の意向を示し、習近平氏は慰留したが、結局は退任することになった」とのことです。これが事実とすれば、習近平氏は全て自分の思った通りに物事を進められているわけではない、ことを意味するので、ことは結構重大だと思います。

 一昨日(9月21日)かねて失脚したと伝えられていた甘粛省の元党書記の党籍剥奪が決まりました。また先ほど見た(9月23日(土)放送の)中国中央電視台の夜7時のニュース「新聞聯播」によると、中国保険監督監視委員会の元主席(閣僚級)と中国共産党中央規律委員会駐財政部規律検査組組長が腐敗により党籍剥奪となった、とのことです。それぞれかねて失脚が報じられていましたが、党大会を前にして党として正式な決定を下した、ということのようです。地方政府(省)のトップや中央官庁の閣僚級だった人の失脚も「おおごと」だと思いますが、腐敗を取り締まる中央規律委員会の取り締まり現場の組長の失脚も「おおごと」だと思います。「駐財政部規律検査組組長」が収賄で失脚した、ということは、財政部の中に贈賄した人がいる、ということを意味するわけで、ことは重大だと思います。もしかすると、中央規律委員会の規律検査の現場の組長が失脚したことで、中央規律委員会の総元締めである王岐山氏の再任が難しくなった、といった事情もあるのかもしれません。

 10年前の第17回党大会直前のこの時期(9月末頃)、私は北京に駐在していましたが、これほど次々と「大物」が失脚したと報道されていた記憶はないので、今回の第19回党大会は、いつもとは違った雰囲気の党大会になるのかもしれません。

 私が「今回は10年前の党大会とは雰囲気が違う」と感じるもうひとつの要因は、習近平氏が軍の内部に相当露骨に手を突っ込んで改革を進めようとしている点です(胡錦濤前総書記は江沢民元総書記の力がまだ強かったので軍の改革には手を突っ込めなかった、と言った方が正しいのだと思いますが)。

 私は2007年4月に二回目の北京駐在を始めた時点で、その前の北京駐在終了時(1988年9月)以降、ほとんど中国関係の仕事をやっていなかったことから、「タイムマシンで19年すっ飛ばして北京に戻って来た」ような状態でした。そのため「あれぇ、以前とは随分変わったんだなぁ」と気付くところがたくさんありました。その一つが「新疆生産建設兵団」の扱いでした。

 「新疆生産建設兵団」は、人民解放軍の人員で構成され、新疆ウィグル自治区において辺境の防衛にあたるとともに、新疆ウィグル自治区の経済開発のための様々な生産活動を行う集団で、一種の「屯田兵」的存在です(通常、略して「兵団」と呼ばれる)。1980年代には既に存在していましたが、軍の一部の部隊であり、特段「人民日報」などに登場する機会もなかったので、私自身、1986年~1988年の北京駐在時には、「兵団」の存在について意識することはありませんでした。

 ところが、2007年4月に二回目の北京駐在を始めてみると、例えば、全国で何かの問題についてテレビ会議をするニュースでは、河北省、天津市、新疆ウィグル自治区といった地方政府代表者と同じレベルで「兵団」代表者が登場していました。国営通信社である新華社のホームページの「地方」のページを見ると、河北省、天津市、新疆ウィグル自治区と同じレベルで「兵団」のページがありました。

 中国では、地方行政区分として、河北省などの23の省(これには中華人民共和国政府が主張する「台湾省」も含む)と5つの自治区(新疆ウィグル、チベット、内モンゴル、寧夏回族、広西チワン族の各自治区)と4つの直轄市(北京、天津、上海、重慶の各市)があり、基本的に(台湾省以外は)これらは同等に扱われます(このほかに、香港とマカオの特別行政区がある)。「新疆生産建設兵団」は、物理的地理区分上は、新疆ウィグル自治区の内部にあるので、「兵団」を「新疆ウィグル自治区」と同等に扱うのは、どう考えてもおかしいので、2007年の二回目の北京駐在時にニュースで「兵団」と「新疆ウィグル自治区」を同等の別個な主体であるかのように扱うのを見て私は「おかしいなぁ」と感じたのでした。

 私は中国の人民解放軍の内部事情については報道されている以上のことは何も知らないのですが、おそらくは「新疆生産建設兵団」は、辺境の地にあって、国土防衛(最近はイスラム過激派等のテロ対策も含めた治安維持)にあたるとともに、農業経営、工場の運営から、病院、学校まで自ら経営しているため、ほとんど新疆ウィグル自治区政府とは異なる「独立王国」的な性格を持っているのではないかと思います(新疆ウィグル自治区全体では漢民族は少数派ですが、「兵団」は軍の一部であることもあり、漢民族が大多数を占めていることも「独立王国」的性格を持つ原因になっている可能性があります)。しかし、仮に実態的に「兵団」が「独立王国」的性格を持っていたとしても、政治的には(特に中国共産党が新疆ウィグル自治区ではウィグル族等による「自治」を重んじていると主張するならば)「兵団」を「独立王国的」に扱うことはむしろ避ける方が賢明だと私は思います。しかし、実際は「新疆生産建設兵団」はまるで新疆ウィグル自治区とは別に存在する「独立王国」のように扱われています。

 これも私の「想像」の域を出ませんが、二つの私の北京駐在期間の間(1988年と2007年の間)に、独立王国的性格を強めた「新疆生産建設兵団」が中央政府と中国共産党中央に対して独立した扱いをするよう求め、中央政府と党中央がその圧力に屈したのではないか、と私は考えています。

 1980年代の中国の最高実力者のトウ小平氏は、中国共産党中央軍事委員会主席以外の党や政府の要職には就いていませんでしたが、軍の内部には圧倒的な支配力を持っていました。それは、トウ小平氏自身が国民党との国共内戦時に「将軍」として戦闘の現場を指揮した経験があり、その時に生死を共にして戦った部下の多くが人民解放軍の幹部として残っていたからでした。なのでトウ小平氏の存命中は「軍が党中央に圧力を掛ける」などということは誰も考えもしなかったことでした。

 トウ小平氏は1997年に亡くなりましたが、トウ小平氏の後継として中国共産党中央軍事委員会主席になった(国家主席にもなった)江沢民氏、胡錦濤氏、習近平氏は軍での経験はありません。トウ小平氏の死後、軍の党中央に対する声が大きくなっても党中央の中に軍による「圧力」を押さえ込めるだけの力がなくなってしまった、と想像することは難しくありません。

 1980年代の北京駐在時のことはほとんど覚えていないのですが、2007年~2009年の北京駐在時には「新聞聯播」で三日に一度は「軍の○○部隊は××でこういう軍事訓練を行った」といった軍関連のニュースを必ず流しているのに気がつきました。今、「新聞聯播」は、2013年8月から東京でスカパー!経由で毎日見ていますが、今は「新聞聯播」では、軍関連のニュース(どこそこでこういう軍事訓練が行われた、といった類のもの)を毎日放送しています。「新聞聯播」では、政治・経済のニュースのほかに、国際ニュース、文化ニュース、スポーツ・ニュースもやるので、軍関連のニュースもそれと同じようなものであって他意はない、という考え方もあるのでしょうが、軍関係のニュースの放送頻度については今は胡錦濤政権時より明らかに多くなっています。私の率直な感想は「党中央は軍の機嫌を損ねないように相当軍に気を使っているなぁ」というものです。

 中国に行ったことのある人ならすぐ気付くと思いますが、例えば、高速道路の料金所では、軍関係車両専用のゲートがあって、軍関係のナンバープレートの車は、他のゲートのところに並ばずにゲートを通過できるようになっています。おそらくこうした「軍関係者を他とは区別して優遇するシステム」が中国社会には広く存在していることが想像され、それによって軍関係者の「特権階級意識」も強いのではないかと想像されます。もし仮に軍の内部に政府や党中央をも凌駕するような「特権階級意識」があるのだとすると、党中央としては、そうした軍の「特権意識」を排し、軍は完全に党中央の指揮下に入るべきだ、との考えが党中央に芽生えてもおかしくはありません。最近、習近平主席が軍内部においても集中した権力掌握を進めていますが、それが「軍の特権階級意識を撲滅し、軍を名実ともに完全に党中央の指揮下に収める」ことを目的としているのならば、習近平主席による軍内部での権力集中は前向きな軍改革として評価すべきなのかもしれません。

 今、新華社のホームページの「地方」のページに行くと、台湾省を除く22の省、5つの自治区、4つの直轄市に加えて、「兵団」と無錫市、長江デルタ地帯、河北・天津・北京地域を特集したページへ飛ぶリンクが並んでいます。一方、「人民日報」のホームページトップには、台湾省を除く22の省、5つの自治区、4つの直轄市に加えて深セン市を特集したページへ飛ぶリンクが張られています(「兵団」を特集したページへのリンクはない)。なので、新華社の「地方」のページに「兵団」へのリンクがあっても、そんなに深い意味はない、「『兵団』が省・自治区・直轄市と同じレベルの独立王国と化している」とするのは考え過ぎ、との見方もできるかもしれません。しかし、最近、「人民日報」(中国共産党の機関紙)が党大会前の特集として「前回の党大会以後の5年間の発展ぶりを紹介する企画」として、平日の紙面で、毎日、各地方をひとつづつ取り上げる特集を組んだ際にも、台湾省を除く22の省、5つの自治区、4つの直轄市の後に来たのは「新疆生産建設兵団」の特集でした。これも、現在、党中央が、「新疆生産建設兵団」を省・自治区・直轄市と同じレベルで扱っていることの証左だと思います。

 最近、日本の新聞では、軍における習近平主席への権力集中の動きについて、「政権は銃口から生まれる」という毛沢東の言葉を引用しつつ、習近平主席が自分への権力集中にどん欲であるとの印象を強く打ち出しています。それは一面では誤りではないとは思いますが、別の一面として、習近平氏が目指しているものについては、上に書いたように「党中央をもないがしろにしがちな軍の内部を改革し、真に党中央が軍全体を統率できるような体制を構築する」という一面もあることは指摘すべきだと思います(なお、「新疆生産建設兵団」の扱いについては、中国国内では極めて「敏感な」(政治的にセンシティブな)案件ですので、たぶん、中国のネットに私が今日書いたような議論を書き込んだら、例え習近平氏への権力集中を応援するような内容であったとしても、一発で削除対象になると思います)。

(注)日本の新聞等で軍における習近平主席への権力集中を語る際に毛沢東の「政権は銃口から生まれる」という言葉を引用していることについては、引用の仕方が誤りである、と私は考えています。毛沢東の言葉は「西欧型議会制民主主義においては、ブルジョア階級(資本家及び大地主)が資金力にものを言わせて選挙を勝ち抜くので、議会は常にブルジョア階級に有利な決定をし、人民の大多数であるプロレタリアート(労働者や貧農の階級)からの搾取はなくならないので、プロレタリアートは団結して、武力蜂起によって、場合によっては議会を粉砕して、革命を達成させなければならない」と主張するもので、民主主義を確立し議会制度を通して平和裏に(武力を用いないで)近代化革命を進めようとしている勢力に対する批判の中でなされたものです。従って、既に共産主義革命が成立した現在の中国において、為政者が軍に対する掌握力を強化しようとしていることについて、この毛沢東の「政権は銃口から生まれる」という言葉を引っ張ってきて説明しようとすることは、言葉の背景を考えていない誤った引用の仕方だと私は思っています。

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2017年9月16日 (土)

党大会前後で何がピークを打つのか打たないのか

 中国共産党第19回全国代表大会(2017年10月18日開幕)まで残すところほぼ一ヶ月となりました。党大会を境に中国政府による「下支え」がなくなるので、中国経済は党大会をピークとして下り坂に入る、という見方と、中国政府は党大会後の急速な経済減速を望まないので、党大会後も中国経済は堅調さを維持する、という見方が交錯しています。ただ、おそらくは「党大会のピークで一儲けしよう」と考えている「投機筋」が少なからずいると思うので、多くの相場で中国共産党大会が「転換点」のタイミングになる可能性は小さくないと思います。

 党大会前1か月のこの時期、もしかしてピークを付けたのかな、と見えるようなものをいくつか掲げてみたいと思います。

○上海総合指数:9月14日に中国国家統計局が発表した今年(2017年)1~8月の経済指標が予想より悪かったので、週末上海総合指数は少し下げました。ただ、今年(2017年)の上海総合指数は上昇基調にはありますが、2007年の党大会前や2015年夏のような「バブル的な上昇相場」ではないので、これから党大会前後に掛けて、そんなに乱高下はしないのではないか、と私は見ています。2015年の株バブル崩壊以降、国家隊(政府系ファンド等)による株価安定策がかなり効いていると思いますので。

○銅価格:9月上旬に高値を付けた銅価格の値上がりが一服していますが、今日(2017年9月16日(土))付け日本経済新聞朝刊17面には「銅、高値修正は限定的 投機筋の売りで上げ一服 実需の買いが下支え」という見出しの記事が載っていました。世界最大の銅の消費国は中国なので「党大会後、中国での銅の需要は頭打ちになる」と見た一部の「投機筋」が今のタイミングで売りを入れたのでしょう。

○亜鉛:今日(9月16日)付け日本経済新聞朝刊18面には「亜鉛価格、内外で下落 中国経済に減速観測」という記事が載っていました。

○ビットコイン:昨日(9月15日)、ビットコインの価格が大幅に下落しました。中国の規制強化により中国の大手仮想通貨取引所が今月末で取引を停止すると発表したことが切っ掛けでした。今の時点ではビットコイン市場の動向が実態経済に与える影響は大きくないと思いますが、「投機マネー」の動向を見る指標として、ビットコイン価格は一種の「温度計」の役割を果たしていると見てもよいかもしれません。

○中国の不動産市場:「人民日報」のホームページ「人民網」の「財経チャンネル」に経済参考報の記事として「全国のマンション市場の在庫圧力大幅減 多くの都市において在庫は『良性周期』に入った」(2017年9月15日アップ)が載っていました。この記事では、今年1~8月、マンション販売面積は過去最高で前年同期比12.7%増(1~7月比1.3ポイント下落)、マンション販売額は前年同期比17.2%増(1~7月比1.7ポイント下落)だったことを伝えています。「今年はこれまでマンションはよく売れたので在庫が減った。ただし、8月には売れるスピードが鈍化した」ということだと思います。記事では「在庫は『良性周期』に入った」とポジティブに報じていますが、そもそも経済は堅調とは言えそんなに景気が急速に拡大しているわけではない今年(2017年)の1~8月のマンション販売額が前年比17.2%増だ、というのは「売れすぎ(=過熱し過ぎ)」なのじゃないかなぁ、と私は思います。なお、この記事では、政府の方針に従って、手持ちのマンション物件を賃貸にする開発業者も増えていることを紹介しています。賃貸物件に思った通りの家賃で借り手が付くかどうか、も今後の中国のマンション市場の将来を占う上で、重要なカギになりそうです。

 そもそも9月14日に発表された中国の経済指標について、昨日(9月15日)の日本経済新聞朝刊11面では「中国経済、緩やか減速 8月、資産・投資伸び鈍る」という見出しで報じています。党大会を一ヶ月後に控え、中国経済は既にピーク打ち感が出ている、と見るべきなのかもしれません。

 それに加えてちょっと気になるのは、その記事の隣にあった「訪日団体旅行を制限 中国・福建省など 外貨流出警戒か」という見出しの記事です。もし、この記事が指摘しているように、中国当局が中国からの資金流出を懸念して「爆買い」をするような日本旅行を制限しようとしているのが事実ならば、それは中国当局自体が「党大会後の中国経済の減速とそれに伴う資金の海外流出圧力の増加」を見込んで、そのための対策を打ち始めていることを意味しているのかもしれません。

 来週(9月19~20日)、アメリカFRB(連邦準備制度理事会)はFOMC(連邦公開市場委員会)を開いて金融政策について議論します。この会合で「量的緩和」によって積み上がった資産(バランスシート)の縮小を10月から開始することを決定するのではないか、との見方も強いのですが、アメリカFRBが資産の縮小を始めてアメリカの金利が上がり始めるのと同じタイミングで中国で共産党大会後の経済の減速が始まるのだとするとあまりよくないなぁ、とちょっと心配になります。おそらく米欧日の中央銀行は、10月の中国共産党大会後に中国経済が減速するかもしれない、というスケジュール感は頭に入っていて、それを踏まえた金融政策のコントロールをしてくると思いますが、北朝鮮情勢の不透明さもあり、今年(2017年)の秋は、各種の経済指標や市場の相場動向を注意深く見守っていく必要のある時期が続きそうです。

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2017年9月 9日 (土)

内政外交ともに「対処できていない感」満載の習近平氏

 先週日曜日(2017年9月3日)の日本時間12:30頃、北朝鮮が六回目の核実験を行いました。日本の新聞等でも指摘していますが、この日の午後、福建省厦門(アモイ)で開かれたBRICS(新興五か国)首脳会談に先立って行われた経済シンポジウムの開会式で習近平主席が演説をしており、北朝鮮の核実験が習近平主席の演説の数時間前であったことから、北朝鮮の今回の核実験は「中国への面当て」の意図を強く打ち出したものだった、との見方が強くなっています。

 最近の北朝鮮のミサイル発射等の挑発行為は、時刻に係わらず行われていて、「自分の好きな時にいつでもできる」ことをアピールしていますが、5月14日に行われた弾道ミサイルの発射も、北京で行われた「一帯一路」首脳会議に先立つ経済シンポジウムの開会式で習近平主席が演説する数時間前に行われました。この日の習近平主席の演説は午前中に行われましたが、北朝鮮による弾道ミサイル発射は早朝に行われ、タイミング的には「習近平主席が各国首脳とテレビカメラの前で演説を行う数時間前」という意味では、今回の核実験と全く同じでした。

 北朝鮮の貿易の9割以上は中国相手であり、北朝鮮問題については、アメリカのトランプ大統領ならずとも、世界の多くの国が中国に対して「なんとかしてよ」と思っている中で、習近平主席「肝入り」の各国首脳を招いての国際会議の直前のタイミングでの北朝鮮のたび重なる挑発行為は、北朝鮮による習近平氏の「メンツ潰し」としては極めて効果的だったと思われます。こういったタイミングでの北朝鮮の挑発は、国際社会のみならず、中国国内に対して「習近平主席は北朝鮮問題について何も対処できてないじゃないか」との印象を与えたと思います。

 こうした北朝鮮の挑発行為に対する中国側の対応も「中国は北朝鮮に対して有効な対処ができていない」という印象を強めるものとなっています。「一帯一路シンポジウム」の時も今回のBRICS首脳会議に際してのシンポジウムの際も、北朝鮮の「挑発」の数時間後に演説した習近平主席は、北朝鮮の問題について何も触れませんでした。今回のBRICS首脳会議関連のシンポジウムに関しての中国側の報道は、当日の中国中央電視台の夜7時のニュース「新聞聯播」でも翌日の「人民日報」の紙面でも、習近平主席が演説したシンポジウム関連の報道に多くの割合を裂き、北朝鮮問題については、「外交部が強烈な反対を表明した」旨をごく小さく、ほとんど「ベタ記事扱い」で報じたに過ぎませんでした。この習近平主席の「だんまり」と中国側の北朝鮮問題をなるべく小さく扱おうとする態度は、BRICS首脳会議に出席していたロシアのプーチン大統領が記者会見で北朝鮮問題に関してロシアの立場をハッキリ表明していたのとは対照的で、「北朝鮮問題については、中国はロシアに比べても態度をハッキリ表明していない。中国は相当に困惑しているようだ。」という印象を内外に与えてしまいました。

 そうした一方、BRICS首脳会議が開かれていた9月4日と5日、国務院総理の李克強氏は山西省を視察していて、貧困対策等について地元の地方政府幹部と話し合う姿が「新聞聯播」などで報じられました。私は、まるで李克強総理が「習近平主席は福建省でBRICS首脳会議をやっているようだが、私(李克強総理)は関係ないもんね」と言っているような印象を受け、「北朝鮮に対して有効に対処できていない」以前の問題として、習近平主席は中国政府内部も統括できていないのではないか、という印象を持ってしまいました。もし中国政府が政府全体としてBRICS首脳会議を中国の外交上の重要イベントだと認識しているならば、李克強総理もアモイに出向いてBRICS参加国の首相や経済関係閣僚と会談を行うのが普通でしょう(去年(2016年)9月に浙江省杭州で開かれたG20首脳会議の際も李克強氏は杭州へは行っていないので、こうしたやり方は今に始まった話ではないんですけどね)。

 一方、内政問題については、今、中国ではそんなに大きな問題が生じているようには見えません。実際、10月18日から開催予定の第19回中国共産党全国代表大会へ向けて、現在のところ中国経済は順調に行っているようです。ただ、これは、政府によるインフラ投資等による景気下支え策と強烈な資本規制による資金の国外への逃避抑制に起因する中国国内での資金滞留の効果が大きいのであって、中国経済の根本的な問題点は先送りされているだけであまり改善されていない、という見方も強いようです。

 8月30日付け日本経済新聞朝刊8面に「中国の地方政府 土地売却を加速 1~7月4割増の30兆円 景気対策に財源確保」という記事が載っていました。中国の地方政府が「土地は公有制」という中国の特徴を活用して、農民から一定額の補償金を支払った上で農地を収用し、それを土地開発業者に売却して大きな財政収入を得て、それをインフラ投資等に使っているという問題は、私が北京に駐在していた10年前頃ですら「持続可能なやり方ではない」と認識されていました。そうした「土地収入依存体質」という構造が全く改善されていない(というより党大会前の景気下支えのための投資の財源としてより強力に行われている)という現状は、中国政府は「構造改革」についてはうまく対処できていないことを示しています。

 「土地収入依存体質が改善していない」という点については、中国国内でも問題意識は持たれてるようです。「人民日報」ホームページ「人民網」の「財経チャンネル」に2017年9月5日付けの「経済参考報」の記事「1~8月の300都市の土地収入は2.2兆元 不動産企業による土地取得は依然として加速している」との記事が掲載されていました。この記事のポイントは以下のとおりです。

○今年(2017年)1月~8月の全国300都市の土地売り出し総額は2兆2,032.6億元で、前年同期比約34%の増加である。

○中原地産の首席アナリストの張大偉氏は次のように解説している。「不動産企業による土地取得が加速過程にあることは非常に明確である。大都市(中国語で『一線城市、二線城市』)では不動産販売抑制政策の効果が明らかであるが、全国のデータで見ると、不動産企業は今年上半期の販売状況が比較的よかったという状況の下、資金状況は空前の規模で余裕がある状態にあり、現在ある在庫分の販売が成功した後、大部分の大手不動産企業は積極的に土地取得を開始している。」

 この記事は、2017年に入ってからの中国政府による資金の海外流出の締め付けにより、中国国内で資金がだぶつき、またぞろ不動産市場がバブル的状況になっていることを表していると思います。中国政府は、党大会前の景気の過熱を抑制し、党大会後に経済が急速にしぼむことを防ぐ対策をやる必要があることはわかっているにも係わらず、今年については、過熱の抑制に成功していないようです。

 中国当局は9月4日、ICO(仮想通貨発行による資金調達)を禁止する旨の通達を出しました。これも中国国内でだぶついた資金が新しい投資対象であるICOを過熱化させることを中国当局が懸念したからだと思います。規制するのは政策判断として私も「あり」だと思いますが、市場の混乱を避けるためには、全面禁止する前に当局側からICOに関する懸念が表明されるなり、政府内で禁止へ向けて検討を開始した等の情報を流すなりして、ある程度熱を冷ましてから「禁止」の決定をすべきだと思いますので、今回の突然のICO禁止決定は、私には経済政策のやり方としてはいささか「拙劣」だったような気がします。

 2015年夏の上海株バブル崩壊時のあわてふためいた株価下支え策、2015年8月の突然の人民元の切り下げ、2016年年初の株式市場でのサーキット・ブレーカー制度の朝令暮改(制度を導入したら市場が混乱したので数日で制度を撤回した)、そして今回の突然のICO禁止決定といった一連の政策から私が受ける印象は、「習近平政権の経済政策は一貫性がなく、その場しのぎで、中国の歴代政権の中でも『アラ』が目立つ気がするなぁ」というものです。私には、外貨が非常に少ない1980年代に苦労して外貨兌換券制度を編み出し、それを1990年代に混乱なく終了させた過去の中国当局の巧妙な経済・金融政策の記憶があるので、ちょっと昨今の中国の経済政策の「ドタバタぶり」が気になってしまい、今の中国政府は現状の問題点にうまく対処できていないのではないか、と感じてしまうのです。

(注)私には、リーマン・ショック後のアメリカFRB、ヨーロッパECBや日本銀行の金融政策についても「うまく行っている」と判断する自信はないので、中国のことだけを批判的に見るのは公平ではない、とも考えています。

 で、私が一番気になるのは、上に書いたように外交や内政において、中国には様々な問題があり、中国政府の対応が必ずしもうまく行っていないのではないか、という部分もある中、習近平主席が次の党大会での自分への権力集中にばかり関心を向けているように見え、李克強総理もそういう習近平主席から一定の距離を置いて「お手並み拝見」という態度を取っているように見えて、中国政府に一体感がないように見えてしまっていることです。

 特に私の印象では、習近平主席は前任の胡錦濤主席に比べて、テレビを通じて人民に呼び掛ける姿がかなり少ないのが気になっています。李克強総理の方は、よく国際的な経済シンポジウムに出席して、経済人や報道陣からの質疑を受ける場面をテレビで見かけるのに対し、習近平主席の方は用意された原稿を読み上げる演説の場面はたくさんあるのですが、「自分の言葉」で語りかける場面が少ないように思います。特にロシアのプーチン大統領が、テレビによく出て、自分の言葉で国民と世界に呼び掛けるのがうまく、「強い指導者」であるとの印象を作り出すことに成功しているのと比較すると、習近平主席はメディア戦略という点ではあまり成功していないと思います。

 タイトルに掲げた「対処できていない感」は、単なるテレビ等を通じた印象だけの話であって、実際には、習近平主席は中国共産党と中国政府内部では見えないところで強力なリーダーシップを発揮しているのかもしれません。しかし、もし仮に「対処できていない感」を保持したまま、10月の党大会で習近平氏が「中国共産党主席」に就任し、権力を一手に集中させることに成功するのだとしたら、習近平氏は、メディアから受ける印象と実質的な権力集中の不一致、という苦しみに今後苛まれることになると思います。中国人民の気持ちは、やはりメディア等から受ける「印象」に左右されますからね。

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2017年9月 2日 (土)

党大会前の順調な中国の企業決算の信頼性

 中国共産党第19回全国代表大会は2017年10月18日から開催されることが8月31日に公表されました。10年前の2007年の第17回党大会の時は、10月15日から党大会が開かれる旨が8月28日に公表されていますので、それとだいたい同じタイミングです。なので、党大会の重要な決定事項については今の時点で既に「概ね見通しがついた」(=特段揉めているわけではない)と考えてよさそうです。

 一方で、今度の党大会で去就が注目される政治局常務委員の王岐山氏(習近平主席の「右腕」として反腐敗運動の中心を担っているとされる。年齢的には今度の党大会では再任されない見通しだが、習近平主席への権力集中の一環として慣例となっている「定年制」を変更してでも再任されるのではないか、との見方もある)は7月下旬以来、テレビのニュースに登場していません。王岐山氏の再任問題が最後まで調整を要する事項として残っている可能性があります。

 党大会の開催日公表は8月31日でしたが、おそらくは先週末(8月25日)の時点で開催日程公表のメドがついていたのではないかと思います。というのは、8月25日(金)、上海総合指数が対前日比1.80%高と急騰し、年初来高値を更新しましたが、中国共産党内部の情報に通じている投資家が未公表の党内情報を踏まえて株を買った可能性があるからです(公表されていない内部情報を元に株を売買することは、中国でもインサイダー取引として規制されますが、おそらく実態的には党内情報を知った一部の投資家が他の投資家に先駆けて株を売買するようなケースは中国では「よくあること」なのではないか、と私は想像しています)。

 8月29日(火)、北朝鮮が日本を飛び越して太平洋に中距離弾道ミサイルを発射して、日韓の株価が大幅安しているのに、上海総合指数は平気な顔をして小幅に値を上げました。足元の上海総合指数の上昇傾向については、最近の中国企業の決算発表の内容が予想以上によかったからだ、といった理由付けがなされているようです。

 最近の中国企業の業績が好調なことについては、8月31日(木)付けの日本経済新聞朝刊13面に「中国企業 2割増益 上場3,118社1~6月期 資源高やインフラ投資に依存 党大会後は不透明」という見出しの記事で解説がなされていました。この記事によると、業種別では鉄鋼と建材が飛び抜けて最終損益の上昇率が大きく、インフラ投資が大きく企業業績の好調さに貢献していることがわかります。

 実際、今、中国企業の業績は好調なのだと思いますが、私は、最近の中国の「雰囲気」には留意する必要があるのではないか、と思っています。その「雰囲気」とは以下の点です。

○中国共産党は(民間企業も含めて)企業に対する党の指導を強化する方針を強く打ち出していること(企業も中国共産党の意向には逆らってはならない、という「暗黙の圧力」になっている)。

○「反腐敗闘争」の一環として、企業トップが摘発される例も多発していること。特に最近の軍の最高幹部クラスの摘発は、平時にしてはいささか度を越しているように思われ、各界トップに「次は自分が摘発されるのではないか」という恐怖心を植え付けるのに十分な状況であること。

(注)今日(2017年9月2日(土))付け各紙は、中国共産党軍事委員会メンバー11人のうち4人が失脚していることを大きく報じています。ちょうど10年前の2007年の党大会の時に私は北京に駐在していましたが、当時の胡錦濤政権では、こうした「あからさまな権力闘争」と思われる案件は党大会の直前にはありませんでした。2006年9月、陳良宇上海市党書記(江沢民前国家主席に近いと言われていた)が失脚しましたが、この案件は党大会の1年以上前の話でした。党大会直前の時期に大物(特に軍の大物)の失脚が続くという現在の習近平政権のやり方は「ただ事ではない」という雰囲気を作り出しています。

○(これは党大会が行われる際には毎度のことですが)中国全土で「中国共産党大会勝利開催!」の雰囲気の盛り上げが行われていること(個人的な感想ですが、先日、習近平主席も出席して行われた中国全国運動会(日本の国民体育大会に相当)の開会式で、観客席で「第19回党大会勝利開催!」という人文字を作っていたのは、やめて欲しいと思いました。北朝鮮じゃないんだから。)

 このような「雰囲気」の中で中国政府が景気浮揚のため一生懸命インフラ投資をやっているわけですが、こういう「周囲の状況」の中で「残念ながら当期の我が社の業績は今ひとつ振るいませんでした。」と正直に決算発表できる企業トップは相当に勇気のある人だと思います。中国の企業の決算発表の実態(例えば、監査法人や公認会計士による監査がどの程度厳格に行われているのか)は私はよく知りませんが、省レベルの地方政府ですらGDPの「水増し」が行われている中国社会の現状を鑑みれば(先日、遼寧省幹部はGDPの「水増し」があったことを認めた)、中国の企業決算をどの程度信用してよいのか、については、私は疑問に思っています。

 もし仮に、中国の企業トップに「党大会の前の決算はよく見せよう」という意向が働くのだとしたら、昔、バブルの時期に日本企業がやっていたような「飛ばし」(含み損を抱えた資産を決算時期の前に「決算時期の後に買い戻す」という条件付きで他社に売却する行為)のようなことを中国の企業はやっているのかもしれません。もしそうだとすると、党大会前の決算内容は実態よりも「水増し」されていることになります。

 8月5日付けのこのブログでは、金融機関の貸し出し時における「党大会バイアス」(党大会前の企業破綻を避けるため、党大会前は平常より貸し出し条件が甘くなってしまうケース)があるのではないか、と書きました。金融機関によるこうした「党大会バイアス」や各企業の「党大会前の決算を通常より良くお化粧して見せる」という行為が仮に一般的に行われているのだとしたら、中国経済は党大会前は実態よりもよく見えてしまうことになります。

 中国の株式市場の投資家たちがそうした中国における「党大会前の特殊な事情」を知った上で株を売買しているのかどうかは私は知りません。ただ、事実として2007年のケースを書くと、党大会は2007年10月15日に開幕し、当時も「バブルではないか」と言われていた上海総合指数は党大会開幕翌日の10月16日に終値ベースでピーク値6,124ポイントを付けました(翌2008年3月末には3,400ポイント、8月18日には2,320ポイントまで下落。翌月に起きたリーマン・ショックによりさらに下値を探ることになる)。

 今回も上海総合指数が党大会開催翌日にピークを打つかどうかは誰にもわかりませんが、問題は、今回の党大会の開催日が10月18日であることが公表されたことから、「党大会の開催日が様々な経済指標のピークになる可能性がある」と考える「投機筋」がそういう前提で投機マネーを動かす可能性があることです。

 7月下旬、ウォール・ストリート・ジャーナルが10月頃に相場が変動することに賭けた投資家が出たことを報じて話題になりました。アメリカ政府の債務上限問題(9月末がタイムリミットと言われる)やアメリカFRBの資産縮小開始決定(9月20日に決定される可能性が取りざたされている)もありますので、この投資家が中国のことをどの程度考えていたのかは定かではありませんが、中国共産党大会の開催日が決まったことで、ピンポイントのタイミングを狙った投機筋の行動もこれからも出てくるかもしれません。

 ここのところ日経新聞では「中国共産党大会後の中国経済が心配」といった趣旨の記事が非常に多くなっているように感じます。特に今の習近平政権は、明らかに「経済が党大会の時点でピークを打つという懸念」よりも「習近平氏への権力集中の実現」の方に優先順位を置いているように見えるので、「中国経済が党大会のタイミングでピークを打ち、その後、下り坂に入る」という「みんなが心配している懸念」が実際に起きる可能性はかなり大きいと私は思っています。

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2017年8月26日 (土)

党大会前の景気過熱はコントロールできているのか

 中国共産党大会を前にして中国経済は過熱し、党大会終了後に下り坂に向かう、ということは誰もが(中国共産党自身も含めて)わかっていることなので、通常、中国政府は党大会前の経済が過熱しすぎないように適度にブレーキを掛けます。ただ、今回(2017年)の党大会に関しては、既に8月末になっているのに、まだ「過熱状態」が続いているようであり、中国政府による「適度なブレーキ」が効いていない、即ち、中国政府は党大会前の景気過熱をうまくコントロールできていないのではないか、との懸念が出てきているようです。

 その懸念を端的に示す記事が今朝(2017年8月26日)の日本経済新聞朝刊に載っていました。13面の記事「中国発 鉄冷えの秋警戒 世界生産は15ヵ月連続増」という記事です。この記事では「山が高ければ、それだけ谷が深くなる」として、党大会前の過熱が過ぎると、党大会終了後の落ち込みが大きくなると警戒している日本の鉄鋼大手幹部の発言を紹介しています。

 ちょうど一月前の7月29日、私はこのブログで「今年『中国共産党大会前の経済の過熱』は許されるのか」という記事を書きました。私は2007年4月~2009年7月まで北京に駐在していました。その北京駐在期間中の2007年10月に第17回中国共産党大会を、2008年8月に北京オリンピックを経験しましたが、その頃、中国政府は、党大会と北京オリンピックへ向けた景気の過熱をかなり警戒しており、北京オリンピック終了後に景気が急に冷えることを防ぐために、適度に景気にブレーキを掛けるような政策をとっており、実際、それは一定の効果が上がっていたように私は感じました。それに比べると、今回(2017年)は党大会前の景気過熱の行きすぎを抑制するための「適度なブレーキ」があまり効いていないように感じます。それだけに党大会終了後に中国の景気に急ブレーキが掛かることが懸念されます。

 「中国の経済統計指標は信用できない」という人も多いのですが、国際的な市況の動向を見ていると、中国経済の実態もある程度は想像することができます。ここ一週間の日本経済新聞の報道でも、中国経済が現在もかなりホットな状況にあることを背景にしていると思われる国際市況に関する記事が相次ぎました。

○8月23日(水)付け朝刊20面「ばら積み船 用船料上昇 大型船、1ヵ月で2倍 中国向け堅調」

○8月25日(金)付け朝刊21面「鉄スクラップが一段高 直近安値3割上昇 中国輸出減で」

○8月26日(土)付け朝刊17面「NY銅先物が上昇 2年9ヵ月ぶり3ドル超え 中国の需要増に期待」

 これらは「現在の需要が実際に好調だという実需」の側面と「これから需要が好調になるだろうと見込んだ投機」の側面とを両方含んでいると思われますが、党大会の時期(つまり景気のピークになるだろうと思われるタイミング)のほぼ二か月前という現時点での状況にしては、私には「ちょっと景気が熱過ぎる」という感じがします(ついでに言うと、3,250ポイント程度を上限とする範囲内に当局がうまく納めるだろうと思っていた上海株式市場の総合指数が8月24日(金)に3,331.522(対前日比1.80%高:年初来高値更新)に急騰したのも気になります。私は上海総合指数は、2015年の株バブル崩壊以降、国家隊(政府系ファンド等)による売り買いによって「当局が数字をコントロールできている」と思っていたので、今後、上海総合指数の上昇が止まらなくなるようだと要注意だと思います)。

 ここで気になるのは、「過熱の行きすぎが心配になるほどの景気」と習近平氏が党大会で権力集中を図ろうとしていることが関係しているのではないか、という点です。習近平氏が、多くの地方政府や国有企業に関係する党幹部の支持を得たいと考えるならば、党大会直前のこの時期に過熱するくらい「景気のよい」状況を現出させておいた方が得策だと考えると思われるからです。前にも書いたことがありますが、2008年頃、北京オリンピック終了後の急速な景気後退を心配した中国政府は一定程度景気にブレーキを掛けていましたが、この頃、私の耳には「マクロ経済政策の中心人物である周小川中国人民銀行総裁の更迭説」が入って来ました。おそらくは「景気の過熱」を好む地方政府や国有企業の有力党幹部が景気にブレーキを掛けようとする周小川氏を排除しようとする動きがあったものと思われます。

 2008年当時、胡錦濤政権は「景気の過熱を防ぐための適度なブレーキ政策」を堅持し、周小川氏も辞めることはありませんでした。私は、胡錦濤政権は「景気過熱」を求める党内勢力の圧力には屈しなかったのだ、と当時思いました。(2008年9月、アメリカ発のリーマン・ショックが世界を襲い、その対策のために四兆元の超大型経済対策が打たれたため「北京オリンピック終了後の中国経済の後退」は結局は杞憂に終わりました)。

 今日(2017年8月26日(土))の時点で、中国共産党大会の日程はまだ公表されていません。10年前の2007年の党大会の日程発表は8月28日だったので、あと一週間のうちには党大会の日程が発表されると思われます(発表がそれより遅れるようだと、党大会で決めるべき事項の中でまだ方向性が決まっていない「揉めている案件」が残っているからだ、という憶測を生むことになると思います)。

 上に書いたように、「党大会直前になっても景気の過熱が収まらない」という現状は、中国政府の経済政策が「経済の円滑な推移」よりも「党大会での習近平主席への権力集中の実現」という政治的目的の方を優先していることを示している可能性があり、もしそうなら、党大会後、習近平政権は、実態経済から大きな「しっぺ返し」を受けてしまうことになる可能性があります。

 なお、外国メディアが「中国の現在の景気は党大会を前にした当局による大規模なインフラ投資で支えられているので、党大会が終わると景気は急減速する可能性がある」という論調で伝えることが多いことについては、中国当局自身も結構気にしているようです。今日(2017年8月26日(土))付け「人民日報」2面には「経済情勢の新しい変化については全面的に客観的に見るべき」と題する論説記事が載っていました(もともとは8月25日の「経済日報」に載っていたものを「人民日報」が転載したもの)。

 この記事では、最近の中国の経済成長は、新しい産業分野の成長が大きいことや労働生産性が上がっていること、最終消費支出の経済成長における寄与度が大きくなっていることなどを数字を上げて説明した上で、「一部外国メディアはこのような中国経済の重要な変化を理解しておらず、あるいは見て見ぬふりをして、依然として中国の経済成長はインフラ等の投資が引っ張っていると説明している」と外国メディアを批判しています。

 もともと「経済日報」に掲載された記事を「人民日報」が改めて転載した、ということは、中国共産党宣伝部がこの論調を強く主張したいと考えていることの表れです。私のような「中国の新聞をひねくれて読むクセ」のある人から見ると、こういう記事の出し方は、実は「中国経済は依然としてインフラ等の投資が引っ張っている」という外国メディアの論調が「痛いところを突いている」からだ、と見えてしまいます。

 中国共産党の内部には優秀なエコノミストがたくさんいます。おそらくは「経済の円滑な推移よりも政治目的を優先していると、あとで実態経済から手ひどい『しっぺ返し』を受けるおそれがある」ということについては、中国共産党内部の「心ある人々」には重々わかっているのだと思います。上に紹介した「痛いところを突いてくる外国メディアをムキになって批判する論説記事」は、そうした中国共産党内部にいる「心ある人々」の苦しさを映していると私は思っています。

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2017年8月19日 (土)

中国のインフラ投資とPPPと社債との関係

 2015年夏から2016年初に掛けて、世界の関係者に「失速か?」と心配された中国経済ですが、2016年央から2017年に掛けては「意外に」順調で、現時点(2017年8月)でも(若干ピークアウト感はあるものの)それなりの高いレベルは維持しているようです。

 2017年に中国経済が復調した原因は、インターネット通販の拡大やシェア・エコノミーの浸透などもあるかとは思いますが、やはり2017年秋の党大会へ向けての大規模なインフラ投資事業の推進が大きかったと思います。このブログの過去の記事を読み返してみて改めて思ったのは、去年(2016年)5月11日に中国国家発展改革委員会が発表した「交通インフラ設備重要プロジェクト建設3年行動計画」が効いているのかもしれません。この「行動計画」は2016~2018年の3年間に鉄道、地下鉄、空港、道路などに4.7兆元(今のレートで約78兆円)を投資しようというものです。この規模は、2008年11月に出されたリーマン・ショック対応の4兆元の超大型経済対策と比較しても、相当に大きなものであると言えます。

(参考1)このブログの2016年5月28日付け記事「今夏の中国はまた『大都市不動産バブル崩壊』か」

 このほか、2017年4月には、河北省に新たな副都心とも言える「雄安新区」を建設する計画が打ち出されており、この秋の党大会が終わっても、「超大型インフラ投資」は継続されることになるのかもしれません。

 一方、こうしたインフラ投資の資金源として使われていた地方政府による資金管理会社「融資平台」は、負債の額が巨額に上っていることから「融資平台」に対する融資は制限されるようになりました。それに代わって、PPP(官民パートナーシップ事業)が活用されるようになりましたが、これが「地方政府が新たな借金をするための打ち出の小槌」になるのではないか、との懸念がなされています。

(参考2)このブログの2017年6月17日付け記事「中国のインフラ投資のスピード感」で紹介した2017年6月11日付け日本経済新聞朝刊13面記事「官民投資 中国で乱立 地下鉄など総額230兆円 『民』の実態は国有? 不良資産拡大も」

 一方で、最近増え続ける中国の社債の発行残高についても懸念を示す見方が出てきています。

(参考3)このブログの2017年8月5日付け記事「中国の景気循環と『中国共産党大会勝利開催バイアス』」で紹介した2017年8月2日(水)放送:テレビ東京「Newsモーニング・サテライト」の「プロの眼」のコーナーでなされたBNPパリバ証券の中空麻奈氏の指摘「中国:社債市場に要注意」

 これらの「懸念」をひとつに結びつける記事が「人民日報」ホームページの「財経チャンネル」に載っていました。2017年8月17日付けでアップされた「経済参考報」に掲載されていた「発展改革委員会:企業債券(社債)の違約リスク(=デフォルト(債務不履行)リスク)を防ぐ」という見出しの記事です。

 この記事のポイントは以下のとおりです。

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○中国国家発展改革委員会が8月16日に語ったところによると、発展改革委員会は数日前、企業債券(=社債)の分野においてさらに一歩リスク防止のための管理監督を強化し実体経済への効果を上げるための通知を出した。

○企業が新たに社債の発行を申請する場合には、企業と地方政府との間の権利責任関係を明確にし、社債を発行する企業と地方政府の信用を厳格に隔離し、地方政府及びその関係機関と社債を発行する企業との間において、規範的ではない協力関係があったり、政府による購入、財政による補助等があったりするような状況を厳禁する。

○2016年に中国国家発展改革委員会が認可した社債の規模は8,000億元を超えるが、これらは主に、交通インフラ施設、低層老朽化住宅地区(中国語で「棚戸区」)の改造、都市インフラ建設等の重点領域に用いられるものだった。

○社債の発行が絶え間なく拡大している状況の下、中国国家発展改革委員会は、これからさらに一歩管理監督を強化し、社債のデフォルト(債務不履行)リスクを防止する。(中央政府の)中国国家発展改革委員会は、省レベルの発展改革担当部署に対し、社債発行後の資金の使用状況について追跡調査を実施し、規則に反する行為があれば適切なタイミングでこれを是正するよう要求する。デフォルト(債務不履行)リスクのある債券については、事前に介入し、市場を使い、法的手段を用い、企業を指導し、仲介機関に償還方法を制定させ、システミック金融リスクを発生させない、という最低ラインを断固として守る。

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 この記事を読むと、地方政府が行うインフラ投資プロジェクトにおいて、PPP(官民パートナーシップ)の名の下、政府調達や財政補助を通じて地方政府と密着した企業が社債を発行して資金を調達し、その結果、発行された社債の償還責任が企業にあるのか地方政府もある程度の責任を負うのか不分明になっている例があることが想像されます。PPP(官民パートナーシップ)とは言え、中国の場合、多くの場合の「民」は国有企業であり、地方政府も国有企業も「中国共産党による指導」の下にあるので、最終的に社債の償還責任が誰にあるのかわかりにくい現状があるのだと思います。

 そもそも「中国国家発展改革委員会が社債の発行を認可する」という行政行為や「デフォルト・リスクのある債券については、事前に介入して、デフォルト(債務不履行)を起こさないようにする」という考え方自体、「社債を償還する(=借りた金を返す)責任はどこにあるのか」を不明確にしていると思います。(日本等の資本主義国の場合には、社債の償還責任はあくまで会社にあり、インフラ投資プロジェクトにおいてパートナーを組んでいる地方政府や事業を監督する中央政府が社債の償還責任の一端を担うことなどあり得ません。それに対して「中国共産党が全てを指導している」という大原則がある中国では、おそらくは中国人民は、社債の償還不履行が起きた場合には「中国共産党が責任を取れ」と騒ぐことになるのだと思います)。

 これを突き詰めれば、最後の最後は、デフォルト(債務不履行)になる社債が数多く発生して、金融システミック・リスクが起きそうになったら、中国人民銀行(中央銀行)が社債を買い入れる、というようなところもまでやってしまうのじゃないかなぁ、とさえ思います。「最後は中国人民銀行が社債を買ってくれるのだったら安心だ」とも言えますが、もしそういう考え方が流布しているのなら、いい加減な社債発行も横行することになり、中国の金融システムに「モラル・ハザード」が起こることになります。そうなったら中国経済がどうなるのかは、私にはわかりませんが、リーマン・ショックの後、アメリカFRBが「量的緩和措置」と称して住宅ローン担保証券を国債とともに大量に購入した現実があるので、もし中国人民銀行が社債の購入を始めたりしても「FRBと同じことをやっているだけ」と言われるだけかもしれません。

 以前、中国の地方政府は、地方政府債券を発行することは認められていませんでした。そのため、リーマン・ショック後の「四兆元の大型経済対策」が打ち出された時期、地方政府は「融資平台」と呼ばれる企業体(日本で言えば第三セクターのようなもの)を設立して、この「融資平台」に銀行が融資することによって資金を調達して様々なプロジェクトを実施しました。銀行からの融資は、本来業務としての銀行融資のほかに、銀行や関連会社が組成する「理財商品」によって集められた資金も使われたと考えられています。

 「融資平台」の債務が膨張して、「融資平台」への銀行からの融資が制限されると、今度はPPP(官民パートナーシップ)と称してプロジェクトに参加する企業(多くは国有企業)の側が社債を発行して資金を調達するようになりました。その社債は結局は「理財商品」を組成しているファンドが買っている場合が多いようです。つまり、結局のところ「理財商品」という銀行の帳簿上には載ってこない金融商品によって多くの人々から集められた資金が地方政府が行うプロジェクトに流れる、という構図は以前も今も全く変わっていないわけです。

 投資したプロジェクトから十分なリターンが得られない場合でも、中国経済全体が成長して、販売される理財商品が増え続けている間は、償還期限が来た理財商品の利子は新しく販売した理財商品で得られる資金でまかなうことができますが、理財商品の全体規模の成長が止まった時、この構図は崩壊します(おそらく、崩壊を回避する方策は、上に書いたように、社債や理財商品を中国人民銀行が買い入れることしかないでしょう。それが中国にハイパー・インフレを招くことになるのか、中央銀行が大量の国債等を購入してもインフレにならないアメリカや日本のようになるのか、は私にはわかりません)。

 この秋(2017年秋)、中国共産党大会が終われば、中国政府(中央政府及び地方政府)によるインフラ投資はピークを越えるので、中国経済は減速期に入る、という見方があります。一方、「雄安新区」の構想に見られるように、中国政府は党大会終了後も高いレベルのインフラ投資を続けるので、中国経済は減速しない、という考え方もあります。ただ、高いレベルのインフラ投資を続ける場合、その資金源をどこに求めるのか、という問題には必ずぶち当たります。「やめられないインフラ投資とそれを支える借金の積み上がり」という中国経済の「止まったら倒れる自転車操業」的問題は、「融資平台」が「PPP」あるいはそれを支える「社債」に置き換わっただけで、今も本質は何も解決していないことはよく認識しておく必要があると思います。

P.S.

 8月17日に習近平主席はアメリカ軍の制服組トップと会談し、翌8月18日李克強総理はWHO幹部と会談し、それぞれの会談がテレビのニュースで伝えられました。お二人とも、通常通り、にこやかな表情でテレビに映っていました。ということで、今年の「北戴河会議」は終了したようです。今のところ、お二人に特に「変わった様子」は見られないので、「北戴河会議」では特段の「揉めごと」はなかったようです。アメリカのホワイトハウス内部がガタガタして、トランプ政権がほとんど機能不全状態に陥っているように見える昨今ですので、中国の政治には、うまく秋の党大会を乗り切ってもらって、「問題先送り」でもいいから中国経済には、当面「中国経済大減速!」という事態にはならないようにして欲しいな、と思います。アメリカでトランプ氏が大統領をやっている間に中国の政治や経済がゴタゴタしたら世界が壊れてしまうかもしれないので、そうならないように、中国の政治と経済にはぜひ安定を保ってもらいたいと思います。

 「リーマン・ショック」に続いて、今度また「トランプ危機」を中国に救ってもらうような事態になるのだったら、当面アメリカは中国には頭が上がらなくなるようなぁ、と思いますね。アメリカには、もっとしっかりして欲しいと思います。(アメリカ国債の保有額については、去年(2016年)10月の時点で中国は日本に抜かれて二位になっていましたが、アメリカ財務省が8月15日に発表したところによると、今年(2017年)6月時点で、中国は日本を抜き返して首位に返り咲いたそうです)。

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2017年8月12日 (土)

習近平主席と李克強総理の「選挙運動」

 今日(2017年8月12日)現在、「北戴河会議」はまだ続いているようです。例年、「北戴河会議」が開催されている期間中、「今日、中国共産党政治局常務委員(今の体制では劉雲山氏)が北戴河で休暇を過ごしている専門家たちと懇談しました」というニュースが流れるのですが、このニュースが流れたのは一昨年(2015年)と去年(2016年)は8月5日だったのに対し、今年(2017年)は8月9日でした。なので、たぶん「北戴河会議」は、今年は例年よりやや遅めのスケジュールで進行しているようです。

 なお、今日(2017年8月12日)、習近平主席はアメリカのトランプ大統領と北朝鮮情勢に関して電話会談を行いましたが、「電話会談をした」ということが習近平主席が北京にいる証拠にはなりません。

 8月8日、四川省九寨溝で大きな地震があり、観光客を含めて20名の方が亡くなりました。この地震について、習近平主席と李克強総理は、ともに救援に全力を尽くすよう指示を出しています。大きな事態に対して中国政府として重要な指示を出す際にはこの二人が同じような指示を出す、という状況は続いているので、現在のところ、政府を動かす権限が習近平主席に一本化され、李克強総理の役割が後退した、というわけではないようです。

 地震に対する指示についても、トランプ大統領との電話会談についても、中国中央電視台の夜7時のニュース「新聞聯播」では、アナウンサーが事実を読み上げて伝えただけで、習近平主席も李克強総理も映像としては登場していないことも「北戴河会議」がまだ続いており、二人とも北京にはいないことを示していると思います。

 「北戴河会議」が開催される前、習近平主席は7月30日に内モンゴル自治区の演習場で行われた大規模な軍事パレードに迷彩服で登場して閲兵を行い、自分が軍を統率していることを内外にアピールしました(これは日本でも報道されたので御存じの方も多いと思います)。一方、翌7月31日、李克強総理は、中国の携帯電話大手の中国電信、中国移動、中国聯通を視察し、三社の代表と経済情勢について意見交換会を開きました。これは「人民日報」や「新聞聯播」で報道されましたが、習近平主席の「迷彩服による閲兵」に比べれば扱いは小さいものでした。李克強総理が大手企業幹部と座談会をやるのは別に珍しい話でもないので、日本では報道されなかったようです。

 ただ、私のように中国のニュースを「ひねくれた目で」見てしまう者には、この李克強氏の携帯電話三社との座談会は「北戴河会議」参加者に対して「自らの立ち位置」を明確に示す一種の「選挙運動」だったのではないか、と写ったのでした。習近平主席の「迷彩服での閲兵」が「北戴河会議」に参加する中国共産党の現役幹部・引退した幹部に対して「自分が軍を完全に掌握しているのだぞ」と示す「アピール」だったのは明らかですが、それと同じ目線で見れば、李克強氏の携帯電話三社との座談会は、「今の中国にとって重要なのは『迷彩服での閲兵』ですか? そうじゃないでしょ。今の中国にとって最も重要なのはスマートフォンやインターネットを活用した経済の新しいステージへの進展、例えばシェア・エコノミーの活性化でしょ?」という「アピール」だったと私は思います。たぶん、中国の都市住民や中国の経済人の目から見れば(もし彼らに投票権があるのだったら)、「習近平主席と李克強総理のどちらに一票を入れますか?」と聞かれれば、「李克強総理に一票」と答える人が多いと思います。

 一方、習近主席は、最近、「貧困対策」に言及することも多いので、軍の関係者や経済発展に取り残された地方の貧しい人民は「習近平主席に一票」と主張するかもしれません。問題は、「北戴河会議」に参加している中国共産党の現役幹部や引退した幹部が、習近平主席による権力集中強化に賛成するのか、李克強総理が進めようとする経済改革強化(中国共産党による指導よりも企業の自主的経営判断を重視する)に賛成するのか、どちらの方が勢力が強いのか外部からはよくわからない点です(「今後、中国をどのようにしたいのか」という理念よりも、「どちらに味方した方が得か」という損得勘定で動く人が多いのかもしれません)。

 最近、中国の大手企業の活動に対する中国当局の「指導」の強化が目に付いています((参考)2017年8月10日付け日本経済新聞朝刊6面「Financial Times: It is what you know 中国企業、見えぬ行動原理 M&A 共産党介入リスク(エマージング・マーケッツ・エディター ジェームズ・キング氏)」)。「中国共産党による指導」と「自由な企業行動範囲をできるだけ拡大したいと考える中国の企業家」との衝突は、遅かれ早かれいつかは表面化する問題でした。今、この二つの考え方の衝突が習近平主席と李克強総理を代表とする勢力の間の権力闘争という形で「北戴河会議」の中で闘わされている可能性があります。

 おそらくは、形式上の権力集中(例えば「党主席」職の復活=習近平氏の党主席就任)と李克強氏側の実質権限の維持(例えば、李克強氏が国務院総理を退くとしても全人代常務委員会委員長として党内ナンバー2の地位は維持する、など)を並立させる形の「妥協」で収まるのではないかと思います。ただ、「中国共産党による指導の強化」と「企業による自由な企業活動」とは根本的に「水と油」ですので、形式的に「妥協」を図ったとしても、その矛盾は蓄積を続け、いつかは「妥協では解決できない臨界点」に達する可能性は否定できないと思います。

 今日(2017年8月12日(土))の各紙報道によれば、中国インターネット情報弁公室は、大手ネットサービスの微信(ウィーチャット:中国版LINEと言われる)、微博(ウェイボ:中国版ツィッターと言われる)、検索最大手の百度(バイドゥ)が運営するティエパ(「貼」+「口へんに巴」)に対して管理強化のための一斉調査に着手したとのことです。中国国内ではツィッターやフェースブックの利用ができない代わりにこれらの中国企業によるネットサービスが極めて盛んです(日経新聞の記事に基づけばこれらの利用者は重複勘定すると13億5,400万人に上る)。今後、中国の企業家だけではなく、一般の中国人民も「中国共産党による管理の息苦しさ」をよりいっそう強く意識するようになるかもしれません。

 私は、李克強氏が習近平主席による「迷彩服による閲兵」の翌日に携帯電話三社を視察することにより「今は閲兵じゃなくてネットをどう経済に活かすか、でしょ?」とのアピールを出したのは、政治家として相当にセンスのよいやり方だったと思っています。

 来週末頃までには「北戴河会議」が揉めることなく終了し、月内には中国共産党大会の日程が発表されて、「方向性はほぼ固まった」という空気が流れることを期待したいと思います。

P.S.

 8月8日、「内モンゴル自治区成立70周年記念式典」が行われました。党中央からは政治局常務委員の兪正声氏(序列7位)を代表とする代表団が参加しました。兪正声氏は内モンゴル自治区へ行っている間「北戴河会議」に参加していなかったわけですが、彼は既に72歳であり秋の共産党大会で政治局常務委員に再任される可能性はありません。なので、「内モンゴル自治区成立70周年記念式典」への兪正声氏の参加は特段の「ニュース」ではありませんでした。10年前の「内モンゴル自治区成立60周年記念式典」には当時の政治局常務委員の曽慶紅氏(江沢民元国家主席の側近)が参加しましたが、今から思えば、これは「曽慶紅氏は秋の党大会で政治局常務委員には再任されない予定」というメッセージだったのでした。

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2017年8月 5日 (土)

中国の景気循環と「中国共産党大会勝利開催バイアス」

 報道によれば、今(2017年8月5日現在)、中国共産党の現職幹部と引退した幹部が集まって議論する非公式な会議「北戴河会議」が開かれているようです。これから秋(開催日時は未公表)の共産党大会までの期間、中国から流れてくるニュースを聞き逃せない日々が続きそうです。

 以前から、中国の景気循環は、5年に一度開かれる中国共産党大会と非常に密接に関連している、と言われてきました。共産党大会の開催までは、地方政府の幹部が自分の業績をアピールしようとして積極的にインフラ投資等のプロジェクトを行うので景気が過熱し、共産党大会が終わるとそうした「公共事業の集中時期」が終わるので、景気は落ち込む、という考え方です。

 21世紀になってからの中国経済の景気の波は、2003年のSARSの流行、2008年の四川大地震、北京オリンピック、リーマン・ショック、2010年の上海万博など中国共産党の政治イベントとは関係のない案件にも影響を受けてきましたので、それほど単純ではありませんが、大まかに言って「共産党大会に向かって景気は過熱し、共産党大会が終わると景気は冷める」という傾向は確かにあったと私も思います。私のイメージでは、2000年代までは、中国経済全体が急速な高度経済成長期にあったので、共産党大会が終わった後の「景気の冷え込み」はそれほど目立たなかったが、2010年代に入って、中国の経済成長の伸びが落ち着く、いわゆる「新常態」の時代になると、二つの共産党大会の間の「谷間の時期」の経済の落ち込みが大きくなっている可能性があると感じています。

 2007年と2012年の党大会の間の時期は、アメリカ発のリーマン・ショックの影響が大きく、中国は四兆元の大型経済対策を打ちましたので、「党大会の間というタイミングによる景気の落ち込み」とリーマン・ショックの影響とを判別することは困難だと思います。一方、世界経済におけるリーマン・ショックの影響と中国の四兆元の大型経済対策の影響が一巡した2012年と2017年の党大会の間の時期においては、2015年頃から2016年前半に掛けて、中国の景気は実際にかなり落ち込んでいたようです。中国の貿易額の推移を見れば、それは明らかです。

 そのほか、2012年と2017年の「党大会の間の時期」については、2013年6月の「影の銀行」「理財商品」を巡る金融の不安定化、2015年夏の上海株のバブル崩壊と8月の「中国発世界同時株安」(いわゆる「チャイナ・ショック」)、2016年年初の上海株式市場の混乱(サーキット・ブレーカー制度の朝令暮改など)など、中国経済は今までにない「波乱」を経験しました。もちろん、アメリカ金融政策における量的緩和政策の終了、原油価格の下落など、中国にとっての外部要因も重なったことも影響していますが、これらの事象は、高度経済成長期が終わった現在の中国において、経済政策・金融政策の舵取りが相当に難しくなってきていることを象徴する出来事だったと言えるでしょう。

 私は、共産党大会と中国の景気循環との関係の原因については、党大会へ向けての地方政府幹部による「自己アピール・プロジェクトの拡大」の側面があるとともに、「党大会の直前の時期には労働者の大量リストラ等による大衆騒動を起こしてはならない」という認識に基づいて、金融機関が経営不振の大手企業に対しての貸し出し基準を実質的に緩くしている、という側面もあるのではないか、と考えています。地方で営業する国有銀行の幹部にとっては、銀行経営にプラスかマイナスか、といった銀行経営上の判断よりも、銀行が融資を認めなかった結果として地方の有力企業が倒産し、労働者がリストラされて社会不安が起きたりすると中国共産党中央から叱責を受けることになるので、その方がよっぽど恐いと思うだろう、と考えられるからです。特に習近平政権になってからは、地方政府や地方の銀行の幹部は、党中央からにらまれると「腐敗追放」の名の下に失脚させられるかもしれない、という恐怖感が植え付けられているのではないか、と想像されます。

 党大会直前の時期には、通常ならば倒産リスクが大きくて銀行が融資を断るような「ゾンビ企業」に対しても融資にOKを出してしまうような銀行の判断があるとすれば、それを私は「中国共産党大会勝利開催バイアス」と呼びたいと思います。このバイアスの存在により、共産党大会が開催される直前の期間(=中国共産党中央が社会の安定を特に求める期間)においては、中国人民銀行が考えるより、中国の金融市場は、実際はより緩和的になっている可能性があります。逆に、共産党大会が無事に終了すると「中国共産党大会勝利開催バイアス」は消滅し、銀行の貸し出し態度は党大会前と比較して引き締め的に変化する可能性があります。留意すべき点は、この「中国人民銀行が意図しない中国金融市場の『緩和』から『引き締め』への変化」が、中国全土で同時に一斉に発生する、ということです。

 中国人民銀行も「共産党大会前は景気は過熱気味で、共産党大会終了により景気は冷え込む方向に動く」ことは事前にわかっていることですから、それを踏まえて金融政策のコントロールをしてくると思います。ただ、そのコントロールのやり方は、高度経済成長が続いている間(概ね2012年の第18回党大会まで)に比べて、今は相当に難しくなってきていると思います。実際、2013年6月の「影の銀行」「理財商品」の問題表面化の時期、2015年8月の「チャイナ・ショック」、2016年1月の上海株式市場の変動の際には、中国の当局の対応は、ハタ目にもギクシャク(言い方を変えれば「ドタバタ」)感が否めないものでした。

 今年(2017年)の第19回中国共産党大会終了後の中国経済の変動の可能性については、私がこのブログで今日も含めて何回も書いているように、多くの人が事前に相当懸念を持っています。ということは、多くの関係者が事前に対応策を考えている、ということですので、ほとんど「不意打ち」のような感さえあったリーマン・ショックの時とは異なり、例え、党大会終了後、中国経済にブレーキが掛かっても、影響はマイルドなものになるのかもしれません(別の言い方をすれば、リーマン・ショックの時は、誰も「コケる」とは思っていなかったアメリカが「コケた」ので世界中が狼狽したが、中国の場合は世界中の多くの人が「中国はコケるかもしれない」と警戒しているので、仮に実際に「中国がコケた」としても、実際の影響はリーマン・ショックほどは大きくないかもしれない、ということです)。

 ここに来て、中国共産党大会が開かれる秋を前にして、秋以降の中国経済の動きを心配する人が多くなってきたと見えて、この一週間、私が見たテレビ番組や新聞では、以下のように中国における債務の問題等を取り上げた報道が目に付きました。

○2017年8月2日(水)放送:テレビ東京「Newsモーニング・サテライト」
プロの眼のコーナー「中国:社債市場に要注意」(BNPパリバ証券の中空麻奈氏)

※このコーナーで、中空氏は、中国のシャドーバンキングの資産運用市場が2012年の28兆元から2016年の116兆元に急拡大していること、中国の社債のうち銀行が保有しているのは25.4%で、60%はファンドの保有(最終的には個人保有などだと思われるが基本的に誰が保有しているかよくわからない部分)であることを指摘していました。

○2017年8月4日(金)放送:テレビ東京「Newsモーニング・サテライト」
プロの眼のコーナー「膨張する世界の債務 この先のリスクは?」(マネックス証券の大月奈那氏)

※このコーナーで、大月氏は、2016年の国・地域別で見ると、特に中国と香港の債務の膨張のスピードが「危険水準」とされる水準(GDPの成長のスピードと10%以上かい離している水準)を大きく超えていることを指摘していました。

○2017年8月2日(水)付け日本経済新聞朝刊26面「経済教室」の欄
「中国バブル不安の実相(上)」「過剰貯蓄 経済の矛盾拡大 消費主導の構造改革急務」(日本国際フォーラム上席研究員 坂本正弘氏)

○2017年8月3日(木)付け日本経済新聞朝刊26面「経済教室」の欄
「中国バブル不安の実相(下)」「『崩壊』懸念も影響は限定的 当局、危機見越し対策準備」(日本大学教授露口洋介氏)

 普通、このように事前に「かなり危ないんじゃないか」との懸念が表明され、各方面でそれに対する準備と対策がなされている場合、実際にはあまりひどいことにはならないことが多いのですが、中国の場合「これはバブルだ」「そのうちこのバブルははじけるぞ!」と警告がなされている中で、実際にバブルが膨張して、はじけた例は過去に多々ありました。2015年夏の上海株バブルがその典型例です。2015年夏の上海株バブルについては、私もこのブログでバブル崩壊前から何回も書いてきました(例えば、このブログの2015年5月3日付け記事「上海株バブル崩壊のタイミングとその影響」)。なので、「中国共産党大会の開催を切っ掛けにして中国の経済バブルが崩壊するのではないか」と事前に何回警告を書いておいたところで、それが実際のバブル崩壊を避けるための「おまじない」になるわけではありません。

 最近、アメリカ、イギリス、オーストラリア等の不動産価格上昇が「バブル気味なのではないか」と懸念されています。2015年の上海株バブルの時は「上海市場で株を売り買いしているのは基本的に中国の個人なので、仮に上海で株バブルが崩壊したとしても、それが世界に伝搬する可能性は限定的」と言われていました。それでも、上海株バブル崩壊は「心理的不安」という形で世界に伝搬し「中国発世界同時株安」を引き起こしました。今、中国の債務問題や不動産市場で「バブル崩壊」のようなことが起きれば、中国企業や中国の資産家による諸外国の不動産の売却という形で世界に伝搬することが予想されます。「中国の経済的変動が世界に与える影響は限定的」とは、私は言えないと思います。

 まずは、今行われている「北戴河会議」が平穏に終了し、秋の共産党大会が大きな政治的混乱なく終了することが大前提なのですが、そのように「中国共産党大会は平穏に終了した」という最も望むべき状況になったとしても、中国経済がその後どのように変動していくことになるのかは今年後半の最も重要な注目すべき事項です(2008年や2013年の例を見ると、「秋の共産党大会終了の反動」は、翌年の夏頃に掛けて目に見える影響を及ぼすことになる例が多いと思われます)。これからも中国経済に関するニュースや中国でビジネスを展開する諸外国の企業が発する情報を注意深く追い掛けていく必要があると思います。

P.S.

 その前に、「北戴河会議」が終わるまでの期間(テレビのニュースに習近平主席や李克強総理がいつもどおりに登場するようになるまでの期間)、中国で、テロ、化学工場の爆発、高速鉄道の事故などが起きないように祈りたいと思います。2015年8月12日に天津港で発生した化学物質の大爆発事故は、私も偶然に起きた事故だと思いますが、タイミングがたまたま「北戴河会議」の開催期間中であったため、一部に「この大爆発は、政治的背景のあるサボタージュ(人為的破壊行為)だったのではないか」との「疑念」を生んだのではないかと思います。その「疑念」が8月11日の人民元の切り下げや8月21日の「中国の製造業購買担当者指数(PMI)の予想以上の悪化」を切っ掛けとして始まった急激な「世界同時株安」(いわゆる「チャイナ・ショック」)の背景にあるのではないかと私は考えています。こういう「疑心暗鬼の疑念」を生まないためにも、私は「北戴河会議」はやめるか、そうでなければきちんとニュースで報道して「秘密裏にやっている会議で重大な事項を決める」というような状態を作らないことが、世界の大国たる中国の責任だと私は思います。

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2017年7月29日 (土)

今年「中国共産党大会前の経済の過熱」は許されるのか

 最近になって「現在の中国経済は『順調』という領域を超えて『過熱』しているのではないか」との見方が出ています。中国の今年(2017年)の経済成長目標は「6.5%前後」ですが、今年の第一四半期と第二四半期のGDP成長率は、ともに6.9%で目標を上回っています。中国政府が発表するGDPのデータは「信用できない」との見方も強いので、多くの人が外国との関係で「ゴマカシ」が難しい貿易統計や中国で実際にビジネスを展開している外国企業の決算発表における中国ビジネスの状況に注目しています。

 世界鉄鋼協会が発表したところによると、今年(2017年)1月~6月の中国の粗鋼生産高は対前年比4.6%増の4億1,975万トンで過去最高だった、とのことです(この時期の世界全体の粗鋼生産は対前年比4.5%増の8億3,603万トンなので、中国が粗鋼生産において世界全体の50.2%を占めたことになります)。この状況について、7月24日に記者会見した日本鉄鋼連盟の進藤孝生会長(新日鉄住金社長)は「中国経済がやや過熱している。ソフトランディングができるか関心を持って見ている」と語ったそうです(以上、2017年7月25日付け日本経済新聞朝刊3面記事「中国の粗鋼生産最高に 1~6月 鉄余りを市場警戒」による)。

 中国では去年(2016年)の全人代では、中国経済が高度成長経済期から「新常態」の時代に入っているとして、鉄鋼、石炭、セメント等の業界の過剰生産設備の削減が重要な課題として議論されました。その後確かに鉄スクラップを溶かして成形した品質の粗悪な「地条鋼」と呼ばれる鉄鋼の生産工場に対する取り締まりはかなり進んでいるようですが、全体として鉄鋼生産量が増え続けているのでは「過剰生産能力の解消」という去年の政策目標は達成されていないと批判されても仕方がないでしょう。まるで政府の政策に対して現場では「政府は『生産能力を削減せよ』と命じたけれども『生産量を削減せよ』とは言わなかったもんね」と舌を出しているように見えます。

 さらに今年(2017年)4~6月期の日本やアメリカの企業の中国におけるビジネスが極めて順調であることが各企業の決算報告で明らかになってきています。今朝(2017年7月29日(土)付け朝刊)の日本経済新聞7面には「中国復調、好決算の波 インフラ需要後押し 秋以降に失速懸念も」という記事が載っており、4~6月期、例えばコマツが中国事業で建機の売り上げが2倍になったことなどを紹介しています。7月28日(金)付け日経新聞17面の記事では、日立建機が2017年4~6月期の中国での売り上げ高が前年同期の2.2倍に上ったことを伝えています。また、7月26日(水)放送のテレビ東京「Newsモーニング・サテライト」では、アメリカの建機大手・キャタピラーが発表した4~6月期の決算でも中国の需要増加が牽引役だったことを伝えていました。

 習近平政権になってから中国は「新常態」を強調し、経済成長率はそれほど伸びない現状を中国の人々に納得させることに躍起になっていた感がありますが、ここに来てまるで「高度経済成長の再来」を思わせるような状況になっています。中国中央電視台の夜7時のニュース「新聞聯播」では、習近平政権の「功績」を強調する一環として、高速鉄道や巨大な橋などのインフラ投資が進んでいることを盛んに伝えています。中央電視台は、中国経済がインフラ投資によって強力に進んでいることをむしろ肯定的に伝えようとしているようです。

 実際、上記に書いたように建設機械系の日米の会社の売り上げが順調に伸びていることから、インフラ投資が中国経済を牽引しているのは事実だと思います。ただ、強力に進められるインフラ・プロジェクトの資金は地方債の発行にしろ銀行借入にしろ「借金」でまかなわれているのでしょうから、結局のところ「中国共産党大会の勝利開催」のお題目の下、「『新常態』の成長率」「鉄鋼等の生産能力の調整」「むやみな債務拡大の抑制」といった政府の目標は、政府自らが消し飛ばしてしまっているように見えます。

 こうした経済の過熱は、十年前の党大会の直前にもありました。ちょうどほぼ10年前の2007年7月22日にこのブログに書いた記事「中国の経済成長はまだ過熱状態」を読み返すと、2007年における目標成長率は8%であったのに対し、2007年第一四半期は11.5%、第二四半期は11.9%の「過熱状態」であったことがわかります。「党大会を前にして中国経済が『過熱』するのはいつものこと」と見ることもできますが、2007年の時は中国はまだ高度経済成長のまっただ中におり、2008年の北京オリンピック、2010年の上海万博を前にして全速力で走っていた時期なので「過熱」も大目に見ることができたと思いますが、本来もっと「落ち着いた経済」であるべき2017年も「過熱」しているのはよくないと思います。特に10年前、2007年の党大会前には、まだ「理財商品」「影の銀行」の問題は起きていませんでしたし、地方政府の「融資平台」もありませんでしたし、リーマン・ショック後の「4兆元の経済対策」で膨れあがった過大な生産設備もありませんでした。

 上に紹介した日本鉄鋼連盟の進藤孝生会長のコメントも今日(7月29日)付け日経新聞の記事の見出しも「中国共産党が開かれる秋以降の不安」に言及しています。

 それに加えて、実は私が一番気にしているのは、今の中国政府に「現在の経済の過熱状況を適切に抑制するつもりがあるのか」という懸念です。2007年~2008年の時期に私は北京に駐在していましたが、当時の中国政府は、明らかに2007年10月の党大会前に過熱した経済が特に北京オリンピック終了後に急速にしぼむことをかなり警戒していました。党大会前からマンション・バブルの抑制のための様々な施策を講じていました。一方で、2007年の党大会が終わり、上海株がピークを付け、不動産価格が下がり始めた時には、株を買い支えたり、マンション価格下落対策を打ったりすることはあえてしませんでした。私はその時この当時の中国政府の政策については「北京オリンピック終了後にバブルが大きくはじけることを避けるために、北京オリンピック前にはあえて『プチ・バブル』は潰しておこうとしているのだ」と感じました。

 この頃(2008年前半頃)の「プチ・バブル潰し政策」に対しては、中国国内からはかなり不満があったようです。当時、私の耳には、金融政策の中心人物である周小川中国人民銀行総裁の「更迭説」が入って来たのですが、実際は周小川氏は更迭されず、中国政府の政策はぶれませんでした(北京オリンピック終了直後、アメリカ発のリーマン・ショックによって中国の「プチ・バブル潰し政策」は「大型経済対策路線」に大逆転していくことになりますが、これは外的原因によるものであり、中国政府の責任ではありません)。

 それに対し、現在の習近平政権は、4月に新都市計画「雄安新区」の構想をぶち上げるなど、「バブルは小さなうちに潰す」どころか「バブルはもっと大きなバブルで解決する」という方向に向いているように見えます。国内外から信頼の厚い周小川中国人民銀行総裁についても、年齢を理由に来年(2018年)3月の全人代で退任、という観測も出ているようです(2017年7月7日(金)放送のテレビ東京「Newsモーニング・サテライト」内の「チャイナNowCast」のコーナーでのSMBC日興証券の平山広太氏の解説)。

 それと、今、中国には「人民元の先安感」があります。これも2007年と2017年の大きな違いです。

 重複しますが、まとめると以下の4点により、今年(2017年)の「中国共産党前の経済過熱」は2007年の時と比べて非常に危険である、と私は考えています。

○2007年の中国は「高度経済成長期」にあり、ある程度の「経済の過熱」は許された(「過熱」の反動による少々の下ブレがあっても経済成長のプラスは維持できた)が、2017年には中国は既に「新常態」期にあり、「過熱の反動の経済下押し」があると成長がマイナスになる危険性があり、そうなった場合には社会不安が引き起こされるおそれがある。

○2007年には「理財商品」「影の銀行」「地方政府の借金」は既に存在していたかもしれないが規模はそれほど大きくなく問題とはなっていなかったのに対し、2017年には「大きな債務の存在」は多くの人の懸念材料となっている。少なくとも2007年時点で中国政府は「金融リスク」についての懸念を公言していなかったが、2017年時点では中国政府自身が「金融リスク」の存在を認識しており、「金融システム・リスクを顕在化させないこと」が重要な政策課題であることを公言している(それほど2017年の「金融リスク」は2007年に比べて実際に大きいのだと考えられる)。

○現在の習近平政権には「少々苦しい場面があったとしてもバブルは小さいうちに潰しておくべきだ」という姿勢が見られない。(むしろ政府とは独立して金融政策を実行できる(と多くの人から信頼されいている)周小川中国人民銀行総裁に退任の観測がある。官僚機構を率いて経済政策をリードしてきた李克強総理にも国務院総理退任(全人代常務委員長就任?)の可能性すらある)。

○2007年の時点では2008年の北京オリンピック、2010年の上海万博等のビック・イベントを見据えて、将来の中国の経済成長を見込んだ資金の流入圧力(=人民元の先高感)があったが、2017年の時点では中国の経済成長の鈍化を見込んだ資金の流出圧力(=人民元の先安感)がある。このため、2017年の時点では、中国経済の先行き不安が起こると、急速な資金の国外流出を呼び、中国経済の下押し圧力がさらに強化される可能性がある。

 こうした問題点は、中国政府自身がわかっていると思います。なので本来は、今年は「中国共産党大会前の経済の過熱」はできるだけ小さく抑制したかったのだろうと思います。しかし実際には「党大会前の経済の過熱」は抑制できませんでした(政府発表は6.9%の成長ですが、これは「6.5%前後」という年間目標から見た「想定の範囲内」と見せるための「作られた数字」である可能性があり、実際はこの数字より過熱している可能性があります(中国でビジネスを展開している日米の企業の決算を見て私はそう感じました)。

 これから中国共産党大会での人事の「根回し」を行う「北戴河会議」が行われ、まだ開催時期は未公表ですが秋頃には中国共産党大会が開かれます。ちょうどこの頃、アメリカとヨーロッパの金融当局の政策転換もありそうです。少なくとも2007年~2008年の頃と比較して、2017年~2018年の中国経済と世界経済はより緊張感を持って見ていく必要性があると私は感じています。(と私が書いているように、今、世界の多くの関係者が2008年秋に起きたリーマン・ショックのことを思い返して、相当に慎重に身構えていることが唯一の救いでしょう。2007年~2008年の頃はほとんどの人は「無防備」で、そのためにリーマン・ショックで大きな痛手を負いましたから、その頃と今とではだいぶ違うと思います。ただ、日本時間今日(2017年7月29日)未明、北朝鮮が2回目のICBMの発射実験をやったのにも係わらず史上最高値を更新したニューヨーク・ダウに見られるように、今、世界の中に「慎重に身構えている」とは思えない部分もあることはちょっと心配です)。

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2017年7月22日 (土)

全国金融工作会議と中国の金融を巡る現在の状況

 先週(2017年7月14~15日)、習近平国家主席が出席して全国金融工作会議が開かれました。全国金融工作会議は、1997年から5年に一度、中国共産党大会を前にして開催されています。報道によると、昨年秋にも開かれる予定だった、という話もあるようですが、今回は党大会にかなり接近した時点で開かれました(前回の2012年の全国金融工作会議は1月に開かれている)。

 この会議で、前々から問題になっていた政府の金融関係の規制組織(証券、銀行、保険を監督する委員会がそれぞれ存在する)の縦割り問題を解決するため、国務院に金融安定発展委員会(中国語では「金融穏定発展委員会」)を設置することが決まりました。私は、現在ある証券、銀行、保険を監督する3つの委員会を廃止して「金融安定発展委員会」を新たに作るのかと思ったのですが、どうも従来の証券、銀行、保険の監督委員会はそのままにして、それらを調整する委員会を上に作る、という話のようです。「屋上屋」のような組織を作って、それでうまく機能するのかなぁ、と心配になります。

 それはともかく、この会議で、習近平主席は、以下のように発言し、地方政府の債務問題に対処する決意を示しました。

○金融は国家の重要な核心的競争力であり、金融安全は国家安全の重要な構成部分である。

○システミック金融リスクの発生を防止することは、金融行政の永遠のテーマである。

○国有企業のレバレッジ率の低下は重要な課題の中でも重要なものであり、「ゾンビ企業」の処理をうまく進めなければならない。

○各レベルの地方の党委員会と地方政府は、「政治上の成績」に対する正しい見方を確立し、地方政府債務が増えることを抑制しなければならない。地方政府幹部は(任期が終わったら終わりではなく)終身にわたって業務を調査され責任を問われる。

 これらの発言は、地方の党幹部と地方政府幹部が自らの「政治上の成績」(中国語では「政績」)を上げるために、リスクを顧みず、借金をしてプロジェクトを行うとともに、失業者を出すことを恐れて赤字を垂れ流す「ゾンビ企業」を借金をして生き長らえさせていることが、地方政府の債務を拡大している、という問題点を習近平主席自らちゃんと認識していることを意味しています。

 昨年末(2016年12月)の「中央経済工作会議」の主要議題の一つは「不動産バブルのリスクの防止」でした(このブログの2016年12月18日付け記事「中国不動産バブルに関する中央経済工作会議の議論」参照)。また、今年の全人代の主要なテーマの一つも「金融リスクの防止」でした(このブログの2017年2月11日付け記事「『金融リスクの防止』は2017年の中国のキーワード」参照)。中国共産党中央も金融安全を重視して対応を議論してきました(このブログの2017年4月29日付け記事「中国共産党政治局で金融安全について議論」参照)。

 しかしながら、現実問題として、スピードは鈍ったとは言え、マンション建設への投資は続いており、高速鉄道や地下鉄等のインフラ投資は高度なレベルを維持しています。全人代で議論された今年(2017年)の経済成長率の目標は「6.5%前後」でしたが、2017年第一四半期と第二四半期の経済成長率はともに6.9%でした。たぶんこれは、中国政府が年初に想定していたものより「スピードが出すぎている」のだと思います。おそらく中国政府の現在の状況は「問題の所在は認識しているが、必ずしもその問題にうまく対処できていない(適切な程度にブレーキを掛けることができていない)」といったところだと思います。

 先々週(2017年7月8日)このブログで「またぞろ『中国の理財商品は大丈夫なのか』という話」という記事を書きました。その中に出てくる「人民日報」ホームページの「財経」のページの中にある「人民信金融」のページにある理財商品のリストのうち「定期」というジャンルのものは、先々週、このブログを書いた時に募集されていたものが売り切れた後は、新しい理財商品は掲載されていません。私みたいな者が「党の機関紙たる人民日報という権威ある公的機関のホームページ内に『理財商品』を宣伝・販売するサイトがあっていいのかなぁ」と思うくらいですから、中国内部でも問題になっているのかもしれません。もしかすると、中国共産党中央は、直属の「人民日報」の内部すら適切にブレーキを掛けることができていないのかもしれません。

 また、私は、最近、中国の巨大企業を巡る動きになんだかよくわからないものが出てきているのが気になっています。一つが、「敵対的買収」の騒動を起こされた不動産最大手・万科集団の件です(「週刊東洋経済」最新号(2017年7月29日号)の中国動態「万科の王石薫事長去る 勝者なき買収戦の結末」参照)。もう一つは、中国当局から銀行に信用リスクを調べるよう指示が出されたため借入金返済のためホテルとテーマパークの大半を売却すると発表した大連万達集団(ワンダ・グループ)の件です(2017年7月21日(金)放送・テレビ東京「Newsモーニング・サテライト」の「中国NowCast」のコーナーなどで報道された)。

 これらの動きは、中国当局が巨大企業が行うリスクの高い買収等に対して監督を強化していることを示しているのであり、政府としての健全な対応だ、と見ることもできるでしょうし、今回の一連の当局の動きにより、今まで自由奔放に活動してきた不動産関連企業(及びそこに融資してきた銀行群)が慎重になって、不動産市況に変化が出る切っ掛けになるかもしれない、と見ることもできるのかもしれません。私は新聞やテレビ、雑誌で見る報道以上のことは知りませんが、上に書いた企業は、いずれも北京駐在時に見掛けた大きなビル上に看板が掲げられているような私でも知っている有名な大きな会社なので、今、中国で何かが変わりつつあるのかなぁ、と感じてしまうのでした。

 それと、昨日(2017年7月21日)、ネット上のニュースで「中国人民銀行が7月17~21日の週、定例の公開市場操作(オペ)を通じて5,100億元の資金を市場に供給したが、この規模は1月16~20日の週以来の大きさだった」というのが流れたのも私はちょっと気になっています。1月16~20日は春節直前の時期で、この時期、各企業は従業員に「春節手当(日本の年末ボーナスに相当)を支払わなければならないし、春節前に売掛金の回収をしようと思う企業も多いと思うので、この時期に中国人民銀行が市場に供給する資金の額が膨れあがるのは不自然ではありません。でも、今の時期(7月後半)は、なんで市場への資金供給を大きくする必要があるのかなぁ、というのが私の疑問です。もしかすると、8月上旬の「北戴河会議」、その後の中国共産党大会開催日程の公表、そして秋の中国共産党大会開催へ向けて、各企業が行っているプロジェクトの進捗や従業員への給与の支払いが滞らないように、という政治的な意図の下で中央銀行による市場への資金供給が増やされているのかなぁ、などと勘ぐったりしています。

 いずれにせよ、経済の動きが、経済の自然な流れではなく「秋の中国共産党大会が終わるまで、経済に変調を来してはならない」という政治的意図によってコントロールされているのだとしたら、よくないと思います。

 また、もし仮に中国の人々の多くが「今のマンション建設投資やインフラ建設投資は中国共産党大会前後がピークで、その後は減少する可能性がある」と思っているのだとすると、この秋(中国共産党大会の開催時期)の前に償還期限が来る「理財商品」なら買いたいと思うが、償還期限がこの秋の向こう側(年末ないし来年初以降)になっている「理財商品」は買うのはやめておこう、と思うのではないか、ということが私は気になっています。今、もし仮に、過去の理財商品の利子支払いが新規で理財商品を買う人が払い込む資金でまかなわれるいわゆる「自転車操業」状態になっているのだとしたら、こうした人々の「理財商品」購入の行動パターンは「自転車操業状態」を破綻させてしまうおそれがあるのではないか、と思うからです(中国人民銀行による資金供給の増大が「理財商品の償還請求に対処するため」という理由ではないと信じたいところです。もしそれが理由ならば「バブルの崩壊」が始まっていることを意味しますから)。

 今年も「北戴河会議」(通常、8月第一週に開催)の時期になりましたが、これから実際に中国共産党大会が開催され、終了していく過程で、中国経済がどういうパフォーマンスを示していくのか、かなり注意深く見ていく必要があると思います。

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2017年7月15日 (土)

劉暁波氏死去を機に中国情報発信の「自主規制」を考える

 一昨日(2017年7月13日)、2010年にノーベル平和賞を受賞した中国の劉暁波氏が死去しました。劉暁波氏は、1989年の「六四天安門事件」の運動に参加したほか、2008年には「零八憲章」を中心となって発表しました。私は「零八憲章」がネット上で発表された2008年12月9日には、たまたまこの頃駐在していた北京を離れて日本に一時帰国していました(2008年12月11日には北京に戻りました)。そのため、「零八憲章」が発表された時のネット上での状況を日本からと北京からと両方から見ることができました。この数日間、中国人民は「零八憲章」を次々と極めて多くのサイトに転載しましたが、中国当局はそれを執拗に削除し続けました。最終的には中国当局の削除が勝って、中国国内からは「零八憲章」を見ることはできなくなりました。

 この間、中国の検索エンジンでは「零八憲章」と入力すると「関係法令に基づき検索結果は表示できません」と表示され、容易にネット上で「零八憲章」のありかを探すことはできませんでしたが、例えば「零八県長」(中国語で「県長」と「憲章」は同じ発音)などと「同音異義語」で検索すると探し当てることができる時期がありました。

 私は発表当日は日本にいた、という幸運もあって、この時期「零八憲章」の原文をネットで見ることができましたので、自分のパソコンにコピーすることができました(コピー元のサイトを翌日訪れると既に削除されていました)。そういった事情を基にして、このブログ内で下記の記事を書きました(左の「バックナンバーの目次」をクリックして、当時の日付を探せば、今でも読むことができます)。

○2008年12月14日付け記事「2008年12月前半のできごと」

 この記事の中で私は「零八憲章」のことを「例の文書」と書いた上で、下記のような説明書きを加えました。

「『例の文書』の正式名称は『零戦』『八方』『憲男』『章節』の前の文字を組み合わせたもの(四文字)です。」

 なぜこういう書き方をしたかというと、この記事は北京からアップしたのですが、「零八憲章」と明記すると、中国当局による「キーワード・スクリーニング」でブログへのアップができない、またはアップできたとしてもブログが閲覧できなくなる、といった事態になるおそれがあったからです。上に書いた「憲章」を「県長」と表現するやり方も「キーワード・スクリーニング」をかわす技法の一つですが、こういった「技法」は、中国の人はよく知っています。

 この日のタイトルを「最近の中国における民主化へ向けた動き」とはせずに「2008年12月前半のできごと」としたのも、わざと「なんだかわらかないタイトル」にしておいた方が目立たないので、アクセス制限されることもないだろうと考えたからでした。

 中国のネット上のアクセス制限は、日によって、状況によって刻々変化します。上の記事でも書いたのですが、「零八憲章」がネット上に流されるようになって、それまで中国国内からもアクセス可能だったBBCの中国語サイトは閲覧できなくなりました。

 私は、「零八憲章」が発表されてから8か月後の、2009年7月に日本に帰国しましたが、それまでの間、「零八憲章」の中国語の本文は持ってはいましたが、その日本語訳をこのブログにアップしようとは思いませんでした。なぜなら、私はZビザ(駐在員ビザ)をもらって北京に駐在していましたので、あからさまに中国当局に刃向かうような「零八憲章」の日本語訳のアップをすると、ヘタをするとZビザの失効命令を食らい、結果的に職場に迷惑を掛けることになると思ったからです。

 中国では、今回の劉暁波氏の死去に関するニュースでも報道されているように、中国当局に都合の悪い外国のテレビ放送(例えばNHK国際放送)に対しては「検閲ブラックアウト」(当該ニュースに関連する部分のみテレビの信号を遮断する)が行われます。たまに中国に出張に来る人がこの「NHKに対する『検閲ブラックアウト』」を見ると、相当ショックを受けるようですが、このテレビの「検閲ブラックアウト」は、中国に駐在している駐在員に対しても、やはり「中国当局は恐いところだ」という印象を与えるのに十分です。

 日本人と言えども、中国国内にいる限り、日本政府は中国政府を無視して助けに来てはくれません。日本のパスポートの裏表紙に「日本国民である本旅券の所持人を通路故障なく旅行させ、かつ、同人に必要な保護扶助を与えられるよう、関係の諸官に要請する。」と書いてあるように、日本人であっても中国国内にいる限り、保護する責任は中国政府にあります(日本政府は中国政府に「保護を要請」することができるだけ)。中国国内にいる以上、例え日本人であっても、中国政府の意向に反する行動に出れば、その人は中国政府から保護を受けることはできなくなってしまうのです。

 といった事情があるので、中国と関係する仕事をしている人は、例え、日本にいる時であっても、中国政府にあからさまに逆らうような言動はできません。ビジネス機会を失うかもしれないし、最悪の場合は、次回仕事で中国に行ったときに入国拒否されるかもしれないからです。

 なので、私は「零八憲章」の日本語訳は、日本に帰国した後、劉暁波氏がノーベル平和賞を受賞した機会である2010年10月16日にこのブログにアップしました(このブログの2010年10月16日付け記事「『08憲章(零八憲章)』全文の日本語訳」参照)。

 今、グーグルやヤフーで「08憲章」(または「零八憲章」)「日本語訳」と入力して検索しても、このブログの2010年10月16日付けでアップした文章をはじめとする個人がアップしたと思われる日本語訳が数件出てくるだけです。このブログの訳は常にトップかその次の位置でリストアップされます。私は日頃から、「零八憲章」は世界的にも有名なのに、なんで日本語訳の載っているサイトがこんなに少ないのかなぁ、と感じているのですが、たぶん、報道機関や中国研究者は、中国当局から「嫌がらせ」を受けるのがイヤなので、「零八憲章」全文の日本語訳の掲載といったあからさまに中国当局の意向に逆らうようなことはできないのでしょう。そういった中国当局のやり方はケシカラン、と思っていたとしても、例えば中国への駐在員ビザを出さない、(報道機関なら)記者会見の場に入れない、(研究者なら)シンポジウムなどに参加させない、といった「嫌がらせ」を受けたら、報道や研究といった「本来業務」ができないからです。なので、報道機関や研究者は、「自らの考え方は絶対に曲げない」という信念は持ちながら、中国当局による「嫌がらせ」によって自分の本来業務に支障が出ないように、常にギリギリの判断をしながら中国に関する情報発信をしているのだと思います。

 そういった報道機関や中国研究者の行動を「中国当局の意向を忖度するとはケシカラン」と批判することは容易ですが、中国の実情を正確に伝えようとしている報道機関や中国研究者が中国当局からの「締め付け」とそれをかいくぐってなんとか自らの主張を情報発信しようとする努力を日々必死に続けていることを、報道機関や中国研究者の中国情報に関するレポートを読む際、常に認識しておく必要があると思います。

 私は今、日本に帰国しており、中国と関係した仕事もしていませんので、フリーな立場でものが言えるので、今回、劉暁波氏の死去に関連して様々な報道がなされている中で、中国関連情報を発信する側が「やむを得ない自主規制」をやらざるを得ない状況があるのだ、ということを多くの人に知ってもらいたくて、今日の記事を書かせていただきました。こういった情報発信における「自主規制」がある、という実情を考えると、残念ながら中国当局が行っている「検閲」も一定の効果を発揮している、と言わざるを得ないと思います。

(注)私は今「フリーな立場」ではありますが、中国と今も仕事をしている後輩たちや一緒に仕事をしてきた人たち(日本人も中国人も)に迷惑を掛けてはならない、という観点から、例えば誰かに聞いた話であっても、誰から聞いたのかはわからないようにする、といった「自主規制」は私も今でもやっていることは御承知おきくださいませ。

 なお、そもそも中国の報道機関は、当局の意向に反する報道をすると「編集長の更迭」などがあるので、日常的に強力な「自主規制」をやっているのですが、そうした中で常に「認められる報道のギリギリの線」を追いかけながら報道をしているところもある点は改めて認識すべきだと思います。劉暁波氏のノーベル平和賞受賞の際、劉暁波氏が授賞式に出席できなかったことについて、「空の椅子」と「鶴」が写った写真を一面トップに掲載した「南方都市報」の件をここで改めて書いておきたいと思います。詳しくは、このブログの2010年12月19日付け記事「『南方都市報』の『空椅子』と『鶴』の写真」を御覧ください。劉暁波氏の名前は、中国当局の報道規制により、実際、中国の人々の間でも知らない人は多いとは思いますが、例えテレビのインタビューで聞かれて「私は知らない」と答えた人であっても、実際は知っている人はたぶん意外に多いのだ、ということは忘れてはならないと思います。

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2017年7月 8日 (土)

またぞろ「中国の理財商品は大丈夫なのか」という話

 私は中国国内で販売されている「人民日報」の記事を読むために、毎日「人民日報」のホームページを見ています。「人民日報」を購読していなくても記事を読むことができるので便利なのですが、それと併せて「紙版」の人民日報をPDFで見られるページがあり、見出しや写真の位置や大きさもわかるので重宝しています。「人民日報」のホームページには、このほかにもいろいろな記事が掲載されています。

 他の国の様々なホームページと同様に、「人民日報」のホームページもしょちゅう「模様替え」をします。以前は、「人民日報」のホームページのトップから「理財」というページを開けるようになっていました。「理財」は、中国語で「資産運用」といった意味の言葉ですが、ここのページを開くと、上海株式市場の総合指数のリアルタイムのグラフが見られたり、金融関係の記事、マンション販売動向に関する記事などが見られたのでした。

 しかし、2015年に上海株式市場で「株バブル」がはじけたあたりから、上海総合指数のリアルタイム表示のグラフが見られなくなり、そのうち「理財ページ」自体がなくなりました。その後、「人民日報」ホームページのトップからは「財経」という名称のページに入れるようになり、そこに金融関係、不動産市況関係の記事が載るようになりました(上海総合指数のリアルタイム・グラフは復活しませんでしたが)。私は、2013年6月頃、中国の「理財商品」や「影の銀行」の問題がクローズアップされたこともあり、「理財」という単語のイメージがあまりよくない、との判断で「財経」というページ名に変えたのかなぁ、と思っていました。

 ところが最近、「人民日報」ホームページ・トップから入れる「財経」ページのトップに「理財」というページに入れる入口ができました。私はてっきり以前あった「理財」のページと同じように金融とか経済関係の記事をまとめたサイトかなぁ、と思っていたのですが、実際に入ってみると「理財商品」の宣伝サイトのような場所でした。このページに入ると、理財商品のリストが載っています。例えば、「○○○の××号:予定金利年率6.80% 期限:258日 最低募集価格10,000元 24.48%販売済み」などと書かれたすぐ右に「今すぐ購入する」というボタンが付いていたりします。

 私は「これって、経済ニュースのサイトじゃなくて、単なる『理財商品』の宣伝サイトじゃない」と思っていたのですが、今日(2017年7月8日)アクセスしてみたら、この「理財」サイトは、「人民信金融」というサイト名に変更になっていました。「人民日報」ホームページ内の「理財」サイトという名称では、以前あった記事を集めたサイトと誤解されるので、「記事を掲載するサイトではなく理財商品を紹介するサイトですよ」とわかるように名称変更をしたのかもしれません。

 それでもやはり私には「中国共産党の機関紙である『人民日報』のホームページ内に『理財商品』の宣伝サイトがあって、そこに『理財商品』のリストがあって『今すぐ購入する』というクリック・ボタンが付いたりしていていいのかなぁ」と思えます。

 この「人民信金融」のページのトップに「このページについて」というボタンがあったので見てみたら、「このページは『人民信金融資産平台』のサイトであり、人民日報社が主宰し、人民網(人民日報ホームページ)と中信資産管理有限公司の傘下にある中信恒達支付有限公司とが共同で運営管理しているものです」との説明がありました。私の感覚からしたら、人民日報社がこういう「商売」をやってもいいのかなぁ、という感じもするのですが、中国の公的機関では「予算が足りない分は自分で稼げ」とよく言われるようなので、こういうのも「あり」なのかもしれません。

 「理財商品」は、元本が保証されていないリスクのある金融商品ですが、人民日報ホームページのトップページから2クリックで入れて、しかも「ここは人民日報社が主宰している『人民信金融資産平台』のサイトです」と言われたら、中国人民は「そらなら安心だ」と思って「理財商品」を買うのではないかなぁ、と私は非常に心配になります。

 2013年6月頃に「理財商品」の問題がクローズアップされた頃にも散々言われたのですが、この「理財商品」って「期間が短すぎ」「利率が高すぎ」な印象を強く受けます。今日見たサイトには、上に書いた「期間258日、予定金利年率6.80%」のほかに「期間180日、予定金利年率6.50%」「期間90日、予定金利年率6.00%」というのもありました。実質GDP成長率6.5%前後、消費者物価指数上昇率が1.5%程度の現在の中国において、どういうところに投資するとこれだけ短期間でこれだけ高い利率が得られるのでしょうか。

 私は「理財商品」を買う気はさらさらないので、上記のページのさらに奥に入って「運用方針」とか「目論見書」とかいったものを見たわけではないので、この「理財商品」のリスクについて判断する材料は持ち合わせていません。

 ただ、2013年7月に放送されていた日経CNBCの番組で紹介されていた「理財商品」の例では、運用方針として「(1)高流動性資産0~80%、(2)債権類資産0~80%、(3)その他資産・資産ポートフォリオ0~80%」としか書かれていませんでした。それを聞いて日経CNBCコメンテーターの岡村友哉氏が「衝撃的なざっくり感ですね」と言っていたのが印象に残っています。

 「理財商品」で集められた資金が最終的に何に投資されているのかは、実際はよくはわからないようですが、仮に、例えば最終的にマンション建設等に使われているのだとしたら、投資資金が回収されるまでには数年単位以上の長い期間が掛かることから、通常の感覚から言ったら短期間の理財商品でその資金を賄うのは適切ではありません。また、鉄道、地下鉄などのインフラ投資に使われているのだとしたら、資金回収に時間が掛かる上に、黒字経営になって投資資金がきちんと回収できるかどうかすらわからないことになります(前にも書きましたが、例えば、高速鉄道網は、北京-上海線以外は、今のところ赤字のようです)。ということは、期間が1年以内の「理財商品」の利息は新しく理財商品を買った人からもらった資金で払い戻されている可能性があります。これって、「普通の国」なら「出資法違反」になるような行為なのではないでしょうか。

 このブログで2013年7月頃にも書いたのですが、中国の経済学者ですら、「理財商品」の問題点を認識していました(参考:このブログの2013年7月10日付け記事「中国金融改革:『人民日報』に『正論』」)。しかしながら、こういった中国国内での問題意識にも係わらず、問題はあまり改善していないようです。それどころか、ここへ来て「人民日報」ホームページ内に「理財商品」を宣伝販売するようなサイトができたことは、中国当局が少なくとも今年秋の中国共産党大会の前に「理財商品」の問題が顕在化しないように、中国人民に新規の「理財商品」の購入を勧めるような動きをしていることを示しているのではないか、と私は疑っています。

 今日、私が2013年6月頃に話題に上った中国の「理財商品」を再び取り上げた理由は、上に書いたように「人民日報」ホームページ内に「理財商品」を扱うサイトを見つけたことと合わせて、今、これから、2013年6月頃に起きたことと同じようなことが起こる可能性があるからです。

 2013年5月22日、アメリカFRBのバーナンキ議長(当時)は、議会証言で当時行っていた量的緩和第三弾の規模を縮小させること(いわゆる「テーパリング」)の可能性を示唆する発言を行いました。当時「アベノミクス」により急ピッチで上昇を続けていた日本の日経平均株価は翌5月23日大暴落を起こしました。アメリカ国債の金利は上昇し、新興国からアメリカへの資金の回帰が起こって、世界の金融市場は混乱しました。そうした状況の中で、中国においては「理財商品」「影の銀行」のリスクがクローズアップされたのでした。この時の世界の金融市場の動揺は「バーナンキ・ショック」とか「テーパー・タントラム」とか呼ばれました(「タントラム」とは「かんしゃくを起こす」の「かんしゃく」)。

 今、先月(2017年6月14日)、アメリカFRBは四回目の利上げを決めるとともに「量的緩和」で積み上がった資産の縮小方針を示しました(縮小開始時期は未定)。また6月27日のECB(ヨーロッパ中央銀行)ドラギ総裁の発言が「量的緩和の縮小を示唆した」と受け取られ、イギリスやカナダの中央銀行からも利上げの可能性についての発言があったことから、各国の国債の金利が急上昇しました。つられて日本国債の金利も急上昇したことから、金利を低く抑えたい日本銀行は昨日(2017年7月7日(金))、日本国債買い入れの「指し値オペ」を実施し同時に国債購入増額を発表しました。これらの動きを見ると、今、世界の金融市場では、新たな「タントラム」の現象が起きつつある可能性があります(ここ数週間起きている株式市場の上げ下げの繰り返し、または同じ国の株式市場内での主要株と新興株の逆行現象について、要注意の現象だ、と指摘する人もいます)。

 私が心配しているのは、中国が「今年秋の中国共産党大会終了までは経済を混乱させられない」という事情の下、世界の金融市場で「タントラム現象」が起きた際に柔軟な対応をとることができずに「ちからずく」の対応を採るのではないか、そのことがよくない結果をもたらすことはないか、という点です。そうした中、「人民日報」ホームページ内に、中国人民に対して、「理財商品をもっと買いましょう」と宣伝するようなサイトがあることは、ちょっとマズイではないか、とも思っています。後で「理財商品」に何らかの問題が生じた時に、中国人民の怒りが「人民日報」に向かい、そして結果的には中国共産党に向かう可能性があるからです。

 2015年の「上海株バブル」の時は、中国当局は恥も外聞もなく「ちからずく」で「株価対策」を実施しました。それでなんとかなったのだから、例えば理財商品で何か問題が起きて、中国当局が「ちからずくで」それに対応しても、結局は何とかなるのではないか、と楽観的に考える人もいるようです。私はそれほど楽観的にはなれませんが、「結局なんとかなる」結果になって欲しいと思います。

 なお、中国当局の対応を「ちからずく」と批判するのはよいとして、日本銀行の「指し値オペ」も「ちからずく」なのではないか、との批判があることも申し添えておきます。ただ、私は、個人的には、中国当局の「ちからずく」の中には、例えば「悪意ある株の空売りは犯罪と見なす」と言って犯罪取り締まり部署が出てくる部分もあるので、中国の「ちからずく」のレベルは日本銀行の「ちからずく」のレベルとでは全く次元が異なるものである、と考えております。

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2017年7月 1日 (土)

香港の「一国二制度」の歴史的意味

 今日(2017年7月1日)、香港はイギリスの植民地から中華人民共和国の一部として返還されてから20年目の節目の日を迎えました。北京から習近平主席が香港入りして、記念式典等が行われました。習近平主席は演説で香港における「一国二制度」を維持する考えを改めて示しました。

 香港における「一国二制度」(香港は中華人民共和国の一部ではあるけれども、高度な自治を認め、資本主義制度と集会、出版の自由等を認める)は、イギリスとの中英共同声明で合意したものですので、北京政府が中英共同声明でうたわれている2047年までは「一国二制度」を維持する考えであることは間違いないと思います。問題は、2047年以降も「一国二制度」が維持されるかどうか、ですが、私は現時点では、「2047年以降は香港での『一国二制度』は維持されないだろう」と考えています。その理由は以下のとおりです。

○中国経済にとっての香港の経済的重要性の低下

 1978年末に「改革開放政策」を始めて外国との経済活動をスタートさせた中国は、当初は外国企業(及び台湾の企業)とのパイプがほとんどなかったことから、中国大陸部の経済発展において、香港が果たした「仲介役」としての役割は非常に大きいものがありました。しかし、中国がGDP世界第二位の経済大国となった今日、中国の企業が直接外国企業と関係を持つことは既に一般的なことになっているし、台湾の企業の大陸での活躍も「ごく普通のこと」になっています。そうした現状において、香港の外の世界との「仲介役」としての役割の重要性は、ゼロにはなってはいませんが、香港返還が決まった1980年代に比べると相当に低下していると思われます。

○アジア経済におけるイギリスの遺産としての香港の地位低下

 (これは中国の問題ではなく元宗主国のイギリス側の問題なのですが)2016年のイギリスのEU離脱決定により、おそらくはロンドンのヨーロッパ経済の中心としての地位は低下するでしょう。香港はシンガポールとともに、大英帝国の植民地だった頃に築かれた「アジア経済におけるイギリス企業(特に金融業)の拠点」として大きな役割を継承して現在でもアジア経済において大きな役割を果たしていますが、今後、世界経済の中において果たすイギリス企業(特に金融業)の地位が低下するのであれば、香港がアジア経済において果たす役割も小さくなっていく可能性があります。

○香港における「一国二制度」が将来の台湾と大陸との統一に役立つ見通しが現時点では全く立っていないこと

 香港返還交渉時に中国の当時の最高実力者であったトウ小平氏が考えていたことは、香港において「一国二制度」がうまく機能するのであれば、台湾も香港の制度の延長線上に位置付けることにより、台湾と大陸との平和的な統一が実現できるのではないか、ということだったと思います。香港の「一国二制度」がうまく行く(=香港市民や香港に立地する企業が「一国二制度」をよい制度だと感じる)のであれば、おそらくは台湾の人々や台湾企業も同じような制度を受け入れることに抵抗しないのではないか、という考え方です。

 しかし、香港の人々はイギリスの植民地であった頃と比べて政治的な自由度が増えていない一方で、香港経済が中国大陸部の人や企業にコントロールされる度合いが強まった、という不満を募らせているようです。

 2014年の香港での「雨傘運動」は香港の現状を変えることはできませんでしたが、おそらくは台湾の人たちに「香港の『一国二制度』を台湾に適用されてはたまらない」という気持ちを強くさせたことは間違いないと思います。香港の「雨傘運動」の直後に台湾で行われた2014年の地方選挙で大陸との関係改善を目指す国民党は大敗し、結局は2016年の総統選挙では、大陸との関係では一線を画する方針の民進党の蔡英文氏が当選しました。現時点(2017年の時点)においては、「香港の『一国二制度』の現状はむしろ台湾と大陸との距離を縮めることを阻害している」と言った方が正しいかもしれません。

 「香港における『一国二制度』は台湾統一には役に立たない」と北京政府が考えるのであれば、北京政府が香港において「一国二制度」を維持するメリットの中の最も重要な部分は消滅することになります。

 そもそも現在の中国経済全体は「持続可能な状態」ではないように見えるので、2047年までの間には中国経済の大規模な変動は避けられないと思います。もしそうなれば、北京政府周辺で、政治的な大変動が起こるかもしれません。そうした経済的・政治的大変動の中において、香港が経済的な繁栄を維持し続けられるのか、そうではなく、台湾の人々が「やはり香港と違って台湾は大陸とは切り離された存在でよかった」と感じるような状態になるのか、がポイントになると思います。香港市民や香港の企業が「一国二制度」でよかったと感じられないのであれば、「一国二制度」は、香港市民からも、台湾の人々からも、そして結局は北京政府からも「結果的に役に立たなかった制度」として歴史の中でその役割を終了させられることになるのだと思います。

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2017年6月24日 (土)

中国共産党大会へ向けてのスケジュール

 中国共産党全国代表大会は、原則として5年に一度開催されます。今年(2017年)は第19回大会が開催予定ですが、開催日はまだ公表されていません。公式には「2017年後半に開催予定」とされているだけです。ただ、過去の例を見ると、大体、10月中下旬から11月上中旬までの間に開催されることが多いようです(前々回の第17回大会は2007年10月15日~21日、前回の第18回大会は2012年11月8日~14日に開催された)。

 今、世界の多くの経済関係者は「中国共産党大会が終わるまでは『なんとしても経済を減速させてはならない』との党中央の意志により、公共事業の実施等により中国の景気は下支えされているが、共産党大会終了後はそうした『下支え』がなくなるので、おそらく中国経済は共産党大会開催前後をピークとして2017年後半は落ち込んでいくだろう」と見ています。中国経済は世界経済に極めて大きな影響を与えますので、今後の世界経済の動向を考える上では、「今年の中国共産党大会はいつ開催されるのか」という日程が非常に重要な意味を持つことになります。

 今年(2017年)の大会では、習近平総書記の交代は想定されていないので、原則5年二期=十年間の総書記の任期の中間の時期の大会という意味では、今年の第19回大会は2007年の第17回大会と類似性があると言えます。私は中国共産党第17回全国代表大会が開かれていた期間中、北京に駐在していましたので、当時のメモを基に、御参考までに、2007年の第17回大会の時の日程等を御紹介しておきたいと思います。

2007年7月7日:
 私の職場が使っていたインターネット・プロバイダー会社から「重要なお知らせ」が来ました。「『敏感な時期』になるので、ネット上において、政治的に敏感な情報のアップロードや賭博・銃砲・麻薬等の売買等違法行為をしないように」というものでした。指摘しているような内容がアップロードされていた場合は、インターネット・プロバイダーの判断でその記載を削除することがある、その責任は顧客の側にある、というものでした。インターネット・プロバイダーが顧客に対してインターネットを用いて反社会的あるいは違法な行為をしないように注意喚起をするのは、どの国でも共通のある意味「当然のこと」だろうと思いますが、ことさらこの「お知らせ」に「敏感な時期なので」という「理由」が付いていた点については、私は「いかにも中国らしい」と感じたことをよく覚えています。「敏感な時期」とは何を意味するのかの解説はこの「お知らせ」にはありませんでしたが、「政治的に敏感な情報をアップロードしないように」という注意内容から察するに、この「敏感な時期」とは「中国共産党大会の開催時期が近いので」という意味であるのは明らかでした。

2007年8月8日:
 内モンゴル自治区成立60周年記念式典が開催されました(内モンゴル自治区の成立は1947年5月1日なのに、記念式典はわざわざこの日(=北京オリンピック開会式のちょうど一年前)に開催された)。この件については、このブログの2007年8月9日付け記事「なぜ8月8日に内モンゴル自治区成立60周年記念式典なのか」で指摘したところです。このブログのこの日の記事では「胡錦濤総書記・国家主席(党内序列ナンバー1)と温家宝国務院総理(党内序列ナンバー3)は、なぜか今週月曜日から全くテレビのニュースに出てきていません。」とも書きました。おそらくはこの時期、中国共産党幹部(引退した老幹部も含む)が避暑地の河北省北戴河に集まって行ういわゆる「北戴河会議」が開かれていたからだと思われます。時期的に言って、この時の「北戴河会議」では、10月に開催される党大会のための「根回し」が行われていたものと思われます。それを考えると、この日ブログに書いたように、内モンゴル自治区成立60周年記念式典に中国共産党政治局常務委員で国家副主席の曽慶紅氏(党内序列ナンバー5)が参加していたことは、相当に「意味深長」であったと言えます。というのは、この「記念式典」のニュースは、曽慶紅氏(江沢民元国家主席の側近だった)が「北戴河会議」に参加しておらず、10月の党大会において曽慶紅氏は中国共産党政治局常務委員に再任されない方針であることを中国全国に伝えたのと同じ意味を持つからです。実際、曽慶紅氏は10月の党大会で政治局常務委員に再任されませんでした。表向きの理由は年齢的に「68歳定年制」に引っ掛かったからだ、とされています(なお、2007年の党大会で曽慶紅氏が政治局常務委員に再任されなかったことについては、このブログ内にある「中国現代史概説」の第4章第2部第6節「第一期胡錦濤政権の勢力分布」を御覧ください)。

2007年8月28日:
 第17回中国共産党全国代表大会が10月15日に北京で開催されることが正式に発表されました(いつまで何日間開催されるのかは発表されなかった)。直前の10月9日から準備のための中国共産党中央委員会が開催されることも同時に発表されました。国慶節(10月1日から一週間程度)の連休の後、間を置かずに中央委員会が開催されることから、私はこの時、共産党大会の大体の大枠はこの時既に固まっており、議論が紛糾するようなことはないだろうなぁ、と思いました(ただし、何日間開催されるのかを事前に公表しないのは、議論が紛糾して開催期間を延長したとしても「会議が揉めて延長した」ことが外部にわからないようにするためだろうなぁ、とも思いました)。

2007年10月15日~21日:
 第17回中国共産党全国代表大会開催

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 今、2007年のこのブログの記事や当時のメモを読み返してみると、2007年の8月上旬の「北戴河会議」で10月の党大会へ向けての「根回し」が行われ(その中で曽慶紅氏は政治局常務委員に再任しないことの合意が得られ)、「根回し」が完了したことから、8月28日に10月の党大会の開催日が公表されたのだろうと推察することができます。2007年の時は、党大会直前の国慶節の時期、当時の胡錦濤総書記は地方視察に出掛けており、「総書記が党大会の根回しのために直前まで各方面との調整に忙殺されていた」という雰囲気は全くなかったので、2007年の党大会ではかなり順調に「事前根回し」が完了していた、と言えると思います。

 一方、2012年の前回の大会(第18回大会)は、開催日が11月8日~14日と2007年の大会より三週間ほど後に設定されていたことと、9月に次期総書記に就任することが確実視されていた習近平氏が二週間ほど公の場から姿を消した時期があったこと(当時は「病気説」や「趣味の水泳をやっていて背中を痛めた説」などが飛び交っていた)を考えると、少なくとも9月頃までは党大会へ向けての「根回し」のための様々な動きがあったのではないかと思われます。

 今年(2017年)の党大会では、習近平総書記(国家主席)と李克強総理との力関係とそれに基づく党政治局常務委員の人事が最大の関心事項です。習近平氏と李克強氏の「不仲節」については、多くの人が論じているし、このブログでも何度も取り上げてきましたが、最近のニュースに登場するお二人を見ていると、相当に落ち着き払っており、「既に勝負あった」という雰囲気です(既に現時点で、習近平氏関連のニュースの時間(及び「人民日報」のスペース)は、李克強氏関連ニュースの時間(及び「人民日報」のスペース)を大きく上回っています)。胡錦濤政権の時代には大きな力を発揮していた江沢民氏も既にかなりの御高齢であり、習近平氏が党内(軍も含めて)をほぼ完全に掌握したと言っていいのでしょう。8月上旬に行われるであろうと思われる今年の「北戴河会議」で揉めることがなければ、今年の党大会は意外に「すんなりと」物事が決まることになるのかもしれません。

 2007年と2012年の例に鑑みれば、今年(2017年)の党大会の開催時期は、そんなに「揉めない見通し」ならば10月中旬開催、「少し揉めるかもしれない」ならば11月上旬開催、ということになるのでしょうか。いずれにせよ8月上旬の「北戴河会議」の時期が過ぎれば、ある程度「見通し」ができるようになるのかもしれません(別の言い方をすれば、そうであるならば、8月上旬までは「中国経済の減速」は目に見えるものとしては現れない、ということになるのかもしれません)。

P.S.

 今日(2017年6月24日(土))、中国の四川省で大規模な土砂崩れが発生し、120人以上の行方不明者が出ているようです。今日の中国中央電視台夜7時のニュース「新聞聯播」でも、現場からのインターネット中継映像も含めたニュースを伝えていましたが、この土砂崩れのニュースは、習近平主席が山西省視察で貧困対策等について議論したり、軍関連施設を視察したりしたニュースを19分間程度流した後の「二番目のニュース」扱いでした。今年の党大会では「貧困対策」が重要な議題になるのだろうということはわかりますが、こういうニュースの組立の仕方は(昔からこうですけど)、人民の生命よりも中国共産党の政策の方が大事なのだ、というイメージを中国人民に与えることになり、中国共産党にとってもよくないことだと私は思います。

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2017年6月17日 (土)

中国のインフラ投資のスピード感

 先週日曜日(2017年6月11日)付の日本経済新聞朝刊13面に「官民投資 中国で乱立 地下鉄など総額230兆円 『民』の実態は国有? 不良資産拡大も」という記事が載っていました。今、中国各地の都市で地下鉄建設等が急ピッチで進められていますが、その多くが「官民パートナーシップ(PPP)」と呼ばれ、その多くで、完成後の運営権の民間移転を前提とした「民間資金」の導入を利用していることが紹介されています。

 「官民パートナーシップ方式(PPP)」は、税金負担を少なくするという観点から、最近、日本でも多くのプロジェクトでこの方式が採られるようになっていますが、中国の場合「民間資金」と言ってもかなりの割合で国有企業の資金が投入されています。中央政府の方針によって地方政府が設立する「地方融資平台」(地方インフラ投資会社)が使えなくなっている現在、PPPが銀行から資金を借りて地方でインフラ・プロジェクトを進めるための地方政府の新たな「仕掛け」になっている、とこの記事は指摘しています。

 この記事では、都市部での地下鉄建設を例に挙げて解説していますが、私の感覚としても、最近(=リーマン・ショック以降)の中国での地下鉄建設ラッシュは「危険なほど速い」と感じています。

 私は1986年10月に一回目の北京駐在を開始しましたが、その時点では、北京の地下鉄は東西に走る1号線(「苹果園駅」から「復興門駅」まで)と2号線(環状線)の南半分と北半分だけでした(天安門前の長安街の下には地下鉄はまだなかった。環状の2号線はまだ環状運転していなかった。2号線が環状運転を開始したのは、私の北京駐在期間中の1987年12月24日)。私は2007年4月に二回目の北京駐在を開始しましたが、この時点でも、既に開通していた2号線に加えて、1号線(天安門前の長安街を含む全線)、13号線と八通線が開通していただけでした。

(注)北京の地下鉄の路線番号は、路線を区別するための番号であり、開通の順番とは一致しない。また、地上を走る路線も「地下鉄(中国語で「地鉄」)」と表記される。例えば、13号線は北方郊外を逆U字型に走る路線だが全線地上を走っているほか、空港線は、市街地は地下を走るが途中で地上に出て、空港付近まで高架を走る構造になっている(第一ターミナル駅、第二ターミナルの駅の部分では再び地下に潜る)。

 その後、2008年8月の北京オリンピックを前に、5号線の一部、8号線の一部、10号線の一部と空港線が開通しました。ウィキペディアの「北京地下鉄」の項目によると、現在、北京の地下鉄は19路線あるそうです。ウィキペディアにある一覧表を見ていただければ、上に書いた以外の路線は全て2009年以降に開通していることがわかります。北京以外の中国の都市の地下鉄については、私はよく知りませんが、オリンピックがあった関係もあって北京は比較的先行して地下鉄建設が進んでいたはずなので、北京オリンピックの時点(2008年)では北京以外の都市ではあまり地下鉄建設は進んでいなかったと思います。それを考えると、中国各地の都市の地下鉄はリーマン・ショック以降に猛烈なスピードで建設が進んでいると言えます。

 一方、現在、中国全国を結ぶ高速鉄道網もものすごいスピードで建設が進んでいます。中国全国を覆う「四縦四横」という計画は、私が二回目の北京駐在を終えた2009年頃でもあまり聞かなかった計画ですが、現在はさらに進んだ「八縦八横」計画が進行中なのだそうです。いくら中国は国土が広いとは言え、これは「やり過ぎじゃないの?」と思えるし、これらがここ10年間という短い期間で進んでいることを考えると「建設スピードは明らかに速過ぎ」だと思います。中国の高速鉄道建設の「速過ぎ」については、2017年6月10日号の「週刊東洋経済」も「ミスターWHOの少数異見」のコーナーで「中国国民もついていけない高速鉄道の急拡大事情」として指摘しています。

 地下鉄も高速鉄道も中国の一般庶民が使うものですから、料金はそんなに高くは設定できません(上記「週刊東洋経済」の記事によると、北京-上海間の高速鉄道の料金は所要6時間で550元(約9,000円)とのことです)。なので、建設資金が回収できるのかどうかわかりません。去年(2016年)7月19日付けでアップされたネット上の日本経済新聞の記事によると、最も基幹路線とされる北京-上海間の高速鉄道は2011年に営業運転を初めて以来2015年12月期に初めて黒字になったとのことです(ということは他の路線は全て赤字ということ)。

 また、ウィキペディアによると、現在の北京地下鉄の料金は初乗り(6kmまで)3元(約48円)、空港線は25元(約400円)だそうです。私が駐在していた2007年頃は一律3元(オリンピック前に市民の利便を考えて2元に値下げ)、空港線は開通当初から25元でしたので、既に10年近く経っているのに、ほとんど値上げしてないようですね。北京市民としてはありがたいと思っているのでしょうが、これでは建設費は回収できないのではないでしょうか。

  中国中央電視台の夜7時のニュース「新聞聯播」では、最近、こういった中国高速鉄道網や都市部地下鉄網の急速な発達について、「習近平主席の業績」として誇らしげに報じています。「都市の地下鉄や高速鉄道網の建設費は回収できるのか?」といった批判的意見は誰も言いませんが、膨大な中国の地下鉄や高速鉄道の建設費は巨大な「不良債権」に化ける可能性はかなり大きいのではないかと私は思います(かつて日本の国鉄が巨大な負債に苦しんでいたことは一定年齢以上の方ならよく覚えておられると思います)。

 今、中国のインフラ投資については「スピードを落とすと急減速してしまうのではないかという不安があるのでスピードを落とせない」という状況になっているとの懸念があります。この懸念が「ほんものの懸念」なのか「杞憂」なのか、中国の外の人間にはわかりにくいのですが、そうした「中国経済への懸念」が、世界の人々に不安感を抱かせ、その不安感が投資や消費を鈍らせて、世界経済を発展させるための阻害要因のひとつになっているのだと思います。

 今日(2017年6月17日(土))の日本経済新聞朝刊18面には「中国経済懸念、市況に影 銅・亜鉛や鋼材、1~2割安」との見出して、今後の中国経済に対する懸念から商品市況が悪化していることを伝えています。「中国のインフラ投資のあまりに速いスピード感から来る恐怖感」が既に世界の実態経済にマイナスの影響を与え始めているのではないかと私は思います。

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2017年6月10日 (土)

中国によるアメリカ国債購入と「コナンドラム」との関係

 6月6日(火)、10年物アメリカ国債の金利が低下しました。よくある日々の金利の上下動のひとつですが、これに関し、6月7日(水)にテレビ東京「Newsモーニング・サテライト」の中でニューヨーク証券取引所からレポートしていた大和証券キャピタル・マネジメント・アメリカのシュナイダー恵子氏は、「中国による米国国債の追加購入観測の報道により金利が下がった」と伝えていました。

 今、6月13~14日に開かれるアメリカのFOMC(連邦公開市場委員会)で追加利上げの実施が確実視される中、アメリカ国債の金利が上がらない(むしろ低下傾向にある)状況が生じています。2004~2006年の利上げ時にも同様の現象が起きましたが、この時、当時のFRB議長のグリーンスパン氏はこの現象を「コナンドラム(理解できないナゾ)」と表現しました。そのことを引き合いに出して、現在のFRB議長のイエレン氏にちなんで現在の状況を「イエレン・コナンドラム」と表現する人もいるようです。

 アメリカ長期国債の金利は、アメリカ経済の先行きの見通しはもちろん、国際情勢やアメリカ国内の政治情勢によっても上下しますので、単純に「謎解き」をすることは困難ですが、現在のアメリカ国債の最大の保有者が中国(日本が二番目)であることを考えると、中国によるアメリカ国債の購入動向がアメリカ国債の金利に大きな影響を与えていることは間違いないと思います。

 単純化すれば、「アメリカ経済で景気がよくなりつつある(FRB(アメリカ連邦準備制度理事会)は利上げをしようとする)」→「アメリカの産業活動が活発になり『世界の工場』である中国から輸入する製品が増える」→「中国の貿易黒字が増える」→「貿易黒字によって増えた外貨準備を運用するため中国はアメリカ国債の購入を増やす」→「アメリカ国債の金利が下がる」という図式になります。もし本当にこういう図式が成り立つならば、FRBが利上げをする状況になった場合にアメリカ国債の金利が低下するのは、「コナンドラム(ナゾ)」でもなんでもなく「当然の帰結」ということになります。

 アメリカでトランプ氏が大統領選挙で当選して以降のここ7か月間のアメリカ10年物国債の金利動向と中国の動向を見ると大まかにいって以下のような状況になっています。

【2016年11月初~2017年第一四半期】

中国の人民元の対米ドル・レートは低下傾向にあり、中国当局は強力に「人民元買い・外貨売り」の為替介入を行っていた模様。その原資とするために中国は保有していたアメリカ国債を売っていた模様で、中国の外貨準備は減少した(3兆ドルギリギリまで減った)。この間、アメリカ国債10年物の金利は1.85%から2.60%まで上昇した。

【2017年第一四半期~現在(2017年6月初)】

中国は強力な資本管理を実施して人民元の国外流出を抑えることに成功し、人民元の対米ドル・レートは下げ止まった(むしろ人民元高がジリジリと進行)。このため中国当局による為替介入は減った模様。他方で中国の輸出は対前年度で大幅に回復しており、外貨準備にも余裕ができて、2017年2月~5月は四ヶ月連続で外貨準備は増加している。(たぶん中国によるアメリカ国債の売却は減少(場合によっては買い増している可能性あり))。アメリカでは、2015年12月に引き続いて2016年12月と2017年3月に追加利上げし、6月にも追加利上げすることが確実視されているのに、アメリカ国債10年物の金利は2.60%から2.15%程度にまで低下した。

 上に書いたようにアメリカ国債の金利は様々な要因で変動しますが、ここ7か月間の状況を鑑みれば、「中国がアメリカ国債を売却する傾向があるとアメリカ国債金利は上昇し、その逆だと低下する」という図式は、かなり単純に当てはまっているように見えます。

 アメリカ国債は、中国が最大の保有者であるとは言え、日本や世界各国の公的機関や機関投資家、企業・個人が持っていますので、中国による購入・売却だけを取り出して議論するのはおかしいと思いますが、私が気にしているのは、中国による購入・売却の「動機」が他のアメリカ国債保有者とは異なるのではないか、という点です。

 基本的に、民間の機関投資家や企業・個人は、運用目的でアメリカ国債を保有していますので、金利動向やその時点での価格を考慮して、運用成績(=儲け)が最大になるようにアメリカ国債を売ったり買ったりすると思います。各国の公的機関は、「運用成績がよくなるように」という発想に加えて、自国経済や世界経済の安定化のために必要と考える場合にアメリカ国債を売ったり買ったりします。

 どの国の公的機関も時々の自国政権の都合を「忖度」することもあるかもしれませんが、公的機関の資産は基本的にはその国の国民の財産であり、公的機関が運用成績や経済へのインパクトを無視してその時の政権を利するような「御都合主義」の運用を行う場合には、世論の反発が起こります。

 一方で、中国の場合、経済や金融を担当する部署は(中国人民銀行も含めて)全て中国共産党の指導下にあります。中国当局及び中国の公的機関が世界経済の流れに反して、中国共産党政権に都合のよい政策を採ったとしても、当局や公的機関に対する反対世論は起こりません(というか、そうした世論を起こすことは許されていない)。

 中国経済や世界経済にとってよくない政策を採れば、結局は中国経済が悪化し、中国共産党政権に対する中国人民の反発が強まりますので、長期的視点から見れば、中国当局と言えども中国共産党政権にとって都合のよい「恣意的な」政策ばかりを採用することは困難です。しかし、短期的視点で見れば、中国当局は、「中国経済や世界経済にとってはマイナスだけれども、中国共産党政権にとってプラスになる政策」を採ることはありえます。人民元をIMFによるSDR(特別引き出し権)対象通貨に採用させるため、人民元レートの基準値を市場に合わせる形で変更した2015年8月の政策変更の例はその典型例です。「人民元をIMFのSDR対象通貨にする」という政治目的のためのこの変更は、「世界同時株安」という形で世界経済を揺るがせました。2015年夏、上海株バブルがはじけた時、中国共産党政権に対する人民の反発を避けるために実施された強力な(強引な)「株価下支え対策」もその典型例のひとつだと言えます。

 今の中国当局の喫緊の(短期的な)目的は、中国経済の改革でも、世界経済への貢献でもなく、今年(2017年)秋に開かれる中国共産党大会を順調に開催させるため、なんとしても中国共産党大会終了までは経済を下押しさせるような事態にはしないこと、です。「2017年秋まで中国経済を下押しさせないこと」は一見世界経済全体にとってもプラスとなる目的のように見えますが、「現在の経済の状況如何に関係なく『とにかく経済を減速さないようにすること』」という目的達成のため、例えば必要以上に公共投資という「カンフル剤」を打ち続ける、とか、国有企業や政府系ファンドの総力を結集して株価が下がらないように買い支える、とか「中国共産党大会終了後になるとツケが回って来るような政策」が党大会までは実施が継続されることになる可能性があります。

 「中国によるアメリカ国債購入」について見ると、秋の中国共産党大会終了までは、「資本管理強化による人民元の海外流出を阻止する」「アメリカの利上げに対抗してアメリカ国債を購入することによってアメリカの金利上昇を阻止する(=アメリカの利上げ継続により人民元が対ドルで安値方向に動いて人民元の先安感が出ることを阻止する)」政策が続く可能性があります。逆に言うと、秋の中国共産党大会が終わると、これらの政策が終了して「人民元の対ドル・レートが急落する」「中国によるアメリカ国債の購入が減るのでアメリカ国債金利が急騰する」可能性があります。また、公共事業が縮小されて中国の景気が一気に冷え込み、結果としてそれが世界経済によくないインパクトを与える可能性があります。

 中国当局の関係者には優秀なエコノミストがたくさんいるので、経済の実情に逆らった無理な経済政策は採りたくない、と思っている人もたくさんいると思います。しかし、中国当局の担当者にとっては「長期的観点で中国経済の改革を進めること」よりも「とにかく中国共産党大会開催の前に経済の下押しは起こせない」というプレッシャーの方が強いと思うので、「後からツケが回って来ることはわかっているが、中国共産党大会までの期間は無理してでも経済を減速させない経済運営を続けてしまう」のではないか、というのが今私が最も心配している点です。

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2017年6月 3日 (土)

1989年の遺産

 毎年、6月第一週になるとテニスの全仏オープンが開催されますが、私は個人的にはどうしてもこの時期は1989年の全仏オープンを思い出してしまいます。錦織圭選手のコーチにマイケル・チャン氏が就任してからは特にそうです。

 私自身はそんなにテニスの試合をテレビで見る人ではないのですが、やはり1989年の全仏オープンの印象はいまだに覚えています。1989年の全仏オープンで、当時無名だった17歳のマイケル・チャン選手は、世界の強豪が次々と繰り出すスマッシュを追い掛け、右に左に振らされながら必死で打ち返す試合を続けました。結局、マイケル・チャン選手は、粘って粘って粘り抜いて勝つ試合を続けて、この年の全仏オープンで優勝したのでした。

 マイケル・チャン氏は、アメリカ生まれのアメリカ人ですが、私を含めて世界の多くの人は、同じ時期、1989年6月4日の北京で倒れた中国の若者たちの姿とマイケル・チャン選手の粘って粘って粘って結局は勝ち抜く姿を重ねていたと思います。1989年6月4日未明の北京からのニュースは、中国の若者の将来への「夢」を打ち砕いたと同時に、前年まで二年間北京に駐在し、それからも中国との関係の仕事をしていくことになるのだろうなぁ、と思っていた私自身の「夢」をも打ち砕きました。銃弾によって「将来の夢」を打ち砕かれた私自身の気持ちに対して、マイケル・チャン選手が「粘って粘って粘って粘り抜けば結局は勝つのだ」と訴えているように私には見えたのでした。

 「六四天安門事件」は、中国においては「改革・開放路線」の大きな転換点であったと同時に、ソ連・東欧圏における政治体制の変革に大きな影響を与えた事件でもありました。このブログ内にある「中国現代史概説」の中でも書いたのですが、1989年10月9日、旧東ドイツのライプチヒで市民らによる「月曜デモ」が行われようとしていた時、デモに参加する市民の側も当局の側も「4か月前の北京の天安門前での悲劇をここで繰り返してはならない」という同じ思いを持っていたとのことです(2008年1月12日放送NHK・BSドキュメンタリー「証言でつづる現代史~こうしてベルリンの壁は崩壊した~」(前編:ライプチヒ市民たちの「反乱」))。ドイツでは、この日のライプチヒでの「月曜デモ」の一ヶ月後の11月9日、東ベルリン市民が雪崩を打って西ベルリンに流入し、「ベルリンの壁」が崩壊することになるのです。

(注)このブログ内の「中国現代史概説」については、左側にある「中国現代史概説の目次」をクリックして御覧ください。

 現在のドイツの首相のメルケル氏は、旧東ドイツで育ち、「ベルリンの壁の崩壊」を切っ掛けとして政治の世界に入ったとのことです。彼女のEUに対する思い入れや「壁」を築こうとするアメリカのトランプ大統領に対する反発を理解する上では、この彼女の「生い立ち」は重要だと思います。今やメルケル首相はG7の首脳の中でもリーダー的存在ですが、彼女の原点は1989年にあると言えるのでしょう。

 1989年は日本の年号で言えば「平成元年」です。今、天皇陛下の退位に関する法律案が国会で議論されています。この法律が国会で成立すれば、近いうちに「平成」は終わることになるのでしょう。そういった意味も含めて、最近、新聞や雑誌で「平成を振り返る」という企画が多くなっています。5月20日付けでこのブログでも取り上げた週刊東洋経済2017年5月20日号の特集「最後の証言:バブル全史」もそうでした。今、産経新聞では「平成30年史」という連載企画を掲載しています。産経新聞の連載では、ちょうど今「第5部 バブル、それから・・・」が掲載されています。この時期、1989年という年とバブルについて思い返すことは意義のあることかもしれません。

 今、中国の大陸部では客観的に1989年を振り返ることはできません。「六四天安門事件」は中国国内では「1989年の政治風波」と呼ばれますが、中国共産党による「公式見解」以外の情報は中国の大陸部のネット等には存在しないからです(中国大陸部以外にある「六四天安門事件」に関する情報にはアクセス制限が掛かっていてネットで見ることはできないようになっている。ただし、台湾からは当然のこととして、「ネットの壁」の外側にある香港・マカオからはアクセスは可能)。

 今、日本の人たちは1989年を振り返って「バブルとは何だったのか」を反省することができます。ドイツや旧ソ連・東欧の人たちも1989年に何があったのかを調べて「ベルリンの壁崩壊とは何だったのか」「ソ連・東欧革命とは何だったのか」を振り返ることができます。しかし、大多数の中国大陸部の人たちは1989年を客観的に振り返ることができません。政治情勢にしろ経済情勢にしろ、「過去の経験」は人々にとって判断材料となる貴重な「遺産」です。今、多くの中国大陸部の人たちにそうした判断材料となる「1989年の遺産」が欠落していることは、今後の中国の人々の判断を誤らせることになる可能性がある点で重大です。

(注)1989年当時、5月下旬に「戒厳令」が出されたこと、その後「戒厳部隊」が「暴乱」を鎮圧したことは中国国内でも報道されましたが、6月4日未明以降の人民解放軍による武力鎮圧については中国国内では映像その他の詳細は報道されなかったので、当時、北京で実態を直接見聞きした人(またはその人から状況を聞いた人)でない限り、大陸にいる中国人は当時を知りうる年齢の人であっても「六四天安門事件」の全容についてはほとんど知りません。「六四天安門事件」の直後、仕事で地方に滞在していた日本人職員に対して帰国指示が出された時、その日本人職員から「へぇ~? なぜ? 何かあったの? 中国側も普通に仕事してますよ。」という反応が帰って来たことをよく覚えています。

 1989年に世界で起きたできごとについては、人によって評価が分かれるでしょう。しかし、「何があったかという事実」に対してアクセスできない状況を続けることは、結局は中国の将来にとって大きな禍根を残すことになると私は思います。

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2017年5月27日 (土)

中国国債の格下げとビットコイン価格の急騰

 アメリカの格付け会社ムーディーズは、2017年5月24日、中国の長期国債の格付けをそれまでの「Aa3」から一段階引き下げて「A1」にしました(一方で、見通しをそれまでの「ネガティブ(弱含み)」から「安定的」に変更しました)。

 「引き下げ」とは言っても、例えばムーディーズの日本国債に対する格付けは安倍総理が消費税再増税延期を表明した直後の2014年12月に「A1」に引き下げられていましたから、今回中国の長期国債が「A1」に引き下げられたのは、日本国債と同じになった、というだけで、これから「とんでもないこと」が起こるわけではありません。

 また、2014年12月に日本国債の格付けが引き下げられた時にこの格付け引き下げによって日本のマーケットに大きな混乱が起きたわけでもないことに見られるように、今回のムーディーズによる中国の長期国債の格付け引き下げが、中国のマーケットに混乱を引き起こすことはないと思います。

 ただ、バブル崩壊からデフレ時代の中に長く浸っている日本国民にとっては、「日本国債の格付けが下がった」と言われても「やっぱ、そうでしょうね」と思うだけでしょうけど、現在急速に成長中であり中国経済が世界経済を引っ張っていると言える、という感覚を持っている中国の人々にとっては、この「格下げ」はちょっとショックだったかもしれません(特にムーディーズによる中国国債の格付け引き下げは「六四天安門事件」のあった1989年以来ですから、それなりの「心理的ショック」はあったのではないかと思います)。

 そうした「中国の人々に対する心理的ショック」があることは、格付けの引き下げに対して中国財務省が直ちに反論のコメントを出したことでも伺えます(ちなみに、2014年12月にムーディーズが日本国債の格下げをした時は、日本の財務省は無視しました(2002年5月の格付け引き下げの時は日本の財務省は格付け会社に対して反論レターを出したのですけどね))。

 私も今回のムーディーズによる中国の長期国債の格付け引き下げにより「心理的ショック」を超えて大きな実態的な影響が出てくるとは思っていませんが、格下げ発表後の上海株式市場の株価の値動きがかなり不自然だったので、そちらの方が気になっています。格付け引き下げがあった5月24日、上海総合指数は安く始まって午前中に前日比1.3%安まで下がる場面もあったのですが、その後盛り返し、結局はこの日は0.1%高で終えました。翌5月25日は対前日比1.4%高で引け、5月26日(昨日)も0.07%高で引けました。株式市場は、様々な要素で上がったり下がったりするので、国債の格付け引き下げの影響だけを考えるのは正しくないのですが、こうした動きはまるで「国債格付け引き下げによって株価が下がらないように政府系ファンドが株式市場で買い支えをしている」ように見えます(実際、政府による買い支えが実施されているようだ、といった観測記事も出ているようです)。

 私が「気になる」のは、不動産バブルの膨張を懸念して、不動産価格の抑制を図るための様々な政策が打ち出されいている今の時点で、政府が株式市場を下支えしているとの観測が出てくると、中国人投資家の間に「政府は秋の中国共産党大会までマーケットの暴落を絶対に許さないはずだから、今、株式市場に投資して党大会の前に売り抜けば必ず儲かる」などといった「思惑」を生んで、価格抑制策で不動産市場に入れない余剰資金が株式市場に流入して、株式市場の方に「新たなバブル」を生んでしまうのではないか、ということです(実際、2014年秋~2015年6月までの「上海株バブル」は、それ以前の不動産バブルの沈静化によってあふれた資金が不動産市場から株式市場に回ってきたため、と言われました)。

 一方、私がもうひとつ気にしているのはビットコインの価格動向です。ビットコインの価格は、2017年年初に暴落しましたが、それは中国当局がビットコイン取引の管理を厳しくしたからだ、と言われました。今、5月初め頃からビットコインの価格が急激に上昇してきています。中国国債の格付け引き下げよりずっと前からビットコインの価格高騰は始まっていたので、ビットコイン価格と今回のムーディーズによる中国国債の格付け引き下げの間に因果関係はないことは明らかですが、ビットコインの価格の急上昇の背景には中国国内の事情(例えば、不動産市場に入っていた投機資金の一部がビットコイン市場に回ってきているなど)がある可能性があります。

(注)ビットコインの価格急騰については、アメリカのトランプ政権の先行きが不透明、ヨーロッパのユーロの先行き不安も払拭されたわけではない、ということで、欧米の投資家が米ドルやユーロを売ってビットコインを買っているからかもしれません。日本でも5月15日から日本最大と言われるビットコイン取引所であるビットフライヤーが地上波テレビでのCM放映を開始したり、5月22日に格安航空会社(LCC)ピーチ・アビエーションがビットコインで航空券などを購入できるシステムを導入する予定と発表したりしていますので、日本でもビットコインの認知度が高まり日本人の間で買う人が増えたのでビットコインの価格が上昇している可能性もあります。

 5月25日付けの「人民日報」は10面でムーディーズの中国国債格付け引き下げについて「評価引き下げの方法は不当である」と題する財務部関係者の反論記事を載せていますが、一方で21面には「ビットコインは『デジタル・ゴールド』になった」(中国語は「比特幣成了『数字黄金』」)と題する解説記事を載せています。これはビットコイン価格が急騰し金(ゴールド)の価格を超えたことを切っ掛けとした解説記事です。この解説記事は、特段ビットコインの購入について推奨するわけでも批判するわけでもなく、中立的に現状やリスクについて解説しています。

(注)この記事の中では「現在、アメリカ、日本、中国、ヨーロッパの各国・地域での一日あたりの交易規模は、それぞれ7,300万ドル、7,300万ドル、4,500万ドル、3,140万ドルである」と紹介されています。日本での報道では「中国での交易量が世界で最も多い」とされていますが、日本での報道とこの「人民日報」の解説とのどちらが正しいのかは私にはわかりません。

 先週、ビットコインの価格は1ビットコイン=2,500米ドル程度まで上昇したようですが、この「人民日報」の記事には次のような記述があります。

○2020年までに、ビットコインの交易規模は30億ドルを超え、その交易価格は1万ドルに達する可能性もある。

○ビットコインは一種のバーチャルな『デジタル・ゴールド』と見なすこともできるが、黄金(ゴールド)のような高い流動性、低いリスク、価格の安定性とコントロール可能性といった属性を具備しておらず、一種のハイリスク・ハイリターンの投資品と言える。

○貨幣のイノベーションという視点でデジタル属性に注目することもできるが、慎重な投資姿勢により黄金(ゴールド)のような属性を持つかどうか見極めるべきである。

とも書いてあり、リスクについても解説してありますので、この記事は別にビットコインの購入を推奨しているものではないと言えるでしょう。しかし、投資好きの中国の読者に対して、今2,500ドルまで急騰したビットコインについて「2020年までにその交易価格は1万ドルに達する可能性もある」などと紹介したら結果的に「煽っている」ことになるんじゃないかなぁ、と私は思います。

 2015年6月をピークにしてはじけた上海株バブルの時も、春頃に「人民日報」が株投資を煽っていた、と批判されたことがありました。今回のビットコインに関する「人民日報」の解説記事を切っ掛けにして、価格抑制策がなされた中国の不動産市場や政府系ファンドに価格変動をコントロールされている中国の株式市場から押し出された資金がビットコイン市場に過度に流入し始めるのではないか、と心配になります。

 この他、「人民日報」のホームページ「人民網」の「財経チャンネル」に載っていた中国経済網の記事「鋼材の価格上昇の嵐 石炭の奇跡の再演なるか 今年の業種の利益は去年を超えている」(2017年5月23日アップ)も気になっています。この記事では、中国語でいう「螺紋鋼」(建築用コンクリートに入れる鉄筋)の価格が4月19日以来20%以上高騰しており、株式市場でも関心を集めていることを伝えています。「螺紋鋼」の価格が高騰しているのは、市場関係者がマンション等の建設による需要が今後とも高いレベルを維持すると見ていることを示しています。中国政府は、マンション・バブルの抑制のための政策をいろいろとっていますが、「どうせ党大会の前にマンション販売の低迷を出現させるわけにはいかないので、党大会まではマンション建設ラッシュは続くだろう」と中国の市場関係者は中国共産党の「足元」を見ているのかもしれません。

 この記事の最後は「鋼鉄株は去年の『石炭の奇跡』の再演なるか 刮目(かつもく)して待つべし」と締めくくっています。去年(2016年)は、中国政府の「生産能力削減」の政策により、石炭の生産量が減りましたが、一方でマンション建設等に使う鉄鋼の需要は堅調だったことから、石炭の品薄感が急激に広がって石炭(製鉄に使う原料炭)の価格が高騰しました。この記事はこの「石炭の奇跡」が今年は鉄鋼で起きるのか、と期待を持って書いているわけです。私はなんか競馬新聞の予想記事を読んでいるような気分になりますが、少なくともこの記事の読者である中国の投資家の皆様は、去年の石炭や鋼材価格の乱高下に全然懲りていないようですね(というか、そういう価格の乱高下を投資のチャンスとして待っているようにすら感じる)。

 今、日本をはじめ世界の経済関係者は、「中国経済バブル崩壊にどう対処すべきか」と身構えているところだと思いますが、中国には上のような「投資新聞」の記事を読んで不動産や株や商品(鉄鋼、石炭、銅など)(場合によってはビットコインなども含めて)に投資している血気盛んな投資家の皆さんがとんでもない数おられることを念頭においておく必要があると思います。

 今日(2017年5月27日(土))付け日本経済新聞朝刊1面には「人民元の急落防止 中国、基準値算出方法を見直し」という記事が、9面には「中国、資本流出を警戒 人民元の急落防止 米追加利上げにらむ」という記事が掲載されています。国外への資本流出と人民元の急落を防ぐため、中国が人民元レートを定める基準値の算出方法を見直す、という記事です。9面の記事では、24日のムーディーズによる国債の格付け引き下げを受けて「25日には一定規模の為替介入があったもよう」(外国銀行)との指摘も紹介されています。

 「不動産価格の高騰を抑制する」「国外への資金流出を阻止する」という政策を同時に進めた場合、不動産市場からあふれた資金は中国国内の「どこか」へ向かいます。上に書いてきたように、その「どこか」とは中国国内の株式市場、鉄鋼、石炭等の商品市場あるいはビットコイン市場かもしれません。仮に「不動産バブル」を抑えることに成功したとしても、不動産市場にあった資金が移動した先の「どこか」でまた新たなバブルが発生することになるのかもしれません。中国が国外への資金流出を阻止することは、中国国内のバブルが外国に輸出されることを防ぐことになるので、諸外国にとってはよいことなのかもしれませんが、「ガス抜き栓」をふさがれた資金の圧力が中国国内に溜まってバブル破裂のエネルギーが蓄積されるのではないか、という恐怖感も湧いてきます。

 5月26日(金)付けの日本経済新聞朝刊11面のコラム「NIKKEI ASIAN REVIEW」では、米クレアモント・マッケナ大学教授のミンシン・ペイ氏の「中国企業 不透明な経営 急膨張 資本規制で転機か」という文章が掲載されています。この文章の中でペイ氏は「歴史上の信用崩壊後の惨状に通じる人なら、こうした一見結びつきのない諸報道が金融危機の前兆だと認識するだろう。」と書いています。今回も上に書いてきたいろいろなことがらは、後から見ると「中国経済バブル崩壊の前兆現象だった」「壁が大崩壊する前にミシミシなっていたきしむ音だった」と顧みることになるのかもしれません。

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2017年5月20日 (土)

世の中「中国経済バブル崩壊準備モード」に突入

 週刊東洋経済2017年5月20日号の特集は「最後の証言:バブル全史」でした。日本の1980年代末~1990年代初のバブル形成と崩壊の過程を当時の関係者の証言で綴るものでした。

 「なぜ今このタイミングで『バブル全史』の特集なのか」と問われれば、やはり現在の世界経済の状況が「バブルらしき様相」であるからでしょう。最も懸念されているのが中国の不動産バブルです。一昨年(2015年)夏、上海株のバブルがはじけたことを思い出せば、1989年末をピークにしてまず「株バブル」がはじけ、二年くらい掛けて「土地バブル」がはじけた日本のバブルを思い出さざるを得ません。たまたま偶然ですが、バブル最盛期に始まった「平成」が「そろそろ終わりそうだ」ということも、そういった連想を助長しているのかもしれません(昨日(2017年5月19日)「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案」が閣議決定されました)。

 で、私がちょっとショックだったのは、週刊東洋経済2017年5月20日号の「編集部から」の欄に「当時中学生だった私にとってバブルの記憶といえば・・・」と書かれていた編集部の方の言葉でした。これを読んで「あちゃ~、就職後十年目でバブルに遭遇した私はもう『お年寄り』の部類なのかなぁ」と思ってしまったのでした。ということで、このブログを読んでいる方にも「日本のバブルの実体験がない」方も多いと思うので、「日本のバブルでは何があったのか」について、私の経験や私の知っている話をお話しして、来るべき「中国経済バブルがはじける時」に何が起こるのかを考える上での参考にしていただければ、と思います。

 まず、バブルに至る過程で私が印象に残っているのは「急速な円高の進展」でした。私は1986年10月~1988年9月に一回目の北京駐在を経験していますが、海外駐在員にとって、為替レートは日常生活にも直接影響する一大関心事項です。当時、中国では、朝7時前に中国人民銀行が決める各外貨と人民元との為替レートを中央人民広播電台(中央人民ラジオ局)が放送していましたが、私は毎朝そのラジオ放送で流れる為替レートを聞き取ってメモするのが日課になっていました(非常によい中国語のディクテーション(聴音書き取り)教材でした)。なので、プラザ合意(1985年9月)の後、数年間にわたって怒濤のごとく進んだ円高は「日々の衝撃」として私の記憶に残っています。

 当時新聞等では急激な円高に伴う日本の輸出企業の苦境が報じられていましたが、私が思っていたのは「物価は全く下がらないのだから、原材料を輸入している企業はボロ儲けしているのだろうなぁ」ということでした。確かに円高に苦しむ輸出企業の裏側で、円高で相当儲けた輸入関係企業もあったはずで、そうした「あまり話題にならない中で円高によって積み上がった余裕資金」がいろいろな資産に投機として投入されて、それが後でバブル化した面もあるのだと思います。

 苦しんでいる企業は対策を打つようにいろいろ政府に働き掛けをするので、新聞等でそれらの動きを目にすることも多いのですが、「意外に儲かっていて資金に余裕がある企業」は基本的に「だんまり」なので目に付きません。「あんなところにも金が余っていたのか」といった話はバブルがはじけた後でわかる話です。「バブルが形成されつつある間は気がつかないが、意外なところに意外な資金が貯まっていてバブルがはじけた時に悪さをする」ことがあり得ることには注意しておく必要があると思います。

 もうひとつ印象に残っているのは、1980年代前半は相当に金利が高く、例えば郵便局の定額貯金は金利が年利7%を越えていたことでした。定額貯金は満期10年なのですが複利なので年利7%ちょっとで10年後まで途中解約しないでいれば元本が2倍の金額になったのでした。1980年代後半は円高が進んだこともあり、日本の物価はそれほど上がりませんでした。バブルの頃は、給料がそんなに上がったわけでもないのですが、「貯金しておけば結構な額の金利が付く」という意識があったので、結構気楽にお金を使う「気分」になっていたような記憶があります。今、「個人消費が伸びない」のが日本経済の重要なマイナス要因になっていますが、ゼロ金利下で「利子という余裕資金」が全く存在しない現状が消費しようとする「気分」に水を差しているのは間違いないと思います。

 今、多くの中国の人々は「マンション」という資産を持っており、「自分の持っているマンションの価格は将来上がる」という認識の下で消費行動をとっています。「想定しているマンション価格の上昇」は、自分の意識の中では「余裕資金」として存在していると思います。従って、今後、中国の不動産市場において「バブル崩壊」とまではいかなくても、「マンションの価格は上昇しない」という状況が生じた場合、現在の中国の人々が持っている「マンション所有による余裕資金があるという感覚」は消滅し、中国の人々の消費意欲を急激に冷やす可能性があります。その場合、中国人旅行者による日本での購入や中国国内での消費に期待している日本の企業は打撃を受ける可能性があります。

 さらに「今思えば」と後になって気がついたのは、1980年代後半、日本政府に「バブルに対する危機意識」がなく、むしろ政策によって「バブルを煽った」面があったのではないか、ということです。冒頭に紹介した週刊東洋経済2017年5月20日号の特集「最後の証言:バブル全史」では、早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問の野口悠紀雄氏が1987年11月26日号の週刊東洋経済に掲載した文章「バブルで膨らんだ地価~地価引き下げのための緊急対策を~」について紹介しています。この1987年の記事の中で野口氏は「現在の地価は投機のバブル(泡)で膨らんだ異常な水準である。」と書いています。「バブル」に「(泡)」とわざわざカッコ書きで書いているほど、日本経済の状況を「バブルだ」とする認識は1987年当時は一般的ではなかったのでしょう(なお、経済のある状況を指す言葉としての「バブル」はガリバー旅行記を書いたスウィフトが初めて使ったとされており、18世紀からある言い方です)。余裕資金を用いて地方活性化を図ろうとする総合保養地域整備法(通称「リゾート法」)は1987年制定ですが、この法律は企業によるリゾート開発等のいわゆる「財テク」を促進させることになり、結果的に政府が率先して当時のバブル的状況をさらに膨らませる結果になりました(それを「政策の誤りだった」と批判することは「バブルがはじけた後だから言えること」だと思いますけど)。

 こうした政府の政策の背景には、1985年に民営化されたNTT(旧電電公社)の株式売却(1987年2月に上場)においてNTT株が想定より高値で売却できた(政府の収入が想定より多かった)という点もあったと思います。「NTT株が想定より高く売れた」のは、後から振り返って見れば当時既に日本経済が「バブル化」していたからだと言えますが、当時の日本政府は「今はバブルだ。今のままでは危険だ。」とは認識していなかったのだと思います(だから適切な対策は講じなかった)。政府に危機意識がなかったからこそ、野口悠紀雄氏は上記のように警告を発する記事を書こうと思ったのでしょう。

 ここで問題なのは、「政府に『今の状況はバブルである』という認識があれば、適切な措置を講じてバブルがはじけるのを避けることができたのか」という点です。今の中国政府には、現在の不動産市場の状況が「バブル的である」との懸念は持っており、もし政府が適切な状況認識を持って適切な措置を講じることができれば、中国の不動産バブルも「はじける」ことは回避できることになるのでしょう。

 しかし、2008年のリーマン・ショックのことを考えると「政府が『バブルかもしれない』という危機感を持っていれば事前に適切な措置を講じることによりバブルがはじけることは回避できる」ことには必ずしもならないことは明らかでしょう。21世紀に入って、日本のバブル崩壊については、アメリカ政府担当者を含めて世界の政策担当者はよく知っていたし、アメリカの住宅市場に関して「サブ・プライム・ローンは危ないのではないか」といった認識は2007年頃からあったにも係わらず、アメリカ政府はリーマン・ショックという「バブルの突然の崩壊」を防ぐことはできませんでした。

 中国経済で「バブル崩壊」が起きると中国共産党政権自体が揺らぎかねませんので、中国共産党は日本のバブルを含めて過去のバブルについては相当熱心に(真剣に)勉強しています。なので、「中国共産党はバブルを崩壊させることなくソフトランディングさせることができる(はず)」と多くの人が考えています。しかし、問題は、中国共産党の経済政策を考える経済学者が「バブル退治」の処方箋を仮に持っていたとしても、実際の政策としてそれを実行できるのか、という問題があります。政策を決定する中国共産党員自身が「利害関係者」であるために、有効な政策決定ができないことがあり得るからです。例えば、不動産バブルを沈静化させるための「マンション保有税」(日本の固定資産税に相当)も政策手段としてあるはずなのですが、中国共産党の会議や全人代ではまだ議論すらされていません。それどころか、先に発表された新副都心「雄安新区」プロジェクトなど、むしろバブルを助長させるような方向の政策も打ち出されています。

 まとめると以下のとおりになると思います。

 日本のバブルは、バブル崩壊まで(野口氏のような一部の学者を除いて)日本政府や経済界の中に「今の状況はバブルで危険だ」という危機意識はなかった。

 アメリカのリーマン・ショックにおいて、アメリカの政策担当者は日本のバブルについて既に学んでおり、サブ・プライム・ローンの危険性についてある程度の危機意識は持ってはいたが、適切な対策を適切なタイミングで採ることができずにリーマン・ショックを起こしてしまった。

 中国の経済政策担当者は、日本のバブルもアメリカのリーマン・ショックもよく学んでおり、現在の中国の不動産市場についてバブル的要素があり一定程度の危険性があると認識いている(公式見解は「現在の状況はコントロール可能」というものだが)。中国経済において「バブルがはじけることを回避する」ことができるかどうかは、現時点ではわからない。

 一方、日本のバブルがはじけた後の状況を「世界の工場」へ向けて急速に発展した中国経済は後ろから支えた(1980年代から始まった中国のインフラ投資等に対する日本の経済協力(円借款など)が結果的に中国経済の急速な発展を通じて日本のバブル崩壊からの回復を手助けした)。バブル崩壊後の日本が苦しんだのは事実ですが、すぐ隣に急速に発達する中国が存在していなかったら、日本経済の状況はさらに悪いものになっていたと思います。

 アメリカのリーマン・ショックに始まる世界経済危機に対して中国政府が実施した四兆元の超大型経済対策は結果的に世界の需要を下支えし、世界経済のリーマン・ショックからの回復に大きなプラスの役割を果たした。

 中国経済のバブルが今後崩壊すると想定した場合に「バブル崩壊後の日本を支え、リーマン・ショック後の世界経済を支えた中国と同じような役割を果たす者」は現在の世界には存在しない。

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 いくら過去のことを学んでも「もし中国の経済バブルがはじけたらどう対応したらよいか」はわからないのですが、「何も知らないよりは、過去の経験を知っていた方がケガは小さいだろう」と思うので、やはり今回週刊東洋経済が「最後の証言:バブル全史」という特集を組んだのは非常にタイムリーでよかったと思います。

 先週までのブログにも書いたように、日本経済新聞も最近「中国経済バブル警戒モード」に入っていると私は感じています。今日(2017年5月20日(土))まで、日本経済新聞朝刊は「変わる鉄鉱石市場」という短期連載コラムを掲載していました。鉄鉱石、原料炭、銅などの価格やビット・コインの価格の変動は、「中国経済の現状の何か」を表している可能性があるので、注意深く見ている必要があると思います(もちろんこれらは「投機筋の思惑」で動くので、価格変動が「何を意味しているか」を安直に判断することは難しいと思いますが)。中国でビジネスを展開する企業の日々のコメントにも注意を払う必要があると思います。

 これまでも何回も書いてきましたが、「『バブル』とははじけた後で初めて気付くものであって、『今はバブルだ』と感じているのなら、今はバブルではない。」という考え方は中国については通用しないので、警戒は緩めずにいる必要があると思います。(とは言え、一昨年(2015年)8月に「中国発世界同時株安」が起きた時は、私自身、結構びっくりしました。「バブルが崩壊した時にびっくりしないように事前に準備する」ことなど実際には誰にもできないのかもしれません)。

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2017年5月13日 (土)

「一帯一路国際フォーラム」の後に来るもの

 明日(2017年5月14日)から二日間、北京で「一帯一路国際フォーラム」が開催されます。28か国から首脳級が参加する他、日本を含め代表団を派遣する国は130か国を越えているようです。

 経済力が大きくなった中国が「陸と海のシルクロードの復活」という概念の下、中央アジアや東南アジアのインフラ投資に協力し、これらの地域の経済発展を図る、という発想は悪くはないですし、特に中央アジア諸国については、旧ソ連崩壊後、ロシアの支援が弱くなっていますから、中央アジア諸国の経済発展を支援することは、間接的に貧困から来るイスラム過激派の勢力拡大を食い止めることになり、中国自身の安全保障上プラスになるだけでなく、世界にとってもよいことだと思います。

 一方で、旧ソ連の崩壊で中央アジアの面倒まで見られなくなったロシアや混迷するヨーロッパ、「自国第一主義」になってしまったアメリカを尻目にして、国際社会の中で発言力を強化しようという中国の意図がミエミエなのは気になります。1970年代、80年代にトウ小平氏が「中国は絶対に超大国にはならない」と何回も繰り返していたことをよく覚えている私としては「話が違うんじゃないの?」という気分にもなります。

 それにしても習近平氏は「世界各国から首脳を招いて行う巨大国際イベント」が相当にお好きなようですね。2008年の北京オリンピックや2010年の上海万博のようなものが当面ないので、無理して自分で作っているように見えます。2014年11月には「APEC首脳会議」を北京で、2015年9月には「抗ファシスト勝利70周年記念軍事パレード」を北京で、2016年9月には「G20首脳会議」を杭州で開いたのに引き続いての今回の「一帯一路国際フォーラム」です。これまでの「国際イベント」と同じように、ここ数日、「人民日報」や中国中央電視台夜7時のニュース「新聞聯播」では、「一帯一路国際フォーラム」自体とフォーラムに参加するために中国を訪問している各国要人と習近平氏との会談の様子を連日大々的に報じています。

 ニュースを見ていていて感じるのは、これまでの「APEC首脳会議」「抗ファシスト勝利70周年記念軍事パレード」「G20首脳会議」と比べて、李克強氏と各国首脳との会談の様子なども結構多く報じられているなぁ、という点です(去年9月の「G20首脳会議」の時は李克強氏はニュースに全く登場しなかった)。秋の党大会を前にして、習近平氏と李克強氏の間では一定の手打ち(合意)ができているのかもしれません(例えば、李克強氏は国務院総理を退き全人代常務委員会委員長になるが、李克強氏と同じ中国共産主義青年団出身の胡春華氏(現・広東省党書記)を政治局常務委員にすることで、習近平氏と李克強氏は既に「手を握っている」とか)。

 もし今回の「一帯一路国際フォーラム」が習近平氏のリーダーシップを示すと同時に、習近平氏と李克強氏が「お互いに協力して今後とも仲良く中国の政権運営を担当していきますよ」ということを内外に示す場となるのだったら、それはそれでハッピーなことなのかもしれません。

 ただ、ちょっと気になるのは、中国経済の現状です。中国の不動産バブルが相当危機的状況になってきていることは、累次このブログでも書いてきたところです。それに加えて私が気になっているのは以下の点です。

○上海株式市場の上海総合指数のグラフを見ると、4月上旬、河北省に建設される新副都心「雄安新区」プロジェクトの発表を機に急騰した上海の株価が、「投機的な動きは許さない」という当局の姿勢を受けて急落に転じ、日々のグラフを見る限り「相当に危なっかしい格好」をしていること。ここ数日は、大きく下げそうになると「まるで誰かが買い支えているかのように」下げ幅を縮めたり、前日比わずかに上昇して引けたりしており、「一帯一路フォーラム」を前にして、「国家隊」(政府系ファンド等)による買い支えが行われているのではないかと思われること(もしそうなら「一帯一路フォーラム」が終わって「買い支え」がなくなると株価はさらに下落する可能性がある)。

○海外への資金流出圧力は弱まっていないと思われるにも係わらず、今年(2017年)2月~4月の中国の外貨準備はわずかに増加し「3兆ドル」という心理的節目を前にして「わざとらしいくらい」減少がストップしていること。これは政治的な意図により経済的な状況を無視して資金の中国外への送金を強制的に抑制していることが原因である可能性がある。もし資金の外国への送金を無理に規制しているなら、国際的企業の中国でのビジネス活動にブレーキを掛けてしまうことになる(今日(2017年5月13日(土))付け日本経済新聞夕刊1面の記事によると、麻生財務大臣はイタリアで開かれているG7財務相・中央銀行総裁会合でIMFに対して中国の資本規制への監視を強めるよう要請したとのことです。麻生財務大臣のこうした要請の背景には、中国当局の国外への送金規制に困惑する日本企業の怨嗟の声があるのだと思います)。

○需要の面で中国が世界最大の割合を占めている鉄鋼の原料(鉄鉱石と原料炭)や銅の価格がここへ来て急落している(つまり中国の需要が減っている(または投資家が中国の需要は今後減るという見通しを立てている))こと。(参考:日本経済新聞5月10日(水)付朝刊22面「銅の国際価格5%安 直近高値比 中国の需要減観測で」、5月13日(土)付朝刊24面「製鉄原料が一段安 豪の供給トラブル解消」

 これらの状況は、「中国経済はこれまで不動産やインフラ投資で景気が下支えされてきたが、中国当局が投資の過熱で経済がバブル化することを懸念してブレーキを掛け始めたため現実の景気は減速傾向にある。一方、直近の『一帯一路フォーラム』と秋に開かれる党大会を前にして中国当局が『意図的な株価の下支え』と『人民元安阻止と外貨準備減少阻止の同時実現のための資金の国外流出に対する強制的な規制』を強めている。」ことを表している可能性があります。今のところまではなんとか「もたせる」ことができていますが、このような「株価の下支え」や「強制的な資本規制」を秋の共産党大会まで続けることは相当に難しいのではないかと思われます。

 これらの懸念は、上記に日経新聞の記事をいくつか紹介しことでもわかるとおり、単に「私が気になっている」のではなく、日本経済新聞も同様の懸念を持っているようです。「日本経済新聞の懸念」を示す典型的な記事が昨日(2017年5月12日(金))の夕刊5面に並んで掲載されていました。ひとつは「アジア・ラウンドアップ」にあった「上海株、監督強化に揺れる」(NQN香港:柘植康文氏)とその下の「十字路」の欄にあった「日本のバブルと中国のバブル」(中前国際研究所代表中前忠氏)です。

 今、足元では上海株が連日「年初来安値」を続ける一方、香港ハンセン指数は「年初来高値」を続けています。本来、上海と香港の株式市場は両方とも同じように中国の景気動向を反映するならば株価も同じような動きをするはずですが、今は、上海と香港で株価が全く逆の動きをしているのです。この点について、上記の「上海株、監督強化に揺れる」の記事の中では、「当局の規制が及びにくい香港市場に資金を移す投資家は増えているようで、上海からの香港株の買越額は増加している。」と指摘されています。「日本経済新聞の懸念」と書きましたが、もしかすると中国人投資家自身も同じような懸念を持っているのかもしれません。

 「日本経済新聞の懸念」即ち「市場動向を無視した政治的意図による無理な『下支え』の継続は難しく、2017年後半は、秋の党大会というビッグ・イベント前後を切っ掛けとして中国経済が大きく後退する」という懸念は、かなり広く共有されているのかもしれません。今日(2017年5月13日(土))付け日経新聞朝刊7面の日本の企業の決算の状況を伝える記事においては「企業、中国景気に懸念」という見出しが付いていました。

 報道によれば、「一帯一路フォーラム」に参加する日本の代表団のヘッドである自民党の二階幹事長は、明日(5月14日(日))、習近平主席と会談できるよう最終調整の段階にある、とのことです。二階幹事長は、安倍総理の親書を携えて行っているようですし、会談できれば日中関係にとってよいことだと思います。冒頭に書いたように中国が「一帯一路国際フォーラム」を成功裡に開催すること自体は悪い話ではないと思います。ただ、中国が「一帯一路国際フォーラム」というイベントをうまく成功させるために、無理をして株式市場を支えており、無理を承知で資本規制で外貨準備を減らさずに人民元安を防いでいるのだとしたら、後から来る「市場からのしっぺ返し」には警戒しておく必要があると思います。特にこうした「無理」を秋の党大会まで続けることは非常に難しいと思うので、「無理がたたった市場からのしっぺ返し」が党大会の前に発生して、党大会へ向けて中国が政治的に混乱する、というようなことにはなって欲しくないと思います。

 私の場合、ちょうど10年前には北京に駐在していたので、どうしても「10年前(2007年)と今(2017年)を比較した話」が多くなります。今、一番重要なのは、2008年にアメリカ発のリーマン・ショックで世界経済が危機に陥った時、中国は四兆元の大型経済対策で世界経済を救いましたが、もし2017年に中国発の世界経済危機が発生したとしても、アメリカには世界経済を救う力はない(というか「アメリカだけよければ」の発想で世界経済を救うつもりはない)だろうということです。もっとも、それよりも最悪なのは「中国経済がコケる前にアメリカのトランプ大統領がコケること」ですが、それだけはぜひとも避けて欲しいと思います。

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2017年5月 6日 (土)

中国のマンション市場に「状況変化」の気配

 人民日報ホームページ「人民網」の「財経チャンネル」では、メーデー連休期間中のマンション販売動向に関するいくつかの記事が載っていました。例えば以下の二つです。

○2017年5月2日アップ:経済参考報の記事「四つの制限がメーデー連休期間中のマンション市場を二分化:大都市(第一線都市)は様子見、中小都市(二、三線級都市)は依然としてホットなまま」

○2017年5月3日アップ:人民日報海外版の記事「マンション市場の『冷熱』局面が静かに逆転 『悪循環』の打破が招くもの」

 記事末の「編集責任者」の欄に同一人物の名前が載っているので、これらは同じ系統の記事だと思います。

 これらの記事では、概ね以下のような点を報じています。

○マンション・バブルを防ぐための政策(「購入制限」「住宅ローンに対する制限」「価格制限」「販売量の制限」の「四限」)により、メーデー連休期間は北京のマンション市場にとっては冷めた連休期間となった。

○中国のマンション市場は「両高」:即ち、一方で大都市(一二線都市)ではマンション価格が高い一方、中小都市(三四線都市)ではマンションの在庫レベルが高い、という状況だった。しかし、今年のメーデー連休期間は、この「氷と火」の局面に逆転現象が起きている。

○例えば、北京やアモイでは様子見状態(中国語で「観望」)になりマンション成約が減った一方、鄭州では寝袋を持ってマンション販売に並ぶ行列が連夜見られた。

○あるデータによれば、2017年第一四半期、大都市(一線都市)の新築マンション成約数は対前年同期比16.3%減少したのに対し、小都市(三線都市)では35.84%増加した。価格については、3月17日にマンション販売規制が強化された北京では、18か月間で初めて下落したのに対し、3月のマンション価格は(中小都市である)広東省清遠では18.28%上昇し、福建省ショウ州(「ショウ」はさんずいに「章」)では15.76%上昇した。

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 このように、現在の中国では、マンション市場が過熱した地域では政策的な制限が掛けられて熱が冷めつつある一方、在庫が多い中小都市では販売の過熱と価格の上昇が同時に起きているようです(この記事では、例として、江蘇省の南京都市圏にある鎮江では、まだマンション政策が相対的に緩やかであるため、多くの専門家が鎮江地区のマンション価格は今後上昇すると見ていることを紹介しています。北京に二回、合計四年以上駐在していた私ですら名前を聞いたこともない小さな都市のマンション価格が急上昇している、という現状は、やはり「大丈夫かなぁ」と思わせますね)。

 このような状況について、北京科技大学管理学院経済貿易系の何維達主任は、各地方ごとの状況に応じた対応政策について、「一つの都市ごとに一つの政策といった『対症療法的服薬』が必要である」と述べています。

 一方、あるアナリストは、「引き締め」と「緩和」を繰り返す周期的な政策の変化は短期的な応急手段に過ぎず、マンション市場の周期的な「悪循環」から抜け出すためには、真に長期的に効果のある規制が必要である、と述べています。これに関して、何維達主任は、「長期的に効果のある規制」とは何かあるひとつの政策を指すのではなく、全国的な不動産情報ネットワークの確立や金融政策・財政税制政策の総合利用を含む一連の系統的な政策群である、と述べています。

 記事の最後では、「例えば、固定資産税のような科学的な徴税によって投機のためのコストを収益よりも大きくすることによって、マンションを『(投機のためのものではなく)真に住むためのもの』に回帰させなければならない」と述べています。

 この最後の文章に見られるように、記事は極めて冷静で「まとも」なのですが、3月の「全人代」では「固定資産税(マンション保有税)」については議論されませんでした。「全人代」で票決を行う「全国人民代表」は「全国の人民の代表」ではなく、その多くがマンション所有者で、マンション保有税には反対だと思われるので、たぶん何年待っても「マンション保有税」はできないと思います。なので、いくら経済学者や「人民日報」の記者が「まともな」議論を展開しても、中国のマンション市場の問題を解決する政策はいつまで待っても出てこないと思います。

 中国のマンション・バブルの問題を考える時、「最も有効な手段はわかっているが、その有効な手段は講じられることはない」という現状を改めて認識する必要があると思います。

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 上に書いたように、この記事では、このメーデー連休期間中、北京やアモイでは「様子見状態」(中国語で「観望」)になっている、と指摘されています。私が「観望」という単語を知ったのは、2007年の北京駐在時のマンション・バブルの時期でした(このブログの2007年12月22日付け記事「中国の不動産ブームはピークを越えたのか?」参照)。

 2007年の頃も「今の中国のマンション市場はバブルではないのか?」と言われていました(2007年12月頃に一度ピークを打ってその後価格は下がったが、ほどなく上昇に転じ、「バブル的状況」は現在に至るまで続いている)。2007年の頃と今(2017年)の違いは以下のとおりです。

○2007年前後のマンション価格のピークは、党大会(2007年10月)後の2007年12月頃だったが、今(2017年)は、秋に開かれる予定の党大会の半年前の時点で既に一部の地域でピークを打つ兆候が出ている。

○2007年のマンション市場の過熱は北京や上海などの大都市に関するものであり、中小都市(三四線都市)ではマンション建設は問題とはなっていなかった。一方、2017年は、大都市(一二線都市)と中小都市(三四線都市)の両方で、事情が異なる中、マンション市場が過熱化しており、マーケット状況は非常に複雑化している。

○2007年の時点では、翌2008年に北京オリンピック、2010年に上海万博を控えており、マンション以外にも投資先がたくさんあった。一方、人民元には先高感があり、外国から中国への資金流入圧力が強かった。2017年は、鉄鋼業・石炭産業等において過剰生産設備が問題となっているなど、中国国内の有望な投資先は少ない。2017年は、人民元には先安感があり、中国から外国への資金流出圧力が強いが、急激な人民元安と資金の海外流出を防ぐため、当局が資金流出規制を強力に実施しており、行き先のない資金がマンションや株などの市場に滞留している。

(注)中国共産党が先に打ち出した河北省の新副都心「雄安新区」のプロジェクトは、10年前にあった北京オリンピックや上海万博のような「投資案件」を作り出そうとする意図が背景にあると思われます。実際、上記に紹介した記事では、「雄安新区」設置の発表後、充電した携帯電話の電池パックを1日で2個使い切ってしまったという河北省の不動産業者の話を紹介しています。

○(この点が最も重要)2008年の北京オリンピック終了の後にはバブルがはじけるのではないかという懸念があったが、たまたまこの時期にアメリカで発生したリーマン・ショックによる世界的経済危機対応のため、中国政府は2008年11月に四兆元の大規模経済対策を打ち出したため、2007年前後の「バブル的状況」ははじけることなく「先送り」となった。しかし、2017年は、おそらく2008年にあったような「バブル的状況を先送りすることを許す状況」は起きないだろうと思われる。

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 上に述べたように、10年前の中国共産党大会があった2007年頃の「バブル的状況」と比較して、今年(2017年)の中国共産党大会を前にしての「バブル的状況」の危険性は格段に大きいと言えます。今日(2017年5月6日(土))付け日本経済新聞朝刊の1面トップ記事は「中国バブル再び 資本規制、マネー氾濫 上海住宅・年収の20倍超 最盛期の東京上回る」でした。おそらく日本経済新聞社の方々も「中国バブルの危険性」について、相当に危機感を持っているのでしょう。

 明日(2017年5月7日)、フランス大統領選挙の決戦投票がありますが、今年2017年は今までいろいろありましたが、やはり世界経済の最大のリスク要因は、フランス大統領選挙でも、トランプ大統領でも北朝鮮問題でもなく、「中国経済のバブルがどうなるか」なのかもしれません。目先の不安要素に右往左往することなく、もう一度中国のバブルの状況をチェックしよう、というのが、おそらくは今日の日経新聞1面トップ記事の意図なのだと思います。

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2017年4月29日 (土)

中国共産党政治局で金融安全について議論

 中国共産党中央は4月25日(火)に政治局会議を開きましたが、同じ日に開催された「集団学習会」において、金融安全を維持するための政策についての議論も行われました。中国共産党中央は、政治局会議を開催してなにがしかの決定を行った同じ日に、「集団学習会」を開いて、特定の政策トピックに関して議論することがよくあります(というか、それが通例)。取り上げた政策トピックについて、政治局員どうしで認識共有を図る、という意味もあるのでしょうが、議論されたことを報道することによって、現在、党中央がどういう政策トピックについて関心を持って議論しているかを全国人民に知らせる、という意味もあると思います。

 その意味で「金融安全を維持するための政策」が議論され、そのことがテレビや「人民日報」で報道されたことは重要だと思います。中国共産党中央が国内に対し「党中央は金融リスクに対して十分に議論しており、必要があれば適切な政策を採る用意がある」とのメッセージを出した、と考えられるからです(実際、この報道を受けて、株に関する管理監督が強化されるのではないか、との懸念から、一時、上海総合指数が下げる場面がありました)。

 この「集団学習会」においては、中国人民銀行総裁、中国銀行業監督管理委員会主席、中国証券監督管理委員会主席及び中国保険監督管理委員会主席が報告を行い、議論が行われました。

 「人民日報」の4月26日付けの記事によれば、この「集団学習会」で習近平総書記は以下のように述べた、とのことです。

○2012年の第18回党大会以来、我々は繰り返し金融リスクをコントロールすることに重要な位置付けを与えることを強調し、システミック・リスクを発生させないという最低限のラインを断固として守り、一連の金融監督管理強化の措置を採り、金融リスクを防ぎ・緩和させ、金融の安全と安定を維持し、発展の大勢を維持しなければならない、と強調してきた。

○総体的に見て、我が国の金融状況は良好であり、金融リスクはコントロール可能である。同時に、国際経済・国内経済において下押し圧力要素が存在するという総合的な影響の下、我が国の金融の発展は、少なからずリスクと挑戦に直面している。経済のグローバル化がさらに深化し発展している今日、国外に影響を与える金融危機が突発するという国際金融リスクは依然として小さくない。ひとつの国の貨幣政策・財政政策の調整が外国に影響を与えるリスクとなり、我が国の金融安全に対して外部からの衝撃を与えることになる可能性もある。金融リスクが存在するという点について、我々はしっかりと認識し、リスクに備える意識を強めなければならない。

 ここの部分については、今、アメリカFRBが利上げを続けようとしており(量的緩和で拡大したFRB資産の縮小についても議論が始められており)、量的金融緩和を続けるヨーロッパ中央銀行においても資産縮小の議論がそのうち始まるかもしれず、量的質的金融緩和を続ける日本銀行も(黒田総裁はいまだに「時期尚早」と言い続けているが)そのうち「出口」を議論せざるを得ない状況になるだろうという現時点において、そうした状況を中国もよくわかっており、外国の金融政策が中国に与えるインパクトに対しても中国共産党は十分備えている、と表明している点で、極めて重要だと私は思います。

 習近平総書記は、この「集団学習会」で、金融安全に関する下記の6項目の対策を指示しています。

○金融改革の深化、金融業会社のガバナンス改革など

○金融に対する管理・監督の強化

○リスク対策処置の実施(レバレッジ率のコントロール、市場における違法・規律違反行為の取り締まりの強化など)

○実体経済のための良好な金融環境の創造

○指導幹部層の金融政策能力の向上

○党による金融政策に対する指導の強化

 具体的に何をやるかはあまり明確ではないのですが、上の四つは、日本を含めた「普通の国」の金融のための政策とそれほど違うものではないと思います。一方、最後の二つは中国ならではのものだと思います。「指導幹部層の金融政策能力の向上」とは、地方政府や国有企業の幹部が金融リスクを顧みずに「ハイリスク・ハイリターン」の投資を行わないようによく勉強させることを意味しているのだと思うし、最後の「党による金融政策に対する指導の強化」は、地方政府や国有企業が党中央の意志に反して金儲けのためにハイリスクの政策運営・企業経営をやらないように党中央がしっかり監視するぞ、という意味だと思います。

 最後の2項目に関して、地方政府との関係については、習近平総書記が最後に述べた次の表現に凝縮されていると思います。

「各レベルの地方の党委員会と地方政府は、中央の決定に従って、それぞれの地区の金融の発展と安定のための政策をうまくやらなければならず、それぞれの地域に対する責任を持って、全国全体としての金融リスク防止体制を形成しなければならない。」

 要するに、各地方政府(及び地方の中国共産党幹部)は、各地方の利益のために勝手に動かないで、きちんと党中央の言うことを聞けよ、ということです。これは、逆に言えば、今、各地方が党中央の言うことを無視して勝手に動いていて困っている、という現状を表しているのだと思います。

 総論の中で習近平総書記は、外国の金融政策変更が中国に与えるインパクトについて指摘していますが、個々の項目の中に「レバレッジ率のコントロール」なども含まれていることを考えると、この日の「金融安全に関する集団学習会」開催の背景には、中国国内における経済のバブル化に対する危機意識があったことは間違いないと思います。それを考えると、今回の「集団学習会」で習近平総書記が示した「6項目の指示」は、私には、1990年3月に日本の大蔵省(当時)が出した「土地取引に関する総量規制」の行政指導がだぶって見えます。1990年3月の「土地取引に関する総量規制」の行政指導は、バブル対策だったのですけれども、後から見ると日本のバブルをはじけさせる切っ掛けであったとも言われています。

 今日(2017年4月29日(土)から、中国ではメーデーの春の連休期間に入ります。中国共産党が金融安全に対する集団学習会をメーデーの連休期間の直前というタイミングで開いたのは、金融機関や企業が休みになるのであわてて過激な反応することのないタイミングで「バブル対策をやるぞ」というメッセージを出すことにより、市場が冷静に受け止める時間を稼いだ高等戦術だった、と言えるかもしれません(たぶん、それは考え過ぎだと思いますけど)。

 いずれにせよ、秋の党大会へ向けて、いかにバブルをはじけさせることなく、やわらかくバブルの過熱を防ぐ方策を採っていくか、中国共産党にとっては、非常に微妙な舵取りを余儀なくされる難しい日々が続くと思います。

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2017年4月22日 (土)

李克強総理のテレビ登場が減ったと思っていたら

 今日(2017年4月22日(土))の「人民日報」1面トップ記事は、習近平主席が広西チワン族自治区を視察した時の様子を伝えるものでした。昨日(4月21日(金))の中国中央電視台の夜7時のニュース「新聞聯播」のトップ・ニュースも同じネタでした。中国では、国家指導者が地方を視察し、地元住民と言葉を交わす様子が「人民日報」に掲載されたり、テレビ・ニュースで報道されたりすることは、しょっちゅうあることですが、そこでちょっと気になったのは、中国共産党ナンバー2の李克強総理の地方視察のニュースを最近見てないなぁ、ということでした。

 中国共産党政治局常務委員(現在は7人)の日々の動向の記録は、「中国共産党新聞」のホームページの「高層動態」というところに載っているので、そこでチェックできます。そこには「会議への出席」「重要講話」「視察」「外国要人との会談」などの項目が載っています。そこで李克強総理のところをチェックしたら、李克強氏の前回の地方視察は、今年1月の雲南省、その前は去年10月のアモイ、その前は去年8月の江西省、その前は去年7月の湖北省武漢でした。一方、習近平主席は、前回は今年2月の北京(北京市南方の新空港建設現場への視察)、その前は今年1月の河北省張家口(2022年の冬のオリンピック・パラリンピック準備状況の視察)、その前は去年8月の青海省、その前は去年7月の河北省唐山でした。

 回数からすると、李克強氏、習近平氏ともにそれほど違いはないのですが、李克強氏の去年10月のアモイ訪問は、何かのセレモニーのついでの視察したので、「純粋な地方視察」ではなかったのと、今年に入ってからは習近平氏の方の地方視察ばかりが続いたので、私は「最近は、地方視察は習近平主席ばかりで、李克強総理の地方視察はあまり見ていないなぁ」という印象を持ってしまったようです。

 それに、これまでは李克強総理の「指定席」のようになっていた毎年冬にスイスで開かれるダボス会議(世界経済フォーラム)には今年は習近平主席が出席したし、毎年3月に海南島で開かれるボアオ・アジア・フォーラムには今年は張高麗副総理が出席したので、李克強総理の出番が減ったなぁ、という印象を私は持ったのでした。

 李克強総理は、3月の全人代では、政府活動報告や内外記者会見をこなしたし、3月にはオーストラリア・ニュージーランド訪問をやっていますし、原則毎週やっている国務院常務委員会を主宰していますので、テレビに登場しなくなったわけではないのですが、私には、李克強氏は、なんとなく「中国共産党ナンバー2」ではなく、「習近平氏ではない政治局常務委員の一人」になってしまったように感じられるようになりました。

 もう一つ言えば、毎年恒例の「植樹イベント」に李克強氏が参加しなかったことが気になっていました。「新聞聯播」では、毎年3月下旬頃に、政治局常務委員全員が北京の郊外で青少年ボランティアと一緒に植樹するという「緑化推進イベント」のニュースを放映します。毎年この季節恒例のイベントで、単に「春になりましたねぇ」という以上のニュース価値はないと思うのですが、今年の「植樹イベント」では、李克強氏だけが欠席だったので、私は「なんか変だなぁ」と思ったのでした。李克強氏は、このときオーストラリア・ニュージーランド訪問中だったので、「植樹イベント」に欠席でも何の不思議もなかったのですが、もしこの「植樹イベント」に「いろいろ派閥争いはあるが、政治局常務委員は全員仲良く仕事をしていますよ」というメッセージを中国の全国人民に伝える意味があるのだとしたら、政治局常務委員全員が参加できる日に設定すべきだったと思います。なのに「植樹イベント」をわざわざ李克強氏が参加できない日に設定したことは、それなりの「意図」があったのだろうなぁ、と私は思ったのでした。

 私が2007年4月~2009年7月に北京に駐在していた頃は、当時の胡錦濤主席と温家宝総理は、だいたい同じくらいの頻度でテレビに登場していた記憶があるし、この二人は常に非常によいコミュニケーションを取っていて、協調して政権運営に当たっていた、という印象を私は持っていました。それに比べると、今の習近平主席・李克強総理の政権では、テレビのニュースを見ていると、だんだんに、習近平主席の比重は大きく、李克強総理の比重は小さくなってきているなぁ、というのが私の印象です。

 と、ここまで書いてきて、今、今日(4月22日(土))の「新聞聯播」を見ていたら(日本でも「スカパー!」で見られます)、トップは広西チュワン族自治区訪問中の習近平氏がこの地区に展開する軍の部隊を訪問するニュースでしたが、二番目のニュースは李克強総理が山東省を視察しているニュースでした。この二人はまたまた全く同時期に全く別の地方を視察したようです。上に書いたように、去年8月にも、習近平氏が青海省に、李克強氏が江西省に全く同じ時期に視察したことがあり、地方視察においても、「張り合う二人」の状況は変わっていないようです(胡錦濤・温家宝時代は、四川省大地震対応などの特殊な事情がある場合を除いては、二人が同時に北京を空けて地方を視察するということはありませんでした)。

 先日、「選挙」で香港行政長官に「選出」された林鄭月娥氏が北京に来た時も、習近平主席と李克強総理は別々に林鄭氏と会っており、二人の両方ともが「北京行政府のトップは私だ」と思っている状況は変わっていないようです。

 もっとも、習近平主席の広西チワン族自治区訪問については、昨日のニュースでは国家主席としての視察、今日のニュースでは中国共産党軍事委員会主席としての視察のニュースだったのに対し、李克強氏の山東省訪問についてのニュースはたぶん今日だけだと思うので、二人の間に「ニュースに登場する時間の差」は既に明らかについていると思います(ちなみに、今日(4月22日(土))の放送では、習近平氏のニュースが約6分間、李克強氏のニュースが約3分間でしたので、今の時点では既に「軍配」は習近平氏の方に上がっているようです)。

 もし、現時点で、「来年3月の全人代での李克強氏の国務院総理からの降板(おそらくは全人代常務委員会委員長(=名誉職的意味があるが行政権限としては国務院総理よりは影響力を行使できない)への転出)が「既に決まった路線」であるならば、李克強氏のテレビ・ニュースへの出方はもっと減っていると思うので、現時点では、実際、まだ決まっていないのかもしれません。だとすると、秋の党大会本番まで、まだ「揉める」可能性もあるわけで、中国の政治情勢はまだ目が離せないようです(李克強氏が来年(2018年)以降も国務院総理を続けるかどうかの「結論」については、たぶん引退した幹部らも参加する8月の「北戴河会議」が最後の「ヤマ場」になるのでしょう)。

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2017年4月15日 (土)

「雄安新区」は21世紀版の「都(みやこ)造り」

 「人民日報」では、北京の「非首都機能」を移転して河北省に新しい都市「雄安新区」を設置するプロジェクトについて、昨日(2017年4月14日)も今日(4月15日)も大きく紙面を割いて解説記事を載せていました。昨日は、1面トップと2面の全部を使って「雄安新区」設立決定に至る中国共産党内での議論について長々と解説していましたし、今日は、2面の3分の1を使って「雄安新区」に関する張高麗副総理へのインタビュー記事を掲載していました。

 昨日(4月14日)付けの記事で私が印象に残ったのは、以下の記述です。

「構想の一番上にあるのは、志は千年にある、ということ。

西暦1153年、金は燕京(北京の旧名)に都を置き、北京という都市の860年以上の都(みやこ)としての歴史を開始させた。

西暦2017年、河北省の雄安新区の計画が決まり、北京という都市のさらに新しい一ページが開かれることになる。」

「『このことは確実に千年の大計、国家の大事である』。北京の副都心と雄安新区の計画的建設は、千年の歴史の検証を通じて行われなければならず、これは我々の世代の中国共産党の人々が子孫の代に対して遺す歴史的遺産である、と習近平氏は強調した。」

 この記事の後の方に、外国における新都市建設の例のひとつとして、日本の筑波研究学園都市も掲げられているのですが、日本が筑波に研究学園都市を作った時には、上に紹介した「人民日報」の記事が書いているような「千年の大計、国家の大事」と強調するほどに「大げさな」表現は使わなかったと思うなぁ、と私は感じました。

 上の記事にも垣間見えますが、この「雄安新区」という都市建設プロジェクトは、習近平氏のリーダーシップで打ち立てられた、ということが相当強く強調されています。

 今日(4月15日)付け「人民日報」紙面にある張高麗副総理に対するインタビュー記事で、張高麗氏は、次のように「習近平総書記自らが・・・」と何度も繰り返して強調しています。

 「『雄安新区』設立の決定は、習近平総書記自らが企画し、自らの決定の下で推進し、習近平主席自らが大いに心血を注いだものであり、習近平総書記の本件を担当する使命感と深い戦略的眼光と超越的な政治的知恵とを大いに体現したものである。」

 「自らが・・・」の部分は、中国語では「親自」ですが、日本語としては「御自ら(おんみずから)」と訳した方がいいのかもしれませんね。ここの部分「偉大なる習近平総書記様が、おそれおおいことに、御自らの手で進められまして・・・」というふうに聞こえるので、ちょっと鼻白む感じもします。

 昨日(4月14日)の「人民日報」の1面トップの記事では、習近平総書記自身が「雄安新区」の現地で大きな地図を前に回りの人たちに指差して指示している写真が掲載されています。時期が時期だけに、私は、この写真を見て「習近平総書記は、北朝鮮のキム・ジョンウン委員長と同じになってしまったのか」と思わずため息が出てしまいました(1980年代の改革・開放政策初期の中国を知る私は「中国は近代的な国家として歩み始めており、北朝鮮とは全然違うのだ」と信じていたいのですけどね)。

 古今東西、政治家が自らの権力掌握を誇示するために「都(みやこ)造り」を発案し、実行することはよくあることです。日本では、平城京、平安京への遷都や平清盛の福原遷都もそうでしょう。明治政府が京都から東京に首都を移したのも、同じ発想でしょう。中国の歴史でもそうした例は山ほどありますが、一番目に付くのは、やはり明王朝の三代目・永楽帝(明の創始者・洪武帝の四男)が都を南京から今の北京に遷したことでしょうね。永楽帝は、初代・洪武帝の長男の子の二代・建文帝と戦って帝位を得ましたが、自らの権力掌握を誇示するために、南京にあった首都を自らの勢力基盤のあった北京に遷したのでした。

 「雄安新区」については、「(トウ小平氏の)深セン特区、(江沢民氏の)上海浦東新区に次ぐ国家的都市建設」と強調されています。同じ「三代目」なので、中国共産党自身が「雄安新区」の設立について、明の永楽帝による北京遷都を意識している可能性があります。中国共産党総書記には、トウ小平氏時代の胡耀邦・趙紫陽氏の後は、江沢民氏、胡錦濤氏、習近平氏が順に就任しています。1989年の「六四天安門事件」で失脚した趙紫陽氏は「いないこと」になっていると考えれば、習近平氏は「四代目」です。ここで「トウ小平時代、江沢民時代に次いで三代目」と強調することは、暗に「三代目の胡錦濤氏は後世に残る実績を残さなかったのでいなかったのと同じ」と主張しているようにも見えるので、習近平氏が設立を決めた「雄安新区」について「三つ目」を強調するのは、政治的に大きな意味があるのかもしれません(胡錦濤氏及び胡錦濤氏に近い勢力(=李克強総理も含む))は、いないのと同じですよ、と聞こえるので)。

 永楽帝は、政敵を残虐に粛清するとともに明の版図を当時としては最大に拡大し、海洋についても宦官の鄭和に大航海を命じるなど、陸と海において中国の勢力圏を大いに広めた皇帝として有名です。腐敗した勢力を徹底的に排除し、周辺諸国に中国の影響力を誇示する「一帯一路」構想に熱心なところをみると、もしかすると習近平氏は、本気で自らを永楽帝になぞらえようとしているのかもしれません。

 上に紹介した張高麗副首相の発言で「習近平総書記自らが・・・」と何回も強調しているところは、自分の上司におべっかを使っているようにも聞こえますが、別の見方をすれば、「雄安新区」のプロジェクトが仮にうまく行かなかったらそれは習近平氏お一人の責任ですからね(中国共産党全体の失策ではない)、と念を押しているようにも聞こえます。

 習近平氏の代になってから、全人代などの会議で総書記が座る席は、中央の階段の前になりました。以前は、総書記を真正面からカメラで捉えると、後列に座っている政治局員の顔が複数映っていたのですが、今の総書記の席は階段の前なので、習近平氏の後ろには階段が見えるだけで、他の中国共産党幹部の顔はカメラのフレームには入ってきません。「習近平氏は他の中国共産党幹部とは別格で偉いのだ」というイメージを作りたいのかもしれませんが、私には「習近平氏がふと振り向くと、後ろには誰もいなかったのだった」という状況なのだ、というふうに見えてしまいます。習近平氏が皇帝のように権力を集中させることは、逆に何か情勢が変化した時に自分だけが孤立してしまう(面従腹背だった取り巻き連中が途端にそっぽを向く)危険性をはらんでいると思います。

 「一帯一路」「中華民族の偉大な復活」を強調し続ける中で、今回「雄安新区」を「千年大計・国家大事」と強調している状況を見てみると、習近平氏は、まるで中華人民共和国を明・清の時代の「中華帝国」にし、自らがその「皇帝」になろうとしているように見えます。しかし、おそらく21世紀という時代に生きる中国人民は、「中華帝国」や「皇帝」の復活は認めないと思います。習近平氏は、そのあたりはよくわかっていると思いますが、ぜひ21世紀という現代にマッチした政治を遂行して欲しいと思います。

(注)「雄安新区」に関しては、李克強総理の影が非常に薄いことも重要です。「雄安新区」の推進は、秋の中国共産党大会へ向けて、李克強氏のフェード・アウト(段階的引退)のためのひとつの動きの一環である可能性があります。

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2017年4月 8日 (土)

「雄安新区」は「最後のバブル先送り策」か

 日本時間の今朝(2017年4月8日朝)まで、アメリカのフロリダで二日間にわたって米中首脳会談が開かれていました。おそらく習近平主席としては、ここでトランプ大統領と二人並んでテレビの前に登場することにより、「これからの世界はこの二つの大国がリードしていくのだ」と示したかったのだと思います。ところが、まさに習近平主席との夕食会をやっている最中にトランプ大統領は化学兵器を使用したとしてシリアにミサイル攻撃を実施し、世界の目は習近平主席との米中首脳会談よりもシリア情勢の方に向いてしまいました。習近平主席はタイミング的に「運が悪かった」と言えますが、心の中では「トランプ大統領にメンツを潰された」と感じたと思います。

 今回の米中首脳会談では、会談終了後の共同記者会見はありませんでした。通常、政治家は、会談の成果を自国民にアピールしたいと思うのが普通で、そのための舞台装置として、会談後の共同記者会見は重要なイベントであるはずです。それが今回共同記者会見が設定されなかったのは、中国側が首脳会談中のシリアへのミサイル攻撃を快く思わなかったためかもしれません(共同記者会見を開かないことにより、中国側は国際社会に対してアメリカによるシリアへのミサイル攻撃に賛成しない、との意思表示をした、とも捉えられると思います)。

 また、報道によれば、米中貿易問題については、両首脳は中国の対米貿易黒字是正に関して議論する「100日計画」の設置で合意した、とのことです。表面上は、習近平主席がトランプ大統領の要請を受け入れた格好になっており、習近平主席がトランプ大統領から「一本取った」という部分はなかったように見えます。

 こうした結果を見ると、習近平主席にとっては、今回のトランプ大統領との会談については、当初中国国内向けにアピールしたいと考えていた「米中首脳会談の成果」はあまり得られなかったのではないかと思います(実際、今日(4月8日)の中国中央電視台夜7時のニュース「新聞聯播」では、米中首脳会談関連のニュースは、夫人の活動の部分も含めて9分間程度であり、習近平主席の主要国訪問時のニュースにしては異様に短かったと私は感じました。イギリス訪問時には、いつもの放送時間(30分間)を延長して長々報じていた記憶があります)。

 今回の米中首脳会談は、おそらくは中国側から会談実現を要望したものと思われますが、習近平主席がこの時期にトランプ大統領に会いたいと考えたのは、国内的に、今年秋に開かれる中国共産党大会へ向けて、外交面で成果を上げ、自分の存在感をよりいっそうアピールしたかったからだと思います。

 同じ理由で国内政策の面でも習近平主席のリーダーシップを強調するのを目的とするような決定が先週なされました。それは、4月1日に中国共産党中央と国務院が決定した「雄安新区設立の決定」です。この決定は、肥大化する北京の政治的首都機能以外の機能を分散させるため、北京の南に位置する河北省の雄県、容城、安新の三つの県と周辺地区に新しい都市を建設する、というものです。

 「雄安新区」の具体的な姿はまだ必ずしも明確ではありませんが、「人民日報」の記事によると、以下のようなキーワードがちりばめられています。

○「世界一流の」「グリーンで」「近代的な」「インテリジェントな(中国語で「知恵」)」都市を建設する。

○生態環境に優れ、青と緑が織りなす、清新で明るい、水と都市が融合した生態都市(エコ・シティ)を造る。

○先端的で高度な新産業を発展させ、イノベーションの基となる資源を集積し、新しい運動エネルギーを培う。

○優れた公共サービスを提供し、優れた公共施設を建設し、都市管理の新しいモデルを創る。

○高速・高効率交通網を整備し、グリーンな交通体系を打ち立てる。

○規制改革を行い、資源配分においてマーケット・メカニズムに力を発揮させるとともに、政府の役割をよりよく発揮させ、市場活力の活性化を図る。

○全方位に対外開放を拡大し、新しく高度な開放を拡大して、外国との協力の新しいプラットフォームを造る。

 これらのキーワードから想像するに、例えば日本の筑波研究学園都市や韓国のテジョン(太田)広域市のように大学や政府系研究機関を政策的に集中立地することにより、先端産業の企業が立地するような都市を目指すのかもしれません。

 北京では、市の北西部に位置する北京大学・清華大学のキャンパスとその周辺の中国科学院の研究所群を中心にハイテク企業等が急速に集積するようになった中関村地区が既に有名です。しかし、北京は街全体が「世界遺産」みたいな街ですので、中心部(第二環状路の内側)では高層ビルの建設が制限されていますし、東京の首都高のような高速道路も作れません(日本では京都を想像するとよいと思います)。従って、北京の市街地周辺では発展の余地が限られるので、北京の市街地の南方に新しい空港を建設中であることも考慮して、北京南方の河北省の平原地帯に人工的に新しい都市を作ろうという考えなのかもしれません。

 こうした新しい都市を作るという政策は、悪くない考え方ですし、あってもいいと思うのですが、打ち出し方がかなり「わざとらしいくらい大仰」です。「大仰さ」をわかってもらうために、決定を報じる4月2日付け「人民日報」1面の記事の冒頭をそのまま訳してみましょう(「2017年4月1日北京発新華社電」です)。

「数日前、中国共産党中央と国務院は、河北雄安新区の設立を決定したとの通知を発した。これは、習近平同志を核心とする党中央が作り出したひとつの重大な歴史的戦略の選択であり、深セン経済特区と上海浦東新区に続く全国的に意義のある新区であり、千年の大計、国家の大事である。」

 ここの部分について、日本の新聞などは、「習近平同志を核心とする党中央」というフレーズを使うとともに、1980年代にトウ小平氏が設立を決めた深セン経済特区と1990年代に江沢民氏が設立を決めた上海浦東新区に次ぐ新区、と表現することにより、習近平主席がトウ小平氏、江沢民氏に次ぐ偉大な指導者なのだ、ということを強調するものだ、と論じています。私の個人的な感覚としては、この新区建設は確かに巨大なプロジェクトだとは思いますが「千年の大計、国家の大事」というのは、さすがに大げさ過ぎる表現だと思います。まるで、習近平主席を、南京から北京に首都を移した明の第三代皇帝・永楽帝になぞらえているように見えます。

 「人民日報」は、4月2日付け紙面の1面で「雄安新区」の設立決定を伝えて以降、今日(4月8日)付け紙面まで、連日「雄安新区」に関する解説記事を掲載しています。「新しい開発区の設立を決定した」というニュースにしては「人民日報」の扱いが「重すぎる」ことは、この「雄安新区設立」は、日本の新聞が解説しているように、「習近平主席のリーダーシップを強調する」という政治的目的が強いことを示していると思います。

 中国では、4月4日まで「清明節」の連休でしたが、連休明けの上海株式市場は、この「雄安新区」設立決定をはやして連日上昇しました。ロシア・サンクトペテルブルクでの地下鉄爆破テロや北朝鮮による弾道ミサイル発射、さらにはアメリカによるシリアへのミサイル攻撃があり、日本の株式市場は右往左往して株価は相当に下げましたが、上海の株式市場は、世界の動きとは関係なく上昇しました。「雄安新区」という「新しい金の成る木」が相当にうれしかったようです(というか、習近平政権は意図的にそういう株価上昇を狙ったのでしょう。トランプ大統領との会談を前にして株価が下がったのでは、習近平主席の立つ瀬がありませんので。本来ならば、併せてトランプ大統領との首脳会談の成功を大々的に宣伝したかったのでしょうが、米中首脳会談の方は冒頭に書いたように習近平主席の思うようには運ばなかったようです)。

 一方、「雄安新区」設立決定の発表により、関連地区では有象無象の不動産投機マネーが動き始めているようです。報道によれば、張高麗副首相は、「雄安新区」地域での不動産開発を厳しく管理するよう指示した、とのことです。ただ、2008年11月のリーマン・ショック対策のために実施した「四兆元の経済対策」の時も、始めた時は「バブルにならないように厳しく管理する」と言っていましたが、結局はバブル化しましたので、今回の「雄安新区」も「新しいバブルのネタ」になることは間違いないと思います。

 私は、2008年の「四兆元の経済対策」が発表された時「史上最大のバブルの予感」と書きました(このブログの2008年11月28日付け記事「『史上最大のバブル』の予感」参照)。「四兆元の経済対策」の結果として肥大化した鉄鋼業やセメント業については、去年(2016年)3月の全人代の段階では「生産能力過剰産業の削減」を強く打ち出しましたが、今年秋の党大会を前にして大規模な人員削減をするわけにもいかず、結局は「次のバブルの計画」を打ち出すことによって、2008年から始まったバブルの問題を先送りすることにした、と言えると思います。

 今まで中国はこうした「バブルの先送り」を過去に何回もやってきましたので、「あ、またか」という気もしないでもないのですが、さすがに今回の「雄安新区」は「最後のバブル先送り策」になると私は思います。その理由は、中国の人々自身がこの「雄安新区」の設立について「問題となっているバブルを先送りするためのものだ」と考えていると思われるからです。

 4月6日付け「人民日報」3面には「雄安新区」に関する河北省党書記の趙克志氏の話が掲載されていますが、趙克志書記はわざわざ「新区は、イノベーションの盛んな地域になるのであって、不動産で投機をやったり金儲けをしたりする場所ではない」と発言しています(後半部分の中国語は「不是炒房淘金的地方」。「房」はマンション、「炒」は「中華鍋で炒めるように売ったり買ったりすること」。「淘金」は砂金を探すこと。)。河北省党書記がわざわざこう言っている(かつ、それを「人民日報」が掲載している)ということは、中国の人々の多くが「雄安新区」は、マンションで投機したり、金儲けをしたりする場所だと思っているからでしょう。

 東京オリンピック・パラリンピックの次は万博だ、カジノだと言っている日本もエライコトは言えないのですが、「雄安新区」のような「土地開発」にばかり力を入れているようでは、中国経済の先行きはないと思います。過去の膨大な「土地開発」に投入された資金が「借金」として積み上がっていて全然回収される見込みのない現状において、また新たに巨大な「雄安新区」の構想を打ち出してどうしようというのでしょうか。今年秋の共産党大会までは、中国の人々は「雄安新区」がバラまいた夢を見ながら過ごすのでしょうが、共産党大会が終わって夢が覚めた時、中国経済がどうなるのか、相当に心配です。

 中国共産党の幹部の方々は「習近平主席は核心だ」と習近平氏をおだてておいて、バブルがはじけるタイミングになると「全ては習近平主席の指示だった。私はその指示に従っていただけだ。」と言って逃げることになるのかもしれませんね。「バブルの先送り策」がどうなるかについて最も用心しなければならないのは、もしかすると習近平主席自身なのかもしれません。

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2017年4月 1日 (土)

香港「残された時間」の5分の2が既に経過

 先週の日曜日(2017年3月26日)に行われた選挙人による選挙において香港の行政長官に林鄭月娥氏が当選しました。北京政府が林鄭氏を支持していたと伝えられていましたので「予想通り」の結果でした。

 香港は1997年にイギリスから中国に返還されました。香港返還を定めた1984年の中英共同声明においては「香港における資本主義制度は返還後50年間維持する」ことが合意されていました。今年(2017年)で、その「50年間」のうち5分の2が経過することになります。

 1980年代前半、サッチャー首相率いるイギリスと最高実力者トウ小平氏が牛耳っていた当時の中国とが香港返還について協議している頃、私は中国との通商貿易を担当する部署で仕事をしていましたが、当時は「香港が返還される1997年の50年後は2047年であり、その頃には世界も中国も想像できないほど変わっているだろう。だから、2047年の時点では、香港と大陸部の中国は円滑な形で融合することになるだろう。」と漫然と思っていました。世の中の多くの人は(香港に住んでいる人でさえ)そう思っていたのではないかと思います。

 しかし、中英共同声明で香港返還が合意されて今年で33年が経過しますが、中国と香港を取り巻く状況は全然進歩していません。

 10年前の2007年4月、私は二回目の北京駐在を開始しました。その時点ですら「10年経てば香港の状況は少しは変わるかもしれないなぁ。」とうっすらと思っていました。実際、2007年12月、全人代が「2017年の第5期の行政長官と全ての立法議会議員に対する直接選挙を実施することを認識した上で、2012年には行政長官と職能団体推薦枠議員に関する直接選挙は行わない」との決定を行ったことから、一部で、2017年には香港で住民による直接選挙が行われるのではないか、との期待が生まれました。

 しかし、2017年の行政長官選挙について、中国政府は住民による直接投票を実施する方針ではあったものの立候補者に対して様々な条件を課す方針だったため、「実質的な制限選挙だ」と反発する香港市民も多く、2014年秋の自由選挙を求める香港住民による「雨傘運動」を経て、結局は選挙方法の改正は行われず、2017年の行政長官選挙は従来通りの方法で行われました。こうした経緯を踏まえると、当面、香港における選挙は従来通りのやり方(一定の条件の下に立候補した候補者に対する選挙人による投票=住民による直接投票ではない)が継続する可能性が高まったと私は思います。結局のところ、中英共同声明が定めた「資本主義制度の維持」の期限である2047年まであと30年ですが、たぶんそれまで何も変わらないのかもしれません。

 1980年代と今とを比べると、旧ソ連は崩壊して冷戦は終わり、ヨーロッパでは今はイギリスがEUからの離脱を宣言し、自由主義経済の雄だと思っていたアメリカの大統領が今は保護主義を唱える時代になっています。世界はこれだけ激動しているのに「中国共産党が支配する中国」は本質的には全然変わっていません(もちろん中国は、経済的には発展し、社会は大きく変革しましたが、政治体制は基本的に全く微動だにしていません。逆に最近は習近平氏の「皇帝化」が進んでいて時代が逆行しているようにさえ感じます)。

 中国は大きな国ですので、変わるためには相当長い時間が必要なのかもしれません。例えば、1861年に西太后が清の実権を握りましたが、この時点で、既に列強各国による中国の半植民地化は進みつつあり、清朝の政権はもう長くはないような状況だったのに、実際に清朝が倒れたのは1911年の辛亥革命によってでした。西太后の権力掌握は50年近く続いたのでした。それを考えると、2047年までのこれからの30年間、香港の状況は本質的には何も変わらないまま継続するのかもしれません。

 問題は、今の状態が今後も相当期間変わらないだろうと思われる(しかも2047年以降はどうなるかわからない)香港の状況について、香港に住んでいる人々がどう考えるか、香港で経済活動を展開している外国企業がどう考えるか、です。一定程度の資産を持って香港経済を支えている香港の人の中には、2047年以降は、香港も大陸と同じような政治制度に組み込まれるのではないかと考えて、その前に香港を脱出しようと考えている人がいるかもしれません。また、今後、香港で活動する外国企業の中には「2047年以降」を見据えて、企業戦略を考え始めるところが出てきてもおかしくありません。

 幸か不幸か、香港に住んでいる人々は、自分たちと全く同じような文化を持った人々が台湾やシンガポールで自由な経済活動を享受していることをよく知っています。アメリカや日本にも中華系の経済人がたくさんいます。2047年へ向けて、今後、北京政府は「香港の大陸化」を進めて行くかもしれませんが、そういう圧力を強めれば強めるほど、特に経済的に力を持っている香港の人々(及び香港に拠点を置く外国企業)は、香港を離れて行ってしまうことになるでしょう。

 もしかすると、香港の人々にとっても北京政府にとっても、香港については「今と全く同じ状況が今後も(場合によっては2047年以降も)続く」ことが最も好ましい選択肢なのかもしれません。ただし、ヨーロッパやアメリカを含めた世界が少しずつ変化していく中で「あと何十年も今と同じ状態を続けること」が本当に中国と香港にとってよい選択肢なのかどうかはわかりません。

 少なくとも、私の個人的な感覚としては、「将来はきっとよい方向に変わるだろう」と思っていた1980年代の自分の気持ちと2017年の現実との違いを突きつけられて、相当に「残念だなぁ」という「気分」が強いことは否定はできません。私としては、やはり「未来は今よりきっとよくなる」と思い続けていたいと思うので。

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2017年3月25日 (土)

「北京のマンションは私には買えない」との記事

 「人民日報」のホームページ「人民網」の「財経チャンネル」に3月24日付けでアップされた「中国新聞ネット」の記事として「中国銀行業監督管理委員会の元副主席が語る:北京のマンションは私には買えない」というタイトルの記事が載っていました。

 この記事では、今日(2017年3月15日)から海南島で開催中の「ボアオ・アジアフォーラム2017」に参加している中国銀行業監督管理委員会元副主席の蔡ガク生氏(「ガク」は「顎」の作りの右側に「おおざと」)の語った言葉が紹介されています。記者が尋ねた時、蔡ガク生氏は、からかったように「(マンションの)販売抑制政策をやるのもいいし、やらないのもいいが、いずれにせよ北京のマンションは私には買えない。」と語ったそうです。

 ここで言う「私には買えない」の部分は、中国語では「我買不起」です。私が持っている電子辞書によると「(動詞+)不起」は「財的・肉体的・精神的などの負担能力や資格がなくてできないこと、堪えられないことを表す。」とあります。この文脈では、普通は「北京のマンションは高すぎて私には支払う財産的余裕がないので買えない」と理解するのが正しいのだと思います。しかしながら、これを語ったのが「中国銀行業監督管理委員会元副主席」ですので、この方はある程度お金は持っていると思われる一方で、マンション市場を巡る状況については一般の人に比べて格段に熟知していると思われるので、ここの部分は「北京のマンションを巡る状況はバブル的であり、今後、北京のマンションの価格が暴落する可能性は否定できないので私には恐くて買えない」というニュアンスを感じる人もいるのだろうなぁ、と私は思っています。

 おそらく、世界から経済関係者が集まる今年の「ボアオ・アジアフォーラム」では、中国の不動産バブルの問題も参加者の関心を持って議論されるのでしょう。こういった記事がネットに出ていることを見ると、中国のマンションのバブル的状況については、中国の人々の間でも「そろそろヤバイんじゃないの?」という感覚が出始めているのではないかと思います。もっとも、バブルが恐くて市場から撤退するような「やわ」な心臓の持ち主は中国では生きていけないので、みんなが「これはバブルじゃないの?」と心配しつつも、中国の人々は最後まで買い続けるのかもしれませんけどね。

 なお、昨日(2017年3月24日(金))テレビ東京で放送された「Newsモーニング・サテライト」では、韓国の不動産バブルについて報じていました。私は、これだけ国境を越えた資本移動が自由化されている現在の世界においては、各国の不動産市場は各国の中で完全に閉じているわけではなく、もしある国で不動産バブルの崩壊が起きれば、多少なりとも他の国の不動産市場に影響を与えるだろうと考えています。例えば、中国の不動産を買っている投資家は外国の不動産も同時に買っている可能性があり、中国の不動産バブル崩壊が諸外国の不動産市場におけるそうした中国系投資家の投資行動に影響を与える可能性があるからです。韓国のマンション市場の状況は、韓国自身の政治的・経済的状況に原因がありますが、仮に世界の不動産市場が一定程度繋がっているのだとすれば、どこかの国で発生した不動産バブルの崩壊が他国に伝播する可能性は小さくないと思います。

 日本でも、需給とは関係なく相続対策で建築されたアパートがバブル化しているのではないか、などの懸念はあります。日本は平成バブルを経験しているので、多くの企業や個人は不動産取引には相当に慎重になっていますので、日本の現在の不動産市場の状況はそれほど懸念すべき状況にあるとは私は思いませんが、中国の不動産市場で大きな動揺が起きるとすれば、いろいろな経路で日本へも影響を与えることになると思うので、中国の状況は注意深くモニターしていく必要があると思っています。

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2017年3月19日 (日)

中国不動産バブルと中国共産党大会のタイミング問題

 3月15日(水)、中国の今年の全人代が終わりましたが、私の印象は「今年の全人代はインパクトがないなぁ」というものでした。去年(2016年)の全人代では過剰生産設備削減問題と「ゾンビ企業」に対する対処がかなり強調されていましたが、それに対応するようなものが今年は見当たりません。全人代で採択された「政府活動報告」の中でも「ゾンビ企業の措置」という文言は一ヶ所で出てきただけでした。

 一方、私が気にしているのは、不動産バブル問題です。一昨年(2015年)12月の中央経済工作会議では、過剰な不動産在庫に対処する問題が議論されました。去年(2016年)12月の中央経済工作会議の段階では「政策の効果が上がって不動産の在庫が減った」というような報道がなされていたのですが、今回の全人代の最中になされた発表では、不動産投資は再び増え始め、不動産在庫も結局は増加傾向になっている、とのことでした。

 3月15日に「人民日報」ホームページ「人民網」の財経チャンネルにアップされた「経済参考報」の記事「不動産開発投資は再び8%以上に増加し、在庫も反転増加している」では、前日3月14日の国家統計局が発表した数字を基にして次のような内容を報じています。

○2017年1-2月の全国不動産開発投資の名目増加率が8.9%で、昨年同期より2%増加している。

○住宅施工面積は2.1%増、住宅新規工事開始面積は14.8%増、住宅竣工面積は15.3%増だった。

○中小都市(中国語で「三四線級城市」)については、在庫削減政策の効果が上がって不動産販売は明確に加速しているが、一方で、昨年は企業が続々と開発に参入し、新規に工事を開始したプロジェクトが明確に増加している。

○中原地産の首席アナリストの張大偉氏は、「住宅在庫は数ヶ月持続的に減ってきていたが、ここへ来てまた増加傾向が出てきていることに注意する必要がある」と述べている。国家統計局の数字によると、2月末現在、販売用不動産待機面積は70,555万平方メートルで、昨年末比1,015万平方メートル増であるが、そのうち住宅販売待機面積が468万平方メートル増加、オフィスビル販売待機面積が155万平方メートル増加、商業営業用不動産販売面積が260万平方メートルの増加である。

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 こういった中国の不動産市場の状況について、3月14日(火)に放送された日経CNBCの番組「夜エクスプレス」に出演していた第一生命経済研究所の嶌嶺義清氏は、次のような趣旨のことを述べていました。

「中国の一二線級都市では不動産価格が上がりすぎたために三四線級都市の不動産価格が割安に見えてしまい、『三四線級都市の価格も今後は上がるだろう』との見込みの下、新規マネーが三四線級都市に入って来ているようだ。日本のバブル期の経験を振り返ってみれば、これはバブルの末期症状だと言える。」

 中国政府は、農民工に都市戸籍を与えて三四線級都市に住まわせたいと考えているので、「頭数」の観点では三四線級都市の住宅需要は強いはずなのですが、農民工の収入と現実のマンション価格の差は明らかで農民工がマンションを買えるとはとても思えないので、現在三四線級で建設が進んでいるマンション群の多くは、例え一旦は投機を目的とする人に売れたとしても実際に住む人は現れず、結局は今までも中国各地に出現してきた「鬼城」(住んでいる人のいないマンション群)となる可能性が大きいと私は思っています。

 さらに、3月18日(土)に中国国家統計局が発表したところによれば、主要70都市のうち2月の新築住宅価格が前月比で上昇した都市が56となり、1月の45より増加した、とのことです。中国政府は住宅価格を抑制したいと考えて、住宅ローンに対する規制を掛けたりいろいろな方策を採っていますが、効果は一時的で住宅価格の上昇の圧力はまだまだ強いようです。

 おそらくは、これは中国人民が「中国共産党は秋の共産党大会まで不動産価格が下落するような局面は作りたくないはずだから、少なくとも秋まではまだ不動産価格は上がるはずだ」と考えているからだろうと思います。

 前回の中国共産党大会のあった2012年は、リーマン・ショック後の四兆元の大規模経済対策が効いていた時期なので参考にならないのですが、その前の2007年の状況を振り返ってみると、中国共産党大会があったのが2007年10月で、不動産価格がピークを打ったのは2007年12月頃でした(上海株のピークは10月だった)。10年前は2008年に北京オリンピック、2010年に上海万博を控えていた時期でしたが、今(2017年)は、そのようなビッグ・イベントは予定されていません(2022年の冬季オリンピック・パラリンピック北京大会がありますが、まだ時間的に先)。なので、私は今回は共産党大会の前に不動産価格がピークを打ってしまうのではないか、と心配しています。そうなると、社会的・政治的に不安定な状況になり、中国経済全体が今までにない変調をきたすことになる可能性があります。

 中国の不動産市場の状況は、鉄鋼需要を通じて、鉄鉱石や石炭の国際価格に影響します。また、中国不動産に投資している中華マネー(中国本土、香港、台湾、シンガポール等の資金)は日本やアメリカ・カナダ・オーストラリア・イギリス等にも投資していると思うので、中国の不動産バブルがもし崩壊すると、他の先進国の不動産市況に影響を与える可能性も懸念されます。

 「中国の不動産バブル」は10年以上前から「危ない、危ない」とウワサされているけれども「バブルが崩壊して大混乱」といった状況にはなっておらず、完全に「狼少年状態」なのですが、中国経済が世界経済の中に組み込まれている度合いは以前に比べて格段に大きくなっているので、中国の不動産を巡る状況については、今後とも十分な注意を払ってウォッチしていく必要があると思います(今まで大丈夫だったから、今年も大丈夫だろう、と安易に考えるのは危険だと思います)。

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2017年3月11日 (土)

中国経済と法的安定性との関係の問題

 今開かれている中国の全人代(第12期全国人民代表大会第五回会議)では「民法総則(草案)」の議論がなされています。報道によると中国は2020年をメドに民法典を制定する予定で、今回の「民法総則(草案)」はそれへ向けての議論の一つのステップだと考えられています。

 そもそも中華人民共和国は革命によってそれまでの社会制度を破壊した上に建国された国ですし、建国後も例えば文化大革命の時期(1966年~1976年)など法律を無視したような政治が行われてきた時期もあったので、他の国に比べて法律の体系的整備が遅れているのはやむを得ないことだと思います。

 例えば、住宅用マンションの売買などは1990年代から行われていましたが、土地の私有が認められていない中国において、購入したマンションに関する権利(土地については土地使用権)が法的に明示的に規定されたのは、2007年の全人代で制定された「物権法」によってでした。中国の場合、実態上のビジネスがまず先行し、それに合わせるように法律を後から制定する、ということがよくあります。その一環として、複雑な経済活動が発展する中、個人の財産権等を含め、様々な民事上の権利関係を整理するため、現在、包括的な民法典の制定を目指しているのだと思います。

 翻って日本を見てみると、日本で民法が制定されたのは1896年(明治29年)でした。その後、様々な具体的ケースに関する裁判の判例も積み重なっているので、日本における民法上の権利関係は社会の中で既に安定的に確立されていると言ってよいと思います(もちろん社会の変化に応じて、日本の民法も改正がなされてきていますが)。

 毎週土曜日のお昼過ぎにNHK総合テレビで「バラエティー生活笑百科」を放送しています。「笑百科」と銘打っていますが、中身は民法上のトラブルについて回答者が回答し最後に弁護士が解説する、という番組で、法律的には結構高度なものも含まれていると私は思っています。私はこの番組を見るたびに、こうした法律知識に関する案件を「バラエティー」と称して笑って勉強できるテレビ番組があることについて、「日本はテレビ番組の作り手も視聴者の側も法律問題に関するレベルが結構高いよなぁ」と感心するのでした。

 中国で暮らしたり中国の会社と仕事をしたことのある人なら誰でもわかると思いますが、中国においては、ある案件について法律上はどう判断されるのか、人によって言うことが違ったり、地域によって違ったり、時期によって違ったりします。「中国は急速に発展している最中の社会なので、法制度もどんどん変わっていくのだ」と言えばそれまでですが、中国でビジネスをやる際にはこの「法的安定性」の問題が日本と中国とでは全然違う、という点を念頭に置く必要があります。

 日本を含め、欧米型民主主義の政治体制を採る先進国にあっては、国民や会社の権利や義務に関する規定は、全て議会で議決された法律に基づきます(アメリカの大統領令など法律に基づいて大統領(行政府)に国民の権利義務に関する決定権限を委任しているケースもありますが、それは例外的なもの)。従って、個人や会社の権利義務に関する法律が変更されるためには、法律の改正案が議会に提案され、一定の時間を掛けて議会で議論がなされる必要があります。なので、権利義務に関する法律が変更される場合には、国民は一定の時間的余裕を持ってそれを前もって知ることができるので、何らかの準備をすることが可能です。

 中国もタテマエ上は法律に基づいて行政が行われ、法律は全人代が決めるのですが、国民や会社の権利義務に関する規定の多くは行政府に決定権限が委任されているほか、重要事項は全て中国共産党が決めるので、国民生活にとって重大な事項が突然中国共産党の会議で決まったりします。

(例1)日本の場合「国民の祝日」は国会の議決を経た法律で決められますが、中国の場合は行政府の一部である国務院が決めて発表します(毎年12月に翌年の祝日を発表します)。例えば、中国では、清明節、端午節、中秋節は2009年から休日になったのですが、この決定が発表されたのは2008年12月でした。なので、私の勤めていた事務所では職場の年間休日計画は毎年年末に決めていました(中国のカレンダー業者がどうしているのかは、私は知りません)。

(例2)中国の場合「議会の審議を経ないで突然決まる」ことはよくあります。例えば、2008年の北京オリンピック期間中、交通量を減らすため、ナンバープレート末尾の偶数奇数によって市内を走れる車を制限しましたが、この措置が発表されたのは実施される二週間前でした。その期間中仕事で使う車の確保に苦労したのを覚えています(中国でビジネスをやる際には、常にこうしたリスクがあることを認識する必要があります)。

(例3)日本でも報道されたとおり、「一人っ子政策の終了」(こどもは二人目までを持つことを認める)は2015年秋の中国共産党大会で決まりました(法律上は、2015年12月27日の全人代常務委員会で決まり、2016年1月1日から施行された。日本等では重要な法律の場合、一般国民が混乱しないように一定の期間「周知期間」を置いてから施行することが多いのですが、中国の場合は「決定してすぐに施行」という例が結構あるので、この点も中国でビジネスをやる際には要注意)。

(注)中国の全人代の全体会議は年一回(最近は通常3月に行われる)ですが、多くの法律は全人代常務委員会(通常偶数月の最終週に開かれる)に決定が委任されています。全人代常務委員会で決定された法律が翌年3月の全人代全体会議の前に施行されることもあるので、この点も要注意です。

 中国のこうした法律制定と施行のやり方は、「情勢の変化に迅速に対応することが可能」というメリットもあるのですが、中国でビジネスをやる観点からは「制度が予想もしていなかったように突然変更されてしまう」というリスクもあります。中国企業の経営判断の決定スピードが速いのは、こうした中国の政策決定の特性も背景にあると私は思っています。

 中国に限らず、経済・社会が発展途上にある国においては、このように「制度が突然変わってしまう」ことは結構あります(2016年11月にインドのモディ首相が突然高額紙幣の廃止を宣言したのはその一例)。発展途上にある国においてはやむを得ない面もあるのですが、やはりビジネスの観点から言ったら「法的安定性」は重要です。中国は既に世界第二位の経済規模を誇るほど大きな国になったのですから、法律を決める際には時間的余裕をもって広く告知することや、決めてから施行するまでの「周知期間」の重要性をもっと認識するようになって欲しいと思います。それも重要なビジネス上の環境整備の一環だと私は思います。

(参考)アメリカのトランプ大統領は「大統領令」を連発していますが、こうしたやり方は、アメリカ社会の「法的安定性」に疑問符を投げかけ、長期的に見れば、多くの企業に「アメリカはいつ法制度が変わるかわからないのでビジネスがやりにくい」と思わせることになり、アメリカ経済にはマイナスになると思います。

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2017年3月 4日 (土)

全人代を経て経済政策の「調整」は進むか

 明日(2017年3月5日(日))から北京で全国人民代表大会が開かれます。毎年恒例の全人代ですが、今年は事前に経済関係の政府機関のトップの人事異動がいくつか発表され、経済政策における「人事刷新」とそれに伴う経済政策の「調整」がどの程度行われるかに対して注目が集まっています。

 「人事刷新」と言えば、今年秋に予定されている中国共産党大会で党の重要人事が刷新され、政府機関幹部の人事は来年(2018年)の全人代で決まる、というのが基本的な形ですが、今年の全人代を前にした幾人かの経済閣僚の交代は、来年決まる習近平体制第二期の政府幹部人事の「刷新」を予感させるものです。

 来年(2018年)の全人代では李克強総理と周小川中国人民銀行総裁が続投するのかどうかがポイントとなるでしょう(基本的に今年秋の党大会が終わった時点で見通しは立っているはずだと思いますが)。李克強氏と周小川氏が経済政策の前面から退くと経済政策の舵取りがどうなるか心配だ、との見方もありますが、中国には優秀な人材がたくさんいるので、習近平氏が自分に近い人物だけを任命する、といった過ちを犯さすことなく、実力のある者を適切なポストに就けることができれば、中国の経済政策が迷走することは避けられると思います。

 私がそういう印象を持ったのは、3月2日に就任後初の記者会見を行った中国銀行監督管理委員会の郭樹清主席の発言が結構ポイントを突いた鋭いものだったからです。郭樹清主席の記者会見については、「人民日報」ホームページ「人民網」の銀行チャンネルにも記事が出ていますが、その記事によると、郭樹清主席は以下のように発言しています。

「各種の金融の乱れた現象は断固として管理しなければならない。目下のところ、一部で市場をまたがった金融商品が層をなして積み重なった状態にあり、下層の資産については底が見えない、最終的に向かう方向は誰も知らない、といった状況がある。この種の現象が発生しているのは、多くの程度、監督制度が欠けていることに原因がある。これはいわば『牛小屋で猫を飼うようなもの』で、完全で健全な監督制度がなければ、銀行の業務経営は必ずや厳重なリスクにさらされることになる。」

 私は、これは中国の政府機関のトップとしては非常にハッキリとしたものいいであり、今後の改革実行に期待を持たせる発言だと思いました。郭樹清主席は、「『一行二会』及びその他の政府関係機関との間で情報共有と統一的な協調を深化させることに積極的に参加する」とも語っており、彼が中国政府の金融行政に縦割り行政の弊害があることを強く認識していることを示しています。

(注)「一行二会」とは、中国人民銀行、中国銀行業監督管理委員会、中国証券監督管理委員会のこと。さらに中国保険監督管理委員会も加えて「一行三会」ということもある。中国の金融行政が複数の部署に別れて執行されており、統一的な政策執行ができていないのではないか、という問題点は以前から指摘されている。

 そもそも中国経済は、タテマエ上は全てのプレーヤーを中国共産党がコントロールしていることになっていますが、実態的には中国共産党のグリップが強い国有企業等と中国共産党による指導に従っている(たぶん「従っているふりをしている」だけの)民間企業との混合体です(このことについて、昨日(2017年3月3日(金))付け日本経済新聞朝刊29面「経済教室」の「中国経済をどうみるか(下)純粋民営企業 世界に挑む」で学習院大学教授の渡辺真理子氏は「中国経済は一つの個体に異質な遺伝子が同居する『キメラ』である。」と表現しています)。こうした中国経済をうまく舵取りしていくためには、相当に難しい(時によってはアクロバティックな)経済政策運営が必要だと思います。その意味で、今年及び来年の全人代で固まることになる経済政策担当者の人事の刷新と具体的な経済政策の「調整」は重要です。

 一方、3月1日、台湾のホンハイ精密工業とその傘下になったシャープが出資する液晶パネルメーカーによる8K対応の高画質大型液晶パネルの工場の起工式が広州で行われました。この起工式にはホンハイの郭台銘会長や広東省党書記の胡春華氏も出席したそうです。このニュースは同日夜の中国中央電視台の7時のニュース「新聞聯播」でも報じられました。このニュースは、もはや「中国共産党の指導」の枠の外にあるプレーヤーが中国経済において重要な役割を果たしていることを端的に示したものだと言えるでしょう。

 上に書いた日経新聞の記事では、渡辺真理子教授は、アリババや華為(ホアウェイ)などの純粋民間のグローバルな中国企業が中国経済の大きな部分を占めていることを指摘しています。この点は、おそらくは現在の中国が旧ソ連とは全く異なる点で、中国の現体制の強靱さを示していますが、同時に「中国共産党によるコントロール」がどこまで効くのか、という中国の現体制の根幹に関わる問題と関係してきます。「人民日報」は今でも「中国共産党による指導」という「タテマエ」を声高に強調していますが、実態的には他の資本主義諸国と同じように法令による経済主体のコントロールの重要性は今後高まっていくと思います。もしそうだとすれば、中国においても、中国共産党大会よりも法律を決める全国人民代表大会の方が重要性が増していくことになるはずです。もしそうではなく、あくまで「中国共産党大会が最強の決定機関」であり続けるのであれば、たぶんそうした体制は徐々に中国経済の実態とはかけ離れたものになっていくことになるのでしょう。

 今年と来年の全人代は、習近平主席が自らに権力を集中させる方向での「変革」を図っていくだろう、という見方もあります。経済実態が「党による統治から法による統治への変革」を求めている中国の現状において、習近平氏が「党(=総書記である習近平氏自身)による統治」へ向かうのか、それとも「法による統治」に向かうのか、今年と来年の全人代は、今後の中国の行方を占う上で、いつにも増して重要なものになると私は思っています。

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2017年2月25日 (土)

中国経済の公共事業頼みはどこまで

 昨日(2017年2月24日(金))の中国中央電視台夜7時のニュース「新聞聯播」のトップ・ニュースと今日(2月25日(土))の「人民日報」の1面トップの記事は、習近平主席が北京市内で2022年の冬のオリンピックに備えて工事が進む新しい北京空港の建設現場を視察した時の様子などを伝えるものでした。私の二回目の北京駐在の途中に完成した現在使用されている北京首都空港(北京市街地の北東の郊外にある)の第三ターミナルは、ターミナル・ビルの全長が3kmにも及ぶという巨大なものだったので、最初に行った時にはその大きさに圧倒されたのですが、今、北京市街地の南郊外に建設中の新しい空港の建設現場は、テレビの画面で見てもその巨大さに驚くような規模のものでした。

 2008年の北京オリンピックを前にして完成した北京首都空港第三ターミナルは、非常に巨大なものでしたが、北京首都空港は滑走路はその時点で既に「満杯」状態で、私も北京首都空港から出発する時、飛行機の扉が閉まってから滑走路が空いて離陸するまで長時間待たされることなどしょっちゅうありました。今、東京には成田空港と羽田空港があり、上海には浦東空港(主に国際線)と虹橋空港(主に国内線)がありますが、北京には今は大型機が使える空港は北京首都空港一つしかないので、北京にもう一つ空港を建設する、というのは、中国の経済発展の状況を考えればある意味当然の話だと思います(むしろ「遅すぎた感」すらある)。

 とは言え、新しい北京空港の巨大な建設現場の様子をテレビのニュースで見て、私は、「中国ではまだまだ巨大な公共事業の工事があちこちで進んでいるのだなぁ。だとすると中国で鉄鋼の需要が強い(従って、鉄鉱石や製鉄に使う原料炭の値段が上がる)のは無理もないよなぁ。」と思ったのでした。「新聞聯播」では、同じく現在建設中の港珠澳大橋(香港とマカオをつなぐ海上の道路橋)の建設の様子も節目節目で紹介していますが、この工事も私は「とんでもない巨大公共事業」だと思います。

 1997年に完成した東京湾横断道路(東京湾アクアライン)は全長15.1kmで、私は相当巨大な公共事業だったと思うのですが、現在建設中の港珠澳大橋はトンネル部分も含めると全長55kmです。中国には、他にも2008に完成した杭州湾海上大橋(全長35.7km)、2011年に開通した青島膠州湾大橋(全長41.6km)など「巨大公共事業」はいくつもありました(なお、日本の青函トンネル(1988年開通)は全長53.9kmです)。

 そもそも公共事業には、「巨大な道路や橋を完成させることにより、その後の経済発展の基盤を作る」という意味と、「建設作業に巨額の資金を投じることにより、建設時点での経済の活性化と雇用の維持を図る」という目的とが存在します。公共事業については、経済発展効果に比べて投下される資金が膨大過ぎて「建設会社にメシを食わせるために事業をやっているのではないか」などと批判されることは、どの国でもある話です。日本でも、例えば、本州四国連絡橋は3つのルートの全てを建設する必要があるのか、といった議論もありましたし、青函トンネルも、新函館北斗まで北海道新幹線が開通したのが去年(2016年)であったことを考えれば、急いで1988年のタイミングで開通させる必要はなかったのではないか、といった議論もなされることがあります。

 こういった「公共事業を巡る議論」は、中国に限らず、どの国でもある話ですが、私の感覚では、中国では「野党による政権与党に対する批判」もないし「報道機関による政府批判」もないので、中国の公共事業においては、「完成することによる経済基盤としてのメリット」はあまり重要視されず「建設工事を進めることによる経済の活性化と雇用の創出」を主な目的とするものがかなり多いのではないかという印象を持っています。2009年前半、リーマン・ショック対応の公共事業が始まった頃、私は北京の街で、前年オリンピックのためにきれいに整備された歩道をまた掘り返して透水性舗装に変える工事をやったり、1980年代の私の前回の北京駐在の時に新築されたアパート群を2009年の時点で取り壊してまた作り直す工事をやっているところなどを目の当たりにしたので、特にそういう印象があるのかもしれません。

 今、中国政府は、今年(2017年)秋に開かれる中国共産党大会の開催までは、経済の水準を維持して、失業者を大量に発生させるようなことは絶対に避けたいと考えて、経済実態とは関係なく、大量の公共事業を行っているように見えます。経済効果をあまり生まない公共事業は、資金や資源の無駄となるばかりでなく、将来、経済発展に伴う税収増がないのに維持費ばかりかさんで、結果的に国全体の経済の重荷になる可能性をはらんでいます。また、共産党大会が終了したとたんに公共事業をやめてしまう、というようなことになるのだったら、党大会が終わる2017年秋頃から中国経済は急速に減速してしまうことになるでしょう。適切な批判と監視がない状況で進む「公共事業頼みの中国経済」は、問題を抱えたまま肥大化することになります。中国のそうした状況を理解しないで、例えば、2016年半ばから2017年に掛けて、今、中国経済には回復の兆しがあるのだ、と認識するのは危険かもしれません。

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2017年2月18日 (土)

中国経済の現状と原料炭・鉄鉱石の価格との関係

 ここのところ鉄鉱石と原料炭(製鉄に使うコークスの原料となる石炭)の価格が急激に上がってきています。原料炭については去年(2016年)11月頃をピークにして現在も高値圏にあるようですし、鉄鉱石価格は今でもまだ上昇基調にあるようです(参考:昨日(2017年2月17日(金))付け日本経済新聞朝刊3面記事「鉄鉱石急騰 国際価格、1年で2倍 中国で鋼材値上がり 日本の製鉄に影響も」)。

 鉄鉱石も原料炭及びそれらで生産される鉄鋼は、世界の中では生産量・消費量ともに中国が極めて大きな割合を占めていますが、中国経済の現状(鉄鋼も石炭も過剰生産能力削減に努力中、鉄鋼の需要先である鉄道やマンション建設等の投資も過度にならないようにコントロール中)を考えると、この鉄鉱石や原料炭の価格の急上昇は、私には腑に落ちません。この先、何か「ワナ」が待っているような不安を覚えます。

 一部に、この鉄鉱石や原料炭価格の上昇はアメリカのトランプ大統領が掲げるインフラ投資拡大による鉄鋼の需要増を見込んだもの、との見方もありますが、原料炭と鉄鉱石の価格の上昇は去年(2016年)の半ば頃以降、トランプ大統領誕生の前から始まっており、原料炭と鉄鉱石の価格の上昇をトランプ大統領の誕生と結びつけることは必ずしも正しくないと思います(また、鉄鋼需要のアメリカと中国との大きさを考えても、中国の方が圧倒的に規模が大きいので、アメリカの政策の影響はあってもあまり大きくはないはず)。

 こうした資源の価格は、最終需要(鉄鉱石と原料炭の場合は最終的には鉄鋼の需要)の現状と今後の見通しのほか、生産の状況(例えば、大きな炭鉱で生産トラブルが起きて生産量が一時的に落ちた、など)や「投機筋」の動向などが複雑に絡むので、単に最終需要が増える見通しだから価格が上がる、最終需要が減る見通しだから価格が下がる、といった単純なものではありません。

 例えば、原油価格はリーマン・ショック直前に1バーレル150ドル近くまで急騰した後、リーマン・ショックで30ドル台まで急落し、その後100ドル超まで上昇した後、去年(2016年)初に20ドル台まで下落したことは記憶に新しいところです。これらは世界景気の動向という需要面やシェール・オイルの開発といった供給面の動きを素直に受けて動いた、というよりは、そうした需要面・供給面の先行きをにらんだ「投機筋」の思惑で実際の需給関係以上に価格が大きく変動した結果だ、と言えるでしょう。

 現在の鉄鉱石と原料炭の価格の急騰は、中国政府による石炭や鉄鋼の過剰生産能力削減の政策により特に原料炭の生産量が絞られたからだ、とする見方もあります。もしこの見方が正しいのだとしたら、中国政府の過剰生産能力削減は石炭だけはきちんとやったが、鉄鋼については過剰生産削減の方はあまりうまくできなかった、ということになります(製鉄所での需要があるからこそ、鉄鉱石や原料炭の価格が上がるのだと思われるからです)。

 鉄鉱石と原料炭の価格の高騰に併せて、現在、鉄鋼価格も高くなっているようですが、今、鉄鋼の最終需要の状況はどうなっているのでしょうか。私はよくわかっていません。一口に「鉄」と言っても、ビルや橋梁等の建設に使うH型鋼と自動車のボディーに使う高張力鋼板とでは需要動向が全く異なると思います。どういう分野で「鉄」の最終需要が増加しているから(あるいは増加する見通しがあるから)鉄鉱石価格と原料炭価格が高くなっているのか、は私はよく知りません。ただ、少なくとも「鉄」の世界最大の需要国である中国においては、既に「新常態」の時代になっているので、今後急激に現在以上に鉄道建設やマンション建設が増えるとは思えないので、そんな中で鉄鉱石と原料炭の価格が上昇しているので、私には「なんか変だなぁ」という感じがするのです。

 ちょっと心配なのは、鉄鉱石や原料炭の価格は、実需とは全くかけ離れた「投機筋」の「思惑」によって高くなっているだけなのではないか、ということです(ハッキリ言えば、「バブル」ではないのか、ということです)。その意味で気になる記事が昨日(2017年2月17日(金))付け日本経済新聞夕刊5面に載っていました(アジア・ラウンドアップの欄 香港「割安な中国金融株に資金」)。この記事では、中国マネーの流入により香港株式市場に上場されている中国金融株の株価が上がっている、と指摘しているのですが、この記事の中に「中国当局が資本規制の一環で海外M&A(合併・買収)などに目を光らせているため、持て余した資金が香港株に流れるとの思惑もある。」との記載がありました。私が気になったのは、中国当局が中国から外国への資金流出を強力に規制していることから、行き場を失った中国の「投機マネー」の一部が鉄鉱石や原料炭などの資源商品価格市場に流入して、実需の見通しを越えて鉄鉱石や原料炭の価格を必要以上に押し上げているのではないか、という点です。

 鉄鉱石と原料炭(及びそれらを用いた最終製品である鉄鋼)は、生産量及び消費量の両方において、中国が世界の中で非常に大きなシェアを占めています。もし仮に、鉄鉱石や原料炭の価格を左右する「投機筋」の資金の中に占める「中国マネー」の割合が大きいのだとしたら、鉄鉱石と原料炭の価格については「生産」「消費」「投機」の全ての面において中国国内のプレーヤーの動向に左右されてしまうことになります。そうだとしたら、中国の外からは見えない中国国内の「思惑」によって鉄鉱石や原料炭の価格が動いてしまうことになります。これは世界経済にとって非常に危うい状況なのではないでしょうか。

 リーマン・ショック前後(及びリーマン・ショック後から現在まで)の原油価格の変動については、中国の需給要因や「投機筋」における「中国マネ-」の存在は世界全体の中における比重はそれほど大きくはなかったと思われます。しかし、鉄鉱石と原料炭の価格については、中国の占める比重は原油価格に比べて格段に大きいと思われるので、世界経済は鉄鉱石価格と原料炭価格を通じて中国に振り回されることにないよう注意する必要があると思います。

 その意味で、ネットで興味ある中国での報道を見つけました。「人民日報」ホームページの「財経チャンネル」に載っていた2月16日付け「経済参考報」の記事「鉄鋼価格の高騰に関して政府五機関が価格コントロールに関する文書を発出 専門家は資本による投機的取引を防ぐ点を指摘」です。

 この記事では、最近、中国政府の発展改革委員会、工業・情報化部、国家品質監督検査検疫総局、中国銀行業監督管理委員会、中国証券監督管理委員会の5つの機関が共同で「さらに保持・圧力政策を進めて鋼材市場の均衡ある進展を促進することに関する通知」を出したことを伝えています。この「通知」では、大手鉄鋼企業に対して、「鋼材出荷価格を科学的に決めること」を求め、価格を合理的範囲に積極的に引導して「風向計」「安定器」になるよう求めています。

 この記事では、この政策は、最近の鋼材価格の上昇は速すぎるし激しすぎて基本状況から離れているので、一方では鉄鋼業における過剰生産能力削減の政策を進めつつも、別の一方で過剰生産能力削減に名を借りた鋼材価格の過度に投機的な価格設定を防止するためのものである、とするあるアナリストの指摘を載せています。

 この記事にあるように、中国政府自身が、最近の鉄鋼価格の上昇が「速すぎるし激しすぎて基本状況から離れいている」と認識しており、この価格上昇が「投機的価格設定」による部分がある、と懸念していると思われる点は非常に重要だと思います。現在の鉄鉱石や原料炭の価格の上昇について、「世界経済が景気循環の回復過程に入って需要が増えた(増える見通しだ)からだ」との見方をする人もいるようですが、たぶん中国政府はそういう楽観的な見方はしていないのだと思います。

 2008年の原油価格の「バブル的急騰」とリーマン・ショックとがどういう関係にあったのかについてはいろいろ議論があるところだと思いますが、今の「鉄鉱石」「原料炭」及び「鉄鋼」の価格の上昇が次の世界経済における「大変動」の前兆現象であるのかないのか、慎重に見究めていく必要があると思います。特に原油と違って、「鉄鉱石」「原料炭」及び「鉄鋼」については、中国の比重が非常に大きいので、「今、中国がどうなっているのか(今後どうなっていくのか)」を見究めることが特に重要になってくると思います。

 

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2017年2月11日 (土)

「金融リスクの防止」は2017年の中国のキーワード

 2月6日付け「人民日報」18面に「融資プラットフォームの『上着の着替え』は安全か?~ホットな焦点・金融リスクをどうやって防ぐか~」と題するシリーズものの解説が載っていました。この記事の冒頭は、「『リスクを防ぐこと』が2017年の中国の経済領域におけるキーワードである」という文章で始まっています。おそらくは3月初めから開かれる全人代で議論される政策課題の中の最重要課題として「金融リスクの防止」が挙げられることから、その点を解説したものと思われます。

 この記事は、2015年の時点で100以上の市レベル、400以上の県レベルの地方政府が債務率が100%を越えている、という現状認識からスタートしています。

 この解説では、2015年1月1日以降、地方政府は地方政府債の発行によってのみ借金をすることができ、それまでのように地方政府が「融資プラットフォーム」を通じて借金をすることができなくなったので、リスク管理はできるようになった、と強調しています。また、2015年以降、地方政府は「融資プラットフォーム」に対する債務保証をすることはできなくなり、地方政府が「融資プラットフォーム」の償還責任を負わないことになった、とも強調しています。

 また、この解説記事によると、地方政府が負うべき2014年末までの負債は15.4億元であり、この債務は、今後3年程度のうちに地方政府が債券を発行して借り換えることにより、予算の範囲内で管理され、期限までに償還されるだろう、としています。

 この解説記事では、こららの改革により、新たな「政績プロジェクト」(地方政府幹部による自分の出世のための成果を強調するために実施されるプロジェクト)に起因する負債を生み出すことは避けられる、としています。この記事を見ると、中国共産党中央は、地方政府債務問題の本質(地方政府幹部(=中国共産党の地方幹部)が自分の出世のための功績を挙げるため無理をして借金をしてプロジェクトを実施する傾向があること)はきちんと理解しているようです。

 で、私が気にしているのは、「地方政府による借金漬けの『政績プロジェクト』の実施が抑制されると、投資に過度に依存している中国経済全体にブレーキが掛かってしまうことにならないのか。」という点です。今年(2017年)秋に中国共産党大会が予定されていますが、そこで決まる人事査定でよい評価を得るために、地方政府幹部(=中国共産党地方幹部)は、借金をして無理をしてでもプロジェクト投資にいそしんできたわけですが、2017年秋の党大会へ向けての動きは既に一段落していると見られることに加え、上記の解説記事にあるように、2015年以降は地方政府による借金のやり方にも規制が加わっていることから、おそらくは最近は地方政府によるプロジェクト投資にはブレーキが掛かっているものと思われます。従来より、中国経済は「投資」に依存する割合が高すぎる、と懸念されているところですが、そうした状況においては(他に経済の牽引役が育っていない現状においては)、地方政府によるプロジェクト投資が減少すると、中国経済全体が失速するおそれがあります。

 先頃発表された貿易統計によると、2017年1月の中国の貿易額は輸出入とも対前年比で増えているようであり、幸いにして世界経済の復活基調に伴って、2017年については、貿易による中国経済の下支え効果はある程度期待できそうです。従って、アメリカのトランプ大統領が中国に対して貿易上の無理難題を吹き掛けない限り、とりあえず2017年中は、中国経済は一息付けることになるかもしれません。

 問題は、今年秋の党大会の後どうなるか、です。地方政府幹部による「政績プロジェクト」への投資がヤマを超え、地方政府の借金のやり方にも「タガ」がはめられるようになった今後は、今までのような「経済ファンダメンタルズ(経済的基礎条件)とは関係ない地方政府幹部の政治的意図による投資」には期待できなくなるわけで、そうした中で中国経済を前に進めるパワーをどこに求めるかが問題となります。その中で「今までふくれあがった借金の返済」が問題となっていくわけです。

 「金融リスクの防止が2017年の中国経済のキーワード」というこの「人民日報」の解説は全く正しいと思います。3月初旬の全人代を通して、中国政府が「金融リスク防止」に対する有効な政策運営をしていくことを期待したいと思います。

 その際、トランプ大統領の対中通商政策と並んで、アメリカFRBによる利上げの動きと関連した人民元相場の動きにも注意が必要です。人民元安は、中国企業が抱える外貨建て債務の負担を大きくするからです。2017年に入って、人民元の対ドル相場は安定していますが、先頃発表された中国の2017年1月末の外貨準備高は「節目」と考えられていた3兆ドルを割り込みました。減少するスピードは鈍化しているので、あわてる必要はないと思いますが、今後の動きには注意が必要です。

 先週日曜日(2017年2月5日)付けの産経新聞9面の「日曜経済講座」には「外貨準備と人民元が混迷~中国が直面する『3と7のカベ』」と題する上海支局長の川崎真澄氏の記事が載っていました。「3」とは「外貨準備3兆ドル割れ」のことですが、これは実際に3兆ドルを割ったことが確認されました。「7」とは人民元の対米ドルレートが1ドル=7元を超えて人民元安になることです。これについてはいろいろな見方がありますが、「人民日報」ホームページ「人民網」の財経チャンネルに掲載されていた「経済参考報」の2月10日付けの記事「人民元は、こちら岸とあちらの岸の両方から圧力を受けている」の中では、「2017年末には人民元は対米ドルで1ドル=7.3人民元付近まで下落する可能性がある」との専門家の見方を紹介しています。

(注)この記事は、中国から外国への資金流出の圧力と、「香港-深センの株取引相互流通開始」やEU離脱後を見据えてイギリスが目指している「上海-ロンドン間の金融流通」を通した外国から中国への資金流入の圧力の両方が存在している、と指摘しています。要は「中国からの資金流出ばかりを心配する必要はない」との中国当局の主張を背景にした記事なのですが、その記事の中ですら、2017年末の時点で1ドル=7.3人民元まで元安が進む、との見方が紹介されている点は注目する必要があると思います。こうした見方は人民元の先安感に基づく中国からの資金流出圧力を「後押し」するからです。

 日本時間の今朝(現地時間2017年2月10日)、ワシントンでトランプ大統領と安倍総理との日米首脳会談が行われました。このお二人は、これからフロリダ州のトランプ大統領の別荘でゴルフをするようですが、当面、世界経済は「中国共産党がどういう政策をとるか」よりも「トランプ大統領が何を言うか、何をするか」に右往左往することになるのでしょう。ただ、トランプ大統領は、昨年末「中国の出方によっては『ひとつの中国政策』も再考する」といったことをツィッターで書きながら、昨日行った習近平主席との電話会談ではいともあっさりと「アメリカは『ひとつの中国政策』を堅持する」と表明するなど、「トランプ大統領はツィッターでいろいろ『発言』するけど、その『発言』って意外に軽いんじゃない?」という見方も今後広がると思います。トランプ大統領の「ツィッター発言」に右往左往しないで、中国の経済の状況を含め、経済の実態を見落とさないようにしっかりチェックしていくことが改めて重要だと認識する必要がありそうです。

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2017年2月 4日 (土)

中国における最恵国待遇・内国民待遇の歴史

 アメリカのトランプ大統領は声高に「アメリカ人を雇え!」と叫んでいます。私は1990年代末にアメリカ駐在をしていますが、アメリカでは、全ての企業は人を雇う場合、「性別、年齢、人種、宗教、国籍で差別してはならない」ということに細心の注意を払っていました。採用試験を受けに来て落ちた人が「差別で就職を断られた」と裁判に訴えるリスクを常に意識しているからです。そのアメリカの大統領に「雇用に当たってはアメリカ国籍の人を優先しろ!」と主張されると、私は「わけわからん」状態になってしまいます。

 そもそも現代国際社会においては、その国の法律を遵守する限りにおいて、外国人や外国企業であっても自国民や自国企業と同様に適切な保護が与えられることが大原則になっています。また、状況において外国人や外国企業に対して一定の規制を掛けることもあり得ますが、その際も国によって差別しないことが大原則です(例えばA国人やA国の企業はOKだけど、B国人やB国企業はダメ、といった恣意的な規制を掛けてはならない)。これらの原則は「内国民待遇」(内外無差別:原則としてその国の国民と外国人とを差別しない)と「最恵国待遇」(ある国に対しては原則として他の最も優遇された国に与えられたのと同様の待遇を与える(=国によって差別しない))と呼ばれます。

 「最恵国待遇」と「内国民待遇」は、基本的に国と国との間の条約で決められますが、日本の場合は、19世紀半ば、幕末に欧米列強各国と結んだ「和親条約」と「修好通商条約」がこれらを定めた条約の「はしり」でした。

 「最恵国待遇」は「国によって差別しない」ことなので、発展初期の段階の国においても比較的受け入れられやすいのですが、「内国民待遇」の方は、遅れた自国民が進んだ外国人より不利な立場に置かれやすい、という理由で、当初は認められないことが多いようです。幕末の修好通商条約でも外国人の通行できる範囲は開港された港の周辺に限られ、外国人は日本人と同じようには行動できませんでした。

 日本と中華人民共和国とは1972年に国交が樹立しましたが、当初は日本人は中国人と同じようには中国国内を移動することはできませんでした。私が最初に訪中した1983年2月の時点では、外国人が自由に移動できる範囲(外国人開放区)は、例えば北京においては北京の市街地部分だけでした。盧溝橋(北京の西南にある)の西詰めの場所には「ここから先は外国人は立ち入り禁止」という立て札が立てられていて、人民解放軍の兵士が銃剣を持って見張っていました(その脇を中国の人たちは、立て札の下を全く気に掛けずに行き来していました)。

 1980年代は、中国では、経済活動でも明確な「内外差別」がありました。外国人は、中国人が使う貨幣の「人民元」は持つことは原則認められず、外貨から兌換した「外貨兌換券」しか持つことが許されませんでした。「外貨兌換券」は外国人専用の商店やホテルでしか使えませんでしたから、外国人は買い物をする場所も限られていました。(もっとも、「外貨兌換券」の方が「輸入品が買える」というメリットがあったので、中国人用の商店でもむしろ喜んで受け取ってくれたので実際には中国人用の商店でも買い物はできたんですけどね。またそうした中国人用の店で高額の「外貨兌換券」で買い物をすると、おつりは通常の「人民元」で返ってくるので、実際は外国人の手元にも「人民元」は入って来ました)。

 北京市内の外国人専用の商店「友誼商店」に行くと、入口に係の人が立っていて、中国人が店の中に入らないように見張っていました。私の場合は顔を見ただけでは中国人か日本人か区別が付かないらしく、「友誼商店」の入口の係の人からよく「何しにきた」という目でじジロリを見られたことがありました。そういう時は、日本のパスポートを見せると、途端に「いらっしゃいませ」というニコニコした顔になって入れてくれたのを覚えています。「外国人排撃」とは全く逆の現象なんですけど、中国人と外国人とで差別する、っていうのは、よくないよなぁ、とその時感じたことを覚えています。

 また、1980年代には中国には「外国人値段」というのがあり、例えば一羽30元の北京ダックを買おうとしてこちらが外国人だとわかると「50元だ。30元では外国人には売れない。」と言われることもありました(外国人は金持ちだから、外国人からはお金はたくさん取れるはずだ、という発想です)。

 2007年に二回目の北京駐在を始めた時には、個人レベルの活動における「内外差別」は基本的には消えていました。軍事施設周辺など特殊な場所を除けば「外国人が行ってはいけない場所」はなくなっていましたし、「外貨兌換券」は1995年に廃止されていました。100元札を持って行けば、外国人だろうと中国人だろうと全く同じように扱ってくれるようになっていたのです。(ただし、それは個人の生活上の話であって、外国企業による投資や営業活動などに対する制限は現在の中国でもまだまだ多いのが現状です。だいたいフェース・ブックやツィッターが中国では認められていない(それに代わる中国系企業のSNSが発達している)ことを見てもわかるように、企業経済活動の面での「内外差別」は現在の中国には厳然と存在しています)。

 なお、1986~1988年と2007~2009年の二回の北京駐在を通して、「最恵国待遇」になっていなかった事例(例えば、アメリカならOKだけど、日本だからダメといったケース)は、思い浮かびません(逆の例として、1980年代、対共産圏輸出統制(いわゆる「ココム」)のため、日本からアメリカへの輸出は自由だけれど、日本から中国への輸出には制限が掛かる、といった品目があり、中国側が日本に不満を述べる例はありました(特に1987年に発生した「東芝機械ココム事件」は、対ソ連輸出で問題が起きたのに、対中国輸出でも輸出審査が厳しくなって事件に無関係な中国が迷惑を被った、という事例でした))。

 こういった私の経験からすると、ある国が「内外差別」を実施するのは、その国の発達が初期段階であるからであるので、「内外差別の存在」はその国の後進性を意味する、という印象があります。ですので、世界で最も進んだ国であるはずのアメリカの大統領が堂々と「(実質的に)内外差別をするぞ!」と叫んでいることには、無茶苦茶違和感を感じます。

 さらに「最恵国待遇」は、日本では江戸幕府が当時の国際社会から教えられた「近代国際社会の大原則」です。それなのにトランプ大統領は「メキシコや中国からの輸入には他の国とは異なる高い関税を掛けるぞ!」と主張しているわけで、これは日本で言えば江戸時代以前に戻るとんでもない時代錯誤であると言えます。(アメリカが「最恵国待遇」を無視するなら、仮に中国が政治的問題で日本だけをターゲットにした経済的規制を掛けてきたとしても文句が言えなくなってしまいます)。

 私はこのブログで、中国政府が採る様々な「国際的ルールとは異なるやり方」に対して批判的なことを書いてきましたが、もしトランプ大統領が主張していることを本当にアメリカが実行するならば、中国政府の政策の問題点など全く「取るに足らない小さな問題」ということになってしまいます。世界をリードするはずのアメリカが国際社会の土台となる大原則を破壊してしまうことがないよう、世界各国は協調して対応する必要があると思います。

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2017年1月28日 (土)

春節の中国人訪日客と中国国内旅行者

 今日(2017年1月28日)は、春節(旧正月)の元旦です。中国は長期連休中なので、日本各地で中国人訪日客を目にする機会も多いと思います。円高是正に伴って、中国から日本への訪問客は急増していますけど、この機会に中国国内の中国人国内観光客の多さについても想像をたくましくしてみてはいかがかと思います。

 中国の観光地に行かれたことのある方はよく御存じだと思いますが、中国の観光地にはもちろん外国人観光客もいますけど、中国人国内観光客が相当数います。「どこも混雑しているなぁ」という感想を持った方も多いと思います。

 春節と言えば、私が一番最初に中国へ行ったのは1983年2月の春節の時期でした。仕事の出張で行ったのですが、なぜこの時期に出張するようなスケジュール調整になったのか記憶にないのですが、中国側は春節休みを返上して我々訪中チームのために対応してくれた記憶があります。春節は中国人にとって一年で最も重要な時期ですが、1980年代前半は、「外資系企業によって沿岸部に建設された工場で働く農民工」もまだいなかったし、「農民工が数多く働く都会のビル建設現場」もありませんでした。中国の人々は基本的に自分が住んでいるところで働いていたので、「大学生が帰郷する」「都会で働く人が田舎の両親の元に帰る」といったケースはもちろんありましたが、中国国内を億人単位の旅行者が大移動する、という雰囲気ではなかったように記憶しています。

 「中国人の国内旅行」として私が強烈に印象に残っているのは、2007年5月1日に北京の故宮博物館に行った時のことです。メーデー連休の最中なので、故宮博物館は大混雑でしたが、そのほとんどは中国人の国内旅行客でした。混雑ぶりは、ちょうど日本で言えば「大晦日の仲見世」とか「元日の初詣客でにぎわう明治神宮」といった雰囲気で、何かにつまづいて転ぶと後ろから押し寄せる人並みで押しつぶされそうな、生命の危険を感じるほどの混雑ぶりでした。この日はあまりに混雑がひどいので、故宮に入るのはあきらめたのでした。

 1980年代、私は北京駐在中に日本からの出張者へのつきあいなどで故宮博物館には40回近く行っていますが、「生命の危険を感じるほどの混雑」を経験したことはありませんでした。1980年代を通じて、中国人民は急速に豊かになりましたが、多くの人々は増えた収入でカラーテレビを買ったり冷蔵庫を買ったりしましたが、休みの期間に中国国内に旅行に出掛けるほど生活の余裕のある人はあまり多くはなかったのです。しかし、2000年代も後半になると、かなり内陸に住んでいる人でも一定以上の収入が得られるようになり、生活必需品や食べ物の不自由はなくなって、「今度の連休には北京に旅行しようか」と考える人が増えたのです。中国政府も旅行業の発展は各地方の経済発展にも繋がるので、観光業の発展は奨励していましたので、中国人の国内旅行客数は急速に増加しました。このため、私が駐在していた2007~2009年頃は、一定以上の収入のある人の中には「中国国内の観光地は、どこへ行ってもすごい混雑なので、ちょっとイヤだなぁ」と考える人が多かったようです。

 2013年以降、それまでの「超円高」が是正され始めると、「中国国内の観光地は混雑しているのでイヤだ」と考えている一定数の余裕のある中国の人々は日本を訪問するようになりました。彼らは「中国国内の観光客で混雑している中国国内の観光地から押し出されて日本に来た」と見ることもできます。従って、日本を訪問する観光客の数十倍(あるいは数百倍?)の人数の中国人観光客が中国国内の観光地を訪問していると考えることも可能です(ちなみに中国国家発展改革委員会の推計によると今年(2017年)の春節期間の旅客数(人数×回数)は29億7,800万人次だそうです。これは半端な数ではありません)。

 今年の春節に関しては、中国中央電視台の夜のニュース「新聞聯播」では各高速道路の渋滞の状況などを伝えていました。1983年の春節の北京を知っている私としては、隔世の感があります。

 中国政府の政策にはいろいろな批判もありますが、多数の中国人民を「食べるのがやっと」の状態から、「テレビや冷蔵庫が買える状況」に変え、さらに「たまには国内旅行をしようか。」という人々を増やし、中には「国内は混雑しているので外国に観光旅行に行こう」と考える人々を大量に生み出した、という点では、それなりに評価されるのではないか、と思います。別の言い方をすれば、そういう「生活の向上」があるからこそ、中国人民は中国政府のやり方にいろいろ不満はあるけれども、それが爆発するところまでは圧力が高まっているわけではない、と言えます。

 昨今の中国からの資金流出懸念を踏まえて、中国当局は、年間一人当たり5万ドルの外貨兌換枠について、外貨購入手続きを厳格化はしましたが、5万ドルの金額枠自体を減額することはしませんでした。特に経済的に重要な役割を果たしている富裕層の人々が持っている「休みには日本など外国へ旅行がしたい」という願望を押しつぶすわけにはいかなかったからだと思います。

(注)日本では前の東京オリンピックがあった1964年に海外旅行が自由化されましたが、この時の外貨持ち出し制限は一人当たり500ドル(当時は1ドル=360円)でした。

 改革開放後の約40年間、中国の人々は「食べるのがやっと」→「電化製品を買えるようになった」→「時々(まずは国内へ、余裕が出れば外国へ)旅行に行けるようになった」という生活の向上を経験してきました。今、中国経済は、ひとつの「踊り場」に来ています。人々の生活が今までと同じようなスピードで向上し続けることができなくなった場合(そして例えば物価だけが上昇するようになった場合)、中国人民の大きなエネルギーはどこへ向かうのか、を考えることは、これからの中国を考える上での極めて重要になると思います。

 この春節期間中、日本におられる方々も中国人訪日客のエネルギーを感じる機会が多いと思いますが、その機会にそのエネルギーの数十倍(あるいは数百倍?)のエネルギーを持った旅行客が中国国内を移動していることを想像して、今後中国がどう動くのか、それに対して日本はどう対応していくべきなのか、考えてみるのもよろしいかと思います。

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2017年1月21日 (土)

中国経済はもはや「無視してよい『空気抵抗』」ではない

 斜面や空気中を移動する物体の運動に関する高校の物理の試験問題ではよく「斜面と物体との摩擦は無視する」「空気抵抗は無視するものとする」といった設定がなされます。これは試験問題は学生が力学の基本的原理を理解しているかどうかを問うものであって、複雑で中身がよくわからない摩擦現象や空気抵抗を考慮すると、問題が解けなくなってしまうからです。

 しかし、実際の物体の運動に関しては、「斜面と物体との摩擦」や「空気抵抗」は、大きな存在であり、時としてこれらは運動の状況を決める際に致命的な役割を果たすファクターだったりします。しかし、試験問題で「摩擦や空気抵抗は無視する」というものが多いためか、多くの人が「現実の摩擦や空気抵抗も無視して構わないほど物体の運動に与える影響は小さい」と誤解しているフシがあります。

 昨今、特にトランプ氏が大統領選挙で当選して以降、トランプ氏の政策を1980年代のレーガン政権と比較するなど、「世界経済における中国経済が与える影響」について無視した議論を多く見かけます。1980年代、1990年代、2000年代、2010年代のそれぞれのステージで、世界経済における中国経済の比重は急速に重くなってきており、1980年代には中国経済の影響を無視することは可能だったとしても、現在は中国経済を無視することは不可能です。中国経済を無視した議論は、たぶん、誤った結論を導きます。

 やっかいなことに、中国経済は「自由主義経済における常識的プレーヤーとは異なるルールで動くプレーヤーの集合体」です。中国の国有企業は「株主の利益を最大限にする」ことを目的としていない場合が多く、時として「企業としては損失を出してでも雇用の最大化を目指す」といった行動を取ります。また、各レベルの政府の政策の目的も「住民の福利を最大限にすること」ではなく「地方政府幹部の中国共産党内部における昇進」が最大の目的だったりします。

(注)欧米や日本等の「自由主義経済圏」の企業の行動の目的も、必ずしも「株主の利益を最大限にする」ことではなく、「当面の損失は覚悟しながら市場におけるシェア拡大を目指す」とか「社長の野望を実現する」だったりするので、そう単純でありません。また、民主主義国家の政治リーダーの目的は「選挙で勝つこと」であり、「住民の福利を最大限にすること」は、その手段に過ぎないことには留意する必要があります。

 「通常とは異なるルールでプレーするプレーヤーの集合体」である中国経済も、1980年代のように、その規模が非常に小さい時には無視することは可能だったと思います。でも、現在の中国のGDPは世界第二位であり、中国経済は「無視することができない」どころか「中国経済がどういうリアクションを起こすか」は、各国の経済政策を実行する上において、効果を左右する重要なファクターになったと言えるでしょう。

 ところが、中国経済は「統計が信用できない」「経済政策の目的が『国民の福利の向上』ではなく『中国共産党による政権の維持』であるためどういう政策を採るのか予測が難しい」といった外からはわかりにくいものになっているため、摩擦や空気抵抗ではないけれど「複雑で中身がよくわからないので影響は少ないだろうと勝手に推測して無視してしまう」ことがよくあります。

 昨年(2016年)11月8日のアメリカ大統領選挙でトランプ氏が当選して以来、アメリカ国債長期金利の上昇とドル高が続いています。このドル高により、人民元安を避けたい中国当局が外貨準備として持っているアメリカ国債を売っている、という議論があります。これは実は、中国からの資金流出による人民元安を避けたい中国当局が為替介入をする原資にするために手持ちのアメリカ国債を売却しており、そのためにアメリカ国債の金利が上がり、その結果としてドル高になっているのかもしれません。「中国当局の動きの影響は無視できるほど小さい」と考えれば、ドル高は中国の為替介入の原因と考えてよいのですが、「中国の影響が支配的である」と考えれば、ドル高は中国の為替介入の結果と考えるべきです。

 今年(2017年)に入って、10年ごとに繰り返す世界経済の危機についての議論をよく聞きます。1987年にはブラック・マンデーがあり、1997年~1998年には「アジア通貨危機」「ロシア危機」があり、2007年~2008年には「パリバ・ショック」「リーマン・ショック」がありました。それぞれの時点での中国経済の状況を考えると、「これらの10年ごとの世界経済の危機の原因のひとつに中国の状況がある」と考えるのは適当ではないと私も思います。しかし、西暦下一桁が7の年は「中国の政権中間期における中国共産党大会が開かれる年」であることが「単なる偶然の一致」なのかそれとも何らかの因果関係があるのかについて慎重に議論する必要があるのではないかと私は考えています(1980年代は胡耀邦・趙紫陽の政権、1990年代は江沢民政権、2000年代は胡錦濤政権、2010年代は習近平政権)。

 各政権の中間期において「7の付く年」に行われる中国共産党大会で各地方政府幹部の「中間評価」がなされてそれが中国共産党内部での人事に反映されることになります。中国の地方政府幹部は、経済実態とは関係なく、自らの任期中のイメージをアップするためのプロジェクトに投資する傾向がある、とよく言われます。それが中国経済において「7の付く年」に向けてバブルを膨らませるひとつの原動力になっている可能性があります。

 今年(2017年)後半には第19回中国共産党全国代表大会が開かれますが、その党大会へ向けて「今、中国は無理して経済を『ふかして』いないか?」という視点で注視することは重要だと思います。

 ちなみに、前回の「7の付く年」の2007年に私は北京に駐在していましたが、この年の第17回中国共産党全国代表大会は10月15日~21日に開かれました。上海株式市場の上海総合指数はこの党大会の期間中にピークを付け、リーマン・ショック前の2008年8月には約三分の一になりました。マンション価格は、私の記憶では2007年の年末頃がピークだったと思います。

 今回(2017年)の場合、上海総合指数の「バブル的ピーク」は2015年6月でしたし、マンション価格は既に去年(2016年)10~12月期にピークを打っている可能性があります。中国当局は、何が何でも党大会の開催までは「経済が下向きになった」というような状況は作りたくないと思うので、必死で様々な政策を講じると思いますが、状況は10年前の2007~2008年よりよくないと思います(10年前は2008年の北京オリンピックと2010年の上海万博という目標となるような「大イベント」があったのに対し、今はそのようなものはありません。反対に今中国経済は2008年にリーマン・ショック対策で発動した四兆元の大規模投資の負の遺産に苦しめられています。また、今年春には香港行政長官選挙があり、香港で政治的混乱が起こる可能性があります)。

 世界経済を議論するに当たっては、「中国経済の実態と中国の経済政策はよくわからないので、とりあえず無視する(あるいは「今までと同じであると仮定する」「中国共産党はうまくソフトランディングさせるはずであると考える」)ことはもはや許されないと思います。

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2017年1月14日 (土)

習近平国家主席の2017ダボス会議出席の意味

 毎年スイスのダボスで開かれる世界経済フォーラム(通称「ダボス会議」)は、今年は1月17日から開かれますが、中国からは今回は習近平主席が参加します。今までは国務院総理の李克強総理が参加していたので、今回初めて習近平主席が出席することについて、様々な憶測を呼んでいます。

 昨日(1月13(金))放送されたテレビ東京の「Newsモーニング・サテライト」の中の「中国 Now Cast」のコーナーでは、今回、習近平主席がダボス会議に出席することにした背景には次の二つがあると指摘していました。

(1)今回のダボス会議には就任直前のアメリカのトランプ新大統領は出席できないので、習近平主席が出席して自由貿易の重要性を主張することにより、世界経済における中国の存在感を世界にアピールすることができる。

(2)今年秋の中国共産党大会に向けて、中国国内向けに、習近平主席のリーダーシップをアピールする狙いがある。

 (1)については、「保護主義を掲げるアメリカのトランプ新大統領に対抗して、中国の習近平主席が自由貿易の重要性を世界にアピールする」というのは、ほとんど「あべこべの世界」のように思えますが、現状を考えれば、これは「あり」でしょうね。11日のトランプ次期大統領の記者会見の様子を見ていると、「アメリカのトランプ新大統領より中国の習近平主席の方が世界をリードしていく政治指導者として立派に見える」というのは客観的に言って事実だと思いますので。

 (2)については、テレビ東京はツィッター発信とは違って責任ある報道機関ですので、「ウラの取れないウワサの類は放送しない」という考え方に基づきハッキリは言わなかったのでしょうが、「習近平主席のリーダーシップをアピールする狙い」とは「毎年ダボス会議に出席していた李克強総理はもはや経済政策において中国を代表する人物ではありませんよ、とアピールする狙い」と言い換えても間違いないことは明らかだと思います。

 去年秋の六中全会以降、李克強総理が中国共産党の重要会議を欠席する、といったことはなくなりましたが、習近平主席と李克強総理が協調体制にない、という状況は続いています。昨年末、香港とマカオの行政長官が年末恒例の北京政府への状況報告を行いましたが、この時も、香港・マカオの行政長官は、習近平主席に報告した後、全く同じようなスタイルで李克強総理にも報告しています(その様子は中国中央テレビのニュースで伝えられました)。まるで「北京政府のトップ」が二人いるような雰囲気でした。

 一方、今中国を訪問中のベトナム共産党書記長との会談に関しては、一昨日、習近平氏が会った後、昨日には、李克強氏、張徳江氏、王岐山氏が会っています。このスケジューリングは習近平氏が他の政治局常務委員(李克強氏も含む)に比べて一段と「エライ」のだ、ということを強調しているように見えます。

(注)なお、李克強氏は国務院総理(党内序列二位)、張徳江氏は全人代常務委員長(党内序列三位)なので、ベトナム共産党書記長がこの二人に会うのは特段不自然ではないのですが、ここで序列第六位の王岐山氏が会っているのは、ちょっと「不自然」です。王岐山氏は腐敗撲滅運動の先頭に立っており、本来、この秋の党大会では年齢上は引退するはずなのですが、こういった扱いは王岐山氏が年齢に関する慣例を破って政治局常務委員として続投する「含み」があるのかもしれません。

 習近平主席は、もし自分の第二期政権(2018年の全人代(3月頃)~2023年の全人代(3月頃))まで李克強氏に国務院総理を続けてもらって経済政策を担当させるつもりならば、今年のダボス会議にも李克強氏を派遣したと思います(ダボス会議は「世界経済フォーラム」なんですから)。そうしなかった、ということは、習近平氏は自分の二期目の政権においては、李克強氏に国務院総理をやらせるつもりはない、と考えている可能性があります。というか、今回、ダボス会議に李克強氏ではなく習近平氏が参加することになったことを受けて、世界の多くの人がそう感じたと思います。

 今年(2017年)、中国経済は下記の二つの点で大きな試練を迎えます。

○アメリカにトランプ新大統領が誕生することにより、中国にとってはアメリカから厳しい貿易上の要求を突きつけられることになる可能性がある。

○今年秋の中国共産党大会を前にして、地方政府幹部が国有企業のリストラを嫌がり、むしろ公共事業を拡大することによって無理矢理経済の水準維持を図っていることから、党大会の前後にその「ツケ」が回って来る可能性がある。特に在庫が大量にあるのに建設が進められているマンション等不動産の価格は、おそらくは去年(2016年)10月~12月期がピークであり、今後は価格の低迷が進み、コントロールを誤ると不動産バブルの崩壊を招く可能性がある。

 こうした難しい経済政策が求められている中で、仮に国務院総理を李克強氏から別の人物に替えるとなると、中国は経済の難しい局面を乗り切れなくなる可能性があります。もっとも、に国務院総理が交代するとしても、今年秋の党大会での方針決定を受けて、毎年3月頃に開かれる来年(2018年)の全人代で正式決定することになるので、今から人事交代の準備をしておけば、それほど混乱なく国務院総理の交代は可能かもしれません。ただし、そのためには、国務院総理交代の方針を早めに示すとともに、李克強氏も納得ずくであることを内外に示して無用の混乱を避ける必要があると思います。

 もしかすると、今回のダボス会議の出席者が李克強氏ではなく習近平氏であるということ自体、「国務院総理のスムーズな交代」のひとつのプロセスである可能性があります。その意味で、今回のダボス会議に習近平氏が出席することの意味は、非常に大きいと考える必要があると思います。

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