2018年5月19日 (土)

アメリカがひっかき回す世界経済と中国の反応

 日本時間今朝(2018年5月19日朝)、アメリカで行われていた米中通商協議が終了しましたが、記者会見等の特段のプレス発表はありませんでした。発表がなかった、ということは「結論が出なかった」ことを意味しています。「今後とも協議を継続する」ということなんでしょう。

 アメリカ・トランプ大統領の対中通商措置は、11月の中間選挙へ向けての「強めのポーズ」であり、実際は交渉の中でお互いに譲歩し合いことにより、大したことにはならない、という見方もあります。しかし、これだけ「おおごと」の通商問題提起がなされた以上、実態的な経済的な影響は必ず出ます。

 実際、中国の通信機器大手ZTEに対する制裁措置は、多くの部品等をアメリカからの輸入に頼るZTEの事業に多大の影響を与えているようであり、スマートフォンの製造が止まっている、と報道されています。「中国で多くの雇用が失われている」とツィッターで書き込んでいるように、トランプ大統領自身もその実態的な影響については認識しているようです。

 中国側が「対抗措置」として品目リストに挙げている大豆についても、大豆は中国の人々の重要なタンパク源(人間が食べる分と家畜の飼料にする分)ですので、中国政府も大規模なアメリカ産大豆の輸入制限はできないだろうとも考えられるのですが、5月17日(木)に放送されたテレビ東京「Newsモーニング・サテライト」では、中国政府が今年の大豆の作付けを大幅に増やす政策を採っている一方、今年3月のアメリカ産大豆の輸入は対前年比27%減だったことを伝えています。4月8日付けのロイターの報道では、中国がブラジル産大豆の買い付けを急いだため、ヨーロッパ勢がアメリカ産大豆の買い付けに動いていることを報じていました。

 5月、6月はちょうど大豆の作付けの時期ですが、今日(2018年5月19日(土))付け日本経済新聞朝刊17面の記事「米の作付け動向に注目 大豆、トウモロコシ逆転も」によると、アメリカの農家は、現在の相場の状況に鑑み、今年は大豆の作付けを増やすかもしれない、との観測もあるようです。例年と異なる状況を踏まえたそれぞれの当事者の「思惑」により、結果的に収穫時期になったら世界的に大豆が足りなくなったり余ったりする状況になる可能性も否定できません。

 問題は、過去の事例を参考にすると、中国の場合、中国共産党の指示で中国全体の農家や企業が一斉に動くため、どちらに動くにしても「振り子が一方向に振れ過ぎる」傾向があることです。THAAD(終末高高度防衛ミサイル)の韓国への配備を巡って中国が反発した件では、韓国は対中経済関係で大打撃を被りました。昨冬には、中国政府による大気汚染対策による石炭からLNGへの燃料切り替えがあまりに「一斉に」行われたため、中国国内でLNGが不足する事態になりました。民主主義国家ならこうした「振り子の振れ過ぎ」は国民に政府の政策に対する不満を呼び起こし、政府に対する反発が強まるのですが、中国の場合それがないので、政府の側に「振り子の振れ過ぎ」を防ごうというインセンティブがわかないことが、中国においてこうした「振り子の振れ過ぎ」が繰り返される原因だと思われます。

 一方、アメリカの金融政策が「出口路線」を進めていく中、アメリカ長期国債の金利が先週また一段と高くなりました(10年物国債の金利が7年振りの水準に上がった)。アメリカでの金利上昇に伴い、それぞれの国の事情もあり、今、アルゼンチンとトルコの通貨の下落が目立っていて、状況が悪化しないかという懸念も広がりつつあります。この問題について、日経CNBCコメンテーターの清川鉉徳氏は、5月17日(木)に放送された「ラップ・トゥディ」の中の「深読み先読み」のコーナー(この回のタイトルは「新興国危機は来るか?~その(2)灰色のサイに注意」)の中で、アルゼンチンやトルコの問題というよりも、中国の民間企業の債務が過去に比べて非常に大きくなっている点のリスクを指摘していました(「灰色のサイ」については、このブログの2017年11月18日付け記事「あの手この手の中国マンション政策」及び2017年11月25日付け記事「『人民日報』掲載の周小川中国人民銀行総裁の論文」参照)。また、中国企業が外債発行による資金調達を膨らませていることについては、昨日(5月18日(金))付け日本経済新聞朝刊8面記事「中国企業、外債頼み 1~4月発行2.8倍 国内より低金利」が指摘しています。

 さらに、アメリカ・トランプ大統領によるイラン核合意離脱宣言と在イスラエル・アメリカ大使館のテルアビブからエルサレムへの移転が中東情勢の今後に不安を呼んで原油高を招いていることも現在の世界経済を考える上で非常に重要です。

 これらの現在の世界経済を巡る様々な問題は、現在の世界の政治・経済システムが抱える根本的な矛盾点が一気に吹き出した結果だと言えるでしょう。それらの「矛盾点」とは以下のとおりです。

○現在の世界経済において米ドルが国際基軸通貨として定着しているが、アメリカ大統領は、自国内の選挙を目的とした政策運営に軸足を置いていること(アメリカ政府が「世界の警察官」としての一定の自覚を持っているならばこの点はあまり問題にはならないが、アメリカ政府が「アメリカは世界の警察官ではない」と宣言した瞬間、この矛盾点は吹き出ることになる)。

※アメリカが世界の警察官をやめるなら、米ドルも国際基軸通貨としての地位を失うのが当然である、と多くの人は考えているでしょう。

○世界の基軸通貨である米ドルの流れを左右するアメリカFRB(連邦準備制度理事会)の金融政策が「アメリカ国内における物価と雇用の安定」を目的として行われていること(FRB自身「FRBはアメリカの中央銀行であり、世界の中央銀行ではない」というスタンスを採っている)。

○アメリカ政府とアメリカFRBは互いに独立していて、両者が政策を調整することはないこと(通貨が国際基軸通貨になっていない国の政府と中央銀行との関係はこれでよいのだが、実態的に全世界の政治と金融政策を動かすことになるアメリカ政府とFRBが「お互いに独立なのは当然なのだ」と涼しい顔をしていていいのかどうかは議論の余地のあるところ)。

○民主主義と企業の独立した経営判断が存在しない中国が民主主義(=ルールは参加者の多数決で決める)と自由経済(経済主体の自由な判断に基づく市場の「見えざる手」によって経済が調整される)を基盤とする自由主義的世界経済の中で非常に大きな力を持つプレーヤーに成長してしまったこと。

 将来的には、国際的な経済ルールは国際的な枠組みで決め、金融政策は例えばIMFのような国際機関がコントロールし、どの国にも依存しない通貨が国際的な決済に使われるようになれば、上記の矛盾点は解決されることになるのでしょうが、そうなるまでにはまだまだ相当の時間が掛かると思います。現在の状況は「アメリカは世界の警察官で米ドルが国際基軸通貨である」という20世紀後半の世界経済秩序が音を立てて崩れ始めていると考えてよいでしょう。問題は、世界各国の指導者たちがそういう現状認識に立って、新しい世界経済秩序を確立するにはどうしたらよいかを念頭に置きながら個々の問題に対処していけるかどうか、でしょう。もし、世界の指導者がそういう認識に立っていないのならば、ここしばらくは、世界経済は混乱の時代を迎えることになるのかもしれません。

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2018年5月12日 (土)

習近平主席とアルゼンチン大統領との往復書簡の意味

 今日(2018年5月12日)付け「人民日報」の1面には習近平主席がアルゼンチンのマクリ大統領と交わした往復書簡についての記事が載っていました。今年(2018年)のG20はアルゼンチンで行われるので、中国とアルゼンチンのトップが往復書簡を交わしても別に不自然ではないのですが、なぜ今なのか、という点は非常に微妙です。今年のG20首脳会談は11月30日から開催予定で、まだかなり先の話ですので、今のタイミングで往復書簡を交わした背景には、やはり最近のアルゼンチンの経済情勢に対して支援の意図を示すことで、中国がアジアのみならず世界の国々をバックアップする姿勢を内外に示す、という中国側の国際戦略上の意味があるものと思われます。

 アルゼンチンは過去に何度も債務不履行を起こしていて経済再建の途上にありますが、昨今のアメリカの利上げ継続に伴い、ここに来てアルゼンチンからの資金引き上げ圧力が急激に強まっています。それに伴ってアルゼンチンの通貨であるペソの急落が続いたため、5月5日、アルゼンチンの中央銀行は政策金利を年40%に引き上げました。それでも資金流出とペソの下落が止まらないため、5月8日、アルゼンチンのマクリ大統領はIMF(国際通貨基金)に対して300億ドルの融資支援を要請しました。

 こうした状況の中で今回の習近平主席とマクリ大統領の往復書簡は交わされました。「人民日報」が伝える記事によると、この往復書簡では、昨年中国で開かれた「一帯一路国際協力サミット」へのマクリ大統領の参加に言及した上で、G20の成功を祈るといったやりとりがなされた後、次のようなやりとりが交わされています。

○マクリ大統領は、アルゼンチン国内の経済金融情勢とそれに対する対応措置について説明した。

○習近平主席は、最近の外部要因の影響を受けて、アルゼンチンを含めた一部の新興国市場と国内経済環境は新たな挑戦に直面しているが、これに対し、中国は、アルゼンチンの国家安定と発展のための努力を断固として支持し、できるかぎりの援助を行う用意があると表明した。

 この往復書簡だけでは、具体的に何をやるのかは明確ではありませんが、今後、中国からのアルゼンチンに対する支援の具体策が話合われていくことになるのだと思います。「一帯一路」に関する言及がなされていることから考えても、これは中国がアルゼンチンに対して経済的な支援をする一方で、今後南米地域への影響力を強化していくという中国の意図があることは明らかでしょう。

 また、「今のタイミング」ということを改めて考え直して興味深いのは、アルゼンチンは世界の中でも有数の大豆の生産国である、ということです。昨日(2018年5月11日(金))放送された日経CNBCの番組「夜エクスプレス」の中のコーナー「インサイト(この日のテーマは「米中貿易摩擦は世界の食糧地図を変えるか」でした)」の中で資源・食糧問題研究所の柴田明夫氏が紹介していたアメリカ農務省のデータによると、2017-2018年度の世界の大豆輸出量のうち47%がブラジル、37%がアメリカであるほか、アルゼンチン、カナダ、パラグアイ及びその他の国々がそれぞれ4%を占める、とのことでした。経済金融危機に陥っているアルゼンチンを支援する目的で、中国が米中貿易摩擦を横目で見ながら、アメリカからの大豆輸入を減らして、その分をアルゼンチンから買い増す、といった作戦に出る可能性も考えられます。

 この「インサイト」のコーナーでは、中国の豚肉の国内生産量が急激に減少している一方で需要は伸び続けており、ここ数年、中国の豚肉の輸入量が急増していることも指摘していました。この点も、アメリカ産豚肉輸入についても中国側が貿易摩擦の対象品目として掲げていることを考えると興味深いものがあります。大豆は豚の重要な飼料ですが、豚肉は中国の消費者にとって極めて重要な食料品で、消費者物価に占める豚肉価格の比重は高く(上記番組で柴田明夫氏は、消費者物価指数CPI(Consumer Price Index)は中国では「チャイニーズ・ピッグ・インデックス」の略だなどと言われるくらいだ、と紹介していました)、今回の中国習近平主席のアルゼンチン・マクリ大統領への経済的支援表明は、アメリカ・トランプ大統領に対する大豆輸入や豚肉輸入に対する牽制球の意味もあるものと思われます(大豆や豚肉の安定的な確保は中国にとっても重要な課題だが、アメリカ産大豆やアメリカ産豚肉に頼らなくても、中国はアルゼンチン産の大豆を飼料にして国内で豚肉を生産できるのだぞ、とアメリカ側に示す意図があるのかもしれません)。

 アメリカのトランプ大統領は、対中貿易摩擦、北朝鮮対応、イラン対応など、今までのアメリカ政権のやり方をひっくり返して「パンドラの箱」を次々と開けている印象がありますが、心配なのはトランプ大統領が明確な国際戦略の見通しに立って、こうした複数の国際的案件に対応しているのか、ということです。中国は「一帯一路」戦略などの国際戦略を打ち出している一方で、北朝鮮情勢に対しても存在感を維持しようと動いていますが、少なくとも中国の方は、トータル的な国際戦略を考えながら、作戦を練った上で個々の外交案件に対処しているように見えます。今回のアルゼンチンの経済危機も、もちろんアルゼンチン国内の経済課題が根本にあるわけですが、急激に悪化した切っ掛けはアメリカによる利上げです。アメリカの各種各様な政策で複雑化していった世界の秩序の中で中国が経済力を背景にして影響力を拡大していっている、という2018年の世界の流れが今回の中国-アルゼンチンの首脳間の往復書簡にも現れている、と見てよいと思います。

 なお、今日(2018年5月12日)の中国中央電視台の夜7時のニュース「新聞聯播」では、李克強総理が安倍総理の同行の下で北海道を訪問した件を結構長い時間を掛けて放送していました。最近「影が薄くなってきた」感が強い李克強氏関連のニュースとしては異例でした。また、例えば、李克強氏が安倍総理や豊田社長とともにトヨタ自動車北海道の工場を視察し、燃料電池車などについて説明を受ける映像などは、「安倍晋三ケシカラン」というニュースが多かった「新聞聯播」としては、これまた異例のポジティブなニュースでした。トランプ大統領を横目に、中国側としても、日本とは接近しておきたい、という意図があるように感じました(今回の李克強氏の訪日は、李克強総理と天皇陛下との会見の実現や李克強氏の北海道訪問の全日程への安倍総理の同行などを見ると、中国側の「日本と接近したい」という意図を日本側としても十分活用したいという意図があったと思われます)。

 アメリカのトランプ大統領が「今までの常識的な国際的やり方」という「ちゃぶ台」をひっくり返したのだから、中国も日本も「ちゃぶ台がひっくり返った状況の下での国際秩序」の中でそれぞれ自国のために何をするのか自分で考える時代が来た、ということなんでしょうね。トランプ大統領のやり方がアメリカの国益やアメリカ企業の役に立っているのかどうかは私にはわかりませんが、今日の「新聞聯播」を見て、少なくともトヨタは中国国内で最大の視聴者数を誇る「新聞聯播」の中で豊田社長が日中両国の総理に自社の説明をする様子を結構長い時間タダで放送してもらって、相当得したよなぁ、と私は感じました。トヨタは日欧米韓及び中国国内の各自動車メーカーと中国市場で日々熾烈な競争をやっているわけですからね。

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2018年5月 5日 (土)

中国の金融機関の資産管理強化と不動産市場の今後

 中国人民銀行、中国銀行保険監督管理委員会、中国証券監督管理委員会、中国外為管理局は、4月27日、連名で「金融機関の資産管理の規範に関する指導意見」を発表しました。昨年11月に「案」を公表してパブリック・コメントを求めたものについて実施を決めたもので、内容は知られていたので、マーケット等には特段のインパクトはありませんでした(ただし、発表がメーデー連休直前の4月27日(金)に行われたのは、当局側としてもマーケットが強く反応することに対して警戒していたことを伺わせます)。

 この「指導意見」は、中国当局が最近強めている金融リスク拡大の抑制・防止を図るための政策の一環で、内容は、理財商品等に対する元本保証・収益保証の禁止、「金融イノベーション」の名の下で行われている多重構造の複雑な(=リスクの存在がわかりにくい)投資商品の禁止などです。パブリック・コメント・バーションでは2019年6月末までとされていた「過渡期間」が、この「指導意見」では2020年末まで、と設定されており、金融機関は、この「過渡期間」の間に償還期限が来る投資商品については、この後は「指導意見」に則ったものに切り替えねばならず、2020年末以降は「指導意見」に反する投資商品は認められなくなる、ということになります。

 今回の「指導意見」の発表に関して、「人民日報」ホームページ内の「財経チャンネル」内にある「金融チャンネル」には、4月28日付けで「資産管理に関する新規定、業界内の『大躍進』時代の終わりを告げる」と題する解説記事が載っていました。「大躍進」とは、毛沢東主導による農村の人民公社化と並行して1958~1960年に推進された急激な鉄鋼増産計画などの中国共産党の政策のことを指しますが、「大躍進政策」はあまりに急激な政策だったため、農業生産量が激減し、数千万人の餓死者が出たと言われる政策で、中国共産党による政策の歴史の中でも「汚点」とされる部分です。こうした用語を見出しに書いた記者は、それなりに「勇気」を持って書いたものと思われます(もっとも、今の世代の記者は、そうした「歴史」に対する認識があまりなく、単純に無邪気に書いた記事なのかもしれませんけどね)。

※「大躍進」という言葉については、私には興味深い想い出があります。1984年4月、中国国内で列車で移動する出張があったのですが、その車内で、中国側随行者と「ヒマだから、トランプをやろう」ということになり「大貧民」をやることにしました。その時、中国側の人が「大貧民」のルールを知っていたこと自体驚きでした。「大貧民」というゲームのルールは極めて「資本主義的」なので、その中国人随行者に「中国ではこのゲームを何と呼ぶのか」と聞いたら、ちょっと困った顔をした後「大躍進と呼ぶのだ」と言っていました。本当なのかジョークなのかよくわからなかったのですが、1981年6月に「文化大革命は誤りだった」と宣言する「中国共産党の若干の歴史問題に関する決議」が出たすぐ後の時期だっただけに、中国共産党の最大の失策とも言える「大躍進政策」に対する中国の人々の複雑な思いを垣間見た気がしました。

 この記事の中では、今回の「指導意見」は、昨年11月に既に「パブリック・コメント・バージョン」が公開されており、市場では「織り込み済み」だったので、市場への急激な影響はないだろうが、将来的には市場の流動性に対して乱れ(中国語では「擾動」)を起こすことは避けられないだろう、と指摘していました。この記事では、「乱れを起こす原因」についての解説は何も書かれていませんでしたが、大手銀行はともかく、地方の中小銀行等においては、「暗黙の保証」に基づいた理財商品の販売等で資金を確保していたところがあり、金融機関の一部では、資金の確保が難しくなるところも出てくる可能性があると想像されます。(私自身は、理財商品の償還資金のうちの一定割合が新しい理財商品の販売による資金集めに依存するという「自転車操業」になっており、元本保証・収益保証の禁止による新規の理財商品の販売不振により、この「自転車」が倒れる可能性があるのではないかと思っています)。

 この記事は、「今後、新しい資産管理規定の現実的な適用状況を見ながら、『資金管理の監督強化+緩和的な貨幣政策』の組み合わせ政策の影響を見ていく必要がある。」と締めくくっています。

 一方、「人民日報」ホームページ内「財経チャンネル」にある「房産(=マンション不動産)チャンネル」のページでは「北京の4月のマンション成約は前年同期比で44.5%のマイナス」とか「メーデー連休中のマンション市場は意外に低迷 5月1~2日の一線級都市のネットでの成約は去年の5割」といった記事が載っています。去年(2017年)10月の中国共産党大会へ向けての大規模な公共投資が一服していることから、マンション販売にも、今、一服感が出ているところなのだと思います。

 中国経済全体は、中国政府による公共投資の動向(例えば、新副都心計画「雄安新区」プロジェクトなど)やiPhoneをはじめとするスマホの販売動向、原油価格、米中貿易交渉の今後など様々な要因によって動いていくと思いますが、引き続き、中国の金融政策と不動産市場の動向には要注意の時間帯が続きそうです。

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2018年4月28日 (土)

アメリカによる中国のZTEに対する制裁は結構「おおごと」だ

 報道によれば、アメリカ商務省は4月16日、中国の通信機器大手の中興通訊(ZTE)がイランや北朝鮮に対して通信機器を違法に輸出していたとして、アメリカ企業によるZTEへの部品や設備等の販売を7年間禁止すると発表しました。また、アメリカのウォール・ストリート・ジャーナルの電子版は、アメリカ司法省はこれも中国の通信機器大手である華為技術(ファーウェイ)についても捜査していると報じている、とのことです。

 私には、アメリカの措置が、「妥当で合理的なもの」なのか、「5G」世代へ向けてアメリカが中国の通信機器大手企業の成長を阻害しようとしている「よこしまなもの」なのか、を判断する材料はありませんが、ZTEも華為も現代の中国を代表するトップ企業なので、アメリカがこれらの企業への制裁を「本気で」やろうとしているのならば、中国経済のみならず、ZTEや華為とビジネスを行っている外国の企業(アメリカの企業も含む)にも多大な影響を及ぼすことになるのではないかと私は心配しています。

 一方、トランプ政権になってからのアメリカでは、安全保障上の観点から、中国によるアメリカのハイテク企業への投資を監視・制限しようとする動きも強まっています。

 これらの一連の動きは、世界経済全体の動向にも悪い影響を与える可能性があり、思っている以上に相当に「おおごと」だと思います(場合によっては、米中による関税引き上げ合戦より、今回のZTE等への「制裁」の方が世界経済への影響度は深刻かもしれない)。これらの動きは、民間部門における技術交流のグローバル化を妨げ、結果的にアメリカも含めた世界経済全体の進展を阻害するおそれがあるからです。

 現在、技術進歩のスピードが速くなっており、各企業は、自社内での研究開発だけでなく、ベンチャー企業など外部の優れた技術を持つ企業をM&A(合併・買収)することも、新しい技術を獲得するための重要な手段として考えるようになっています。特に中国の企業は、自社技術への「こだわり」は強くなく、新しい技術を外部からM&A等で導入することに全く抵抗がありません。むしろ、日本の企業の方は「自社での技術開発」にこだわり過ぎていて「我が社の優れた技術を持ってすれば必ずマーケットに受け入れてもらえるはずだ」というよく言えば「自負」、悪く言えば「おごり(慢心)」があり、それが日本企業の欠点ですらある、とも言われるようになってきています。

 自社技術にこだわり過ぎて、世界のマーケットの動きと全く関係なく技術進歩を続ける日本企業について、2000年代、外界との関係を絶った環境で独自の生物進化を遂げたガラパゴス諸島にちなんで「ガラパゴス化」と言われたりしました。実際、独自技術に自信を持っていたはずの日本企業群がほとんど全て中国の携帯電話市場で敗れ去ったことは記憶に新しいところです(スマートフォンに対して従来型携帯電話を「ガラケー(ガラパゴス携帯)」と呼ぶのは、この頃に流行った「ガラパゴス化」という言葉のなごりですね)。

 私は、ZTEについては、「自社技術にこだわらず、世界から優れた技術を買い取って、市場が求める新しい製品を次々と作っていく」というバイタリティーのある中国企業の典型例である、というイメージを持っています。私はちょうど十年前、北京駐在時代の2008年4月に広東省深センにあるZTEの本社を見学する機会があったのですが、その時の様子を下記の文章にまとめました。

(参考URL)
国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が運営する「サイエンス・ポータル・チャイナ」内
「コラム&レポート」-「北京便り」
【08-004】中国企業の企業戦略の傾向
(2008年4月25日(JST北京事務所快報) File No.08-004)
http://www.spc.jst.go.jp/experiences/beijing/b080425.html

※このレポートの筆者はこのブログの筆者と同一人物です。

 上記の文章では、ZTEと中国のネット検索最大手「バイドゥ(白度)」について取り上げています。この文章でも指摘しているとおり、ZTEは、マーケットのニーズに合わせて、世界から最先端の技術を導入して新しい製品を作ることが会社の柱になっています。なので、アメリカ・トランプ政権によるZTEへのアメリカ企業の部品・設備の供給停止やアメリカのハイテク企業への中国企業による投資の制限等の政策は、ZTEの経営の柱の部分を直撃する可能性があります。上の文章でも指摘しているとおり、ZTEのような「自社技術にこだわらず、広く世界から最新の技術を導入する」という方針は、中国の新進企業に急速な発展をもたらした一つの大きな経営方針であり、今回のようなアメリカ・トランプ政権による一連の政策は、ZTEに限らず他の同様の中国企業に大きな影響を与える可能性があります。

 中国の企業に限らず、今、世界経済はグローバル化の中、国籍に関係なく、優れた製品は国境を超えて輸出・輸入され、優れた技術は国境を超えて技術移転や企業のM&Aの形で移転されています。それが世界経済のスピーディな発展を支える大きな柱だからです。物や技術の世界的な流通が第二次世界大戦後の世界経済の発展を支えてきたこと、通信技術など多くの技術が軍事用・民間用の垣根のない汎用技術であることを考えると、もし仮にアメリカのトランプ政権が「中国という国」「安全保障に関連する技術」に絞った形にせよこれらの動きに大きな制限を掛けようとすることは、21世紀における世界経済発展の原動力の源を細らせてしまう切っ掛けになる可能性があると思います。

 また、今(2018年4月)というタイミングもよくありません。今、世界経済の景気の波は、もしかするとリーマン・ショック後の回復期のピークを越えつつあるのかもしれないからです。このタイミングでアメリカ・トランプ政権が中国に対して、貿易や技術の面で「縛り」を強化することは、現在の世界景気の波の「下り」を急速に加速させてしまう可能性があります。なので、「これはアメリカと中国との問題だ」「中国のこれまでのやり方にもいろいろ問題があったので、アメリカがある程度中国に『制裁』を加えるのはやむを得ない」といった態度で傍観するのでなく、世界各国は、世界経済全体の根本問題になり得るとの危機感を持って、アメリカ及び中国に対して問題を早期に解決するよう働きかけるべきだと思います。

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2018年4月21日 (土)

香港ドルの動きに見る中国からの資金流出圧力の状況

 トウ小平氏が始めた改革開放下の中国経済の発展において、香港は中国経済の世界経済に対する窓口として大きな役割を果たしてきました。中国が1984年の中英共同声明において、「1997年の返還後も50年間は香港の資本主義体制は維持する」と約束したのも、中国としては「世界との窓口としての経済センターたる香港」の活力を当面の間(少なくとも返還後50年間)は維持して欲しいいと考えたからでしょう。

 中国大陸部の通貨である人民元は外貨との交換に際して様々な規制が掛かりますが、香港ドルは、イギリス統治時代から一貫して米ドルや日本円と基本的に自由に交換できる国際的通貨として現在に至っています。

 1980年代、中国は「外貨兌換券制度」を導入して、外貨と交換できない通常の人民元の他に、外貨によって入手できる外貨と兌換可能な元建ての「外貨兌換券」を発行していました。人民元と外貨兌換券の公定交換レートは1:1でしたが、通常の人民元では輸入品は買えず、輸入品を買うには外貨兌換券が必要であったことから外貨兌換券の人気が高く、街には人民元と外貨兌換券を交換する「ヤミ交換業者」がうようよしていました。1986年~1988年の私の最初の北京駐在の際、街を歩いていて外国人だとわかるとよく「外貨兌換券を交換しないか」と声を掛けられたものでした。その頃のヤミレートは1:1.6くらいでした。北京で香港ドルを見かけることはありませんでしたが、その頃香港ドルを持っている人がヤミレートで人民元と交換しようとすれば、おそらく公定の交換レートの1.6倍くらいの有利なレートで交換できたろうと思います。

 中国経済の発展により外貨兌換券は1995年1月1日をもって廃止されました。2009年に二回目の北京駐在の際に私が香港に行った際には、既に人民元は香港ドルより人気が高い状態になっていました。香港では、香港ドルでも人民元でも買い物ができましたが、お店の人は人民元で支払った方が喜ぶようでした。

 香港ドルは、米ドルペッグ制(米ドルとの交換レートが一定している)を採っています。2005年からは1米ドル=7.75~7.85香港ドルの間になるように香港通貨当局がコントロールするような変動幅を持った米ドルペッグ制度になっています。従来、香港ドルと米ドルとの交換レートは香港ドル高上限の1米ドル=7.75香港ドル付近で安定していたのですが、2017年に入ってから徐々に香港ドル安の方向に動き、つい最近(2018年4月12日)、香港ドル安下限の1米ドル=7.85香港ドルを付けました。それでも香港ドル売り・米ドル買いの圧力があったため、香港通貨当局は香港ドル買い・米ドル売りの為替介入を実施することにより1米ドル=7.85香港ドルを維持しました。

 日経CNBCの番組の中でコメンテーターの岡崎良介氏は、この香港ドルの動きについて次のように解説していました。

○2015年12月のアメリカFRBによる利上げ開始後、アメリカが利上げを進めるたびに香港当局は香港の政策金利を引き上げて、アメリカと香港との間の金利差によって米ドル高・香港ドル安の動きが起きないようにする金融政策を採ってきた。

○しかし、香港へは中国大陸部からの資金流入があるので、香港の市場金利は香港の政策金利と同じようには上昇せず、2017年を通して、アメリカの利上げの継続に伴って、米ドル金利が上昇するペースでは香港ドルの市場金利は上昇しなかった。そうなると、金利の低い香港ドルを借りて米ドルに代え、米ドル建ての金融商品を買うと、金利差分だけ儲かることになるので、そうしたトレード(キャリー・トレードと呼ばれる)が増えてきた。このトレードでは香港ドル売り・米ドル買いが行われるので、香港ドル安・米ドル高の圧力が高まることになる。

○今後、香港ドル安・米ドル高の圧力が継続しても、香港当局の外貨準備は十分にあるので、必要に応じて為替介入を行うことにより、1米ドル=7.85香港ドルの限度を維持することは当面は可能である。

○もし仮に香港当局の為替介入が長期にわたることになり、香港当局の外貨準備が不足しそうになった場合には「香港ドルの米ドル・ペッグ制をやめる」「世界最大の3兆米ドルの外貨準備を持つ中国本土の中国人民銀行が乗り出して人民元と香港ドルを統合する(実質的に香港ドルが廃止される)」というオプションもあるが、この場合は世界の金融市場に大きな影響を与えることになる可能性がある。

 香港ドルと米ドルの交換レートの推移を見ると、2017年に入った頃から急激に香港ドル安・米ドル高の傾向が強まっています。これは、2017年に入ってから、中国当局が人民元による外貨購入の規制を厳しくしたことにより、人民元を直接外貨に替えることが難しくなったので、人民元で香港ドルを入手して(中国大陸部と香港は密接な経済関係にあるので物の売り買いなど人民元を香港ドルに替える手段はいくらでもある)、入手した香港ドルで外貨を買う行為が増えてきたことを意味していると思われます。このことは、現在、人民元の対米ドルレートは非常に安定していますが(むしろ人民元高・米ドル安の方向に動いているが)、これは中国国内からの資金流出圧力が減ったことを意味するのではなく、あくまで中国当局の人民元に対する規制が功を奏していることを表しているだけであり、実際の中国国内の傾向としては、やはり人民元を売って外貨を買いたいという圧力が依然として強いことを意味していると思われます。

(参考)2016年末の中国からの資金流出圧力と2017年に入ってからの中国の資金流出規制については、このブログの2016年12月24日付け記事「中国からの資金流出と財産保護に対する信頼感」、2017年1月7日付け記事「中国資金流出阻止攻防戦:当局対人民・投機筋」を御覧ください。

 冒頭に書いたように、香港は、改革開放下の中国の経済発展の過程で、世界経済と中国大陸部をつなぐ極めて重要な窓口の役割を果たしてきました。今、その「窓口」は、大陸部の中国当局の資本規制の網をかいくぐって資金の対外流出を可能にする「抜け穴」として機能しているわけです。

 アメリカ・トランプ大統領によるアメリカにとっての米中貿易赤字削減圧力に対応して、習近平主席は、自動車産業等における中国国内投資への規制緩和の姿勢を明確に打ち出していますが、これは「トランプ大統領対策」という側面と同時に、外国から中国国内への投資を増やして、中国国内にある「資金流出圧力」を緩和させようという狙いもあるものと思われます。

 中国国内の企業・個人や中国国内に投資している外国企業が中国経済の将来について安心感を持てないようだと中国国内からの資金流出圧力はこれからも続くでしょう。中国当局による国境での資金移動規制はある程度奏功すると思いますが、香港という「抜け穴」が存在する以上、中国当局の資金移動規制にも限界が生じます。そうなった時、北京の当局が「香港」という「抜け穴」を塞ごうとするのかどうか、が、今後の香港の将来を決めることになると思います。北京当局が自由経済圏である香港における規制をもし強化するなら、自由貿易港・アジアの金融センターとしての香港の活力は失われてしまうでしょう。もし北京が香港に「経済的自由」を享有させ続けるのだとすれば、北京政府は中国国内における「資金流出圧力」を減らす実効的な政策を採らない限り、香港経由での資金流出は続いていくことになるでしょう。

 昨日(2018年4月20日)、中国共産党中央と国務院は河北省に北京の非首都機能を移転させようという新しい都市「雄安新区」についての「計画綱要」を許可しました。今日(4月21日)見た「人民日報」ホームページの「房産(不動産)チャンネル」のトップにこのニュースが載っていることを見ても、この「雄安新区計画」は中国の不動産業界における目下の最大の関心事項であることがわかります。こうした動きを見ると、中国政府は、また新たな巨大不動産投資プロジェクトを進めることによって中国国内に資金需要を作り出して外国への「資金流出圧力」を抑制しようと躍起になっているように見えます。これは「新しいバブルによって過去のバブルを吸収する政策」と言えますので、どこまで持続可能なのかは私にはわかりません。ただ、こうした中国大陸部における経済バブルの状況や資金流出圧力の実情を知るためには、香港の市場金利や香港ドルの対米ドル・レートの動きに注目することも重要である、と最近の香港ドルの動きは教えてくれたと思います。

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2018年4月14日 (土)

1987年1月の「トウフ事件」

 アメリカのトランプ大統領による中国の知的財産権侵害に対する制裁措置に対抗して中国が報復関税品目を発表した際にその中にアメリカ産大豆が入っていたことに関連して、私は1回目の北京駐在(1986年10月~1988年9月)の最中に知った1987年1月の「トウフ事件」を思い出しました。

 1987年1月の「トウフ事件」とは、この頃、中国の新聞に「ベタ記事」として小さく出た「事件」に対して、私が本社宛の報告の中で使った「事件名」です。日本ではどの新聞も報じていないし、どの本にも載っていないと思うので、ネットを検索しても出てこないと思います。

 1987年1月、北京の街のあちこちで北京市民の行列が発生していて「おかしいなぁ」と思っていたら、中国の新聞で「中国の東北地方の国営の豆腐工場に大豆を納入する業者が豆腐を製造している個人経営の工場に大豆を横流ししていたことが発覚し、横長していた人物が逮捕された」という事件が報じられていたのでした。この事件を私は1987年当時の中国の状況を象徴的に表す事件だと考えて「トウフ事件」と名付けました。

 当時の中国では、改革開放政策が進行中で、豆腐製造についても、国営工場と小規模な個人経営の工場とが併存しており、国営工場ルートの大豆は安く取引されている一方、個人経営の工場の中には高値で大豆を買い取ってくれるところがあったことから、本来、国営工場に大豆を納入すべき国営ルートの大豆流通の担当者が個人経営の豆腐工場に大豆を横流しして、国営ルートでの販売価格との差額をポケットに入れていた、という事件でした。

 1980年代後半、改革開放経済の進展により、国営企業ルートと個人経営ルートの二つの流通ルートが存在し、国営ルートでは安く、個人経営ルートでは高く商品の取引が行われていたことから、大豆に限らず、二つのルートの価格差を利用して商品を横流しして差額の「さやを抜く」ブローカー行為が横行していました。商品の差額を利用して儲けるブローカー業者を中国語では「倒爺(daoye)」と言いますが、国営ルートの流通の担当者がブローカー行為を働く場合、その人は「官製の倒爺」という意味で「官倒爺」と呼ばれていました。「官倒爺」は国営ルートの商品を扱うという公的立場を利用して私腹を肥やしていましたが、「官倒爺」が横行すると国営ルートの商品が足りなくなって庶民生活を直撃するので、「官倒爺」は中国の一般庶民の怨嗟の的でした。

 市場経済の発展に伴い「国営ルート」は縮小したので、今の中国では「官倒爺」の存在感は薄れていますが、それでも経済自体が中国共産党の指導下にある以上、中国共産党の権限を利用して私腹を肥やす連中が跡を絶たないことが、習近平氏による「反腐敗闘争」の大きな背景になっています。

 私は最初の北京駐在の時に知った「1987年のトウフ事件」のことを覚えていたので、2007年4月に二回目の北京駐在を始めた頃に、経済統計を見て、中国の大豆の国内自給率が1980年代に比べて大幅に減っていたのを知って驚きました。大豆は、豆腐の原料として(今は家畜のエサとしても)中国の一般人民の「食」を支える重要な農産物であり、それを輸入に頼っていいのかなぁ、と思ったからでした。13億の人口を抱える中国においては、「食」の問題は国内政治において致命的に重要度の高い課題です。なので、中国では、食糧作物(コメ、小麦、トウモロコシ)については自給率を減らさない政策を現在でも維持しています(これらの食糧作物については、年によって多少の変動はあるが、国内生産量と国内消費量はほぼトントンで、輸入には頼っていない)。

 中国は社会主義国であり、特に農業に関しては社会主義的コントロールが今でも強く機能していますので、補助金政策等により大豆の自給率を減らさないようにする政策も実行可能だったと思われます。それなのに実際には中国の大豆の自給率が大幅に低下したのは、大豆の場合、主要な輸入先がブラジルやアメリカであり、中国にとって外交的には安定的な関係を維持できる相手国なので、自給率を低下させる(輸入率を増やす)ことになっても、大きな問題になる可能性は低い、と考えたのでしょう。

 2007年4月~2009年7月までの二回目の私の北京駐在期間中には、中国が自国のロケットでブラジルの人工衛星を打ち上げるなど、中国とブラジルの外交的関係の良好さを見せつけるようなイベントが数多くあったのですが、ブラジルとの良好な関係の維持は、ブラジルが大豆の重要な輸入元であることも踏まえた中国にとって重要な国際戦略なのだと思います。

 というような状況を考えると、今回、中国は、アメリカとの関係においてアメリカ産大豆も報復追加関税品目として掲げましたが、実際に発動する可能性はあまり高くないと思います。アメリカ産大豆への高い関税の付与は、アメリカの大豆農家にとっては打撃ですが、同時に中国の一般庶民に対するダメージも相当に大きいと考えられるからです。「1987年のトウフ事件」に見られた「官倒爺(官製ブローカー)」の横行は、「食」を通じた庶民の怒りに直結し、それが1989年の「六四天安門事件」における中国の人々の運動の背景にもなったことは中国政府自身がよくわかっていると思います。

 華北平原における水不足の問題、工場排水による農業用水や農地土壌の汚染問題等があるので、13億超の人口を抱える中国にとって、食糧生産の問題は中長期的には非常にセンシティブで致命的な課題です。今回、中国はアメリカ産大豆については「あとで振り上げたコブシを降ろすことでアメリカに恩を売るためのカード」としてテーブルに載せてきたのだと思いますが、大豆の輸入は食糧安全保障の問題にも直結している以上、中国にとっても「危険なカード」です。トランプ大統領は、中国に「危険なカード」を出させるような「プロレスごっこ」をやることは世界の安定にとって非常にリスクが高いことをもっと認識すべきだと思います。

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2018年4月 7日 (土)

トランプ大統領は結果的に習近平氏の応援団になるかも

 今日(2018年4月7日)付け「人民日報」2面の評論の冒頭の文章は「白宮完全失去了現実感!」でした。「白宮」がホワイトハウスのことであることがわかれば、中国語を知らなくても意味は通じますよね(この記事のタイトルは「中国はアメリカの乱舞大棒を甘んじて受け入れることはできない」)。この評論は、もちろん、中国が米国通商法301条発動に対する対抗関税引き上げ品目リストを発表したことに対し、日本時間の昨日(2018年4月6日)、アメリカのトランプ大統領が通商代表部に中国に対する追加関税措置を検討するよう命じたことに対する反論です。外国との関係に関する「人民日報」が論ずる論評の論旨に対して、私が「そうだ!そのとおりだ!」と同感したのは久し振りでしたね。

 今日の中国中央電視台の夜7時のニュース「新聞聯播」では、昨夜のニューヨーク株式市場で、ダウが570ドルも下げるなど、株価が暴落したことを伝えていますし、欧米のエコノミストや経済関係者がトランプ氏の一連の対中国貿易措置に対して批判している発言も伝えています。先の全人代で権力集中を実現させた習近平氏に対しては、国際的には懸念が高まっているし、おそらく国内的にも批判的な人が多いと思うのですが、今回のトランプ氏の対中国貿易関連措置については、国際的にも「トランプ氏のやり方はおかしい」という声が高く、そのことによって結果的に今の時点では「習近平政権の立場は正しい」という雰囲気が盛り上がっています。権力の集中により国内外から批判されることをある程度覚悟していた習近平氏にとって、結果的にトランプ大統領からありがたい贈り物をもらった格好になりました。

 この問題の決着の行方は予断を許しませんが、トランプ氏の動機が11月の中間選挙に向けて「中国から一本取った」というポーズを示したいことであることは中国側からもミエミエなので、もしかすると中国はトランプ氏が喜びそうな(しかし中国にとっては実態的には痛くない)「譲歩」を示すかもしれません。

 一番やっかいなのは、トランプ大統領が経済問題と安全保障問題をいっしょくたにして「取引」をやる可能性があることです(実際、今回、トランプ大統領が貿易問題で中国に対して強硬姿勢を示し始めたのは、北朝鮮のキム・ジョンウン委員長との米朝首脳会談の開催が決まり、当面、北朝鮮問題に関して「中国のお世話になる」必要がなくなったからであることは明かです)。最悪なのは、例えば、中国が、関税引き上げリストに載せている大豆についてアメリカ農民(=共和党の支持者が多い)の生活に考慮して関税引き上げリストから外すという妥協を示す一方で、南シナ海における中国の活動に関してアメリカは文句を言わないという約束を取り付ける、といった「取引」が成立することです。トランプ大統領にとっては、アメリカの大豆生産農家は選挙対策上重要な人たちですが、南シナ海における中国の活動はアメリカ国内の選挙には影響しないので、トランプ大統領はこうした取引に合意しかねません。もし、こうした「取引」が成立するようだと、トランプ大統領は完全に習近平氏の「支援者」になったと言われることになるでしょう(問題は、トランプ大統領は、国際的にこうした批判を受けることについては、全く気にしていないように見えることです)。

 中国経済が中国共産党のコントロール下で動いている以上、アメリカ的経済ルールから見れば中国の経済政策が一定程度「不公正」であることは最初からわかっていた話です。中国では、フェイスブックやツィッターが使えないのに、中国の会社の微博(ウェイボー)、微信(ウェイシン)は使える、外資系合弁会社であっても中国共産党の指導には従わなければならない、などといった話は今に始まった話ではありません。そうした中で、認められた範囲内で、アップルは中国でiPhoneを作って世界中に販売し、マクドナルドやケンタッキー・フライドチキンやスターバックスは中国全土に店を展開して相当の利益を上げています。

 トランプ大統領が「中国経済が中国共産党のコントロール下にあることを認めた上で中国経済を世界経済の中に組み込む」という現在の世界経済秩序を壊そうとしているのならば話は別ですが(当然そうなれば、アメリカ企業の多くは収益の場を失います)、そうではなく、選挙向けの「ハッタリ」として対中国通商摩擦を盛り上げようとしているのだとしたら、それは結果的に習近平政権に対する国内外からの支援を強化し、日本を含めたアメリカの同盟国のみならず、アメリカ自身の国際的立場を毀損することになるだけですから、即刻やめてほしいと思います。中国の知的財産権問題等については、問題意識を共有する日欧等の各国と協調して中国に対処する別の方法を採るべきだと思います。

 今日の「人民日報」を読んで、「アメリカ大統領自身が『人民日報』に『そうだ、そうだ、もっともだ!』と思えるような評論を書かせるようなことしてどうすんねん!」と思ったので、今日のこの文章を書かせていただきました。

 10年前、「空前の中国の経済バブルがはじけて世界を襲う」という懸念がある中、実際はアメリカの不動産バブルがはじけて世界経済を襲い、中国の「四兆元の経済対策」が世界経済を救ったのでした。今、「権力を集中させた習近平氏の中国が世界秩序を壊す」という懸念がある中、アメリカ大統領が原因となって世界の秩序が動揺したが、結局は中国の習近平主席の「大人の対応」によって世界は救われた、ということにはなって欲しくないなぁ、というのが私の個人的な願いです。

 こんな感じだと「習近平氏に権力が集中した中国」は、意外に長続きするかもしれませんね。

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2018年3月31日 (土)

中国の地方統治における科挙・中国共産党・監察委員会

 先の全人代で成立した「中華人民共和国監察法」が「人民日報」に掲載されていたので、じっくりと読んでみました。私が最も印象深かったのは、第十五条の監察機関の監察対象に関する規定でした。第十五条は以下のとおりとなっています。

中華人民共和国監察法

第十五条 監察機関は以下に掲げる公職人員及び関連する人員に対して監察を行う;

(一)中国共産党の機関、人民代表大会及び常務委員会の機関、人民政府、監察委員会、人民法院、人民検察院、中国人民政治協商会議の各レベルの委員会の機関、民主党派の機関並びに工商業連合会の機関の公務員及び『中華人民共和国公務員法』に規定する管理的人員

(二)法律または法規により権限を与えられた組織あるいは国家機関が法律に基づいて公共事務の管理を委託した組織の中において公務に従事する人員

(三)国有企業を管理する人員

(四)公立の教育、科学研究、文化、医療衛生、スポーツ等の機関の管理に従事する人員

(五)社会の末端における大衆性自治組織の管理に従事する人員

(六)その他法に基づいて公的職務を履行する人員

 しょっぱなに「中国共産党の機関」が掲げられています。中国の公的機関(国有企業等も含む)は全て「中国共産党の指導」の下にありますから、その「全ての公的機関の上の地位にある中国共産党の機関」を監察することになる監察機関(国家監察委員会と地方に設置される地方の監察委員会)は、中国共産党を凌駕する権限を有している、と言ってもいいと思います。その意味で、この「監察法」が定める監察機関の誕生は、「中国共産党の指導」が最大の特徴である中華人民共和国の歴史において、まさに画期的なできごとだったと言えるでしょう。

(注)ただし、「監察法」第二条には「中国共産党による国家の監察業務に対する指導を堅持し」とあります。なので、私には「中国共産党」と国家の機関である「監察機関」との上下関係(一体どっちがどっちを「監察」「指導」することになるのか)が今ひとつよくわかりません(中国の人たち自身もよくわかっていない可能性があります)。

 そもそも広大な国土を有し、各地方で独自の文化や産業を持っている中国においては、中央政府が地方の独走を抑えて的確に統治することは歴史上の大きなな課題でした。ともすると、各地方の有力者は、独自に力を蓄えて中央政府に反抗する傾向があり、実際、中国の長い歴史の中では、中央政府が弱体化して、各地方が独自に作った「国」どうしが覇権を争う、といった群雄割拠の時代が繰り返されてきました。そうした「地方の中央政府に対する反逆」を防止するために作られた制度が随の時代の598年に始まった「科挙」の制度でした。この制度では、皇帝が実施する試験に合格した官僚を地方に派遣して地方を統治させるとともに、派遣された官僚が土着の有力者と癒着しないように、派遣された官僚は一定の任期の後には中央に召還されるか他の地方に転勤させられたのでした。この科挙の制度は、比較的有効に中央集権の体制を維持することができたことから、清末の1905年に廃止されるまで、中国の地方統治の手法として活用されてきたのでした。

 辛亥革命で清を倒して1912年に成立した中華民国は、科挙のような地方統治のシステムを持たなかったために、結局は各地方を拠点とする軍事的・経済的な力を持った軍閥の集合体にしかなれなかった、と言えるでしょう。こうした反省に立ち、1949年に成立した中華人民共和国では、各地方政府を統轄する中国共産党の地方委員会のトップ(書記)を北京の中国共産党中央から派遣し、一定の任期が終わったら人事異動させる(北京に戻すか、他の地方に転勤させる)こととし、実質的に「科挙」と同じようなシステムで、中央政府の意向に沿って地方を統治するようにしたのでした。

 しかし、「科挙」の制度でも中国共産党の制度でも、地方に派遣された幹部が地方の地元の有力者と癒着して私腹を肥やす傾向は同じように発生しました。過去の歴代の王朝において、中央から派遣された官僚が地元の有力者と結託して私腹を肥やす傾向が蔓延すると、中央政府の統治能力は失われていき、結局はその王朝が崩壊していったのでした。そうした事態を避けるため、現在の習近平政権は、中国共産党中央の意向で派遣された地方の共産党委員会の幹部を監視する目的で、中国共産党とは別個の組織として「監察委員会」を設置して、地方の共産党幹部の腐敗を防止しようとしているわけです。

 本来、地方に派遣されている中国共産党幹部は、皇帝が科挙の制度に基づいて地方に派遣した官僚と同様に「地方の土着の有力者が中央の意向を無視して勝手なことをしないように監視し統治を行うこと」がその役割でした。「監察委員会」は「地方に派遣された中国共産党幹部が土着の有力者と癒着して中央の意向を無視して勝手なことをしないように監視する」ことが役割なのですから、「屋上屋を重ねた」という感は否めません。地方の「監察委員会」に派遣された者自身が今度は地元の有力者と結託して中央の意向を無視するようになったらどうするのでしょうか。

 「中央から派遣された者による地方の監視」には限界があります。やはりここは「地元住民にとって利益にならない『私腹を肥やす』ようなことをやった地方政府幹部は選挙で落とされる」という民主主義制度の方が「腐敗防止」の観点では有効であることは明らかでしょう。習近平政権による「監察委員会」の制度の導入は、「中国共産党による地方の統治」という中華人民共和国の地方統治システムの根本を改善する可能性はありますが、所詮は「中央から派遣された者が地方政治を監視する」という意味では、歴代皇帝が行ってきた科挙の制度の「二番煎じ」でしかありません。

 「監察委員会」の「監察」があまり厳しすぎるものだとしたら、地方は反発して中国全土に「反習近平」の空気を盛り上げるでしょうし、もし「監察委員会」の制度が強い反発を呼ばない程度に「ゆるく」運用されるのだとしたら、地方政府における腐敗の防止という効果は上がらず「地方政府が中央の意向を無視して勝手なことをやる」という現状は改善されないでしょう。むしろ「中国共産党の機関を監視する監察委員会の設置」が「中国共産党が支配するはずの中華人民共和国の政治」を変えていってしまう危険性の方が大きいと私は考えています。政治局常務委員を辞めた王岐山国家副主席を政治局常務委員と同様に(あるいはそれ以上に)扱うことにより、習近平氏が「中国共産党による支配の形骸化」(=習近平氏による「一人支配」の確立)を狙っているようにも見えるからです。この「監察委員会」のこれからの運用は、中国共産党内部で習近平氏への反発を醸成する可能性もあることから今後注意して見守っていく必要があると思います。

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2018年3月24日 (土)

全人代に見る「三十年間の歴史の逆転」

 今年(2018年)の全人代期間の終盤、「人民日報」ホームページ(「人民網」)のトップページには、国家主席に再任された後に憲法が書かれた本に手を置いて宣誓をする習近平主席の写真が大きく掲げられており、そこに次のような文字が書かれていました。

「党的核心、軍隊統率、人民領袖習近平」

 そして写真の下には大きな文字で次のように書かれていました。

「習近平同志は中華人民共和国主席、中華人民共和国中央軍事委員会主席に全票で当選した。これは、3,000名近い全国人民代表の集体的な意志であり、13億以上の全国民族人民の共同の願いである。習近平同志は、全党が支持し、人民が敬愛し、その地位に恥じない党の核心であり、軍隊を統率し、人民の領袖であり、新しい時代の中国の特色のある社会主義国家の舵取りを担う者であり、人民の導き手である。習近平同志を核心とする党中央の固い指導の下、習近平の新時代の中国の特色のある社会主義思想の指導の下、中国人民は、中華民族の偉大な復興という中国の夢を実現することについて完全に確信を持っており、またその能力を有している。」

 こういった表現は、ほとんど毛沢東時代の再現に近く、中国が1978年にトウ小平氏によって始められた「改革開放の中国」とは全く別の国になったことを表しています。

 ちょうど三十年前の1988年の全人代期間中、私は北京に駐在していました。全人代冒頭の国務院総理による政府活動報告等のテレビ生中継や電子投票機による投票など、今でも続いている全人代の様々な「やり方」がこの1988年の全人代から始まった、と記憶しています。

 三十年前の1988年の全人代期間中、私はテレビを見たり中国の新聞を読んだりしましたが、この時の全人代では、映画「ラストエンペラー」で故宮の本物の玉座のある部屋をロケ場所として使うことを許可したことについて、当時の文化部副部長がある全国人民代表から「国宝を映画のロケに使わせるのは軽率ではないか」と追及された、といった話を新聞で読んだことを覚えています(この文化部副部長は、映画の中で「チョイ役」で出演しているそうで、そうしたことも含めて批判されていたようです)。また、確か「人民日報」の記事だったと思うのですが「全国人民代表が乗ってきた車を見たら、ほとんどが外国製の輸入車だった。全国の人民を代表する全国人民代表がなぜ国産車に乗らないのか。」と批判する記事も読んだ記憶があります。私は「へぇ~、今の(1988年の)中国では政府や全国人民代表を批判する記事も新聞に載るんだ。」と感心した記憶があります。

 それを知っているだけに、三十年後の2018年の「人民日報」のホームページのトップの「人民領袖習近平」などという文字を見ると、「この三十年の間に歴史は逆転してるじゃないか」と強く感じてしまったのでした。

 私は1958年生まれで、ベトナム戦争の終結やベルリンの壁の崩壊、ソ連の崩壊と東欧諸国の非共産主義化などを見てきましたので、行きつ戻りつはあるものの、歴史は確実に前進する、とずっと思ってきました。それだけに今回の全人代における習近平氏への権力集中は、「歴史の逆転」を実感した点で私は個人的には衝撃的でした(私は過去にも「歴史が大逆転した」と感じたことはありました。それは1989年の「六四天安門事件」の時です)。

 1991年8月、ソ連共産党保守派は、夏季休暇のためにクリミア半島に滞在している時を狙ってゴルバチョフ氏を幽閉し「反ゴルバチョフ・クーデター」を起こしました。この時も「歴史は逆転するのか」と思いましたが、モスクワ市民はもちろん、戦車を街に出すように命じられたソ連軍の兵士でさえこのソ連共産党保守派のクーデターは「時代錯誤」と感じたようで、クーデターに賛同する勢力は全く現れず、この保守派による「反ゴルバチョフ・クーデター」は数日で瓦解したのでした(「歴史は逆転する」どころか、その翌月には「ソ連共産党」は解体されてしまったのでした)。それを考えると、中国における「六四天安門事件」や今回2018年の全人代における習近平氏への権力集中に見られる「歴史の逆転現象」には世界史全体と中国の歴史の流れとの間のギャップを強く感じざるを得ません。

 長い人類の歴史の中で、ある国の歴史の変化は常に他の諸国の世界的歴史の流れと共鳴しています。中国に関して言えば、1978年にトウ小平氏によって始められた「改革開放政策」がゴルバチョフ氏によるソ連の改革を促し、逆にソ連・東欧における政治的自由化の流れが中国人民には共感を与え、中国共産党には危機感を与えて、1989年の「六四天安門事件」が起きた、と言えるでしょう。

 今回の中国における習近平氏への権力集中の進展は、おそらくは世界的に見る民主主義の停滞に対する反動として起きているのでしょう。社会の進展により、どの民主主義国家においても、国民各層は多様化が進んでいます。例えば、都市労働者をとってみても、正規労働者と非正規労働者とフリーランス(インターネットを活用した個人事業主も含む)とがそれぞれ数多くおり、これらの人々の利害は必ずしも一致していません。従って、有権者の全てが現状の政策に不満を持っていても、政治家はそれらの不満を吸収して新しいひとつの政策を提示することができないのです(ある政策はある人々にはプラスだが、他の人々にはマイナスになる、など。立場によって賛成・反対が異なる典型的な例は、雇用の流動性を高める政策など)。

 現状に不満のある様々な立場の人々は、個々の政策では合意できなくても、「○○○ケシカラン」という感情は共有している場合があります。そのため政治家や政党は「○○○ケシカラン!」と訴えることによって有権者の支持を得ようとします。最近の例で言えば、イギリスにおける「EUケシカラン」であり、アメリカにおける「エスタブリッシュメント(既存の政策決定集団)ケシカラン」「対中貿易赤字ケシカラン」であり、韓国における「日本ケシカラン」「元大統領ケシカラン」です。しかし、こうした「○○○ケシカラン」という主張により多数派となった政党は、そもそも有権者が望む政策がバラバラなので(例えば、正規労働者と非正規労働者とフリーランスとでは求める具体的政策が異なる)、結局は、政策が決められない、とか、少数政党乱立になって連立政権が組めない、とかいった状態になり、政策を決めるという政治の目的が実現できなくなります。こうした民主主義の機能不全を私は「ケシカラン民主主義」と呼びたいと思います。

 「ケシカラン民主主義」では政敵を攻撃することにばかり時間が費やされて具体的政策が決められないのですが、民主的ではない特定の者に権力が集中している政治システムの国では有効な政策をスピーディに決めることができます。こうした現在の世界の政治の状況がおそらくは中国における習近平氏への権力集中を後押しているのだと思います。民主主義国家の政治の機能不全を見て、中国国内においても「民主化を進めるよりも習近平氏に権力を集中させて迅速に具体的政策を実行していった方が中国にとってプラスである」と考える人が少なくないと思われるからです(ロシアにおけるプーチン氏への権力集中も同様)。

 そうした現在の世界の政治的状況を典型的に示す例が、日本時間の昨日(2018年3月23日)のアメリカのトランプ大統領による鉄・アルミへの高関税設定と知的財産権侵害を理由とする対中貿易制限(通商法301条の発動)でしょう。このアメリカの措置に対して中国は反発していますが、客観的に言えば、本件については、アメリカよりも中国の方がずっと「まとも」です。トランプ大統領の決定は「貿易赤字ケシカラン」に起因する「ケシカラン民主主義」から出たものですが、これはアメリカ全体の国益にとってはプラスになるとはとても思えません。中国外交部の華春瑩報道官は昨日(2018年3月23日)の記者会見で「アメリカ自身のためにならないことは株式市場の暴落が証明している」と述べましたが、トランプ大統領はこれに反論できないでしょう。

 華春瑩報道官は、今回のアメリカの措置に対して「来而不往非礼也」(お返しをしなければ失礼にあたる)と述べて、やんわりとしかし強く報復措置を採る意志を示しましたが、手元の中国語辞書によると、この句は「礼記」の「曲礼上」にある言葉なのだそうです。放送局が「ピー音」をかぶせて放送しないような言葉で口汚く相手を罵ることがあるトランプ大統領と比べると、中国の方が「品格」の上でも圧倒的に勝っているなぁ、と私は感じてしまいました。

 日本をはじめ諸外国では、中国における習近平氏への権力集中や毛沢東時代のような個人崇拝の復活のような動きについて批判的な主張が多く聞かれますが、それが民主主義国家における政治の機能不全(私に言わせれば「ケシカラン民主主義の蔓延」)もひとつの背景になっている点について、民主主義諸国は大いに反省し、民主主義の政治機能の回復に真剣に取り組むべきだと思います。

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2018年3月17日 (土)

習近平氏は本質的に毛沢東とは違う

 習近平氏への権力集中について、日本の新聞等ではよく「習近平氏は毛沢東のような権力を手にしようとしている」などと表現されています。しかし、毛沢東が亡くなって既に42年、こうした新聞記事を書いている記者自身が既に「毛沢東をリアルタイムで知っている世代」ではなくなっていると思います。習近平氏を20世紀最大の(中国の歴史から見てもトップクラスの)偉大な政治家である毛沢東と並べて論じること自体、私の感覚からすれば毛沢東に対して失礼だと思います。以下、私が考える習近平氏と毛沢東との違いを並べてみたいと思います。

○自らの目指す理想の提示

 政治家の基本は、自らが追い求める社会の理想を人々に提示し、人々の共感を得ながらその方向に人々を引っ張っていくことだと思います。

 毛沢東が追及した中国の姿は極めて明確です。それは「皆が平等で、皆がメシを食える中国」でした。毛沢東の理想を現実のものとして実現した人民公社は、経済発展を求める観点からは有利ではなかったと思いますが、それこそ「ゆりかごから墓場まで」人民の生活を人民公社が守るという落ちこぼれと格差を生まない究極のセイフティーネットが整備された社会でした。毛沢東の言動から、人々は(自分がそれに賛成かどうかは別にして)毛沢東が求めているものをよく理解していました。

 トウ小平氏は「民主的な制度を作るよりまず中国の経済を発展させて、ある程度格差が広がることは容認した上で、人民の生活を経済的に向上させ、併せて世界の中における中国の発言力を強化すること」を目指していましたが、これもトウ小平氏の言動から明らかでした。

 しかし、習近平氏は、自分自身に権力を集中させよう努力していることはハタ目からも明らかなのですが、自らに集中した権力で実際に何をしようとしているのか、中国をどのような国にしようとしているのか、は今一つよくわかりません。「中華民族の偉大な復興」と言っていますので、世界の中で清の最盛期の頃のような中国の勢いを取り戻そうとしているように見えますが、21世紀の国際情勢の中でそれが無理なことは明かですし、中国人民の生活をどのようにしようとしているのか、がよくわかりません。

○口から発する言葉に力があるかどうか

 一言で言えば「カリスマ性」と表現できるのかもしれませんが、優れた政治家が発する言葉には多くの人々を引き付け時代を引っ張っていく「言葉の力」があるものです。1972年の日中国交正常化の際、訪中した田中角栄総理と周恩来首相は北京で日中共同声明の文言について厳しい交渉を行いました。台湾問題に関する表現など、相当激しいやりとりがあったようです。そうした交渉があった日の夜、日本政府代表団は毛沢東主席を表敬訪問したのですが、昼間、激しい議論をした田中総理と周恩来総理を前にして毛沢東は「もうケンカは済みましたか? ケンカをしないと本当に仲良くはなれないものです。」と発言したというエピソードが残っています。もし1972年に「流行語大賞」があったら、この毛沢東の「もうケンカは済みましたか?」という言葉はその年の流行語大賞を取ったと思われるくらい日本でも流行りました(当時朝日新聞に掲載されていた「サザエさん」でも取り上げられました)。

 トウ小平氏が1978年に日中友好条約批准書交換のために来日した際、記者会見で日本の記者から尖閣諸島問題について質問された時、トウ小平氏はニコニコ笑いながら「我々の世代には知恵が足りないのです」と言ってこの厳しい記者の質問をかわしました。

 申し訳ないですが、習近平氏には、こういった私の記憶に残るような言葉はありません。

○背景にある思想

 毛沢東は、共産主義革命家であるとともに中国における近代革命の実現者でもありました。毛沢東は、中国の封建時代の基本的思想である「下の者が上の者に従うことによって維持される秩序」や「男尊女卑」といった考え方を否定しており、封建思想の支柱だった儒教思想を徹底的に批判していました。

 習近平氏の根本思想はよくわからないのですが、最近の中国では、孔子を尊重し、「優れた統治者が一般人民を上から統治する」ことを是認しているように見えます。前にも書きましたが、その意味では、習近平氏は毛沢東より「中国には伝統的な価値観がある。西洋的な民主主義制度は似合わない。」と主張して自ら皇帝になろうとした袁世凱(中華民国の初代大総統)に近いと私は思っています。

○人の使い方

 政治家に限らず、会社の社長などの組織のリーダーは「人の使い方」が重要な要素です。中国に限らず日本など外国でも人気の高い「三国演義」(日本での通称は「三国志」)がよく読まれているのは、自らが率先して組織を引っ張っていくタイプのリーダーである魏の曹操と、有能な人材を登用して登用した部下に仕事を任せるタイプのリーダー(いわば「人事の人」)である蜀の劉備とが対象的に描かれているからでしょう。

 毛沢東は、自らが優れた軍事指導者であると同時に「人の使い方」でも群を抜いた政治家だったと私は思っています。まず自らの副官に自らの考え方と異なる(後のトウ小平氏の考え方に近かった)周恩来を国務院総理として最後まで信頼して国務を任せていたことが特徴的です。また、自ら(毛沢東)を盛んに持ち上げる林彪を信頼せずに失脚させ、最晩年に自分の後継者を指名する時も、文化大革命の推進者であった「四人組」の中から指名することをせず、政治的に色の付いていなかった公安畑出身の華国鋒氏を指名しました。自分の理想とは全く異なる考え方を持っていたトウ小平氏についても「あの小男はいつか役に立つ男だ」として文化大革命時も党籍剥奪処分にはしなかった点にも毛沢東の「人を見る目」を見ることができます。

 こうした毛沢東の「人の使い方」と比較するとちょっと気の毒ですが、習近平氏は、昔の同僚や部下など「自分に近い人たち」のみを登用しています。自らの考え方に近い人たちばかりを周辺に置いておくリーダーは、事態の変化に対応できず、結局は権力基盤が長続きしないことは歴史が教えています。

○メディアの使い方

 毛沢東による革命の時代、電気もない農村の文字も読めない農民が革命の担い手だったので、今の時代と同じように「メディアの使い方」を論じることはナンセンスですが、毛沢東は自分の考え方を「一般大衆」にもわかりやすいようにごく簡潔に単純な言葉で表現することに長けていました(このブログ内にある「中国現代史概説」の「三大規律と八項注意」の項参照)。

 政策の是非を別にすれば、当時の最新のメディアであったラジオや映画を有効に活用したことでヒトラーは「メディアの使い方」に長けていた、と言われています。

 これも政策のよい悪いは別にすれば、ロシアのプーチン大統領は自分自身のテレビへの登場のさせ方はうまいと思います。また、よい結果が出ているか逆効果であるかは別にすれば、アメリカのトランプ大統領はツィッターという全く新しいメディアを多用しています(乱用している、とも言えますが)。

 それに比べて習近平氏は、メディアをほとんど使っていません。ネットどころか、習近平氏の場合、前の胡錦濤政権の指導者よりもテレビで肉声が伝わる頻度が非常に少ないと私は感じています(噛んで含めるようにして人々に話しかける胡錦濤主席や温家宝総理のイメージが私の頭には印象強く残っています)。テレビに登場しない方が神秘性が高まる、と考えているのか、単にメディアの使い方が下手なのか、私にはわかりませんが、大きな政策課題が起きた時にテレビの前で国民に直接訴えかけるのが「当たり前」である現代の政治家としては、習近平氏は特異な存在です(ハッキリ言うと、テレビから受ける印象からすれば習近平氏には「優れた政治家」というイメージがない)。

○実質的な権力掌握と実際に就任する地位

 毛沢東は、死ぬまで中国共産党主席でしたが、政府の主席だったのは中華人民共和国建国初期の10年間だけです(1954年の憲法制定前は中央人民政府主席、制定後は国家主席)。しかし、毛沢東が死ぬまで中国の政治を動かす中心人物だったことは内外の誰も疑いません。

 改革開放期の初期、トウ小平氏は、中国共産党軍事委員会主席でしたが、国家主席でも、中国共産党総書記でもありませんでした。しかし、中国の最高実力者がトウ小平氏であることは、内外の誰も疑問を挟みませんでした。

 ついでに言うと、上で少し触れた「三国志」に出てくる曹操は、最後まで漢の丞相(じょうしょう:君主をたすけて政務を処理する官職)であり自らが皇帝になることはありませんでした(自ら皇帝になり国名を「魏」にしたのは、曹操の子の曹ひ(「ひ」は「胚」の「にくづき」がない字)でした)。

 習近平氏の場合、まず中国共産党総書記と中華人民共和国国家主席に就任し、次に実質的な集中的権力掌握を図る、という順番でものごとを進めています。今日(2018年3月17日)、全人代は習近平氏の盟友と言われる王岐山氏を国家副主席に選任しました。王岐山氏は昨年10月の党大会で政治局常務委員を退任しましたが、最近の全人代開催期間中の中国中央電視台のニュースでは王岐山氏を李克強氏ら政治局常務委員と同じ扱いで映像を流しています。おそらく、今後、王岐山氏は政治局常務委員と同等に(あるいはそれ以上に)扱われ、結果的に「チャイナ・セブン」と呼ばれる政治局常務委員の権力は形骸化し、実質的な権力は習近平-王岐山ラインに集中していくのだと思います。こういう「権力集中の進め方」は「まず地位に就任し、次に実質的に権力集中を図る」という点で毛沢東とは全く異なるものですので、その意味でも「習近平氏は毛沢東と同じようになった」という表現は正しくないと思います。

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 問題は、習近平氏を過去の中国の権力者と比較することではなく、習近平氏の自らへの権力集中が、ネット時代の21世紀の中国人民との間でどのような関係を築くことになるのか、です。1970年代の時点で、既に「食うこと」を心配しなくてよくなった中国の一般人民は、毛沢東による理想主義的な(一種の禁欲的な)共産主義のやり方に不満を感じ始めており、「四人組」と呼ばれた文革派による支配に不満を高めていました。「四人組」が1976年1月に亡くなった周恩来総理を冷たく扱ったことからその一般大衆の不満が爆発して1976年の「四五天安門事件」を引き起こし、その動きが1976年9月の毛沢東の死後中国共産党内部の動きを誘発して、同年10月の「四人組」失脚、1978年のトウ小平氏復活と改革開放路線への転換に繋がっていったのでした。

 ネットがなく、新聞やテレビ・ラジオのメディアも党に完全にコントロールされていた1970年代ですら、中国人民の間に不満が溜まれば「世の中はひっくり返った」のです。インターネットが発達し、外国からの情報も容易に得られる21世紀においては、習近平氏が最も留意すべきなのは中国共産党内部での権力掌握ではなく、一般の中国人民の間に不満が溜まるかどうか、でしょう。習近平氏にそれが完全に理解できているのであれば、仮に中国に民主主義的な制度ができていなくても、習近平氏は一般の中国人民の意向に沿う方向での政策運営をせざるを得なくなると思います。

 毛沢東は自分の理想の方向に一般の中国人民を合わせさせようとしたけれども、習近平氏は、自分の考えるとおりに一般の中国人民を合わせようとすることはできない(逆に習近平氏の方が一般の中国人民の意向に合わさざるを得ない、そうしないと自らの権力基盤が危うくなる)という点が、習近平氏が毛沢東とは異なる最も重要な点だと思います。

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2018年3月10日 (土)

中国の不動産税立法の動きは不動産市場に影響するか

 現在中国では第13期全国人民代表大会が開催されています。今回の全人代の最も重要なポイントは習近平氏への権力集中を具現化する憲法改正ですが、様々な地方幹部等による習近平氏を持ち上げるような言動には、相当に鼻白みますね。今、「人民日報」ホームページを開くと、でっかい習近平氏の写真とともに「人民領袖習近平」といった文字が飛び込んで来ます。

 日本の新聞でも報道されていますが、「領袖」という言葉は過去には毛沢東を対象として使われてきました。日本では「派閥の領袖」といった使い方をすることがありますが、外国の例で使うとすれば、北朝鮮国内で「キム三代」を呼ぶときに使うくらいです。習近平氏を「人民の領袖」と呼ぶことに対しては、中国の人々の中にも口には出さないけれども「おかしいんじゃない?」と思っている人は多いと思います。私は常々「中国は北朝鮮のような国になって欲しくない」と思っているのですが、中国の人々の感覚もおそらくは同じだと思います。

(注)昨日(2018年3月9日)米朝首脳会談が5月にも開かれることになりました。北朝鮮がすぐに従来の態度を変えてくるとも思えないのですが、もし仮に今後事態が急展開して北朝鮮が「まともな国」になっていくのだとしたら、逆に「習近平の中国」が「まともではない国」として世界の中で目立ってしまうことになると思います。

 さて、習近平氏への権力集中を目指した憲法改正についてばかり焦点が当たっている今回の全人代ですが、中国国内では、李克強総理が冒頭の政府活動報告の中で述べた不動産税設立へ向けて法律制定を進めるという方針がかなり強い関心を呼んでいるようです。不動産税の詳細についてはこれから検討を始めるということで、今回の全人代で何かが決まるというわけではないのですが、国務院総理が公式に「不動産税の導入を進める」と表明した意味は大きいと思います。

 李克強総理は「不動産税の立法を時間を掛けて着実に進める」(中国語では「穏妥推進房地産税立法」)と言っていますので、おそらくは国内の反響を見定めながら、一定の時間を掛けて慎重に検討を進めていくことになると思います。ただ、マンション等の購入を投資目的で行っている人たちからすると、不動産税の金額や対象等の税の詳細にもよりますが、「どこかの時点で不動産税が導入される」ことはマンション等が従来より投資目的としては魅力が低下していくことを意味します。不動産税導入の動向を見極めようとして、今後、投機目的のマンション購入が手控えられる可能性もあり、これからマンション等の売れ行きにどの程度の影響が出てくるかどうか注目していく必要があると思います。

 一方、昨日(2018年3月9日)に発表された中国の2018年2月の消費者物価指数は、対前年同月比2.9%のプラスでした(1月は1.5%のプラス)。今年の2月は春節があったので、春節による一時的な要因も影響しているようですが、もし仮に今後も消費者物価の伸びが従来より高くなるようだと、広範な中国の人々の間に不満が高まってくることになります。

 習近平氏に権力が集中されようとされまいと、多くの一般の人々は自らの日々の生活が大事ですから、経済が順調で、物価の伸びも穏やかならば、習近平氏への権力集中に対する不満はそれほど高まらないでしょう。マンション価格が今後も安定的に推移するならば、これまでにマンションを買った人たちも安心するでしょう。しかし、もし、今後、物価の急激な上昇やマンション価格の不安定化などの経済上の変化が起こるとすると、それらとの因果関係には関係なく、人々の不満は習近平氏への権力集中へと向かうことになるでしょう。1989年の「六四天安門事件」の背景には、前年までに公的価格と市場価格の二重価格をなくそうとして行われた物価政策の失敗による物価の急騰があったことを忘れてはならないと思います。

 今開かれている全人代で、中国人民銀行の周小川総裁は退任し、新しい総裁が決定されると見られています。新しい中国人民銀行総裁が金融政策を今までより引き締め気味にするならば景気は後退するし、景気の後退を避けようとして今までと同じように(または今まで以上に)金融緩和的政策を取るとすれば物価の上昇を招く可能性があります。アメリカ、ヨーロッパ、日本の状況を見ると、今、世界における各国中央銀行の金融政策と金利と物価との関係は曲がり角に来ているように思われます。各国の状況は当然中国経済にも影響を与えます。中国の金融政策、物価、マンション市場の動向は、今後の習近平氏への権力集中の状況を見る上でも非常に重要な要素になってくると思います。

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2018年3月 3日 (土)

「中国共産党一党独裁」から「習近平一人独裁」へ

 2月25日、今度の全人代(2018年3月5日(月)~)で議論される中国の憲法改正案が公表されました。中華人民共和国の「国のありよう」を変える憲法改正なので、日本のマスコミ等でも大きく報道されています。私が考えるポイントは「国家主席、副主席を二期(10年間)に限定した規定の廃止」と「監察委員会の設置」だと思います。

 「監察委員会」は、習近平氏が従来から進めてきた反腐敗闘争を行政機関としてしっかり実施するための組織ですが、私はこの「監察委員会」の設置は、相当に大きく中国政治の権力構造を変える可能性のある重大な変更だと考えています。というのは、行政執行機関である国務院や司法機関である検察や裁判所等の組織がちゃんとあるにも係わらず、それらの行政執行機関と司法機関とは完全に独立した(別の言葉で言えば行政執行機関と司法機関を超越した)機関として「監察委員会」が設置されるからです。「監察委員会」は、国レベルで「国家監察委員会」が設置される他、その下部機関として省や市などの地方機関にもそれぞれの「監察委員会」が設置されます。理屈上は「司法機関(裁判所や検察)内部での腐敗を摘発するために司法機関とは独立した監察委員会を設置する」ということなのでしょうけれども、実質的には「国家監察機関」と「地方監察機関」を習近平氏が直接管轄することにより、行政機関(国レベルでは国務院、地方レベルでは各地方の人民政府)や司法機関(検察と裁判所)を超えて、習近平氏が直接全ての機関を監督できるようになります。

 中国では全ての公的機関が「中国共産党の指導下」にあるタテマエになっており、腐敗摘発のために中国共産党には中央規律検査委員会が既に存在していますが、ヘタをすると「監察委員会」の設置は中国共産党中央規律検査委員会の機能を「骨抜き」にしかねません。党の中央規律検査委員会は、当然、党に管理されますが、「監察委員会」は、国務院に所属しているわけではなく、いわば「国家主席直属」の組織です。「監察委員会」を用いることにより、国家主席である習近平氏は、中国共産党という党組織も国務院という行政組織も通さずに、直接公的機関の職員の汚職等を摘発できる権限を持つことになります。

 本来、中国においては、中国共産党が全ての行政機関、司法機関を指導下においていますので、習近平氏が総書記として中国共産党をコントロールすることができるのならば、習近平氏は間接的に全ての機関をコントロールできるはずなのですが、実際は中国共産党には「党内民主」の制度があって、例えば、重要事項は中央委員会で決めなければなりません。「チャイナ・セブン」と呼ばれる国家指導者たちで構成される政治局常務委員会も基本は多数決であり総書記が一人で全てを決められるわけではありません。そこで、おそらくは習近平氏は、「監察委員会」という中国共産党の組織すら超越した組織を新たに作ってそれを習近平氏が掌握することにより、中国の全てを習近平氏が直接(「党内民主」に縛られた中国共産党を通さず)コントロールしたいと考えているのだと思います。

 今回の憲法改正案では、憲法に「中国共産党による指導」も明記することが提案されていますが、この文言の追加は中国共産党内部において「監察委員会」の設置により中国共産党をすっ飛ばして習近平氏の権力が行使されることを防ごうとする中国共産党内部の抵抗の結果ではないか、と私は見ています。

 「国家監察委員会」「地方監察委員会」を設置し、国家監察委員会のトップに習近平氏と二人三脚で反腐敗運動を進めてきた王岐山氏を就任させることにより、中国は「党員の集団としての中国共産党が全てを仕切る国」から「個人としての習近平氏が中国共産党をすっ飛ばして全てを仕切る国」に変貌していく可能性があります。

 もし仮に、こうした動きについて、中国共産党内部に「中国共産党の良き伝統である党内民主をないがしろにするものだ」「中国共産党の指導が全ての基本である中華人民共和国の本質に反する」という反発が出れば、その反発勢力と「習近平氏による支配」を守ろうとする勢力の間で、激烈な権力闘争がこれから起きることになるでしょう。

 各種報道によれば、中国のネットでは自動車をバックさせる動画が「時代を逆行する」ことを示すとして削除されたり、辛亥革命後、中華民国の大総統になりながらその後皇帝になろうとした袁世凱について検索不能になっていたりしているそうです。今回の「習近平氏の権力集中手段を憲法に盛り込む案」については中国国内でも相当に強い抵抗があるようです。そうした動きを反映してか、3月1日の「人民日報」3面には、今回の憲法改正案の妥当性を強調する解説論文が掲載されています(タイトルは「党と国家の長期にわたる安定した統治を保証する重大な制度の変更」)。

 この解説論文では、国家主席と副主席の任期を「二期10年間までとする」とする制限を廃止することについて、中国共産党の総書記と軍事委員会主席については任期制限がない一方、中国共産党総書記、国家主席、軍事委員会主席は「三位一体」であり、統治を安定的に維持するためには、国家主席の任期制限も党総書記、軍事委員会主席と同じ規定ぶりにすべきである、と主張しています。この論文ではさらに「党と国家の指導幹部の引退制度を変えるものではなく、指導幹部の職務が終身制になることを意味するわけではない」とも述べています。「人民日報」にこうした「言い訳」が載っているということは、「国家主席が終身制になるのではないか」といった懸念が、日本等外国で指摘されているだけでなく、中国国内にも広く広がっていることを伺わせます。

 いずれにせよ、今回の憲法改正の手続きの時系列は「異例」でした。今まで公表されたことをまとめると、今回の憲法改正案は今年1月の二中全会(中国共産党中央委員会第二回全体会議)で議論され、全国人民代表大会に対して提案されたものが2月25日に公表されたのですが、この「憲法改正提案」の日付は2018年1月26日になっています。二中全会が開催されたのは1月18日~19日でしたので、今回の「憲法改正提案」は、二中全会の会議中に決定されたものではなく、二中全会終了後に最終決定されたもののようです(実際、二中全会の最終日に採択された「公報」には国家主席の任期制限廃止については一言も触れられていません)。

 また「憲法改正提案」が公表されたのが全人代開催日(3月5日)のわずか1週間前の2月25日だったというのも「普通」ではありません。中国の法律は、年一回開催される全人代全体会議で採択するものと、だいたい二か月に一回開催される全人代常務委員会での決定で成立するものとの二種類ありますが、全体会議で採択する法律は2007年の「物件法」(マンション等の不動産に対する権利等を定めた法律)のように一般人民の非常に関心の高いものなので、通常、かなり前に公表されて、場合によっては「パブリック・コメント」の形で意見募集をやって(その期間、おそらくは水面下で全国人民代表に対する「根回し」をやって反対多数で否決されないようにして)採択されます。それに比べて、今回の憲法改正は、内容が非常に重大であるにも係わらず、公表が直前であり、2,000人以上いる全国人民代表は、十分に内容を検討する時間があったのかどうか極めて疑問です。

 その意味で、実際の全人代の採択で、この憲法改正案に対する反対や棄権がどの程度あるのか(否決されることはないにしても、反対・棄権が多数に上るようなことはないのか)が私は非常に気になっています。通常、全人代の投票は電気的な投票装置によって行われるので、投票結果は公開されます。今回の憲法改正は「重大な案件」として、通常の法律とは異なり、紙による投票によって行われ、賛否票数や棄権の数は公表されないのかもしれません。

(注)中国の全人代の「通常」の投票では、投票結果は公表されます。よく誤解する人がいるのですが「毎回全会一致」ではありません。提案された法律案が否決された、という話は私は聞いたことはありませんが、例えば国務院総理が全人代冒頭で「案」を報告し議論を経て修正を加えた上で採択される「政府活動報告」についてすら反対票・棄権票が入ることがあります。裁判所や検察の活動報告については、反対票・棄権票を合わせると全体の4分の1近くになることもあります。私が知っている最も反対票・棄権票が多かった中国の全人代の投票は1992年4月3日の全人代第7期第5回全体会議で採択された「三峡ダム・プロジェクト」の採決結果で、出席2,633名のうち賛成1,767票、反対177票、棄権票664票、投票に参加しなかったのが25名だったとのことです(反対・棄権・投票に参加せずの合計が全体の3分の1近く)(数字は北京の日刊紙「新京報」2008年4月3日付け記事 シリーズ「改革開放の30年」第45回「三峡プロジェクト」による)。

 中国の全人代は、外国の報道機関も数多く取材します。参加する全国人民代表に対して外国報道機関がインタビューすることもあるでしょう。あまりに「憲法改正提案」の公表が全人代直前だったことから、全国各地から集まる全国人民代表の中には「頭の整理」がまだできておらず、外国報道記者の誘導尋問的質問に引っ掛かって「適切ではない」答えをする人もいるのではないか、と思います。

 今日(2018年3月3日)付け朝日新聞朝刊13面の記事「新華社の幹部ら処分 任期制限撤廃 英語版速報で拡散」によると、今回の憲法改正提案について、国営通信社の新華社が英語版で速報を出したが、最初の速報の見出しが「共産党が国家主席の任期変更を提案」となっていたため(結果的にこの点に焦点を当てて諸外国に速報したため)新華社の編集幹部らが処分されたのだそうです。「手続きに問題はなかったが、政治的な配慮がなかったとみなされた」とのことです。新華社の幹部ですら、あまりに唐突な「憲法改正提案」の発表であったため「心の準備」ができていなかったのでしょう。中国の全国人民代表は、中国共産党中央の方針に反対する人はいないと思いますが、それぞれが各地方でそれなりの地位にありそれなりのプライドを持っている人たちですので、今回の「あまりに重大な憲法改正提案のあまりに唐突な公表」について不平不満を持っている人は少なくないと思われ、そうした不平不満の声が全人代の開催期間中ににじみ出てくる可能性があるのではないか、と私は思っています。

 習近平氏が自分への権力集中のために動いていることは誰もが知っていることですが、今回の憲法改正提案については、やややり方が「強引かつ急ぎ過ぎ」であるように思えます。この「強引かつ急ぎ過ぎ」が中国国内で政治的混乱を招くことがないように願いたいものだと思います。

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2018年2月24日 (土)

雄安新区計画の進展と安邦保険集団の政府管理化

 中国では2月22日から春節の長期連休明けで各機関が一斉に動き出しました。連休明け初日の2月22日には中国共産党政治局常務委員会が開催されて雄安新区(北京の非首都機能を移転するために河北省に建設する新しい都市)の計画の進捗状況について報告を受け議論が行われました。雄安新区の建設については、昨年(2017年)4月に計画が決まっており、新しい案件ではありませんが、春節明けすぐの政治局常務委員会で議論することにより、雄安新区建設の案件が2018年の中国の政治における最重要課題であることをアピールする狙いがあったものと思われます。雄安新区の建設には、習近平氏への権力の集中の象徴、という意味合いもあるのでしょう(過去の歴史上の皇帝じゃあるまいし、新しい都市の建設を権力の集中の象徴と位置付けるのは「時代錯誤」もいいところだと私は思っているのですが)。

 一方、昨日(2月23日)、中国保険監督管理委員会は、保険業を中心とする巨大企業集団である安邦保険集団の経営を1年間政府の管理下に置くと発表しました。安邦保険集団については、創業者で経営トップの呉小暉氏が去年(2017年)6月、経済犯罪の疑いで身柄を拘束されたと伝えられていました。今回の中国保険監督管理委員会の発表では、企業としての安邦保険集団の経営にも違法性があるとしており、中国当局は保険加入者等の保護の観点から政府管理下に入れることにしたようです。そもそも中国経済は、多くの国有企業が大きな役割を担っていますから、ひとつの保険会社が実質国有化されたとしても、中国経済全体から見れば何かが大きく変化するような話ではないのですが、アメリカや日本で大手保険会社が突然国有化されることを想像してみれば、これは中国経済にとって相当に大きな話であることがわかるでしょう。保険会社のみならず中国の金融関連企業全体に対する信用の問題に直結しかねないからです。

 今朝(2月24日朝)見た「人民日報」ホームページ「人民網」の中の「財経」のページの中の「金融」ページ内の「過去24時間の注目記事アクセスランキング」では、この安邦保険集団の政府管理化のニュースがトップでした。中国国内でも関心は相当に高いようです。ただし、今回の件で、中国の多くの人々や関連企業の人々が「ある企業の経営が怪しくなっても結局は政府が自らの管理下に置くことによってなんとか処理してくれるさ」という考えを強くしたのだとすると、それは「モラルハザード」であり、中国経済の将来に大きな禍根を残すことになる可能性があります。2008年3月に経営危機に陥ったベア・スターンズにFRB(アメリカ連邦準備制度理事会)が緊急融資を行い、5月にはJPモルガン・チェースがこれを救済買収した後、2008年9月には今度はリーマン・ブラザーズが破綻し、アメリカ発の世界経済危機が起こったことは忘れてはならないと思います。

 安邦保険集団の政府管理化のニュースは、日本の新聞でも大きく取り上げられています。日本の新聞記事でも指摘されていますし、このブログでも過去に書いたことがありますが、最近中国では、安邦保険集団のケース以外でも、大連万達集団(ワンダ・グループ)や海航集団の海外での買収等に関して、中国当局が「指導」という形で実質的に経営に直接介入をするかのようなケースが目立っています。

 こうした雄安新区の計画や安邦保険集団の政府管理化等の一連の動きを見ていると、習近平政権は、法律によって各企業の経済活動を律するというよりは、政権自らが中国経済の根幹部分を直接的に動かそうとしているように見えます。中国は社会主義の国なのだから政権がプロジェクトの実施や企業経営への介入によって経済を左右するのは当然だ、という考え方もあるのですが、一方で、現在の中国経済は、インターネット通販大手のアリババに代表されるように政府とは関係のない純粋民間企業の果たす役割が過去に比べて圧倒的に大きくなって来ており、政権による経済の直接運営は、どこかで必ず純粋民間企業との間で軋轢(あつれき)を生むことになると思います。

 なお、今回、経営が一時的に政府の管理下に置かれることになった安邦保険集団についてですが、2018年1月7日付け日本経済新聞朝刊7面記事「日本の不動産に海外マネー 取得額、最高の1.1兆円」によると、安邦保険集団は2017年に2,600億円で日本の賃貸マンション200棟を取得しているのだそうです。経済がグローバル化している今日、中国政府の様々な施策がかなり直接的に日本の経済にも影響を及ぼす可能性があることには注意しておく必要があると思います。

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2018年2月17日 (土)

李克強氏は習近平氏の16分の1以下

 今年(2018年)は2月16日が旧正月元旦でした。15日(旧暦大晦日)から中国では春節の大型連休に入っていますが、こうした春節前の時期に中国の国家指導者たちが地方の貧しい地方を視察して人々と言葉を交わす、というのが「年中行事」のようになっています。今年も同じですが、私は今回の「旧暦の年末の国家指導者による地方視察の報道」に関して、特に習近平総書記と李克強国務院総理の報道の仕方の「差」が気になりました。今回の旧暦の年末は、習近平氏は四川省を、李克強氏は吉林省を視察し、いずれも貧しい農村地域などを訪れました。視察の内容は「貧困脱出のための努力を強調した」など基本的には同じようなものなのですが、報道で扱う「量」には圧倒的な違いがありました。

 「人民日報」では2月14日の紙面で伝えていますが、この日の「人民日報」では、習近平総書記の四川省訪問については1面と2面の全てを使い多くの写真を交えて報じています。一方、李克強総理の吉林省訪問については、4面の紙面の8分の1くらいの面積で、文章だけ(写真なし)で報じています。「人民日報」が報じる面積で比較したら李克強氏は習近平氏の16分の1以下の位置付け、ということになってしまいます。

 同じ内容は2月13日夜の中国中央電視台の夜7時のニュース「新聞聯播」でも報じましたが、習近平総書記の四川省訪問は冒頭の30分程度を使って伝え、李克強総理の吉林省訪問については、いくつか別のニュースを挟んで37分過ぎ頃から伝えただけでした。習近平氏は中国共産党のナンバー1、李克強氏はナンバー2なんですけど、私の感覚からいったら、この扱いの差は落差が大きすぎます。

 習近平総書記の四川省訪問の様々なエピソードについては、今日(2018年2月17日)付けの「人民日報」でも引き続き1面トップで報じています。今日付けの「人民日報」1面トップ記事の副題には「総書記的人民情懐」と書かれており、習近平氏が貧しい人民の心情をよく理解しているというイメージを強調する記事でした。

 最近、日本の新聞等では「習近平氏は毛沢東のやり方をまねしている」というふうに評されていますが、私は違うと思います。毛沢東のやり方は、文化大革命時のスローガン「造反有理」「革命無罪」でわかるように、貧しい人民に対して「権威に対して反逆せよ」とけしかけ、多数の人民の力を結集して、社会を動かそうとしていた(文革時は党中央での権力闘争に多数の人民の力を利用しようとしていた)のです。それに対し、習近平氏は、自らを「最下層の人民の心情を理解し、人民を保護する暖かみのある皇帝」であるかのように見せようとしています。習近平氏は、毛沢東というより「民主的な制度は中国の国情に似合わない」として皇帝になろうとした中華民国大総統だった袁世凱に似ている、と言うべきなのでしょう(中国でも台湾でも袁世凱は「辛亥革命の成果を横取りしたよこしまな人物」として認識されていますので、「習近平氏は袁世凱に似ている」などとは中国国内では口が裂けても言えないと思いますが)。

 1916年に皇帝になろうとした袁世凱は「時代錯誤」として中国の各界から総スカンを食らい、ほどなく病死することになりました。21世紀の現在、国家の指導者が「人民を保護する皇帝」になろうとするような「上から目線」の考え方に立つことも、おそらくは「時代錯誤」だと思います(21世紀の現代の状況について「多くの人々は、民主的な制度を望んでいるのではなく、忘れられた自分たちを擁護する強い政治家を待ち望んでいるのだ」と理解するのであれば「時代錯誤」ではないのかもしれませんが)。中国共産党の中にも「心やさしい皇帝のような習近平氏」に違和感を持つ人々が少なからず存在し、それらの人々が李克強氏を支持しているので、李克強氏は今後も国務院総理として一定の権力を維持することができるのだ、と理解するのが正しいのかもしれません。

 今までこのブログで何回も書いてきましたが、私は、過去の中国共産党トップと中国政府の実務的トップである国務院総理のコンビは、一定の良好なパートナーシップと適切な役割分担で中国共産党政権をうまく舵取りしてきたと思っています。毛沢東-周恩来のコンビが最強ですが、その後の胡耀邦-趙紫陽、江沢民-朱鎔基、胡錦濤-温家宝のコンビも非常によく機能してきたと思います。例外が1987年1月の胡耀邦氏の失脚後の趙紫陽総書記-李鵬総理の時代でした。この時代は、結果的には1989年の「六四天安門事件」の発生という形で破綻してしまったのでした。

(注)1989年~1997年は「江沢民総書記-李鵬総理」のコンビでした。1989年~1992年は「六四天安門事件」後の移行期だったし、1992年~1997年は、朱鎔基が政治局常務委員として経済政策を担当していたのでこの時期は朱鎔基は国務院総理ではなかったけれども「江沢民-朱鎔基の時代」と言ってよいと思います。

 李克強氏は、この3月の全人代の後も引き続き国務院総理を続けるようですが、もし習近平-李克強のコンビで引き続き政権を運営してこうというのであれば、報道の仕方において、李克強氏を習近平氏の16分の1以下に過ぎない程度に扱うようなやり方は、私はマズイと思います。もし、社長と専務がそのような関係にある会社だったら、おそらくそうした会社の株を買う人はいないと思います。これから世界は難しい時代に入っていきそうですが、そうした中で世界全体に大きな影響力を持つに至った中国は、政権の運営体制についても外から見ても安定したものになって欲しいと思います。

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2018年2月10日 (土)

中国の次の政策の目玉は「農村振興計画」

 最近の「人民日報」には「農村振興計画」に関する記事がたくさん載っています。中国共産党中央と国務院は2月4日に「農村(中国語では「郷村」)振興戦略の実施に関する意見」を発表し、翌2月5日には中国共産党弁公庁と国務院弁公庁(「弁行庁」は日本語にすれば「事務局」のようなもの)は「農村居住環境の整備に関する三年行動計画案」を発表しました。「農村振興計画」は、ひとことで言えば「農村インフラ整備計画」で、「農村居住環境整備」は具体的には農村におけるゴミ処理、糞尿処理、汚水処理、農村道路の整備などです。

 これらの計画は、二週間前(2018年1月27日)にこのブログの「農村宅地の『資格権』に見る中国経済の錬金術」で書いたような老朽化した(あるいは空き家になった)農民の住宅とその土地の活用も含まれています。また、昨年(2017年)秋以来習近平氏が強力に進めようとしている「トイレ革命」とも連なっている政策です。

 このブログの二週間前の記事を書いた時には、まだ国土資源部の部長(日本の「大臣」に相当)が全国国土資源工作会議の席上「政策案」として言及した段階の話で、具体的な動きはまだ先だと思っていたのですが、やはり大臣が公の会議で発言した背景として、既に中国共産党内ではかなり詰めた議論がなされていたようです。農村宅地の「資格権」は、土地政策に関する重要事項であり、この「資格権」も含めた「農村振興計画」と「農村居住環境の整備」の問題は、今年(2018年)秋に開かれるであろう中国共産党第19期中央委員会第三回全体会議(三中全会)で議論される重要な政策課題になるものと思われます。

(注)「三中全会」は、通常、党大会の約一年後に開かれ、その期(五年単位)に実行される重要な具体的政策課題について議論されます。「三中全会」で決まった政策方針は、後で「全人代」において実際の法律に落とし込まれていくことになります。

 中国経済は、リーマン・ショック対応として2008年に打ち出された四兆元の超大型経済対策の一巡を受けて、2015年~2016年前半にはかなり大きな低迷期を経験しましたが、その後2017年秋の党大会へ向けて中国経済を「ふかした」のは、高速道路、高速鉄道、地方都市の地下鉄、巨大橋梁プロジェクト等の交通インフラ事業でした。今、これらの交通インフラ事業は一巡しつつありますので、次の「経済のカンフル剤」として、中国経済の発展に乗り遅れた農村のインフラ、特に農民が日常生活で感じる「居住環境」の整備を次の重点課題にしようとしているのだと思います。

 「農村振興計画」「農村居住環境の整備」は、習近平氏が年頭の辞で述べていた中国人民の「獲得感」「幸福感」「安全感」に直接関係しており、習近平氏に対する中国人民、特に数が多い農民の支持を得る目的があるのだと思います。

 経済発展に乗り遅れた感のある農民の「獲得感」を大事にするために農村を振興し、農村の居住環境を整備することは、政策意図としては非常に「よいこと」だと思いますが、実行段階でうまく行くかどうかは、中国共産党中央が実際の政策を実行する中国共産党の地方幹部をうまくコントロールできるかどうかに掛かっています。

 というのは、中国共産党地方幹部は、常に何かの「儲け話プロジェクト」をやりたがっており、今回のように党中央が「農村振興計画」「農村居住環境の整備」を打ち出したら、狂喜乱舞して、「党中央からお墨付きをもらった」として、これに関連した様々な「儲け話プロジェクト」を考案して実行しようとすることが想像されるからです。

 2008年のリーマン・ショック対応の四兆元の大型経済対策においても、党中央は「ちゃんと計画的に執行する」と宣言していましたが、実際はほとんど無秩序に鉄鋼やセメントの生産工程の設備投資等が進み、その後、中国経済は過剰生産設備対策に苦慮することになりました。

 今回の「農村振興計画」「農村居住環境の整備」でも、「計画は党の指導に従ってしっかりした監督管理体制で行う」としていますし、「大型別荘や個人用集会所の建設は厳格に禁止する」などとしていますが、中国共産党地方幹部は、党中央の意向に従う形をうまく作って様々なプロジェクトを考えるでしょう。また、資金的には、中央からの財政投入に加えて、地方債券の発行、PPP(官民共同プロジェクト)方式、大手国有銀行からの融資などが想定されていますが、「農村振興計画」「農村居住環境の整備」という「錦の御旗」を得て、また様々なルートでの資金調達が行われることになるでしょう。いじわるい言い方をすれば、また「新しいバブルのネタ」を提供することになるわけです。

 「農村インフラの整備」は農民の生活向上のためには非常に良いことですが、将来大きな収入を生むような投資ではなく、投下された資金を回収する段階になって問題が生じることはないのか、という点は気になります。何年か経過して、外国のメディアが「今、中国の農村では豪華で非常に高性能の設備を備えた巨大な公衆便所が乱立しています」などと報じることにならなければよいなぁ、と思っております。

 私が2008年11月28日付けのこのブログの記事「『史上最大のバブル』の予感」の中で書いたように2008年の四兆元の大型経済対策については、始まる前から過剰投資のおそれを心配する声がありました。当時、中国共産党中央は「計画的に実行するから心配はない」と言っていたのですが、実際は、コントロールは不十分で、無秩序にも見える過剰投資が起きたのでした。この「農村振興計画」「農村居住環境の整備」が2008年の四兆元の超大型経済対策が残した問題点の「二の舞」にならないことを願いたいと思います。

 私が北京に駐在していた十年前に中国日本商会のいろいろな会合に出席していた経験から想像するに、今、中国に進出しているトイレ設備や汚水処理等に関連する日本企業の方々は「大きなビジネス・チャンスになる可能性がある」として、積極的に情報収集に当たっておられると思います。もし「農村振興計画」「農村居住環境の整備」が、日本企業のトイレ、ゴミ処理、汚水処理等の技術を活用して実際に中国の農村の農民の生活環境の向上に繋がることになるなら、それは日中関係にとっても非常によい話だと思います。

 なお、今年(2018年)はリーマン・ショックから10年目の年であり、ここ一週間のアメリカ株式市場の乱調に見られるように、世界経済の流れが今ちょうど潮目の変化の時期に当たっているように見えますが、これから進められる中国の「農村振興計画」「農村居住環境の整備」に2008年に始まった四兆元の大型経済対策のような「世界経済の救世主」の役割を期待してはならないと思います。「農村振興計画」「農村居住環境の整備」の目的は、中国の農民の生活環境の向上であり、大きな経済上のアウトプットを生むようなものではないからです。

 今、また「アメリカ発の世界経済の波乱」が起きつつあるのかもしれませんが、2008年とは異なり、今(2018年)は、中国には世界経済の乱調を救う余裕はないことはもちろん、むしろこれまでの過剰な投資による巨大な債務を抱える中国が世界経済の乱調を拡大させる可能性の方が大きいことはよく認識しておく必要があると思います。

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2018年2月 3日 (土)

中国の金融・経済の取り締まりと「黒社会排除闘争」

 去年(2017年)10月の中国共産党大会以降、減速するのではないかと思われていた中国経済は意外にハイレベルのスピード感を維持していますが、それと同時に、最近、従来から課題だった金融・経済に関する取り締まり強化とそれに呼応した是正効果がニュースになるようになりました。いくつかをピックアップすると以下のとおりです。

○中国の地方政府における財政収入やGDP統計の「水増し」の「自白」

 2017年1月に遼寧省が財政収入を、2018年1月には内モンゴル自治区が財政収入を、同じく2018年1月には天津市が域内総生産(GDP)を「水増し」していたことを認めました(参考:2018年2月2日付け日本経済新聞朝刊2面記事「中国、地方『自白』の打算 経済統計の修正相次ぐ」)

○中国銀行業監督管理委員会が不良債権の「飛ばし」を行ったとして上海浦東発展銀行に対し罰金を科した

 2018年1月25日に放送されたテレビ東京「Newsモーニング・サテライト」の「中国NowCast」のコーナーによると、中国銀行業監督管理委員会は、上海浦東発展銀行成都支店が実体のないペーパーカンパニーを1,493社設立し、約1兆3,400億円の不正な融資を行っていた、として、上海浦東発展銀行に対して約80億円の罰金を科した、とのことです。

○2017年末以降、「理財商品」の債務不履行が続いている。

 2018年2月1日付日本経済新聞朝刊10面記事「『理財商品』債務不履行続く 中国、投融資先が焦げ付き」によると、2017年末以降、少なくとも5社、50億円(900億円弱)の理財商品で元本の償還が遅れたり、約束した配当が払えなくなったりしている、とのことです。最近、当局が「理財商品」に対する規制を強めており、元本保証を禁じたことも影響している、とこの記事では指摘しています。

 これらのニュースを聞いて「やっぱり中国の経済はアヤシイ」と感じる人も多いと思いますが、別の見方をすれば、今まで表に出ていなかったことが表に出されてそれらに対する措置が採られていることは前向きに評価すべきなのでしょう。

 これらのニュースは、私は全て日本での報道で知りました。毎日見ている「人民日報」ホームページ上の様々な経済関連ニュースの中では気付かなかった点はちょっと気になります。情報としては、中国国内でも流れているはずですが、少なくとも公式メディアでは「大きなニュース」としては取り上げられていないのではないか、そうだとすると中国の人々の間でもあまりこれらの問題について認識が高まっていないのではないか、という点は心配になります。

 一方、私は、これらの動きは2018年1月25日付け「人民日報」1面トップに掲載されていた「中国共産党中央と国務院による黒社会(反社会的勢力)の排除に特化した闘争に関する通知」に示された方針と政権の政策として一貫しているのではないかと思っています。「黒社会の排除に特化した闘争に関する通知」とは、日本で言えば暴力団のような反社会的勢力の一掃を徹底させるための通知なのですが、この中では明確に「反腐敗闘争」と「反社会的勢力の排除」を結合させ、党や政府の末端が反社会的勢力の「保護傘」になっているような状態を徹底的に排除すべきことが指摘されています。

 最近、日本では「平成」が来年(2019年)終わることが決まったことから、「平成バブル」の頃の状態について「実はあの頃はこうだった」といった回顧記事をよく見かけます。それらを読むと、日本の平成バブルの背後では、暴力団等の反社会勢力がかなりの程度うごめいていたことがわかります。当時、土地価格の高騰を背景にして、嫌がる地主から無理矢理土地を買い取る「地上げ屋」が横行していましたが、その背後には金融機関と反社会的勢力のつながりもあったようです。日本における「バブルからの回復」は、一般の経済活動を反社会的勢力から完全に切り離すための「闘争」の道のりだった、ということも言えそうです。

 それから類推すると、今、中国経済ではあちこちでバブル的状況が起きていますが、その背景には銀行や地方政府が黒社会の勢力と結び付いている状況もあるのではないかと思います。それを考えると、習近平政権による「反腐敗闘争」と「黒社会排除」と「金融や経済における規制・監督の強化」とは一連の動きとして繋がっていると捉えることも可能だと思います。

 「黒社会排除」については反対する人は誰もいないと思うので、「反腐敗闘争」と「金融・経済の取り締まり」と「黒社会排除」とを一体化することによって、習近平氏は一般人民からの支持を得ながら自分に反対する勢力を排除しようとしているのだ、と考えることも可能ですが、それが中国経済の健全化のためになるのだとしたら、あながち悪い話ではないと思います。

 ただし、重慶市党書記として「黒社会との闘争」に努力したとされる薄煕来が「反腐敗闘争」の中で失脚したことを考えると、中国国内における権力闘争と「黒社会との闘争」との関係が実際はどうなっているのかについては外からはよくわからない点には注意する必要があると思います。

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2018年1月27日 (土)

農村宅地の「資格権」に見る中国経済の錬金術

 最近の中国の不動産関連のニュースの中で「農村宅地に関する資格権」「農村宅地に関する三権分離」といった言葉がよく出てきます。この話は、中国における「土地は公有という社会主義としての大原則の上に立った土地売買を正当化するための理屈」を象徴するような話なので、紹介してみたいと思います。

 中国は、社会主義国なので、全ての土地は公有です。都市部の土地については国有、農村部の土地(農地及び農民が住んでいる住居の宅地)は村や鎮などの地方行政組織の所有(中国語では「集団所有」)です。都市部でマンションの売買が行われているのは、都市部の土地の「所有権」は国にあるけれども、一定期間(通常は70年間)の「使用権」は売買できるので、マンションを買う人は建物とその土地の「使用権」を買えるのだ、というタテマエになっています。

 作物を耕作する農地については、所有権(村や鎮などの地方政府が持つ)のほかに「請負権」(農民が政府から作物の耕作を請け負っている権利)と「使用権」(実際にその土地を利用して作物を作ったり別の用途に使ったりする権利)が別にあり、「請負権」と「使用権」については売買したり、借金の担保にしたりできたりする、とされています。これを「農地の三権分離」と呼んでいます。

 農民が住んでいる住宅の宅地については、その土地で作物は作りませんから「請負権」はないので、従来「三権分離」の対象ではありませんでした。2000年代、都市近郊の農村部において、農民が自分の住んでいる宅地にマンションを建て、それを都市住民に売る行為が広く行われました(こうした農民用住宅地に建てられたマンション等の住宅は「小産権」と呼ばれています)。しかし、社会主義の原則上、農民用住宅地は、土地所有者(村や鎮などの地方政府)が農民に住むことを許可している土地であるのだから、マンションを買った都市住民にはその土地の上に居住する権利はなく、「小産権」は法律上認められないはずだ、という議論が起こり、裁判の結果、こうした「小産権」は認められない、という確定判決が出ています(このブログの2007年12月18日付け記事「都市住民の『小産権』購入は違法と確定判決」参照)。

 しかし、今年(2018年)1月15日、国土資源部の姜大明部長は、全国国土資源工作会議の席上、今後、農村宅地について「所有権」「資格権」「使用権」の三つを分離して考える政策を採ることを検討する、と表明しました。農村宅地の「所有権」は村・鎮などの地方政府にあり、「使用権」は実際に住んでいる農民にあるのは明かですが、これに「その土地に住む資格という権利」という意味で「資格権」をプラスして設定する、という考え方です。この考え方は、農村宅地について「所有権」は村・鎮等の地方政府に維持したままで、「資格権」「使用権」を土地開発業者に売却したり、借金の担保にしたりできるようにする、という考え方のようです。

 この考え方は、2007年に裁判所が出した「社会主義の法制度上、農村宅地に都市住民が住むことはできない」という判断を覆そう、という考え方ですが、中国では「中国共産党が全ての権力の上に立つ」ので、過去の判例だろうとなんだろうと、中国共産党が決定すれば、過去の裁判所の判例などいつでも覆せますので、こうした政策の設定は可能なんだと思います(正式には、中国共産党の会議で議論した後、全人代で法律にする必要があります)。

 こうした政策の案が出てきた背景には、「農民が都市部に長期間出稼ぎに出ており、農村に残っていた年老いた両親が亡くなったために空き家になっている農村の農民用住宅が多くなってきていること」があるのだと思います。空き家になっている農村の宅地を売却したり、借金の担保にしたりできれば、農民が資金を得られるようになる、というわけで、「農村の空き家対策」と「農民の資金源の多様化」を狙った一定の合理性を持った政策のように思えます。一方で、都市部に出稼ぎに出ていて、今後とも都市部で働き続けたいと考えている農民がまとまった資金を得られる道を開き、都市部で建設されているマンションをこれらの農民に買わせよう、という意図もあるように思われます。

 もともと存在していなかた「農村宅地の資格権」を認定することによって、それを売却や担保にして資金を得られるようにする、という政策は「何もなかったところから経済的価値を生み出す錬金術」のようなものですが、ある意味で、これは中国の経済政策の「お得意」の政策であると言えます。もともと所有権が公有であり、個人間で売買することができなかった土地について、「所有権と使用権は別」という考え方を導入し、使用権を売買することによりマンションの建設と売買を可能にした時点で、「土地の錬金術」は既にスタートしていたと言えます。今後、農村宅地について、新たに「資格権」なるものを設定してそれを売買や担保の対象にできるようにすることは、そういった中国における「土地の錬金術」の延長線上にある話なので、今後中国で何か新しい革命的なことが起こる、というわけではありません。

 ただ、こうした政策の方向性は、中国の経済政策が「バブル気味のマンション建設を抑制する」方向ではなく、セメントや鉄などの産業の雇用維持の意味もあり、今後ともマンション建設を継続・拡大させる方向にある、ということを示す意味で重要だと思います。

 中国の不動産関連の新聞記事で「農村宅地の資格権」に関する記事が注目されているのは、この政策がうまく行って、都市に出てきた「農民工」が農村の自分の家を処分して資金を得て都市部のマンションを買えるようになれば、都市部のマンション価格は維持される(あるいは上昇する)ので、そうなるかどうかを非常に気にしている既にマンションを持っている都市部住民が多いからだと思います。

 農村宅地の「資格権」については、まだ国土資源部長が「今後検討する」と言っている「政策案」の段階なので、実際に政策になるのかどうかはわかりませんが、「中国経済は今後も土地の錬金術の上に乗って発展していく」のかどうか、そうした「土地の錬金術」がどこまで破綻せずに進むことができるのか、を考える上で、今後とも注目すべき議論だと思います。

(注)「錬金術」と書くと否定的に聞こえますが、例えば、日米欧における中央銀行による国債購入も「政府が発行した『国債』という名前の借用証書を中央銀行が買い取って世の中に出回るお金を増やす」という意味では一種の「錬金術」ですし、「将来これを根拠にしてみんなが物を売買できるようになるだろう」という「想定」だけで数字の羅列のような電子情報に対してお金を積む仮想通貨も21世紀の「錬金術」と言えるかもしれません。

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2018年1月20日 (土)

「李克強氏は退場しない」ので「バブルつぶしは今はやらない」

 昨日(2018年1月19日)、中国共産党第19期中央委員会第二回全体会議(第19期二中全会)が終了しました。3月の全人代で議論する「憲法改正」と「政府人事」について議論されたと見られているのですが、人事については何の発表もありませんでした。

 「憲法改正」については、指導理念として、従来からの「毛沢東思想」「トウ小平理論」「『三つの代表』重要思想(江沢民元総書記が提唱した)」に加えて「科学的発展観(胡錦濤前総書記が提唱した)」と「習近平の新時代の中国の特色のある社会主義思想」が追加されることになるようです。

 「トウ小平理論」はトウ小平氏が亡くなった後で、「『三つの代表』重要思想」と今回の「科学的発展観」はいずれも提唱した総書記が退任した後で「後づけ」で憲法に追加された(される)のに対し、「習近平の新時代の中国の特色のある社会主義思想」は現役の総書記が提唱している「思想」を憲法に盛り込むことになる、という意味で、かなり重要だと思います。報道の中には「現役の指導者が提唱した考え方を憲法に盛り込むのは毛沢東以来」と指摘しているところもあります。

 憲法に書き込まれる「指導理念」は、あくまで「理念」なので、憲法に書かれたところで「権威付け」とはなるけれども、政策実行上、実体的な意味は大きくない、という見方もあります。一方、中国の法律の規定には「違法な行為を禁じる」といったトートロジー表現(同語反復で実質的には中身がないような表現)の規定も多いので、憲法に「習近平」という固有名詞の付いた「思想」が書き込まれると、習近平氏の政策に反対する意見を表明すること対して「憲法違反だから違法だ」として取り締まり対象にされる可能性があるので要注意だと私は思っています。

 このように「習近平氏への独裁的権力集中の方針」が目立つ今回の二中全会でしたが、それを伝える今日(2018年1月20日)付けの「人民日報」は、一面トップは当然この二中全会の公報(コミュニケ)を伝えているのですが、一面の下の方に「李克強氏がEUの委員長に『中国-EU観光年』の開幕式を祝する祝辞を送った」という記事が載っていました。EUには大変申し訳ないのですが、「この程度の軽い話」は、ハッキリ言って「人民日報」1面ネタの記事ではありません(普通は3面(国際面)に載るような案件)。私はこの記事の載せ方は「二中全会は習近平氏への権力集中へ向けた議論が行われたが、李克強氏も党中央の重要な位置から退場するわけではありませんぞ」というメッセージであると捉えました。

 今回、3月の全人代で決める政府人事(各省大臣クラスの人事)が発表されなかったのも、習近平氏と李克強氏の「権力闘争」がまだ決着していないため、まだ議論が必要だったからである可能性があります。

 一昨日(1月18日)、国家統計局は2017年10-12月期と2017年通年のGDPを発表しましたが、2017年通年のGDPについては先に李克強氏がカンボジアでの講演で述べたのと同じ6.9%増という数字が発表されました。通常、GDPの発表は北京時間午前10時に発表されるのですが、今回は前日に、15時(=株式市場が閉じる時刻)に発表される、と発表時刻の変更がありました。理由は、記者会見で発表する国家統計局長が二中全会に参加するため、とのことでしたが、事前に李克強氏が2017通年のGDPの数字を口にしていたため、実際にはそれと異なる数字なので株式市場にショックを与えないようにするために発表タイミングを変更したのではないのか、などといろいろ憶測を呼びました。結局は数字自体は事前に李克強氏が述べていたのと同じだったので、特段の驚きは与えませんでした。

 私は、李克強氏が2017年通年のGDPを正式発表の一週間以上前に外国で述べてしまったことや、そのGDPの正式発表時刻が前日になって変更になったことなどから、李克強氏の党内での位置付けが動揺しているのではないか、と見ることも可能だ、と考えていました。今日(1月20日)付けの「人民日報」の1面の下の方に「李克強氏がEUの委員長に『中国-EU観光年』の開幕式を祝する祝辞を送った」という記事を載せたのは、そうした見方を否定し、李克強氏は党内で今も健在であることを強調する意図があったように思います。

 一方で、上に書いたように2017年の中国のGDPが政府目標の6.5%を上回って堅調だったことや、同じく1月18日に発表された2017年12月の主要70都市の新築マンション価格が下がっていないことでわかるように、中国政府は2017年10月の党大会を通過してバブルの抑制に動いていると思われるにも係わらず、現時点でもあまり中国経済のスピードは減速してないように見えます。私は、これは、李克強氏が党中央の権力の真ん中から退場しようとしないので、習近平氏はさらに自らへの権力集中強化のため、地方の党幹部や産業関係者からの支持を集めるために現時点では痛みを伴う「バブルつぶし」のような政策運営を強く押し出すことができていないからだろうと考えています。

 もし、習近平氏が「経済のスピード・コントロールよりも自らへの権力集中を強化させることの方が重要だ」と考えているのだとしたら、今後中国経済は「制限速度」を超えて減速することなく突っ走っていくことになる可能性があります。

 一方、今、全く同じように、アメリカのトランプ大統領も今年(2018年)11月の中間選挙へ向けて「経済のスピードをコントロールするよりも自らへの支持を強固なものにすることの方が重要だ」と考えているように見えます。

 世界経済の一位と二位の国のトップがもし今後とも同じ方向に進んでいくのだとしたら、世界経済は本来ならば政策的コントロールの下で管理されるべき適切なスピードの範囲を大きく超えて加速して行ってしまう可能性があります。習近平氏もトランプ氏も回りの側近の忠告をあまり聞くようには見えないので(二人とも周囲は「イエスマン」ばかりになっているように見えるので)、世界の人々は今後大けがをしないようにシートベルトはしっかり締めておいた方がよさそうです。

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2018年1月13日 (土)

党大会を通過しても立ち位置の定まらない李克強氏

 先ほど、今日(2018年1月13日)閉幕した中国共産党第19期中央規律検査委員会第二回全体会議の公報が発表されました。中国中央電視台の夜7時のニュース「新聞聯播」のトップ・ニュースもこの件でしたが、この映像を見て、私は強烈な「異常さ」を感じました。この会議の壇上には、中国共産党政治局常務委員7人のうち6人が並んで座っており、李克強氏だけがいなかったからです。

 今回の中央規律委員会第二回全体会議は1月11~13日まで開催されましたが、李克強氏は1月11日夜までカンボジア訪問中でしたので、李克強氏は、物理的にこの会議には参加できないスケジューリングだったのでした。政治局常務委員が参加する党の会議で、たまたまその会議が開かれた時に海外出張中だった政治局常務委員が欠席することは別に珍しいことではないのですが、中央規律検査委員会は、中国共産党の現在の最大の目玉政策である「反腐敗闘争」を統括する重要な会議であり、そもそもこの会議を李克強氏が出られない日程で開催すること自体不自然です。李克強氏は1月11日夜に北京に戻っており、1日ずらせば李克強氏も参加できたはずだからです(1月12~13日、李克強氏は北京にいたにも係わらず、この会議には参加していない)。

 昨年(2017年)の第19回中国共産党大会により、習近平氏への権力集中体制が一層強まった、と見るのが一般的ですが、その一方で中国共産党ナンバー2で国務院総理の李克強氏の「立ち位置」がいまだにハッキリしません。李克強氏は、習近平氏への権力集中を容認して習近平氏体制を支える立場に立つのか、習近平氏と一線を画して党内で習近平氏と張り合う立場を維持するのか、はたまた習近平氏への権力集中の進展に応じて李克強氏は徐々に実質的な権力の座から下りる方向へ向かうのか、その方向性が見えないのです。

 李克強氏は、中央規律委員会全体会議には参加しない一方で、1月10日、訪問先のカンボジアで講演し、2017年通年の実質経済成長率について「6.9%前後になる見通しだ」と述べました。中国の2017年のGDPについては1月18日に正式に発表される予定ですが、そうした正式発表を前にして総理が「見通し」を(しかも外国で)述べてしまうのは、あまり「普通」ではありません(こういう経済統計については、株式市場等に影響を与えるので、正式に発表されるまで政府要人はコメントしないのが普通)。こうした李克強氏の発言については「経済政策については自分が中心人物なのだ。習近平氏ではない。」と内外にアピールする意図があったのではないか、との憶測もあるようです。

 さらに、昨日(1月12日)には中国共産党政治局会議が開かれて、第19期中国共産党中央委員会第二回全体会議(第19期二中全会)を1月18~19日に開催することを決めました。この二中全会では、憲法改正について話合われる予定です(そのほか3月の全人代で決める政府の人事も議論されると思われる)。昨日は李克強氏は北京にいたので、政治局会議には出席していたと思われますが、政治局会議への出席者は通常公表されないので、実際に李克強氏がこの政治局会議に出席していたかどうかはわかりません(というか、もし仮に北京にいるのに出席していなかったとしたら、それは大問題)。

 今までもこのブログで何回も書いて来ましたが、党の重要な会議を李克強氏の外国訪問時や国際会議出席期間中に開催したり、党の政治局会議を李克強氏の出張終了日と重ねて、あたかも李克強氏が政治局会議に出ていないようなイメージを作るようなスケジューリングは今までも何回もあり、習近平体制においては珍しいことではありませんでした。しかし、こうしたスケジューリングは、党のナンバー2であり国務院総理でもある李克強氏が中国共産党の重要事項を決定する会議にあまり深く関わっていない、といったイメージを中国人民に意図的に与えようとしているのではないか、と私には見えてしまいます。今回の中央規律検査委員会全体会議を李克強氏の外国出張に重なる日程で開催したことは、その中でも最も強烈なものだったと私は思います。

 こうした李克強氏の党中央における立ち位置に関する不明朗さは2017年秋の党大会の後は一応の整理がなされるものと私は思っていました。まるで李克強氏を「軽く」扱っているようなやり方は、党中央が一枚岩で団結していないことを内外に示してしまうので、中国共産党自身にとって何のプラスにもならないからです。しかし、実際は2017年の党大会の後も事情は全く変わっておらず、表面上は「習近平氏への権力集中が強力に進められつつある」とされているにも係わらず、相変わらず李克強氏は党内で一定の力を持っており、かつ習近平氏への権力集中に賛同しているように見えない状態が続いています。

 報道によれば、今度の二中全会で改正される憲法の案としては、指導理念として、従来の「毛沢東思想、トウ小平理論、『三つの代表』重要思想(江沢民元総書記が提唱した)」に加えて「科学的発展観(胡錦濤前総書記が提唱した)」と「習近平の新時代の中国の特色のある社会主義思想」を追加することが議論されるようです。おそらくこれは、習近平氏への権力集中を憲法上も確認する一方で、前任の胡錦濤氏(とそれに同調する一派:李克強氏も含む)に対する配慮もした一種の「妥協の産物」なのでしょう。

 こうした状況を見ていると、表面上(及び「人民日報」や「新聞聯播」での報道のやり方)は習近平氏への権力集中の体制が完成しつつあるように見えるものの、実態は習近平氏とそれに対立するグループ(李克強氏がそのトップにいると思われる)が存在するという従来の中国共産党内部の権力構造はあまり変わっていないのかもしれません。一方、今回の中央規律委員会全体会議に政治局常務委員のうち李克強氏だけが参加しなかった、という現実は、私が以前想像していた「2018年3月の全人代で李克強氏は国務院総理を退任する」という路線が現実のものになる可能性を示しているのかもしれません。

 問題は、党中央の中がこのように「一本化されていない」のが外からミエミエになってしまうと、おそらくこれからの中国の現場での政策運営が一貫性のない中途半端なものになってしまうおそれがあることです。各政策担当者は、党中央の「エライ人たち」の顔色を見ながら仕事をするからです。実際、中央経済工作会議では「リスクの緩和・解消」が三つの柱の最初に掲げられて、例えばマンション・バブル対策が最重要課題と思われる一方で、あまり厳しい規制がなされては困るような地方政府においては、マンション市場規制を一部緩和する、といった例も出てきています(最近、甘粛省蘭州市の一部の地域でマンション販売規制が「緩和」されたことについては、1月12日に放送されたテレビ東京「Newsモーニング・サテライト」の中国ナウキャストのコーナーでSMBC日興證券の肖敏捷氏が指摘していました)。

 今日(2018年1月13日)付けの朝日新聞朝刊13面には「中国教科書『文革』項目削除へ 『歴史』新版?毛沢東の過ち認める表現消える 習氏の意向反映か」という中国の中学校の新しい歴史教科書に関する記事が載っていました。「文化大革命への反省」「毛沢東と言えども全てが正しかったわけではない」というのがトウ小平氏が始めた改革開放路線の出発点なわけですから、この朝日新聞の記事が事実とすれば、習近平氏はトウ小平氏の路線を否定しようとしているということになります。現在の中国の各界の指導的役割を担っている人たちは、1980年代にトウ小平氏の改革開放路線に胸を躍らせて学生時代を過ごした世代の人たちなので、もし習近平氏が「トウ小平氏の改革開放路線の終了」の方向に舵を切ろうとするならば、中国国内で相当の反発を呼ぶことになると思います。今、もしかすると李克強氏は、そうした習近平氏の路線に対して反発する人たちの中心的役割を果たしているのかもしれません。そうだとすると、李克強氏の今後の動きは、中国の今後の行く方向を見極める上で、非常に重要な意味を持つものになると思います。

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2018年1月 6日 (土)

新年早々習近平氏への権力集中をアピール

 中国中央電視台の夜7時のニュース「新聞聯播」の年初のニュースは、習近平氏への権力集中をアピールするものが並びました。2018年1月3日~5日のトップ・ニュースを並べると以下のとおりです。

1月3日:中国共産党軍事委員会は全軍一斉の「訓練開始動員大会」を初めて実施し、習近平党軍事委員会主席が全軍に訓示をした。

1月4日:習近平主席が河北省にある人民解放軍の中部戦区を視察した。

1月5日:習近平主席が「習近平の新時代の中国の特色のある社会主義思想と党の第19回大会の精神を貫徹して学習する討論会」で重要講話を行った。

 「訓練開始動員大会」は、報道によると7,000人の兵士が参加したそうで、映像で見る限り、多数の兵士や戦車、海軍基地や空軍基地とも映像でつないで、かなり壮大な「大会」の様子でした。2015年9月の「対ファシスト戦勝利70周年軍事パレード」(北京の天安門前で実施)や去年(2017年)8月の人民解放軍健軍90周年記念閲兵式(内モンゴル自治区で実施)もありましたので、私の印象は、「なんでこんなに頻繁に大規模な閲兵行事をやらないといかんのかなぁ」というものでした。

 一般の報道では、これらの相次ぐ大規模閲兵行事は、習近平氏が中国政府内部のみならず人民解放軍に対しても完全に一手に権力を掌握していることをアピールするため、といった解説がなされていますが、これだけ何回も繰り返されると、私には「習近平氏は、実際には人民解放軍内部を完全に掌握している自信がないので、大規模な閲兵行事を繰り返さないと不安なのではないか」と思えてしまいます。

 というのは、私は1980年代の中国共産党軍事委員会主席がトウ小平氏だった時代に北京に駐在していましたが、トウ小平氏は、閲兵式もやらないしテレビにもほとんど登場しないのに、彼が人民解放軍を完全に掌握していることは、中国人民も世界の人々もよく理解していたので、当時の状況と現在とをどうしても比較してしまうからです。トウ小平氏をはじめ葉剣英、李先念、楊尚昆といった当時の中国共産党の幹部たちは、日中戦争期や国共内戦期に実際に戦闘現場で兵士を率いて戦った人たちであり、かつて戦場で生死を共にした彼らの部下たちが当時の人民解放軍の幹部に多数いたことから、トウ小平氏をトップとする人民解放軍の掌握の力は誰も疑う余地のないものだったのでした。

 それに対して、習近平氏は軍人としての経験はありません。おそらく習近平氏は大規模な閲兵式を繰り返して自分が軍の最高司令官であることをアピールしなければ自分の軍の統率力は維持できない、と考えているのでしょう。

 「習近平の新時代の中国の特色のある社会主義思想と党の第19回大会の精神を貫徹して学習する討論会」も、習近平氏が党内における自分の「特別な地位」をアピールしたいと考えて行ったのでしょう。

 これらの動きは、習近平氏がおそらくは次の党大会(2022年)で毛沢東と同じ「党主席」の制度を復活させて自分がそれに就任したいと考え、それを実現させるための運動の一環なのでしょう。

 こうした「習近平氏への権力集中をさらに進めるための動き」と「共産党大会が終わったのに中国経済が減速していない状態」が同時進行していることは重要だと思います。習近平氏は、貧困対策等基層の人々に対する配慮にたびたび言及しています。2018年の年頭の辞においても中国人民の「獲得感」「幸福感」「安全感」に言及していました。この習近平氏の発想は、実際の政策の実行を担当する政府部門に一部に痛みを伴う可能性のある改革を実行するのをためらわせるのに十分だと思います。

 私の感覚から言っても、2007年の党大会後の経済に掛かったブレーキと「経済成長のスピードにブレーキが掛かかることを心配するよりも、バブルは小さなうちに潰しておくことを重視すべき」と考えていた当時の政策と、現在の2017年の党大会後の中国経済の状況と中国の経済成長の方向性とは、明らかに異なります。

 もっとも懸念されるのは、昨年(2017年)12月の中央経済工作会議で三つの課題のうちの最初の柱として「重大なリスクの緩和・解消」が打ち出された一方で、習近平氏の方針に伴う現場レベルでの「痛みを伴った改革の実施への躊躇(ちゅうちょ)」が結局は中国の経済改革を中途半端なものにしてしまわないか、ということです。

 既に報道されているように、中国の当局は、採算性の悪い地方のインフラ・プロジェクトを中止させたり、大手企業の借金体質の改善を迫ったりしています。中国当局から銀行に対する信用リスクの調査を指示されたことに起因して大連万達集団(ワンダ・グループ)が借金縮小のためにホテルやテーマパークの大半を売却すると発表した件については、このブログの2017年7月22日付けの記事「全国金融工作会議と中国の金融を巡る現在の状況」で書きました。また、各報道によると、借金による海外資産の買収を当局から問題視された海航集団が資産の売却に動いているとされています。こうした類の債務レバレッジ縮小のための大企業による不動産などの資産を売却する動きは、それなりに活発化しているようです。これらの動きは、「重大なリスクの緩和・解消」のための方策の一環だと見ることができます。

 一方、こうした動きは、マンション資産を持っている一般の人の間に「大企業は、不動産市場が冷え込む前に資産を売却しようとしているのではないか」との疑念を引き起こしているようです。「人民日報」ホームページの「財経チャンネル」にある「房産(不動産資産)チャンネル」には、2018年1月5日付の「証券日報」の記事「中央国有企業が頻繁に不動産資産を売却していることについて、専門家は、これは不動産市場からの事前撤退ではない、と述べている」と題する記事が載っていました。この記事では、最近大手企業の不動産資産売却が多いのは、借金体質の改善のためと、2016年は不動産価格が低迷していたので不動産の売却が難しかったことの反動があるためであって、これらの企業が不動産価格が今後下がると見て早めに売却しているのではない、との専門家の見方を紹介していました。

 やはり「債務レバレッジの緩和・解消」の様々な施策を講じると、どうしても「この先経済は冷える」との見方が出てしまうので、このあたりのバランスは難しいようです。もし、習近平氏の「権力集中」への動きを邪魔してはならない、と政策担当者が「忖度」するのであれば、「リスクの緩和・解消」のための施策の実行にはどうしてもブレーキが掛かってしまい、党中央が考えるほど「リスクの緩和・解消」の効果が上がらない結果になるのではないかと私は思います。

 すくなくとも、2018年第一週の「新聞聯播」を見ている限り、「習近平氏は、中央経済工作会議で議論された『リスクの緩和・解消』の推進よりも、自分自身への権力集中の方を重視しているようだ」と私は受け取ったので、2018年の中国経済は去年「党大会後に経済は減速する」と考えていたほどには減速しない、と見た方がよいのかもしれません。もちろんその代わり「リスクの緩和・解消」は進まないので、「バブルが崩壊するリスク」はより高まる、という点には注意する必要があります。

 2018年の第一週の日米をはじめとする世界の株価は「これでいいの?」と思えるほどの急騰で「ロケット・スタート」などと言われています。理由は「アメリカでの減税法案の可決」「北朝鮮がピョンチャン・オリンピック・パラリンピックを前にして対話路線に出てきている」などいろいろあると思いますが、「中国経済が党大会を通過しても意外に減速していない」ことも理由の一つだと思います。しかし、中国経済については、「減速していない」ことは「バブルが崩壊するリスクは高まっている」ことの裏返しであることは常に意識しておく必要があると思います。

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2017年12月30日 (土)

ポスト周小川の中国の金融政策

 今、年末なので、各新聞や雑誌で来年(2018年)の経済予測が盛んです。アメリカでは2月にFRB(連邦準備制度理事会)の議長がイエレン氏からパウエル氏に交代するので、新しいFRBの舵取りがどうなるか、がポイントとなっています。日本銀行についても、4月に現在の黒田総裁の任期が切れるので、後任人事がどうなるのか、黒田総裁が続投するのか、交代するとすると誰が新しい総裁になるのか、に注目が集まっています。

 中国の中央銀行である中国人民銀行総裁の周小川氏も3月の全人代で退任すると見られていますが、新聞や雑誌での「来年の予想」の記事では中国人民銀行総裁人事の交代についてはあまり記述がありません。周小川氏の後任が誰になるか現時点ではわからないし、後任になりそうな人のメドが立ってもその人がどのような考え方に立って中国の金融政策の舵取りをするのか情報が少なすぎるので、考えようがない、というのが実情なのでしょう。そもそも中国の場合、金融政策も「中国共産党の指導の下」にありますので、誰が中国人民銀行総裁になっても基本路線は変わらないはずだ、という考え方も「ポスト周小川」についてあまり議論にならない理由かもしれません。

 しかし私は周小川氏の交代は一般に考えられている以上に影響は大きいと考えています。というのは、周小川氏は、2003年3月の全人代で中国人民銀行総裁に就任していますが、英語が堪能で世界の金融政策関係者からも一目置かれ一定の評価を受けており、「中国の金融政策に対する信用」の点で周小川氏の交代は影響が大きいと考えるからです。

 周小川氏は、私が北京に二度目の駐在をしていた2007年4月~2009年7月の頃には既にその実績が高く評価されていました。周小川という名前は中国語読みでは「チョウ・シャオチュワン」、日本語読みすれば「シュウ・ショウセン」ですが、北京の駐在員達が話をするときは大体「シュウ・おがわ」で通じていました。この呼び方は親しみを込めていると同時に、一定の敬意を含んでいたと思います(テレビなどで見る「チャイナ・ウォッチャー」の中にも「シュウ・おがわ総裁」などと呼ぶ人がたまにいます)。

 重要なのは、周小川氏は、国内での実績と国際的な評判の下で、おそらく中国共産党内部でもそれなりに「一目置かれていた」と思われることです。上海株や不動産バブルが2007年10月の第17回党大会の後にピークを打った際には、バブルの拡大を警戒して株価やマンション価格を下支えしない引き締め気味の当時の金融政策に対してネット等ではかなりの反発があり、私の耳には「周小川更迭説」も入って来たのですが、結局は周小川氏は中国人民銀行総裁を続投し今日に至っています。

 今年(2017年)、周小川氏は、第19回党大会開催期間中の10月19日に「我々は(バブル崩壊のタイミングを示す)ミンスキー・モーメントを防がなければならない」と発言したり、中央経済工作会議を前にした11月22日に現在の中国の金融政策の課題を率直に指摘した文章を「人民日報」に寄稿したり、「敏感な政治の季節」の時期にズバッと本質を突いた発言をしたことは、周小川氏が中国共産党内部からも反論を許さないほどの発言力を持っていることを示していたと思います(もちろん、これらは「自分はもうすぐ辞める」ことを認識した上での周小川氏自身の「辞める前に必要なことは言っておきたい」という意図から発した発言だと思いますが)。

 中国には優秀なエコノミストがたくさんいるので、周小川氏の後任にも優秀な方が中国人民銀行総裁に就任すると思いますが、誰が後任になっても、世界の金融関係者から信頼を得るまでには一定の時間が必要でしょうし、何より最近の(退任直前の)周小川氏のように政治的に微妙な問題についてもズバッと発言することは難しいと思います。周小川氏の退任が習近平氏への権力集中の最終段階で行われた点もタイミング的に微妙です。習近平氏が更なるインフラ投資拡大と流動性供給を求める既得権益グループから圧力を受けた場合、新しい中国人民銀行総裁は、政権の意向から独立した立場で、バブル拡大を防止する方向での金融政策判断ができない可能性があるからです(中国の場合「中国共産党から独立した中央銀行の金融政策」などあり得ない、という意見もあるでしょうが、私は周小川氏は一定の独立性を確保しようと努力していたと思っています)。

 周小川氏は、朱鎔基氏(1993年~1995年:中国人民銀行総裁、1998年~2003年:国務院総理)に抜擢された、と言われていますが、私は基本的に朱鎔基氏-周小川氏に代表される中国政府の経済系テクノクラート集団に一定の信頼を寄せています(私が1983年2月に最初に訪中した時の中国側の歓迎宴会を主催したのが朱鎔基氏(当時、国家経済委員会委員(次官級))だった、という個人的理由もあるのですが)。

 1976年の毛沢東の死後に党主席になった華国鋒氏は、中国の外貨準備等の状況を無視して経済発展促進のために外国からの工場プラント契約を結んで深刻な外貨不足を招いたのですが、1978年以降実質的に権力を握ったトウ小平氏は、経済系テクノクラート集団を活用して、実情に立脚した経済・金融政策を推進しました。トウ小平氏は、自らが先頭に立って「ソ連は覇権主義だ」という反ソ路線を標榜して日米・西欧諸国と接近し、これらの諸国から経済的・技術的支援を得るとともに、外貨兌換券(外貨からしか兌換できない特別の人民元)を発行して、徹底した外貨管理を実行して、その後の驚異的な中国経済発展の基礎を固めました。これはトウ小平氏の優れた国際戦略の感覚とともに、トウ小平氏の信任に応えた当時の中国政府の優れた経済系テクノクラートたち(朱鎔基氏もその中の一人だった)の努力のたまものだったと思います。

 私の1986年10月~1988年9月の一回目の北京駐在の頃、私たち外国人駐在員は外貨兌換券を使っていましたが、当時、「同じ中国の貨幣なのに中国人用の紙幣と外国人用の外貨兌換券の二種類流通しているなんて、どこかで矛盾が生じるのではないか」と私などは思っていました。しかし、中国は、自らの経済発展の過程で、1993年、見事に混乱なく外貨兌換券廃止に漕ぎ着けたのでした。1989年の六四天安門事件や2008年のリーマン・ショックなど様々な状況変化の中で、それなりに安定した経済・金融政策を採ってきた中国の経済系テクノクラート集団には、一定の評価が与えられてよいと私は思います。

 ハイパー・インフレが起きたベネズエラやジンバブエのような国はもちろん、トルコ、ブラジル、南アフリカ、インド等の新興国を見ていると、急速に発展する過程にある国の経済・金融政策の舵取りは非常に難しいものがあります。平成バブル期の日本やリーマン・ショック時のアメリカを見ても、先進国においても経済・金融政策に失敗したのではないか、と思える時もありました。そうした中で、中国の経済・金融政策は、今までのところそれなりの舵取りが行われてきたと思います。

 しかし、2015年~2016年年初に起きた中国経済の「ドタバタ」(上海株のバブル化を防げなかったこと、人民元の急激な切り下げによる混乱、上海株式市場のサーキット・ブレーカー制度の朝令暮改など)は中国の経済・金融政策の舵取りが相当難しくなってきている現状を暗示していたと思います。こうした中、これからの習近平政権にとっては、これまでと同じように経済系テクノクラート集団をうまく使えるかどうかがカギになると思います。周小川氏は、朱鎔基氏から連なる経済系テクノクラート集団のリーダー的存在だと思うので、周小川氏の退任により、経済系テクノクラート集団の機能不全が起きないかどうか、が私は気になっています。

 2013年に始まった習近平政権の初期においては、李克強総理と周小川氏がうまく経済系テクノクラート集団をリードしてきたと思うのですが、周小川氏の退任により、それがうまくいかなくなる可能性もあるからです。李克強氏については、今のところ当面国務院総理を続けるようですが、習近平氏との関係において、周小川氏の退任の後、李克強氏が政権内でどういう位置を占めることになるかも重要なカギだと思います。

 12月27日、中国共産党は政治局会議を開いて、来年1月に二中全会(中央委員会第二回全体会議)を開くことを決めました。二中全会は、通常、党大会の後、次の年の全人代の前に開催して全人代で決める政府機関の人事などを決める党の会議ですが、1月の開催は通常より早いタイミングでの開催です。2018年は春節(旧正月)元旦が2月16日なので、単に春節休みを避けるために1月に開催するだけなのかもしれませんが、おそらく二中全会は周小川氏の後任人事も含めて習近平政権第二期の中国政府の主要人事が決まる会議なので、非常に注目される会議になると思います。

 「ポスト周小川の人事」は、2018年の世界経済にとって、もしかするとアメリカFRBの人事や日銀総裁の人事より重要な意味を持つことになるかもしれません。

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2017年12月23日 (土)

中国で不動産税の議論が本格化か

 12月20日(水)に中国の中央経済工作会議が終わりました。ポイントは、「今後三年間、重大なリスクの緩和・解消、貧困脱出の推進、汚染防止の三つの戦いを推し進める」ということでした。この三つは、先に開かれた中国共産党政治局会議で打ち出されていたものを、中央経済工作会議で正式に決めた、と言えるでしょう。

 先に政治局会議で議論されていた三つの課題に関して、中央経済工作会議において「今後三年間」という接頭語が付いたことについては、以下の三つの観点があると思います。

○金融リスクの緩和・解消は短期間で実行できるものではなく、三年間掛けてじっくり取り組むべき重要な課題であることを党中央も認識している点を評価すべきだ。

○金融リスクの緩和・解消は非常に重要な課題だが急速に進めると様々な問題が生じるので三年掛けてゆっくり進めよう、ということで、急激な引き締めは避けよう、という意図が見えるので、中国経済の急激な変化はなさそうだ。一方、11月22日付け「人民日報」に掲載された中国人民銀行周小川氏の論文(このブログの2017年11月25日付け記事「『人民日報』掲載の周小川中国人民銀行総裁の論文」参照)に示された「危機感」に比して「三年間でじっくり取り組む」との今回の方針は危機感が甘いのではないか、との見方もあり得る(中国の株式市場の反応等を見ていると、「急激な引き締めはない」と見たマーケットの多くの関係者の一種の「安心感」が見て取れます)。

○次の党大会(2022年)までの5年間のうち、最初の三年間は金融リスクの緩和・解消の重点期間なので露骨な投機は避けた方が良さそうだ。しかし、次の五年間のうちの三年経過した後の次の党大会直前の二年間は「金融リスクの緩和・解消」よりも経済成長優先路線になるだろうから、「ウハウハ投機」はその時になったら再開させればよいので、それまではおとなしくしておこう(「投機筋」の中にはこうした受け取り方をする「筋」もあるかもしれませんが、「三年間おとなしくする」方針は、その間、金利があまり上がらない前提ならばいいのですが、今後金利が上昇する場合にはおとなしくしている間収益が上がらない一方で金利負担が増すので大量の借金を抱えた「投機筋」が保有する資産の投げ売りに出る可能性があるので要注意です)。

 今回の中央工作会議の議論には出てきていないのですが、「不動産税」(マンション等の不動産資産に対して掛ける財産税)は今後の中国の経済政策の中で重要な課題になりそうです。というのは、今回の中央経済工作会議の最終日の2017年12月20日付け「人民日報」7面に財政部長の肖捷氏が「現代的な財政制度の確立を加速させなければならない(第19回党大会の精神を真剣に学習し宣伝し貫徹しよう)」と題する寄稿文を載せており、その中で「不動産税の立法、個人所得税改革、健全な地方税体系の改革の作業を穏やかに推進しなければならない」と述べているからです。

 この寄稿文では、不動産税についてことさらに強調しているわけではないのですが、マンション市場では関心が高かったと見えて、「人民日報」ホームページ内にある「財経チャンネル」の中の「房産(不動産資産)チャンネル」には、この肖捷財政部長の寄稿文に対する解説記事が多く掲載されていました。

 このページで私が閲覧した記事のうち2017年12月21日付けの「証券日報」の記事に「将来の不動産税は評価価値に応じて徴収され、既存の保有マンションに対しも課税される」というのがありました。この解説記事では、実際の不動産税の施行においては、解決すべき様々な問題点がある、と指摘しています。この記事で指摘している点を私なりの解説を加えて記すと以下のとおりです。

○不動産税は所有者が明記された不動産登記に基づいて徴収される必要があり、不動産登記制度の確立が必須である。

○不動産税は、課税評価額に対して課税されることになるが過去に取得されたマンションに対しても課税されることは明らかである。そのためには各都市において既存のマンションに対する評価体系を確立する必要がある(これに関して、この記事では、現在、マンション価格抑制のために多くの都市で「指導価格」が示されているが、実際の取引価格との価格差がかなりあり、「一物一価」の評価方法はいまだに確立されていない、との不動産専門家の意見が示されている)。

○不動産税導入のタイミングについても、全国一律に導入するのではなく、各都市がそれぞれの状況に応じて導入した方がよい(例えばマンション価格が高騰している都市では早期に導入し、マンション在庫が多い中小都市(中国語で「三、四線城市」)では導入を遅らせる、など)との議論がある(注:日本の場合「法の下の平等」という憲法上の大原則があるので、同種の税金について場所によって導入時期を変える、というやり方はハードルが高いが、中国の場合「法の下の平等」という概念は非常にゆるいので(実際、都市部と農村部では人々が持っている権利がかなり違う)、場所によって不動産税の導入時期を変える、というやり方には抵抗はないと思われる。ただし、地域によって不動産税の導入時期を変えた場合、投機資金によるマンション購入が不動産税のない地域に集中する、といった問題が生じる可能性はある)。

 この記事では、2000年頃、中国で最初のマンション・ブームが起きた頃、不動産税の導入が議論になった時期があり、上海や重慶などで不動産税の試験的導入が行われたことがあったが、これら試験導入についていまだに結果が出されていないことを指摘して、不動産税の導入は簡単ではないことを指摘しています。

 また、この記事では、不動産業界内の声として、今後不動産税制度の確立が加速される可能性が認識されており、2019年に法律上の制度が確立し、2020年に「税収に関する基本原則」が目指される、との見方が出ていることを紹介しています。しかし、法律制度の確立が即徴税の実施に繋がるかどうかはわからず、不動産税導入の動きを見極める必要がある、とも指摘しています。

 財政部長が「人民日報」に寄稿した文章の中で不動産税の立法について言及したことの意味は小さくないと思いますが、上に書いたように、業界内では「立法は2019年、徴税方法の詳細が決まるのは2020年、その上、実際の徴税は法制度確立後すぐになされるかどうかは不明」といった見方がある以上、実際に不動産税が課税されることになるのはかなり先で、現在の不動産税立法へ向けての議論が今すぐ中国のマンション市場に影響を与えることはなさそうです。ただ、現時点で、既に中国のマンション市場はバブル化している(実際の住むための価値に比べて売買価格がかなり高い水準まで高騰してしまっている)と考えられるため、不動産税導入の議論は、今後の金利動向の変化とも相まって、今後の中国のマンション市場、ひいては中国経済全体に大きな影響を与える可能性があるので、引き続き注目していく必要があると思います。

 なお、12月13日のアメリカのFOMC(連邦公開市場委員会)による5回目の利上げ決定後、ドイツ国債やアメリカ10年物国債の金利が上昇傾向にあります。これらの金利上昇が長続きするかどうかはわかりませんが、ここ数日、「人民日報」ホームページ「財経チャンネル」から入れる「人民信金融」で販売されている「理財商品」の中に「特恵」と称して「償還期限333日、金利7.2%」というのが登場しました。「人民信金融」のページができたのは今年(2017年)7月ですが金利7%を越える理財商品を見たのは私は初めてです。

 12月14日、中国人民銀行はアメリカFOMCでの利上げ決定を受けて、定例オペ(公開市場操作)を行う際のリバースレポ金利を0.05%引き上げました。これを伝えるロイターの記事では「5ベーシスポイント(0.05%)は引き上げ幅としては小さく、象徴的意味合いが強い」とする専門家の意見を紹介していますが、もしこうした金利動向を受けて、従来7%だった理財商品の金利が7.2%に上がったのだとしたら(0.2%の金利上昇は小さくないので)、それは「象徴的意味合い」ではなく「実体的な金利引き上げ効果が出る」ことを意味します。もし、今後、中国国内の実質的金利が上昇傾向を描くとすると、債務レバレッジが高い(=借金して買ったマンションを担保にして銀行から金を借りてさらに高いマンションを買っているような状態の)中国のマンション市場に大きな影響が出る可能性があります。

 日本時間今朝(2017年12月23日)、上院・下院を通過した減税法案についてトランプ大統領が署名し、法案は成立しました。現在、アメリカ経済は順調ですが、IMFのラガルド専務理事などは「天気がよい時にこそ、次の雨に備えて屋根の修理をすべきだ」と主張しているのですが、政治の世界では「天気がよいのだから、今こそどんちゃん騒ぎすべきだ」との考え方も強いようです。最近のアメリカの政策を見ていると、中国に対して「経済がそれなりにうまく行っている今こそ債務レバレッジ改革や国有企業改革を急いでやるべきだ」と強く言う元気がなくなってしまうのですが、今回の中国の中央経済工作会議で決まった「三年で金融リスクの緩和・解消を図る」という方針について「危機感に対する感覚がぬるい」と考えるか、「急がずにじっくり取り組むという姿勢は評価できる」という考え方の方が正しいのか、私には今のところ判断ができません。

 すくなくとも西暦で下一桁に「7」の付く年には経済危機が訪れる、と言われた2017年はひとまず平穏に終わりそうですので、来年もこのまま「平穏な時期」が続いて欲しいものです。

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2017年12月16日 (土)

中国のアキレス腱はトップと末端の問題意識の差

 最近の日本の報道によると、冬季の北京での大気汚染を改善させるため、中国政府は北京周辺においてエネルギー源の石炭から天然ガスへの転換を強力に進めているそうです。その際、石炭の使用を禁止する一方、天然ガス設備の普及が間に合わず、季節は既に冬に入っているのに十分な暖房を使えない住民から不満が出ている、とのことでした。「中国ならばありそうなこと」だとは言えますが、この話は現在の中国社会のアキレス腱と見られる部分を端的に表したものだと言えますので、今回取り上げてみました。

 過去にも北京地区の大気汚染を改善させるため、周辺地域での工場生産や工事の中止を行ったことは何回もありました。2008年の北京オリンピックの時もそうでしたし、2014年11月のAPEC首脳会談や2015年9月の「抗ファシスト戦勝利70周年記念軍事パレード」の時もそうでした。大気汚染で有名な北京もその時は一時的に青空がよみがえったのですが、そうした青空はAPECの時は「APECブルー」、軍事パレードの時は「閲兵ブルー」などとネットでは皮肉を込めて呼ばれたものでした。

 これらの強圧的な権力発動による工場や工事の休止は、そもそもこれらの「青空作り」の目的が北京で開かれる国際的イベントにおいて北京に青空を作り出して中国国家指導部のメンツを保つ、ということにあったのですから、これらの時は「一般人民から不満が出ても構わない」という姿勢でよかったと思います。しかし、この冬、第19回中国共産党大会が終わった後の冬において北京に青空をもたらそうとする中国共産党指導部の考えは「人民に共産党大会の成果を実感してもらい、政権に対する支持を盛り上げるため」であったはずです。しかし、結果的に強圧的に石炭から天然ガスへの切り替えを強行したため、多くの住民から反発を受けることになりました。これは、政策を実行する末端組織の行政執行者が今回の政策の目的が「人民からの支持を得るため」であることを全く理解しておらず、単に上から言われたことを忠実に実行することしか頭になかったことが原因であったと考えられます。

 政府機関にしろ会社にしろ、すべからく組織運営においては、トップダウンのやり方とボトムアップのやり方があります。トップダウン方式は、急激に変化する周辺情勢に迅速に対応する場合には有利ですし、時間を掛けることが許される状況においてはボトムアップ方式の方が組織がうまく機能するという考え方もあります。トップダウン方式とボトムアップ方式は、その組織の目的やその時に置かれた周辺状況(周囲の変化が速いかどうか等)によって有利な面と不利な面が異なってくるので、どちらがよいかは一概には言えません。

 会社組織におけるボトムアップ方式の例としては、よくトヨタの「カイゼン」や日本の新幹線での車内清掃チームが引き合いに出されます。自動車メーカーなら「コストダウンと生産性の向上」、新幹線の清掃チームなら「乗客の満足のいく清掃をした上での列車の定時運行」という最終目的を現場のチームがよく理解しており、具体的にどうやるかは現場に任され、現場レベルで様々な創意工夫がなされることが許されるシステムになっています。こういったボトムアップ方式においては、末端の作業員たちは会社が求める最終目的を自分たちでよく理解していて、それを実現して会社の業績を向上させている原動力は自分たちにあるのだ、という矜恃(ほこり)を持って仕事をしているので、おのずと士気は上がり、結果として会社の業績は向上します。給料を上げるだけが現場の従業員の士気を上げて会社の業績を上げる方法ではない、という一つの例として、こうした日本企業のやり方は外国の企業でも参考にしているところは多いと思います。

 トップダウン方式とボトムアップ方式の利害得失は、中国の人もよくわかっています。実際、中国の本屋さんでは、松下幸之助や土光敏夫といった日本の優れた経営者に関した本をよく見かけますし、そうした本を読んで非常に参考になった、と語る現在の中国企業のトップも数多くいます。そもそも1980年代のトウ小平氏の改革開放路線は、毛沢東時代のトップダウン方式の問題点と限界の反省の上に立ち、一定量の生産を越える部分については農家の自由裁量に任せるという「請負生産制」を基盤するボトムアップ方式を一部取り入れた路線だったと言えると思います。

 そもそも毛沢東の中国共産主義革命自体、一部の革命家が上から押しつける革命ではなく、一般の農民が下から積み上げて革命を成し遂げていく、というボトムアップ方式を基本とするものでした。しかし、中国共産党が権力を握り、カリスマ的なリーダーである毛沢東がトップに立って以降、いつしかトップダウン方式が中国共産党の中に染みついてしまったのです。

 ボトムアップ方式は、末端の担当者自身がいろいろ作業の改善について創意工夫をし、それを上部組織に提案していく、という方式ですから、政治的場面に置き換えると民主主義制度の考え方です。今の中国の政治システムでも、中国共産党内部での党内民主主義が機能していれば、「党の指導」というトップダウン方式を基本としつつ、末端の意見で制度を変えることができるというボトムアップ方式の実行も可能だと思います。しかし、習近平政権は、「トップダウンの強化」のみを推し進めており、今の中国社会ではボトムアップ方式のシステムは機能しなくなりつつあるように思います。

 今回の「石炭から天然ガスへの切り替え」において住民を凍えさせる結果になっている現状は、それを端的に表しています。今の中国では「トップダウンの強化」のみが推し進められているため、末端が全体の問題がどこにあるのか認識しようとせず、単に上から言われたことを実行すればよい、とだけ考えているので、末端で生じた問題点が上部に報告されず、結果的に施策がうまく進まない状況を生み出しているように見えます。

 現在の中国の経済状況にこの問題点を当てはめてみると、党中央などのトップレベルにおいては、債務レバレッジが過大になっていることのリスクを認識し、それを改善しようという問題意識は強いのですが、地方政府や企業、一般人民にそうした意識は低く、単に「政府が決めた規則を守ればよい(規則に違反しないようにすれば借金を増やしても構わない)」という意識が蔓延しているのではないかと思います。そうであるならば、トップでいくら強力な債務レバレッジ抑制策を打ち出したとしても、あまり効果は上がらず、結局は中国全体でバブルがはじけるところまで突っ走っていってしまう危険性があります。

 以前からこのブログで指摘していますが、今、党中央では、理財商品のリスクについて相当慎重に対応しようとしているところだと思いますが、一方で「人民日報」のホームページ内には理財商品を売るサイトが存在しています。おそらくは中国共産党宣伝部の直下のお膝元の組織であるはずの人民日報社の内部ですら理財商品のリスクに関する問題意識が共有されていないからだと思います。であれば、地方政府などは「党中央の金融リスクに対する問題意識などどこ吹く風」の状態にあるのではないかと推測されます。

 今、日本の大企業で相次ぐ不祥事に関して、会社トップと末端の現場との風通しの悪さ、が指摘されています。おそらく中国共産党内部におけるトップと末端との風通しの悪さは、相当程度に深刻なのではないかと私は危惧しています。

 1987年2月、私は春節の休みを利用して海南島に旅行に行きました。海南島最南端の三亜では、当時開業したばかりの西欧式のホテルに泊まりましたが、ホテルの庭園やロビーには、ベトナムや中国南部でよく見られる三角帽を被った地元の人たちがウロウロと「見学」に来ていました。ホテルの利用料金は彼ら農民にはとても支払えないほど高額だったのですが、おそらくは「お金の払えない地元農民は立ち入り禁止」にすると、ホテルがまるで解放前の中国の「租界」のように外国人専用地域になってしまうので、それはまずい、という当時の地元政府の判断で「地元人民はホテル内の見学自由」にしたのだと思います。私はそこから「西欧式ホテルを建設して外国人観光客を誘致することは経済発展のために重要だが、それと同時に大多数の人民の不満を高めないようすることも非常に重要」と考える当時の地方政府の意図を感じたのでした。おそらくはこの考え方は党中央と合致してたと思います。

 2007年に二度目の北京駐在をした経験として感じたことは、中国は1980年代に比べて「トップダウン」が強化され下部からの意見を吸い上げる能力が衰えている一方で、下部組織は上部組織の目を盗んで勝手なことをやるようになった、というイメージです。2008年に訪れた寧夏回族自治区では、砂漠化防止のため、地元住民に対して羊の放牧が禁止されており、羊の放牧で暮らしていた人々には定住するための住宅が与えられ、黄河の水を汲み上げてトウモロコシの栽培を行う灌漑施設ができていました。砂漠化の防止と経済発展のためには必要な措置なのかもしれませんが、放牧民たちの意見を聞いたのか、非常に疑問の残る政策でした。

 上記の私の1987年と2008年の二つの経験は、毛沢東時代の「トップダウンと上からの政策の押しつけ」の反省の上に立って一般人民の不満を高めないように気を配っていた1980年代の中国と再び毛沢東時代に戻るかのように上から政策を押しつける(末端の意見を聞く耳を持たない)現代の中国の違いを象徴しているように思えます。

 イギリスのEU離脱やアメリカでのトランプ大統領など民主主義の危機とも思える現代ですが、別の見方をすれば、これらの動きは従来の政治が置き去りにしてきた人たちからの強烈なフィードバックだと言えます。民主主義の国々では、今後、従来置き去りにされてきた人々に対して配慮する政策が重要になるでしょう。中国の政治にはこうしたフィードバック・システムがないので、政治のトップと末端組織との問題意識のギャップは、是正されることなく、問題が解決されないまま蓄積していくことが、今の中国の最も深刻なリスクだと私は思います。

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2017年12月 9日 (土)

2018年も「不動産バブル対策」が中国経済政策の大きな柱

 毎年の例からすると、中国ではもうすぐ(12月中旬頃)翌年の経済政策を議論する中央経済工作会議が開かれます。去年(2016年)は「不動産バブルのリスクの防止」が議論の大きな柱のひとつでしたが、今年もこれが重要な議題になると思われます(このブログの2016年12月18日付け記事「中国不動産バブルに関する中央経済工作会議の議論」参照)。

 昨日(2017年12月8日)、中国共産党は政治局会議を開催し、経済政策について議論しました。これは中央経済工作会議を前にして、政治局内で経済政策を議論するためのものだったと思われます。日本の新聞等でも報道されていますが、今回の中国共産党政治局会議で議論された当面の経済政策の柱は次の三つです。

○重大なリスクを防止するために、マクロなレバレッジ率を有効にコントロールし、金融サービスの実体経済に寄与する能力を増強し、リスク防止施策を積極的に行い効果を上げること。

○貧困層が貧困から脱出できるようさらに貧困地区に対する政策に力を入れ、貧困補助の成果を確固たるものにし、貧困脱出の実質を向上させること。

○主な汚染物質の排出総量を継続して明確に減少させ、生態環境の状況を総体的に改善すること。

 債務レバレッジ率のコントロールを最初に掲げていることから、習近平政権は2018年は成長重視よりも、経済の質を重視する路線を進めるだろう、と指摘する報道が目立っているようです。

 具体的な2018年の中国の経済政策の基本方針は、中央経済工作会議の後に発表されると思いますが、それを前にして興味ある報道がいくつかありましたので紹介します。

☆中国社会科学院は、12月5日「中国住宅発展報告(2017-2018)」をとりまとめ公表した。

 このレポートでは、重大な政策上のインパクトがないという条件の下、2018年の中国のマンション市場は、総体的には上昇基調は終わりに近づき、今後の一年は、新しい調整と価格下落期に入る、と指摘しています。また、このレポートでは、2018年に「不動産税」導入の立法過程について明確なタイムスケジュールを示すべきこと、住宅家賃に関する個人所得税政策を実行することを提案しています(今、中国政府は「投機目的の購入」よりも「住むこと」を重視するため、賃貸住宅の増加を重要な政策課題にしています)。

 「不動産税」に関しては、この中国社会科学院のレポートについて報じていた12月6日付け「北京商報」の記事「社会科学院、2018年に不動産税の立法スケジュールを立てることを建議」(「人民日報」ホームページ「財経チャンネル」内の「房産チャンネル」で閲覧)の中で、元国家税務局副局長が以下の課題を紹介していました。

・もし「不動産税」を「財産税」と見るならば、「土地は国有である」という我が国の現行の土地政策において個人から「土地財産税」は徴収できない、という方針に反することになる。

・もし「不動産税」を「使用税」として捉えるならば、個人は既に土地使用料70年分を支払って土地使用権を取得しているのであるから、税金の徴収は同じ土地使用権に対して二重にお金を支払わせることになる。

(注)中国の土地は全て公有(国有または地方政府の所有)。個人がマンションを購入する場合には「建物」と「土地使用権70年分」を購入することになる。

 この元国家税務局副局長は、不動産税の案を作るためには、まず法律と現行制度の不一致問題を解決する必要がある、と直言しています(記事でも中国語で「直言」と表現している)。

 この記事では、国務院が「中華人民共和国不動産税暫定条例」を1986年9月に発布していることも指摘しています。上の指摘にあるように「不動産税」は、「土地政策」という中国における共産主義の基本理念に関係する部分ですので、制定・実施されるまでにはかなりの議論が必要なのではないかと私は思います。

 問題は、こうした「不動産税」を巡る議論が新聞等に掲載されることによって、既にマンションを所有している人、これからマンションを買おうと思っている人がどのように行動するか、だと思います。不動産税を巡る議論は、課税する金額や条件等にもよりますが、ヘタをすると広範な「マンション買い控え」の現象を起こす可能性もあるので、要注意です。

☆12月4日付け「人民日報」7面に中国社会科学院学部委員の張海鵬氏が「貨幣金融史から知恵を汲み取る」と題する論文を書いている。

 この論文では、清朝末期、外国の銀が大量に中国に流入すると同時に、外国銀行が発行した紙幣も大量に流通していたため、清朝政府は金融市場を管理することができなかったことを指摘しています(1910年の時点で中国市場に流通していた通貨量は25億元だったが、そのうち外国銀貨が11億元、外国紙幣が3億元で中国の全通貨流通量の56%を占めていた由)。また、1948年頃(国共内戦期)、国民党は人心を失いつつあっただけでなく、支配地域が縮小して物資産出量が減る中で貨幣の発行は大量に増加したため、ハイパーインフレが起きたことも指摘しています。そして、1997年のアジア金融危機も2008年のアメリカのサブ・プライム・ローンに起因する金融危機も、みな貨幣と金融の領域におけるアンバランスが表面化したものであることを指摘しています。

 よくある「歴史に学ぼう」という学者の論文に過ぎない、という見方もあるでしょうが、私はこの時期に(中央経済工作会議の直前の時期に)こうした論文が「人民日報」に掲載されたことは、党中央の一定の「意志」が働いているのではないかと思っています。例えば理財商品で債務不履行危機が起きた時、「中国人民銀行が買い支えれば問題ない」とする安易な考え方に対して、過去の歴史に学ぶならば、無秩序な貨幣量の増加には、金融市場をコントロールできなくさせたりハイパー・インフレを起こしたりするリスクがある、と警告を発する意味がこの論文にはあるのではないか、と私は考えているのです。

(注)なお、国民党との内戦の時期、中華人民共和国成立前の1948年12月に中国人民銀行が設立され、中国共産党が支配する解放区では「人民元」が発行されていました。「人民元」は、ヒエ・アワなど実際に人民が必要とする物と兌換されたため国民党が発行する紙幣よりも人民の信用を得ていった、とされています。このように金融政策は政権誕生当初から人心掌握のカギとして極めて重要であることが共産党政権内で認識されていたと私は考えています。

☆商業用土地開発プロジェクトの今後

 私が前から気になっていたのは、国家統計局が発表した今年(2017年)7-9月期の不動産販売額の内訳が住宅11.4%増、オフィスビル25.5%増、商業営業用不動産31.8%増と、商業営業用不動産の伸び率が高すぎる数字だったことです。おそらく中央政府の「マンション・バブル対策」でマンション販売をあまり伸ばせない中、多くの地方政府がオフィス・ビルや商業用不動産向けの土地売却を進めたからではないかと思います。

 急速な経済成長の中、中国のオフィス・ビル需要は今後とも伸びると思いますが、インターネット販売が急速に増えている現在、商業用土地の需要は本当に土地が販売されているほどに伸びているのか非常に疑問であると私は思っていました。そうしたら、今朝見た記事に次のようなものがありました。

・12月9日付け「北京日報」記事「伝統的な百貨店は敗走しオフィスビルの『穴埋め』の位置を占めている 北京都市部では『商業用をオフィス用に代える』の潮流がだんだん形成されつつある」(「人民日報」ホームページ内「財経チャンネル」内「房産チャンネル」で閲覧)。

 私が駐在していた2007~2009年の時点ですら、北京の大型デパート・ビルは「作りすぎ」の状態でした。王府井のように立地のよいところにはお客が大勢いましたが、長安街や第二環状路、第三環状路沿いでも「お客が少なくて商売成り立ってるのかな」と疑問に思うような大型商業施設が結構数多くありました。今、中国の消費は急速に伸びていますが、中国のインターネット通販の成長にはめざましいものがあり「リアル店舗がネット通販に圧倒されつつある」というアメリカや日本で起きている状況が中国では起きていないとは考えられません(アメリカでは、今年(2017年)のリアル店舗の閉店数はリーマン・ショック翌年の2009年より多いのだそうです)。「マンション・バブル」にばかり目を奪われていると、そのうちに「商業用土地バブル」の問題が中国で表面化してくる可能性があるのではないか、と私は心配しています。

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 いずれにせよ、中国共産党政権自身が「土地問題」「債務レバレッジ問題」を重要課題として最重要視していることは、ひとつの「安心材料」ではあります。

 11月末に行われた中国共産党政治局会議には、李克強総理は外国訪問中で不参加だったのですが、議題は「中国共産党内部の政策決定プロセスの公開について」でした。今回の(12月8日の)政治局会議には李克強氏はきちんと参加しています。私は、共産党大会後、習近平氏への権力集中が一気に進んで、李克強氏はますます影が薄くなるのではないか、と心配していたのですが、そういうこともなく、習近平氏は、経済政策については、ちゃんと周囲の人たちの意見を聴きながら進めようとしているようです(党内政策決定プロセスの公開問題は、中国共産党内部の党内民主の観点で非常に重要な課題です)。

 12月5日付け日本経済新聞朝刊8面記事「中国、地方も『成長第一』修正」では、中国の31の省・直轄市・自治区の3分の2にあたる20地区で1月~9月のGDPの実質成長率が1~6月より減速しているが、これは地方政府によるGDPの「水増し」を是正したからではないか、と指摘していました。このように習近平政権が地方政府による勝手な動きを許さず、まじめに経済政策に取り組もうとしている姿勢は評価できると思います(「正直な数字」が出てくるようになって、「とんでもない数字」が突然発表されるのではないか、とちょっと恐い、という気持ちもありますが)。

 今、10月の党大会後の経済実態を表す経済統計が次々発表されるタイミングになってきています。12月8日に発表された2017年11月の中国の貿易統計(貿易相手国の統計発表もあるので、あまり「ごまかし」はできないと言われている)では、今のところ中国経済の減速は見られていないようです。これから発表される各種の中国経済データで、現状がどうなっているのかしっかり見ていく必要があると思います。

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2017年12月 2日 (土)

中国の地方政府に見る「からっぽの箱から借金する」という現実

 11月24日(金)付け日本経済新聞朝刊7面に「中国、開発中断広がる 地方のインフラ事業1000件 党大会後 財政悪化を警戒」という記事が載っていました。中国の地方政府が民間資金を活用したプロジェクト(いわゆるPPP(官民パートナーシップ・プロジェクト))などのうち採算性に疑問符が付くものについて、地方政府の財政悪化を懸念して、中央政府がストップを掛ける例が出てきている点を指摘した記事です。この記事では、内モンゴル自治区包頭(パオトウ)市の地下鉄整備事業(総工費300億円(約5,100億円))の工事が8月に中断している例を紹介しています。

 これはおそらく私がこのブログの今年8月19日付けの記事「中国のインフラ投資とPPPと社債との関係」で紹介した地方政府が行うPPPの管理監督強化に関する中国国家発展改革委員会の通知が実際に適用された例なのだと思います。

 この地方政府プロジェクトが多数中止されている件については、昨日(2017年12月1日(金))に放送されたテレビ東京「Newsモーニング・サテライト」の「中国NowCast」のコーナーでも紹介されていました。このコーナーで、野村証券の郭穎氏は、地方政府がプロジェクトに資金を提供する会社に元本保証、金利保証を行っていて、このプロジェクトの資金が地方政府の実質的な隠れ債務になっていることについて指摘していました。

 もともと中国政府が2014年頃からPPP方式を奨励していたのは、それまで地方債の発行が認められていなかった地方政府が「融資平台」(日本でいう第三セクターのようなもの)を設立してそこを経由して借金をしてプロジェクトを実施してきた問題があったからです。「民間資金を活用する」という名目のPPP方式で、参画する企業の資金提供者に対して地方政府が元本保証、金利保証をしているのなら、地方政府が借金のリスクを背負っていることになり、全く問題の解決にはなっていません。中国ではよく「政府に政策があれば、我々には対策がある」と言われますが、これは「政府対一般大衆」の関係だけでなく「中央政府対地方政府」の関係でもあてはまることがよくわかります。

 この問題は、中国経済の一部は、実際は資金供給能力のないからっぽの箱からの借金を使って実施されているプロジェクト、いわば蜃気楼(しんきろう)のようなものから成り立っていることを表していると言えます。

 そもそも中国の地方政府は、税収よりも支出が多いので、財政のかなりの割合を農民等から接収した土地を開発業者に売却することによって得られる土地売却収入に頼っています(中国の農地は農民の所有ではなく、農地の土地所有権は地方政府にあるので、農民に一定額の補償金を支払えば、「土地使用権」の接収が可能)。開発業者が地方政府に支払う土地使用権買収代金を銀行から借りた場合、取得した土地を使って採算性のあるプロジェクトが実施できれば、将来得られる収益で銀行から借りた資金は返済することができます。しかし計画通りに収益が得られなければ、銀行への借金返済はできなくなります。プロジェクトの採算性に疑問符が付くとの理由で銀行が土地開発業者に対する融資を嫌がれば、土地が売れなくて財政収入が得られなくなって地方政府が困ってしまうので、地方政府は、銀行に対して、土地開発業者に対する融資について元本保証や金利保証を行うのでしょう。

 で、問題は元本保証や金利保証を行った地方政府にその保証を履行する能力があるのか、という点です。地方政府は、もともと土地売却に頼らなければならないほどに税収が少ないのですから、元本保証や金利保証を行うのに必要な資金的能力はないはずです。もしかすると、地方政府は、開発プロジェクトが頓挫して、元本保証や金利保証をした銀行に対して支払いの必要が生じた場合、また別の土地を別の開発業者に売ればいいや、と考えているのかもしれません。しかし、土地は無限にあるわけではありませんし、「別の土地」を活用したプロジェクトが成功するかどうかの保証はないわけですから、地方政府による「元本保証」「金利保証」は「中身のないからっぽの箱から出された手形」と言わざるを得ません。通常、資本主義国の銀行ならば、「怪しげな土地開発業者」や「資金返済能力が怪しい地方政府」がからむプロジェクトに対しての融資話は断るでしょう。しかし、「中国共産党による指導」の下にある中国の国有銀行の場合、「中国共産党の地方支部」とも言える中国の地方政府から「元本保証、金利保証をするから金を貸してやってくれ」と言われたら、たぶん断れないのでしょう。

 中国経済の全て、とは言いませんが、一定程度の一部分(特に地方政府が実施している開発プロジェクトのかなりの部分)は、こうした「からっぽの箱から得た借金」で成り立っているものと思われます。「からっぽの箱から得た借金」で成り立っている経済(人はこれを「バブル経済」と呼ぶのでしょう)は、経済全体が金利と同程度かそれ以上のスピードで成長し続けている間は、見かけ上は問題は生じません。足りない資金は新しく借金することで調達可能だからです(「金利<成長スピード」なので、将来の収益で金利分も含めて返済できる)。しかし、成長のスピードが金利より低くなった場合、または参加しているプレーヤーの誰かが「金返せ」と主張したり「貸し渋り」が発生した時点で、一切が一遍に崩壊します(経済学者はこのタイミングを「ミンスキー・モーメント」と呼ぶようです)。

 冒頭に紹介した日本経済新聞の記事にある中国中央政府による1,000件もの地方インフラ事業の中断は、そうした事態に至らないよう、中国中央政府が傷が小さいうちにストップを掛けたもの、という点で評価できると思います。しかし「傷が小さい」と書きましたが、1,000件という数と記事が紹介しているパオトウ市地下鉄プロジェクトのように一件の工事総額が5,100億円にも上るものがあることを考えると、実際は「『傷が小さい』と軽くは言えない程度に大きい」可能性があります。プロジェクトの中止により、予定されていた鉄、セメントなどの資材供給が不要になったり、工事に参加していた労働者たちの雇用が不安定になったりするなど、工事中断によるマイナスの影響が小さくない可能性があるからです。

 また、中央政府が1,000件もの地方政府のプロジェクトを中止させたことにより、同じようなことをしようと考えていた地方政府が検討中だったプロジェクトの計画を取りやめたり、銀行がこの手のプロジェクトに対する融資を控えたりすることになるかもしれません。そうなると、地方政府は財政収入の手段を失うことになり、銀行も対象業務の一部を失うことになります。それが中国経済全体に及べば、経済の減速をもたらす可能性があります。

 中国では、毎年12月に翌年の経済政策の重要な方針を議論する中央経済工作会議が開かれます。今年そこでどのような政策方針が打ち出されるのか、と、実際の中国経済の状況(最新の統計データ及び中国でビジネスを行っている各企業からの情報)を注意深く見守って行く必要があると思います。

 10年前、私が北京に駐在していた頃、オリンピックを前にして「市民の利便性に配慮する」という理由で北京地下鉄の料金がそれまでの3元から2元に突然値下げになりました。また、2008年7月に開通した北京地下鉄空港線では、料金が25元に設定されましたが、その理由は「バスとタクシーの料金を考慮して決めた」とのことでした(バスよりは高く、タクシーよりは安く設定した、ということ)。これを聞いて私は「中国のインフラ・プロジェクトは基本的に採算性は全く考えていないんだ」と思ったものでした。「全く考えていない」というのは言い過ぎだと思いますが、中国ではインフラ事業の収益の重要な柱である公共料金は、政治的理由で決定され、そのプロジェクトの採算性はあまり問題視されないようです。また、そのプロジェクトが「赤字垂れ流し」であっても、新聞が批判することはありませんし、赤字のプロジェクトを進めた地方政府幹部が選挙で落ちる心配もありません。

 上に書いたような私が見聞きした範囲からすると、中国の地方政府が実施するインフラ・プロジェクトは、地下鉄や高速道路等本来は収益性が重要な案件についても、ほどんど全てが赤字なのではないか、と私は想像しています。そう考えると、上記の記事で紹介している中央政府が中断させた1,000件ものインフラ事業以外にも、「借金を返せない地方政府のインフラ事業」は、中国全土に数え切れないほど存在していると思います。日本も「借金大国」ですが、日本の借金は「額がどれくらいで、誰が誰から借りているか」がハッキリしているのに対し、中国の借金は「金額」「誰が誰から借りているか」がよくわかりません。それだけに、中国の借金は、一度不安が芽生え始めると「疑心暗鬼」が自己増殖する可能性があることには注意が必要だと思います(中国人民は「中国共産党が何とかしてくれるから心配しない」と思っていたとしても、外国の投資家の間に「疑心暗鬼」が広がると、中国から外国資金の急速な引き上げが起こる可能性があります)。

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2017年11月25日 (土)

「人民日報」掲載の周小川中国人民銀行総裁の論文

 「人民日報」2017年11月22日付けの6面に周小川中国人民銀行総裁による「システミック金融リスクを発生させないという最低ラインを守る」と題する論文が掲載されていました。私はこの論文は中国経済の現状と今後の政策の方向性を示唆する非常に重要な論文だと思うのですが、日本の新聞やネット等ではその内容が余り報じられていないようですので、紹介してみたいと思います。

 副題に「第19回党大会の精神を真剣に学習し、伝え広め、貫徹しよう」とありますので、中国共産党大会関連のあくびの出るような宣伝論文のようにも見えてしまうのですが、これは「党中央の意向に沿って書いているのだぞ」と強調するための「添え字」であって、論文の中身は極めて率直かつ真剣で、私にはもうすぐ退任する予定の周小川氏が抱いている「危機感」を感じさせる非常に中身の濃いものであると思えます。

(この論文は、このブログの先週の記事で指摘した11月14日(火)付日本経済新聞朝刊21面の「一目均衡」というコラムで証券部の土居倫之記者が言及している11月4日に出されたという周小川氏のメッセージと内容は同じものである可能性があります。ただし、上記の日経のコラムでは周小川氏のメッセージの内容自体は詳しくは紹介されていません)。

--2017年11月22日付け「人民日報」6面「システミック金融リスクを発生させないという最低ラインを守る」(周小川中国人民銀行総裁)のポイント--

○システミック金融リスクを防ぐことは金融の改革と開放を加速させることに依存している。

○システミック金融リスクの発生を防止することは金融政策の永遠の課題である。

・まず我が国が直面する金融リスクを正確に判断する必要がある。総体的に見て我が国の金融情勢は良好だが、当面及び今後の一時期、我が国の金融領域には発生しやすいリスクが存在している。内外の多重的な要因による圧力の下、リスクは幅広く存在し、隠蔽され、複雑で、突発し、伝染し、危害を与えるという特徴を有している。構造的バランス失調の問題は突出しており、違法・規則違反はいくつも発生し、潜在的リスクと隠れた病巣は蓄積されつつあり、脆弱性は明確に上昇している。「ブラックスワン」の発生を防止することはもちろん、「灰色のサイ」のリスクの発生も防止しなければならない。

(注)「ブラックスワン」と「灰色のサイ」については、このブログの先週(2017年11月18日付け)記事「あの手この手の中国マンション政策」を参照のこと。

・マクロ面の金融から見れば、高いレバレッジ率と流動性のリスクがある。2016年末、我が国のマクロのレバレッジ率は247%であり、そのうち中小企業部門のレバレッジ率は165%に達しており、これは国際的な警戒ラインより高い。一部の国有企業の債務リスクは突出しており、「ゾンビ企業」の市場からの退出は緩慢である。一部の地方政府では「名目上は株だが実際は債券」といった類のものやサービスの購入といった形でレバレッジを加えているところもある。2015年の株式市場における異常波動は、一部の都市で不動産価格のバブル化を招いた。これは債券の仕組み化と不動産ローンの急速な拡大等のレバレッジの高度化が直接に相関していたと言える。一部の高リスクの操作が「金融イノベーション」の名目の下、多くの市場でバブルの集積を推進している。国際経済の回復力の欠如と主要な国の経済政策の外国への波及効果は、我が国の国境を超えた資本流動と為替相場等に対し外部から衝撃を与えるリスクとなっている。

・ミクロ面では、金融機関の信用リスクがある。近年来、不良な貸し出しは一定程度増えており、銀行業の資本とリスク対応能力を侵食している。債券市場におけるデフォルト案件は明瞭に増加しており、債券の発行量は一定程度減ってきている。信用リスクは、相当程度、社会及び海外における我が国の金融システムの健全性に対する信頼感に影響を与えている。

・マーケットと業態と地域を越える影の銀行と違法犯罪のリスクがある。一部の金融機関と企業は、政府の監督機関の空白及び欠陥を狙って「エッジボール」を打っており、裁定取引(さやとり行為)がひどい。理財業務は多層に組み上げられており、資産と負債に期限のミスマッチがあり、責任と権利関係が複雑化している。各種の金融ホールディング会社が急速に発達しており、一部の実業企業は投資金融業に熱中し、インサイダー交易や関連交易で短期的な金稼ぎをやっている。一部のインターネット企業は、オンラインで不法に資金を集めるなどして地域を越えた民衆騒動(中国語で「群体性事件」)を起こしている。少数の金融界の「大物」は許認可権限を有する機関の「内通者」と共謀して、火中の栗を拾い、利益を移動させ、個別の監督管理部局の幹部が監督対象者を捕虜にし、投資者や消費者の権益保護とは反対のことをやっている。

○金融リスクの原因は科学的に分析する必要がある。

・マクロ経済調整と金融監督体制の問題がリスクを構造的なものにしている。マクロ経済調整は、タイミング的に非常に難しい舵取りが要求される。一方で、新しい業態や新しい産品が急速に発展する中、マーケットや業界、地域を越えた金融リスクが伝達されるような状況の下、監督管理機関の不完全性の問題が突出してきている。「鉄道警察がそれぞれの所管地域を担当する」というような監督管理方式において、同じような種類の金融業に対する規則が一致していない、重要な部分の管理監督が抜け落ちる、といった問題が起きる。統計データのインフラがまだ集中的に統一されておらず、システミック・リスクを判断することの難しさが増大している。中央と地方の金融監督管理の職責が不明確であり、一部の金融活動が金融の監督管理の外に置かれている。

○金融リスクを防ぐためには以下のようなことをすべきである。

・金融機構と金融マーケットを改革し開放すること。

・金融マーケットの改革を深化させ、社会に対する融資システムを向上させること。

・金融の対外開放を絶え間なく拡大し、競争によって向上と繁栄を進めること。

・金融監督管理制度を完全なものにすること。

・党の指導を強化し、金融の改革と発展の方向が正しい方向を向くことを確保すること。

・整備された開放的な機構の欠如がリスクを容易に発生させ、多発させることになる。一部の業種では、保護主義が依然として存在しており、金融監督規制は国際的に通用する基準に比べて相対的に劣後しており、金融機関の競争力は不足しており、リスクを見極める能力は弱く、金融市場を効率的にコントロールし、資産バブルと金融リスクを防ぐことが有効にできない。境内外(大陸部と香港や外国)とが接続しておらず、内外の価格差を利用して一部の機関は国境を越えた投機をやっている。

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 金融専門用語も多く、私の中国語力では、間違った訳になった部分もあると思いますが、この文章は相当に強烈な「現状批判」です。「いろいろ批判はあるが、中国の政策はうまくやっている」という文章が多い「人民日報」の中において、これだけ強烈に現状(金融の現状とそれに対する政府の体制の欠陥)を率直に指摘した文章は特に目に付きます(私は、最近の「人民日報」は習近平氏を礼賛する記事ばかりで2013年頃に比べて「鋭さ」がなくなった、と書いたことがありますが、その批判は撤回します)。この文章は、周小川氏という中国金融界の中では「誰にも文句は言わせない」ほどの大人物だから書けた文章だと思います。普通の人が同じ文章を書いたら、「人民日報」に掲載できないどころか、ネットのブログにアップしただけで削除される可能性すらあるほど「刺激的だけれども正直な内容」だと私は思います。

 最後のところに「党の指導を強化し・・・」とあるのは、周小川氏が政権の現職の重要人物ですからこういう言い方をするのは当然なのですが、この部分が意味するところは、「地方政府や企業は制度の欠陥を狙って金儲けするようなことをせず、党中央の政策方針にしっかりと従え」と主張している、と捉えれば、私としても納得できます。ネットで見たロイターのニュースでは、この人民日報の周小川論文について「金融当局、中央・地方間で政策協力強化―中国人民銀総裁=人民日報」というタイトルで報じていますが、ロイターは周小川論文の「地方はちゃんと中央の言うことを聞け」の部分をピックアップして報じているのだと思います(ロイターの記事は内容が簡単過ぎて、上に紹介したような周小川氏の過激とも言える現状批判が全く伝わってきません)。

 この「周小川論文」が掲載されたのと同じ11月22日、「人民日報」22面では、政府関係三部門が湖北省武漢で不動産政策に関する会議を行ったことを伝えています。他の新聞の記事等を総合すると、この会議は、住宅を所管する住宅都市建設部と土地を所管する国土資源部と中国人民銀行が行った会議のようです。「座談会」と称しているので、それほどハイレベルの会議ではなかったようですが、「住宅バブル抑制のために、今後とも住宅価格抑制政策は、動揺せず、力を緩めることをせずに進める」ことを改めて確認したこの会議は、上記の「周小川論文」と合わせて読むと結構インパクトがあったと思います(中国政府は、経済に対する「引き締め」を揺るぎなくやる決意だ、ということを示しているので)。

(注)周小川氏の後任として中国人民銀行総裁になる候補の一人として現在湖北省党書記をやっている蒋超良氏の名前が挙がっています。今回、住宅バブル対策の会議が湖北省武漢で開かれたのも、そのことと関係があるのかもしれません。

 11月23日の上海総合指数は対前日比2.3%安と久々の「暴落」でしたが、おそらくは上に掲げたような新聞記事を受けて、マンション・バブル対策のため、政府は「引き締め」に舵を切っている、と中国の人々も感じたからだと思います(そのほか、最近、中国国債の金利が上昇傾向にあることも背景にあると思います(参考:日本経済新聞2017年10月31日付け朝刊9面記事「中国長期金利 上昇に勢い 3年ぶり一時3.9%強」))。

 一方、「人民日報」ホームページ(人民網)の財経チャンネルの不動産チャンネルには11月24日付けの「証券日報」の記事が載っていました。タイトルは「10都市のマンション価格が下落し一年前の水準に戻る マンション市場の資金があるいはA株市場に転戦するか」でした。この記事では、マンション価格の下落に伴い、マンション市場の資金が株式市場に回るかどうか関心を持って見ていく必要がある、と指摘しています。背景には、ちょうど3年前、2014年初冬頃からマンション価格が下落する傾向の中、上海株が上昇した事実があります(2015年6月をピークに株バブルは崩壊)。私は、上に紹介した「周小川論文」の非常に厳しい現状認識を踏まえれば、「マンション価格が下がれば、今度は株価が上がるかもしれない」といった見方はあまりにも脳天気だと思います。おそらくは、中国の人々も、今度は「マンション価格が下がったら、株価が上がるさ」などと脳天気には考えていないかもしれません。

 上海株式市場を動揺させた一つの原因だと思われる11月22日付け「人民日報」の中国人民銀行周小川総裁の論文について、日本のマスコミはほとんど伝えていない(ロイターはネットニュースで報じていたが内容が簡単過ぎる)ので、今日、ブログでポイントを紹介させていただきました。そして、こうした鋭い指摘のできる周小川総裁がまもなく退任することの意味は大きいことも、一言付け加えさせていただきたいと思います(後任の方もたぶん非常に優秀な方だとは思いますが、後任の方が世界の金融関係者にも一目置かれている周小川氏と同じレベルに到達するのは結構大変だと私は思っています)。

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2017年11月18日 (土)

あの手この手の中国マンション政策

 びっくりするほど価格が高騰して住みたい人が買えない状況になっている中国のマンション市場には、様々なプレーヤーが様々な思惑で係わっています。私が思いつく「中国マンション市場に係わっているプレーヤー」を列記してみたいと思います。

○自分が住むためにマンションを購入したいと思っている人

○資産保持のためにマンションを購入したいと思っている人(この中には「積極的に将来の値上がりを見込んで投機的にマンションを購入しようとしている人」と「銀行の預金金利よりはマンションの値上がり可能性の方が大きいと見て『貯金の延長線上』という観点からマンションを購入しようとしている人」がいると思います)。

※先日見た中国のネット上の記事に「一人娘のために10戸もマンションを保有している老夫婦」の話がありました。

□一定水準以上のマンション建設・販売を維持したいマンション開発業者、不動産仲介業者、マンション建設業者

□過去に借り入れた借金を返済するため是非とも新規マンションを販売しなければならないマンション開発業者

☆住みたいマンションが高価すぎて買えないと思う人が増えて政府に対する不満が高まることを心配する政府

☆一定水準以上のマンション建設が継続して、建設業の雇用が維持され、鉄鋼、セメント等の需要が維持され、経済の水準が維持されることを望む政府

☆マンション市場がバブル化し、マンション建設に投入された資金及びマンションを購入した人の住宅ローンが不良債権化し、同時に理財商品等の持つリスクが顕在化し、金融システムが不安定化することを何としても避けたい金融当局

☆土地使用権をマンション開発業者に販売することによって財政収入を得たいと考える地方政府

 これらの「プレーヤー」の思惑は様々です。政府内部でマンション市場の「望むべき姿」が統一されていないことが政策を複雑にしています。政府の関係者の中でも、高くてマンションを買えない人々の不満が高まることを心配するセクションの人は、マンション価格の高騰が続いては困ると考えています。金融当局は、経済実態と掛け離れてマンション価格が高騰することは避けたいと考えているはずですが、マンション価格が急落することも避けたいと考えているでしょう。関連する雇用や産業のレベルを維持させたい政府部署の人は、マンション価格が下落しては困ると考えるでしょう。

 一番やっかいなのは(そして、他の諸国では存在せず、中国独自のものと言えるのは)、マンション開発業者等に土地使用権を売り渡すことによって財政収入を得ている地方政府です(中国では、土地に私有権はなく、所有権は国または地方政府にあるので、地方政府は一定の補償金を農民等に支払って土地を収用した後、開発業者に土地使用権を売り渡して巨額の財政収入を得ることができます)。土地譲渡収入に頼っている地方政府は、財政収入の観点だけから見れば、マンション価格は高ければ高いほどうれしいのです。

 「人民日報」ホームページ内の「財経」チャンネルの「不動産チャンネル」に2017年11月8日の経済参考報の「北京の今年の土地収入は3,000億元に達する見通し」というタイトルの記事が載っていました。この記事によると、今年(2017年)の北京市の土地譲渡収入は目下のところ2,374.5億元で、これは既に歴史的記録を超えており、今後譲渡される見込みの分を加えると通年で3,000億元(5兆1,000億円)に達する見込みとのことです。

 地方政府の多くが土地使用権を売却することによって得られる収入に頼っている状況については、私が北京に駐在していた10年前には既に問題視されていました(このブログの2007年7月13日付け記事「中国の地方政府による無秩序な土地開発」、2008年12月3日付け記事「景気刺激策の中で農地の収用は抑制可能か」参照)。地方政府による土地の売却は、農民等から農地を奪うことになり「持続可能」ではありません。

 ところが、北京駐在から帰国した後も、2010年頃、万博が行われた上海において財政収入の半分が土地譲渡収入だった、などというニュースを見聞きしたので、私は「全然改善されてないじゃないか」と思ったものでした。で、上に紹介した北京市の例で見るように、地方政府が土地譲渡収入に頼る、という状況は、それ以降も全く改善されている様子はないようです。マンション開発やその他の土地開発が止まることは地方政府の大きな収入減を招くわけですから、地方政府が行うマンション価格抑制策に腰が入らないのは明らかです。

 多くの中国の人々が資産保全の目的でマンションを購入しようとするのも、「マンション価格が下がったら地方政府自身が困るから、政府は絶対マンション価格が下がるような政策を継続的に採り続けるはずがない」と政府の足元を見透かしているからです。

 一方で、政府がマンション価格高騰に対して何も政策を採らないと、高くてマンションを買えない階層の人々の不満が高まるので、政府は効果があるかないかは別にして矢継ぎ早にマンション価格抑制政策を打ち出さざるを得ない状況に追い込まれています。このブログの今年5月6日付け記事「中国のマンション市場に『状況変化』の気配」でも紹介しましたが、最近は「購入制限」「住宅ローンに対する制限」「価格制限」「販売量の制限」等のマンション価格高騰抑制策が実施されています(「政府に政策あれば、我々には対策がある」ということで、一世帯あたりのマンション購入戸数が制限されたことから、夫婦が「偽装離婚」して購入するマンション戸数を増やした例などがよく知られています)。

 「住宅ローンの制限」は、例えば、頭金を一定割合以上にする(特に二件目以降の購入の場合は頭金の割合を相当大きくする)といった類のものも含まれます。こうした政策を打ち出すと、今度はマンション開発業者が購入希望者に頭金に対するローンを組ませるようなことをし始めたので、最近は「頭金ローンの禁止」といった政策も打ち出されているようです。

 こうした様々なマンション購入抑制策は一部で効果が出てきており、北京などではマンション価格の上昇に歯止めが掛かっています。今日(2017年11月18日)中国国家統計局が発表した2017年10月のデータによると、新築住宅価格は北京では前月より0.2%値下がりしたそうです(上海は0.3%値上がりでした。全国70都市中対前月比値上がりが50都市、値下がりは14、変わらずは6なので、全国ベースではマンション価格が下落基調に入ったとは現時点では言えません)。

 なお、「人民日報」ホームページ「財経チャンネル」の「不動産チャンネル」に載っていた2017年11月15日付けの「証券日報」の記事「北京の中古マンションは再び下落 買い換えたいマンション所有者は売り急いでいる」によると、北京の中古マンション市場では「天気が冷えている中、市場も冷えてきている」という状態になっているようです。

 中国各地でマンション価格高騰抑制政策が相次いで打ち出されている中、マンション開発業者の中には「今はガマンのしどき。またしばらくすればマンション価格が上がる時期が来る」と思っているところもあるようで、一部では「売り惜しみ」の状況も出てきているようです。昨日(2017年11月17日)付け「人民日報」22面には「成都ではマンション購入には抽選が必要になった」という記事が載っていました。この記事によると、四川省成都は、上海、江蘇省南京、湖南省長沙に次いで四番目の「公的抽選」が必要となる都市となった、とのことです。マンション販売抑制策が効いて、「売り惜しみ」等によりマンションの供給量が絞られる中、マンションを買いたい人の数は依然として非常に多いので、各地で販売時に夜中から並ぶ、といった弊害が出てきているため、地方政府がマンション販売時に「抽選」を実施することになったようです(大都市で自動車のナンバープレートが抽選によって与えられるのと似たような制度)。マンション開発業者ではなく地方政府が抽選を行うのは、業者に抽選をやらせると関係者に有利なマンションを先に割り当てて、一般客用の抽選には条件のよくない案件を回す、といった不公正な行為が行われる可能性があるからのようです。

 この「人民日報」の記事の最後の方には専門家の以下のような認識が掲載されています。

「『価格制限+抽選制の実施』といった政策は需要と供給がバランスしていない市場の状況がもたらした短期的に有効な暫定的な対応策である。マンション市場には周期性があり、売買双方の需要と供給の関係はお互いに関係して変化し、常にその位置を変えるものだ。実際、2016年上半期、成都の多くのマンション販売部署にマンションを見に来ていた人は多いとは言えなかったし、2015年には「さっぱり」(中国語で「惨淡」)という形容が用いられていた。」

 この部分は、2014年秋から2015年~2016年初(上海株バブル崩壊や「中国発世界同時株安」が世界を駆け巡った頃)に冷え込んでいた成都のマンション市場が今は過熱気味になっていることを示しています。これと日本経済新聞電子版の今年(2017年)8月30日付け記事「中国の地方政府、土地売却加速 景気対策に財源確保」を合わせて読むと、中国では、2015年を底とした経済減速に対して、今年(2017年)秋の共産党大会へ向けて経済を刺激するため地方政府が土地売却を増やして様々な投資を増やしてきたことが明確にわかります。現在の中国のマンション価格の高止まりはその結果なのですから、今後たどるべき道は以下の二つのうちのどちらか、ということになります。

○中国の地方政府が土地売却を減らし、その結果として投資が減り、中国経済は減速し、マンション価格も下落する。

○中国の地方政府は土地売却を継続し、その結果として投資は維持され、中国経済は一定の速度を維持し、マンション価格も維持されるかまたはさらに上昇する。ただし、地方政府に売る土地がなくなった時、この流れは突然ストップする。

 どちらの道を行くにしても「ソフト・ランディング」にはなりそうもないような気がします。

 今、日米欧の株価が乱高下しています。ある解説者は「最近出た中国の経済指標がいまひとつ芳しくなく、中国経済に対する不安が出てきているため」と解説しています。でも、中国共産党大会が終わったら中国経済が減速する可能性がある、といった話は、前から耳にタコができるほど聞かされてきた話のはずです。それなのに、今更、「中国の芳しくない経済統計が出てきたので、市場に不安が広がっている」というのは変な気がします。

 おそらく、今、世界のマーケットは「富士川の合戦における平家軍」の状況なのかもしれません。治承四年(1180年)、「源氏の勢力は侮れないかもしれない」という一抹の不安の中、富士川に陣取った平家軍は、京から連れてきた楽士や遊女とともにどんちゃん騒ぎの宴を催します。そして、翌朝、水面から飛び立つ水鳥の羽音に驚いて、源氏と戦うことなく敗走したのでした。どんちゃん騒ぎで騒いでいる中で、平家軍の中には「不安感」が満ち満ちていたのでしょう。

 11月14日(火)の日本経済新聞朝刊21面の「一目均衡」というコラムに証券部の土居倫之記者が「『灰色のサイ』を手なずけよ」という文章を書いています。土居氏はこの文章の中で中国人民銀行総裁の周小川氏が11月4日に出した「ブラックスワンの出現だけでなく、灰色のサイのリスクも防がなければならない」というメッセージを紹介しています。「ブラックスワン」とは「発生確率は小さいが、実際に起きたら影響は甚大になる事象」のことですが、「灰色のサイ」とは、高い確率で存在し、みんながその存在を認識しているにも係わらず軽視されがちな問題のことだそうです。サイは灰色が普通です。「灰色のサイ」は普通の存在で普段はおとなしく、そこにいることは皆が知っているが、突然暴走し出すと誰も止めることができなくなる、という事情を背景にした表現なのだそうです。

 中国のマンション価格高騰とそれに関連する債務問題(理財商品の問題も含む)は、誰もがその存在を知っているけれども「今すぐに暴れ出すことはないだろう」と思っている問題です。私は、来年三月の全人代までには退任するだろうと言われている周小川氏が最近発しているこうした様々なメッセージは非常に重要で、多くの人が気に留める必要があると思っています(このブログの今年10月21日付け記事「中国人民銀行周小川総裁の口から『ミンスキー・モーメント』」参照)。

 前にも紹介しましたが、「中国バブルはなぜつぶれないのか」(森山文那生訳。日本経済新聞出版社)の中で著者の朱寧氏は、売買価格と賃料利回りの比較から、中国のマンション価格は既に「住む価値」を大きく越えて高騰していることを指摘しています(このブログの今年9月30日付け記事「中国のマンションにおける『住む価値』と価格との差」参照)。「住む価値」を越える価格のマンションを購入したいと思う人が多数存在する一方で、政策によって現在は抑制されているが将来は価格はもっと上がるはずだと考えているマンション開発業者が「売り惜しみ」をした結果、需給バランスが崩れて政府がマンション購入のための「公的抽選」を行わざるを得なくなっている、という中国の現在の状況は「まともではない」と言えます。私には、この中国の「マンション市場のゆがみ」は、今すぐにでも崩壊する危険性をはらんでいると思います(上に書いたように、上海、南京、長沙、成都で政府が抽選をしなければならないほど過熱している一方で、北京では新築マンションの価格が下落気味であり、中古マンションの価格は明らかに下落している状況は、既に「変化の兆しが見えている」と言ってよいのではないかと思っています)。

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2017年11月11日 (土)

「秒殺」「特恵」の「理財商品」のリスクはいかほどか

 以前のこのブログで、「人民日報」ホームページ上で「理財商品」が販売されていることについて、「本来リスクのある金融商品について一般人民に『中国共産党による暗黙の保証』が付いていることをイメージさせることになるので問題ではないか」といった趣旨のことを書いたことがあります(このブログの2017年7月8日付け記事「またぞろ『中国の理財商品は大丈夫なのか』という話」、10月7日付け記事「中国が『暗黙の保証』の問題に対処できていない現状」)。10月7日の記事では「今度の中国共産党大会での議論の中で問題視され、共産党大会終了後にはサイトが閉鎖されてしまうのではないか、とすら考えています。」とまで書きました。しかし、実際は特段問題にはされていないようで、現在でも「人民日報」ホームページの中の「財経」というサイトの中の「人民信金融」というサイトで「理財商品」が販売されています。

 「問題にはされていない」どころか、最近、「財経」サイトのトップページの一部に「人民信金融」の中に列記されている「理財商品」のリストが掲載されるようになり、「人民日報」サイトでの「理財商品」の購入が「より便利に」なりました。この「理財商品」の販売サイトは「広告」ではありません。この「理財商品販売サイト」は「人民日報社」と金融関連会社が共同で運営しているもので、いわば「人民日報」ホームページの「本来業務」の一部として「理財商品」が販売されているのです。

 今日(11月11日)は、中国のネット通販最大手の「アリババ」が始めた「独身の日」で、中国のネットでは大々的な「販売セール」が展開されています。「人民信金融」のサイトも例外ではなく、サイトを開くと「11月11日の特売」を示すポップ広告がバンと出てきます。「独身の日」のセールに合わせて、なのかもしれませんが、今、「人民信金融」のサイトでは「特恵」とか「秒殺」とか表示された「特売品」の「理財商品」も販売されています。

 「特恵」は「特別優遇金利」の意味なのはすぐわかったのですが、「秒殺」という中国語は私は知らなかったので調べてみました。手元の電子辞書(2007年購入)にも載っていなかったので、ネットで調べたら、「秒殺」とは、もともとは格闘技用語で「極めて短時間で相手を倒す」という意味なのだそうです。それから転じて、ネット販売サイトでは「すぐ売り切れる」という意味になり、そこから「販売個数限定の特別優遇商品」という意味で使われるようになったのだそうです。テレビ通販ならば「数量○○個限定! 今すぐお電話を!」という「ノリ」だと思います。

 私は「秒殺」という単語も知らなかった程度のネット通販には「うとい」おじさんなのですが、「人民日報」のホームページ内のサイトで、しかも「理財商品」という本来慎重にリスクを検討して購入しなければならない金融商品について「秒殺」という記述を使う「ノリ」には私はついていけない感じを強く持っています。

 今、「人民信金融」のサイトに載っている定期ものの「理財商品」では、例えば、「普通」のものだと「年率6.30%、満期期限160日、10,000元単位」、「特恵」のマークがついているものだと「年率7.00%、満期期限360日、50,000元単位」、「秒殺」のマークがついているものだと「年率6.90%、満期期限160日、3,000元単位」というのが載っています。3,000元(日本円で約51,000円)なら、中国の若い人でも比較的買いやすいので「秒殺」と表示して、若いお客を誘っているのかもしれません。

 そもそも論ですが、中国の今年(2017年)のGDP成長率が目標6.5%前後、実績6.8%程度、先週発表された2017年10月の中国の消費者物価指数は年率1.9%上昇ですが、「理財商品」で集めたお金はどういう形で運用してこれだけの金利を実現しているのでしょうか。

 経済学の基本的な考え方に従えば「金利は資金提供側(貸し方)が負担するリスクに対する報酬」ということになります。従って、金利が高いということはそれだけ貸し倒れリスクが高いということを意味しますし、期間が長くなれば金利が高くなるのが通常です。「中国で『理財商品』を購入している人は、提示されている金利に応じたリスクがあることを理解しているのだろうか」とはよく聞かれる問いかけです。しかし、通常考えれば、「人民日報」ホームページ上で販売されている「理財商品」について、中国の人はほとんど「貸し倒れリスク」など感じていないでしょう。「人民日報」は中国共産党の機関紙であり、「『人民日報』ホームページ上で販売されている『理財商品』がデフォルト(債務不履行)になりそうになったら、中国共産党がなんとかしてくれるさ」と多くの人が思っているのではないでしょうか。

 などと、今、私は偉そうなことを書いていますが、30年以上前の1980年代、就職したばかりの私が郵便局の定額貯金(満期10年まで金利固定、半年経過したらいつでも解約可能、当時の金利は年率7%以上)に貯金した時、「年率7%」に相当するリスクを意識したか、と問われれば、答えは「ノー」です。今でこそ民営化が始まりましたが、郵便局はずっと「国営金融機関」でしたからね(単純に言えば、1980年代の日本では金利とリスクがバランスしていなかった結果が「平成バブル」(1989年末がピーク)を生んだ、と言ってよいと思います)。

 リーマン・ショック後の日米欧では、中央銀行が「異次元の量的緩和」を実施して、金利を極めて低い水準に抑えている(ヨーロッパと日本では一部にマイナス金利さえ導入している)現状では、「金利とリスクの関係」は先進国でもほとんど崩壊しかけており、中国の「理財商品」についてだけ「金利と購入している人が意識しているリスクとがマッチしていない」などと懸念を表明するのは公正ではない、との指摘はある程度当たっていると思います。

 しかし、そうした事情を踏まえた上でも、やはり私は中国の「理財商品」の状況は懸念すべきだと思っています。中国の「理財商品」は複数の債券等を組み合わせて組成されたものであり、かつてのアメリカのサブ・プライム・ローンを組み合わせた住宅ローン担保証券のような「リスクの見えない金融商品」になっているおそれがあるからです(この点は、中国のエコノミストすら「リスクがステルス化している」と懸念を表明しています:このブログの2013年7月10日付け記事「中国金融改革:『人民日報』に『正論』」参照)。それに加えて、中国の人々が認識している「中国共産党による暗黙の保証意識」は、おそらく日米欧の国民が持っている「銀行が危なくなっても政府がなんとかしてくれるだろう」という意識より強いと考えられます。

 中国当局が取り得る手段も日米欧とは異なることになるでしょう。日本では北海道拓殖銀行や山一證券については政府は救済せず、アメリカ政府はリーマン・ブラザーズを見放しました。しかし、中国では何か危機が起こった時、一部の金融機関を見放すことは「原理的にできない」のです。なぜなら全ての金融機関は「中国共産党の指導の下」にあるからです。

 そもそも私は「人民日報」のホームページの中のサイトで「理財商品」を販売し、それにネット上での特売セールを行う「独身の日」に合わせて「特恵」だの「秒殺」だのと表記して「理財商品」を売っている現場の人たちの感覚が問題だと思います。中国共産党内部にいる優秀なエコノミストたちは、日本の平成バブルやアメリカのリーマン・ショックのことをよく勉強しています。しかし、現場の人たちの間には、かなり「脳天気な雰囲気」が広まって来ているのではないかと思います。

 中枢部分では問題を理解しているのに末端の現場では危機感を共有できていなかったことが問題が発生した後でわかる、といった話は、最近相次ぐ日本の大企業の不祥事を例示するまでもなく「よくある話」です。

 先ほど、このブログの過去の部分を読み返して気がついたのですが、習近平政権初期の頃は、「人民日報」でもかなり問題意識を指摘する「鋭い記事」が目につきました(例えば、このブログの2013年9月1日付け記事「中国の低所得者用公共住宅の問題点:『人民日報』の指摘」、同年9月3日付け記事「中国の不動産バブルの現状を『人民日報』がレポート」)。しかし、習近平氏への権力集中が進むにつれ(別の言い方をすれば李克強総理の影が薄くなるにつれ)、「人民日報」における「問題点を指摘する鋭い記事」は減ってきたように思います(習近平氏を賞賛する記事が増えてきているので、当然と言えば当然ですが)。

 過去にこのブログで紹介した朱寧著「剛性泡沫:中国経済為何進退両難」(邦題「中国バブルはなぜつぶれないのか」(森山文那生訳。日本経済新聞出版社))のように中国経済における「暗黙の保証」の問題に対して鋭い警告を発するエコノミストの本が中国でもよく売れている一方で、上に書いたような「人民日報」ホームページ上の「軽いノリの『理財商品』販売現場」が存在している、というアンバランスな現状は、「問題が顕在化する臨界点」が近づいている証左かもしれない、と私は感じています。

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2017年11月 5日 (日)

長期政権を狙う習近平氏は痛みを伴う改革をできるのか

 10月26日に決まった新しい中国共産党政治局常務委員のメンバーに次の党大会(2022年)で習近平氏の後任になるような50歳代の人物がいなかったことから、習近平氏は「次の」あるいは「次の次の」党大会でも党のトップの座を降りず、「次の次の次の」(2032年の)党大会まで降板しないつもりなのではないか、との見方が出ています。党総書記は原則2期10年間ですが、2022年の党大会で「党主席」の役職を復活させれば、さらに10年間習近平氏が党のトップに座り続けることは可能だ、というわけです。

 今回の党大会(中国共産党第19回全国代表大会)で習近平氏が行った「政治報告」の中では、今世紀半ばまでの中国の「青写真」として、2035年までの第一段階(中国をイノベーション型国家の前列に並べ、中国人民の中流階級の比率を明確に向上させる)と2035年から21世紀中葉までの第二段階(中国を「富強民主文明」で「調和の取れた美しい社会主義現代化強国」にする)に分けて語っています。こうした「青写真」は、うがった見方をすれば、「第一段階(2035年まで)は私(習近平氏)が責任を持って中国の舵取りを担当します」と宣言しているようにも聞こえます。

 私は、今回の党大会での人事で、陳敏爾氏(重慶市書記、習氏に近い:57歳)と胡春華氏(広東省書記、共青団派:54歳)を党政治局常務委員に入れ、汪洋氏を来年3月の全人代で国務院総理の「ワンポイント・リリーフ」(2023年までの5年1期のみ)にし、李克強氏は党内序列2位ながら次期全人代で名誉職的な全人代常務委員会委員長になる、と見込んでいました。しかし、50歳代(次期の党書記・国務院総理が見込まれる)の陳敏爾氏と胡春華氏が政治局常務委員入りしなかったことで、この私の「見込み」は完全に崩れました。李克強氏は次期(2023年の全人代まで)も国務院総理を継続するようです。報道によれば、来年(2018年)3月の全人代で、栗戦書氏(67歳)が全人代常務委員会委員長に、汪洋氏(62歳)は中国人民政治協商会議主席になるようです。

 今回決まったこの陣容だと、私は次の点で問題があると思っています。

 まず、今まで経済政策も含めて習近平氏が権限を集めて李克強氏を疎外することによって生じていた「習近平氏と李克強氏のバラバラ感」の目立つ習近平政権の体制が次の5年間(2023年3月の全人代まで)継続されることになるが、それで政策運営(特に経済政策)がうまく行くのか、ということです。

 次に、2022年の党大会で習近平氏が「党主席」としてさらに長期政権のトップに居座り続けるのはいいとして、その体制で次の国務院総理は誰がやるのか、という問題が残ります。過去の国務院総理の経歴を見ると、国務院総理になる前は党政治局常務委員であるか、そうでなくてもかなりの長期間にわたり党中央のそれなりの役職を経験した方が国務院総理になっています。今、2023年以降の国務院総理の「候補」を決めないまでも、「総理になるかもしれない」という人物をそれなりの役職に配置しておいて、総理になるかもしれないという自覚を持って中央で経験を積ませることは、スムーズな国務院総理の交代のために必要不可欠だと思います。

 もしかすると、習近平氏は「全ての業務は自分一人で決める。国務院総理の権限は小さくするので、誰がなっても(当面は李克強氏の続投でも、2023年以降は経験のない者でも)かまわない。」と思っているのかもしれません。しかし、かの絶大な権力を有していた毛沢東時代においても、周恩来という最高クラスの国務院総理がいたからこそ、中国の政治はそれなりに回っていたことは認識すべきです(周恩来という極めて強力な実務担当能力のある総理がいたからこそ、毛沢東は権力闘争に明け暮れることができた、という一面があると私は思っています)。もし習近平氏が最大の参謀であるべきはずの国務院総理について軽く見ているのだとしたら、中国政府の具体的な政策執行の能力に大きな疑問符が付くと言わざるを得なくなります。

 また、これも私の予想に反することですが、党大会が終わっても、上海株は大きく調整せず、人民元レートが下落することもなく、中国経済が減速するような兆候は今のところ見えていません。これは、マーケット関係者が「習近平氏は長期政権を狙うはずだから、経済減速を招くおそれのある『痛みを伴う改革』は行わず、今後とも景気のアクセルを踏み続けるだろう」と読んでいるからだ、と見ることもできます。実際、習近平氏は、今年4月に北京の首都機能を移転させるための新しい都市としての「雄安新区」の構想を打ち出しており、これは習近平氏が「経済のバブルは新しいバブルを起こすことによって対処する」という方向を向いているらしいことを示唆しています。

 こうした見方に基づいて、「党大会が終わると中国政府は改革を進め、それにより経済の減速が始まる」という「警戒感」は、「当面の間は、中国政府は改革よりも経済速度維持を優先させる」という「期待感」に変わり、そのことが日米欧の継続的な株式市場の上昇傾向を生んでいる可能性があります。

 しかし、おそらく中国経済の現状は「痛みの伴う改革」を先送りできるほどの余裕は既になくなっていると私は思っています。この危機感は、先々週のこのブログの記事で「中国人民銀行周小川総裁の口から『ミンスキー・モーメント』」に書いたように、中国当局の中枢部にもあると思います。

 党大会直前の2017年10月9日付け「人民日報」18面に載っていた記事も、中国当局中枢部の危機感を示すものと言えます。この記事のタイトルは「上場企業は理財(資産運用)をすべきかすべきでないのか」でした。この記事では、今年9月上旬までに既に900以上のA株を発行する企業が理財商品を購入しており、その規模は累計1兆元(約17兆円)近くになっていて、この数字は去年全年の数字より2割多くなっているという事実を指摘した上で、余剰資金を有利に運用することは株主にとってプラスの面もあると考えられる一方、大量の上場企業が事業の資源として資金を使わないで理財領域に投資していることは資金が実経済を離脱して空転していることを意味している可能性がある、として警告を鳴らしています。この「人民日報」の記事が指摘する中国上場企業の姿は、多くの企業が手持ち資金を自社事業のための投資に使わないで「財テク」に励んでいた平成バブル期の日本を思い起こさせます。

 中国経済における「ミンスキー・モーメント」(バブルが膨張から崩壊に転換するタイミング)が近いのかまだ時間的余裕があるのかは判断が難しいところですが、不動産市況において「過熱状態」にブレーキが掛かりつつあるのは事実のようです。関連する「人民日報」ホームページ(人民網)の中の「不動産資産チャンネル」に載っていた記事を掲げると以下のとおりです。

○2017年11月2日付け「『金の9月、銀の10月』の契約数ここ10年で最低を記録 伝統的な『盛んな季節』が盛んではなかった」(注:10月初旬の国慶節連休を含む9月と10月は、毎年、一年の中で最もマンション販売が活発になる時季)

○2017年11月2日付け「ゼロ・プレミアムでの契約 土地市場は熱が下がり始めている」(北京青年報のホームページの記事の転載)

 一方、2017年10月27日付けの「経済参考報」の記事を転載した記事「目下のところ中小都市(中国語で「二三線城市」)の不動産価格は依然として過熱」では、西安の新築住宅価格が14.9%上昇しているのを筆頭に、長沙、瀋陽、南寧では新築マンションの価格上昇率が10%を越えていると伝え、大都市(中国語で「一線城市」:北京、上海等)でブレーキが掛かりつつあるのに対して、中規模都市ではまだ過熱状態が続いていることを伝えています。

 実は似たような内容のことは十年前にも書いたことがあります(このブログの2007年12月22日付け記事「中国の不動産ブームはピークを越えたのか?」)。この当時は、北京、上海等の「大都市」以外での不動産建設熱はそれほど問題になっていませんでした。この年12月の(2007年の第17回党大会の後の)「中央経済工作会議」では、翌年(2008年)の経済運営について、従来の「適度に引き締めた」ものを「引き締めた」ものに変え、不動産ブームのピークを越えたことを認識しつつも、景気にブレーキを掛ける方向で経済運営を変化させていたのでした。これは、当時の中国政府が、2008年8月に控えていた北京オリンピック終了後の景気の落ち込みを軽減させるため、「小さなバブルはあらかじめ潰しておく」方針だったからだと思います。

 10年前は2008年秋のリーマン・ショックの発生とそれに対応するための中国政府の「四兆元の超大型経済対策」で2007年暮に決めたような「景気引き締め方針」などは吹き飛んでしまい、結局は「小さなバブル潰し」どころかバブルはさらに膨張し続ける結果となりました。しかし、2018年は、十年前と違って北京オリンピックはありませんし、リーマン・ショックのようなこともたぶんないでしょう。なので、十年前と同じことがこれから起こるわけではありません。

 不動産市場の過熱を放っておくと危険であることは現在の中国当局もわかっているので、例えば、不動産開発業者による頭金融資の禁止等マンション市場の過熱を防ぐ方策は現在も強化されつつあります。しかし、十年前に比べて格段に肥大してしまった中国のマンション市場をコントロールすることは、おそらくは十年前には考えられなかったような困難を伴うと思います。

 党大会は終わりましたが、今も「人民日報」ホームページの「財経」チャンネルにある「人民信金融」のページでは理財商品の販売をやっています。リストには「年率6.30%、期限150日」「年率6.40%、期限181日」「年率6.00%、期限85日」といった「理財商品」が載っています。私は、1980年代の日本の郵便局の「定額貯金」が「期間10年間、半年複利、半年経過したらいつでも解約可能で年率7%以上」だったのを覚えていますが、一方で1989年をピークに日本では「平成バブル」が崩壊したことも知っています。世界各国では一定の金利があった1980年代とは異なり、2017年の今は日米欧が超低金利の時代ですから、今の中国の状況が1980年代の日本より危ういのは明らかなように私には見えます。

 「長期政権を狙う習近平政権は経済減速を伴う改革は行わないだろう」と推測するのは勝手ですが、ニューヨーク・ダウが史上最高値更新中、日経平均が21年ぶり高値をさらに更新中、という現在の日米の株式市場の状況はやはりおかしいと思います。私はネットで「人民日報」やその他の新聞の記事を読んでいるだけで、最近は中国へ行っていないので、中国の本当の実情はよく知りません。経済関係のマスメディアの皆様、世界の経済アナリストの皆様には、中国経済の実情をよく調べて、警告すべき点はきちんと警告して、「中国発の危機」が起こらないように世界の方々に注意喚起をして欲しいと思います。

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2017年10月28日 (土)

「1980年代の改革開放」に決別した習近平氏

 一昨日(2017年10月26日(木))付けの「人民日報」を見て、私は「これは私が知っている『改革開放の中国』ではない」と思いました。1面のど真ん中にでかでかと習近平氏の顔写真(しかも天安門に掲げられている毛沢東主席の肖像のようにきれいに修正したもの)が掲げられていたからです(前日に行われた第19期中国共産党中央委員会第一回全体会議で新しい政治局常務委員が決まったことを伝える記事でした)。私は、間は空いていますが、「人民日報」は平日の紙面が8面だった1980年代から見ていますが(今の「人民日報」は平日は24面)、党のトップの顔写真がこれだけでかでかと出たのを見たのは初めてでした。この「人民日報」1面トップの習近平氏の顔写真については、日本の新聞各紙も報じていますが、産経新聞は「毛沢東より大きい」と報じていました。

 今回の党大会の中国国内の報道では、意図的に習近平氏に対する個人崇拝を盛り上げるような演出がなされていました。私の知る過去の中国共産党大会では、総書記が最前列の中央に座るのは当然としても、他の主要な幹部も二列目、三列目に並んで座るので、テレビカメラで総書記を映すと、後ろに座っている幹部の顔もフレームに入ってきます。しかし、習近平氏の時代になってからの党関連の大きな大会ではいつもそうなのですが、習近平氏の後ろはヒナ壇上の幹部が出入りするための階段になっており、習近平氏をテレビカメラで写すと後ろの党幹部は誰もフレームに入ってこないようになっています。習近平氏が演説する場面を映すテレビカメラも、少し低い位置から見上げるように習近平氏を映すので、習近平氏の後ろには飾ってある紅い旗しか映っておらず(壇上に座っている党幹部は映らない)、習近平氏は他の党幹部とは違う特別な存在であることを強調する演出がなされていました。

 私が一番印象的だったのは、党大会開会の前日(10月17日)に開かれた準備会議において党大会の議長団を決める場面でした。この準備会議は党大会の全体会議が開かれたのと同じ人民大会堂の大きな会議場で開かれたのですが、まだ議長団が決まっていない、つまり「ヒナ壇」に誰が上がるか決まっていない段階だったので、広い「ヒナ壇」の上には習近平氏一人が座り、李克強氏以下、その他の党幹部は全員壇下の「一般席」に座って「議長団」選出の議事が進んでいました。私は過去の「準備会議」の様子がテレビのニュースで流れたのを見た記憶はないのですが、あれだけ大きな大会議場の壇上に習近平氏一人だけが座っている情景は非常に「異様」に見えました。

 今回の党大会(中国共産党第19回全国代表大会)では、「習近平氏の新時代の中国の特色のある社会主義思想」が党規約に盛り込まれました。今まで「毛沢東思想」「トウ小平理論」「『三つの代表』重要思想」「科学的発展観」が盛り込まれていたので、日本の新聞では「実名が入ったのは毛沢東、トウ小平以来で、習近平氏は、毛沢東、トウ小平に次ぐ権威を手に入れた」と報道されています。この認識は、おそらく中国共産党宣伝部も同じであって、決定があった日の「人民日報」ホームページの1面トップには「『習近平氏の新時代の中国の特色のある社会主義思想』が党規約に盛り込まれた」と大々的に報じていました。

 しかし、私はこれで習近平氏は毛沢東とトウ小平と同じ権威を手に入れたということが中国共産党幹部の中でコンセンサスになったとは思っていません。というのは、「習近平氏の新時代の中国の特色のある社会主義思想」は中国語では「習近平新時代中国特色社会主義思想」ですが、この語において「習近平」は「新時代」を修飾するのであって「思想」を修飾する語ではないからです。

 「中国特色社会主義」は以前から使われている語であって習近平氏が初めて使った言葉ではありません。なので、「習近平新時代中国特色社会主義思想」をいじわるく日本語訳すれば「習近平氏が総書記をやっている新しい時代における中国の特色のある社会主義の思想」となり、この思想を誰が提唱したかは何も表現していない、ということになります。「毛沢東思想」は「毛沢東が唱えた思想」を意味し、「トウ小平理論」は「トウ小平が提唱した理論」を意味することは明らかだし、「三つの代表」の考え方を江沢民氏が初めて提唱したのは誰もが知っているし、「科学的発展観」を胡錦濤氏が言い始めたのはみんなが知っています。しかし、「習近平新時代中国特色社会主義思想」が党規約に入ったとしても、この思想を習近平氏が初めて提唱したのかどうかは、明示はされていません。

(注)「『習近平氏の新時代の中国の特色のある社会主義思想』って中身は何なの?」という話はまた別次元の話です。私は「『毛沢東思想とは何か』『トウ小平理論とは何か』」と問われれば、一言で表現するのは難しいとしても、説明はできます。また、私は「『三つの代表』重要思想」とは、企業家・資産家などプロレタリアート(無産階級)以外でも中国共産党員になれる、という意味で画期的な考え方である、と言うこともできます。「科学的発展観」については、「よくはわからないけど、たぶんGPD至上主義ではなく、貧富の格差をなくし、バランスの取れた経済発展が重要という意味なんだろう」と説明することはできます。しかし、「習近平氏の新時代の中国の特色のある社会主義思想」とは何なのか、私には全くわかりません。「腐敗撲滅」は習近平氏以前から言われてきたことですし、「一帯一路」は外交政策・経済政策ではあるけれども「思想」ではないでしょう。「習近平氏の新時代の中国の特色のある社会主義思想」とは、習近平氏に権力を集中させるべき、という「思想」に名称を付けたものだ、という理解が一番正しいのかもしれません。

 習近平氏は「習近平思想」あるいは「習近平が提唱した思想」といった文言を党規約に入れたかったのかもしれませんが、もしそうなのであれば、「習近平新時代中国特色社会主義思想」という文言は「習近平思想」という表現に対する反対論との中を取った「妥協の産物」ということになり、この語が党規約に入ったとしても、それは習近平氏の主張が党内で通らなかったことを意味し、むしろ習近平氏は過去の党のトップに比べても党内での権威は高くないことを意味している可能性があります。

 「人民日報」への習近平氏の顔写真の掲載やテレビ・ニュースでの演出上の習近平氏の権威の強調は、逆に中国共産党宣伝部の内部にある「実際の党内では習近平氏の権威はそれほど高くない」という現状に対する「あせり」を表しているように私には思えます。

 中国共産党大会と言えば、私は30年前、1987年の第13回党大会のあるエピソードをよく覚えています。当時、私は北京に駐在していました。日本等世界のマスコミでも報道されたので、以下に紹介するエピソードは覚えておられる方も多いかもしれません。

 中国共産党では、党内における「改革開放」の一環として、この13回党大会からテレビでの生中継を始めました。外国報道陣による報道も認めらるようになりました。また、この党大会から「党大会関連での会議では禁煙とする」というルールも決まったのでした。

 当時の実質的な最高実力者であるトウ小平氏は、党軍事委員会主席ではありましたが、他の役職には就いていなかったので、形式的には党内の序列では特段高い地位にはいませんでした。なので、党大会では、ヒナ壇上の党幹部が並ぶ席では三列目くらいに着席していました。党大会が始まる直前、既に外国のテレビカメラはスタンバイしていた状態の時、トウ小平氏は早めにヒナ壇の自分の席に着いて、タバコに火を付け、机の上の書類に目を通し始めました。トウ小平氏が無類のヘビー・スモーカーであることは中国内外の多くの人が知っていました。そこに壇上の幹部席にお茶を配る係員が回ってきて、トウ小平氏に何事か耳打ちしました。それを聞いてトウ小平氏は苦笑いをしながらタバコの火を揉み消したのでした。声は聞こえませんが係員が「今回から禁煙になりましたよ」と耳打ちしたのは明らかでした。この光景を捉えていた外国のテレビ局は「ヒラの職員が『トウ小平批判』をした」などと面白おかしく伝えたのでした。

 たわいもない「こぼれ話」的エピソードなのですが、私は後で考えて、これはトウ小平氏が意図的に行った「演出」だったのではないかと思っています。「最高実力者」と言われる自分(トウ小平氏)ですら党のルールには従わなければならない、どんなにレベルの低い職員であっても間違ったことをしている高い地位の人に対して意見を言うことができる、ということを世界のテレビカメラの前で示して「毛沢東時代と異なり、中国共産党は変わったのだ」とアピールする狙いがあったのではないか、と思われるからです。

 当時、ソ連はゴルバチョフ書記長の下、改革を推進中でしたが、ソ連共産党の改革は遅々として進んでいませんでした。そうした中、トウ小平氏は中国共産党内部での改革の進展のスピードをアピールしたかったのだと思います。

 そうした30年前の第13回党大会と比べてみても、今回の第19回党大会における「習近平氏への権力集中を強調する演出」は、中国内外に全く逆の方向性をアピールした結果となりました。

 習近平氏が採ろうとしている方策がトウ小平氏が進めていた1980年代の「改革開放」の路線とは逆方向である点を以下に列記したいと思います。

○個人崇拝

 毛沢東に対する個人崇拝を利用して党の結束を図っていた文化大革命時代に対する反省として、トウ小平氏は、個人崇拝を厳しく禁じました。1980年代、大学などに残っていた毛沢東の像はかなりの数が撤去されました。このトウ小平氏の「個人崇拝禁止」は、1997年2月にトウ小平氏が亡くなった後、だんだん緩和されていきました。私は2007年4月に北京に二度目の駐在を開始した時、多くの場所で毛沢東像が復活していたのを見てびっくりしたことを覚えています。1997年秋の党大会で、当時の江沢民政権は党規約に「毛沢東思想」に並んで「トウ小平理論」を加えましたが、トウ小平氏の次女のトウ楠氏は「私の父は個人崇拝を否定していた。従って、父の考え方に対して父の固有名詞を付けることはやめて欲しい。」と述べたとのことです(「トウ小平秘録」(伊藤正著:扶桑社)による)。「人民日報」1面トップへの巨大な習近平氏の顔写真の掲載などは、こうした「個人崇拝禁止」の考え方に真っ向から逆行するものです。

 昨日(2017年10月27日)付けの「人民日報」の文芸欄では、ある大学教授が「習近平文芸思想」という言葉を使いながら、文芸作品においても習近平氏が唱える「社会主義の核心的価値観」を体現した文芸作品が作られなければならない、などと論じていました。こうした論文は、文化面でもまるで文化大革命時代のような習近平氏への「個人崇拝」を復活させようとしているように見えます。

○集団指導体制から一人への権力集中へ

 1980年代、国家主席、中国共産党総書記、中国共産党軍事委員会主席は別人物でした(例えば、1986年の時点では、国家主席は李先念、中国共産党総書記は胡耀邦、中国共産党軍事委員会主席はトウ小平)。これは全ての権力が毛沢東に集中していた文化大革命時代の反省として権力の分散を図ろうとしたからでした。しかし、この「権力分散体制」は危機が発生した時に迅速に意志決定ができないという弱点を内包しています。1989年の「第二次天安門事件」(六四天安門事件)の時、当時の指導部は結局はトウ小平氏に相談して最終決定の判断を仰ぐことになったのです。このため、「六四天安門事件」で失脚した趙紫陽氏の後を継いだ江沢民氏の時代以降は、国家主席、中国共産党総書記、中国共産党軍事委員会主席を一人の人物が兼任することになったのです(胡錦濤政権の最初の2年間は、党総書記と国家主席は胡錦濤氏、党軍事委員会主席は江沢民氏という二重権力体制だった)。

 ただし、「六四天安門事件」の後も重要事項を決定する党政治局常務委員会は「多数決」で決めることになっています。なので、党政治局常務委員の数は5人か7人か9人で常に奇数です(実際に党政治局常務委員会の会議で賛否が分かれて全員一致ではなく多数決でものごとが決まったことがあるのかどうかは私は知りません)。一部報道によると、今回の党大会で、習近平氏は党総書記を廃して党主席を復活させることをもくろんだ、とのことですが、党規約による党主席の位置付けにもよりますが、仮に最終決定は政治局常務委員会の多数決ではなく党主席の判断による、ということになれば、中国共産党内の意志決定方式は、毛沢東時代に逆戻りすることになります。

○企業に対する中国共産党のコントロール

 トウ小平氏による改革開放の過程で、中国の「国営企業」は「国有企業」に変化しました。これは「国有企業」とは、資産は国有だが企業の経営判断は各企業の経営陣に任されている、という考え方です。各企業に中国共産党組織はありましたが、1980年代当時、各企業の党組織は、従業員の厚生福利や労働条件について企業の経営陣に意見をする、いわば資本主義国における労働組合みたいなもの、などと説明されていました(実態は私は詳しくは知りません。2000年代になっても「部品は中国製のものを使え」「貨物輸送にはトラックではなく鉄道を使え(中国の鉄道は全て国有)」など純粋民間企業についてすら企業経営に対する「党の御指導」はいろいろあると聞いています)。それに対し、習近平政権は、「企業に対する中国共産党の指導」を明示的に強調しています。これは「企業経営は各企業の経営者の判断に任せ、各企業の創意工夫を促して、経済発展の原動力にする」という1980年代のトウ小平氏の改革開放の考え方とは逆方向のものです。

○企業分割か企業統合か

 1980年代は、大型国有企業の分割が進みました。当時、先進諸国で行われていた公営企業の分割民営化(日本で言えば国鉄のJR各社への分割民営化、電電公社の東西NTTへの分割民営化)を参考にしたものと言われています。それまでの中国の国有企業は、仕事をしてもしなくても倒産することはなく一定の給料はもらえるので「鉄飯碗」(鉄でできたご飯茶碗:落としても割れない。日本で言うところの「親方日の丸」)と言われてきました。そこで企業分割を行って各企業間で競争をさせ、競争の中でイノベーションを進めさせよう、というのが1980年代の政策でした。しかし、習近平政権になってからは、逆に大手国有企業の合併が相次いでいます(鉄道車輌製造の「中国北車」と「中国南車」の合併(2014年)、武漢製鉄と宝山製鉄の経営統合(2016年)など)。これは過剰生産設備の整理という意味もあるのですが、私は「中国共産党による指導」がなくならない現状においては、競争原理によるメリットが十分実現されなかったからだ、と考えています。

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 政策には常にプラスの面とマイナスの面がありますから、1980年代の改革開放政策の方がよかった、と言うつもりはありませんが、もし習近平氏が「個人崇拝の強化」「一人への権力集中の強化」「企業に対する中国共産党の指導の強化」「分割された企業の統合の推進」といった1980年代の改革開放政策とは全く逆の方向に政策を進めるのだとしたら、1980年代に回避しようとしていた課題が再び問題を起こすことになります。

 それより私が心配しているのは、中国の多くの人々の間に「時代が逆行してしまう」という無力感を広めてしまわないか、ということです。1980年代、まだ経済は発展途上で人々の生活は貧しいものでしたが、中国のテレビで日本の「紅い疑惑(山口百恵主演)」やアメリカのドラマ「大草原の小さな家」が放送され、企業経営に対する中国共産党の影響力を弱める方向での政策推進がなされている中、多くの人々の中には、ちょっと頑張れば自分の将来もいろいろな方向で開ける可能性がある、という一種の「明るさ」がありました。

 今、中国の各界では、こうした「活き活きとした気分の1980年代」に学生時代を過ごした人たちが幹部となって活躍しています。彼らのエネルギーの中心は「文化大革命時代に対する反発」と「改革開放の中国は自分たちが推し進める」という自負心です。もし習近平氏が「文化大革命時代への逆戻り」「1980年代の改革開放とは逆方向への政策推進」を進めるのだとしたら、おそらく現在の中国の各界のリーダーたちは反発するかやる気をなくしてしまうでしょう。党の指導の強化による企業経営の活力低下とこれら各界リーダー層の士気の低下により、今後、中国の社会は次第に活気を失っていく可能性があります。

 習近平氏は、沿岸部と内陸部との貧富の格差の緩和や市場原理に基づく景気の上下動を「党の指導」により力ずくで抑えようとして「1980年代の改革開放への決別」の政策を選択したのかもしれませんが、それはここ30年の間「改革開放の中国」が持っていた活力を失わせる結果になる可能性があることは認識しておくべきだと思います。

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2017年10月21日 (土)

中国人民銀行周小川総裁の口から「ミンスキー・モーメント」

 ブルームバーグが伝えるところによると、10月19日、党大会と平行して行われたイベントで中国人民銀行総裁の周小川氏が質問に答えて「過度に楽観的であれば緊張が高まり、それが急激な調整につながる可能性がある。ミンスキー・モーメントと呼ばれる状況で、我々はこれを防がなければならない」と述べた、とのことです。「ミンスキー・モーメント」とは、バブルの形成から調整(崩壊)に転じるタイミングを表す表現で、経済学者ハイマン・ミンスキーにちなんで名付けられたものです。

 この10月19日は、たまたま1987年10月19日のニューヨーク株の大暴落、いわゆる「ブラック・マンデー」の30年目の日に当たることから、「バブル崩壊」に関連する話の流れの中で出てきた言葉だと思います。中国指導部は最近「金融リスクを防ぐ」「システミック・リスクを発生させないという最低限のラインを断固として守る」といったことを繰り返し述べており、今回の周小川総裁の発言も基本的にそれと同じであって、何か新しいことを述べたわけではありません。しかし、私は、この日の周小川総裁の発言は以下の点で非常に重要であると考えています。

○周小川氏は、既に14年間中国の中央銀行である中国人民銀行の総裁を務めており、世界各国の中央銀行総裁の中で最も経験が長く、中央銀行の総裁として、自分の些細な言葉が市場にどういう影響を与えるかを熟知している。その周小川氏が「バブルが形成期から崩壊期に転換するポイント」を意味する「ミンスキー・モーメント」という言葉をあえて用いたことからは、周小川氏の「強力な警告メッセージを中国内外のマーケットに発したい」という意図が感じられること。

○バブルが存在しなければ「ミンスキー・モーメント」について議論する必要は生じないのであるから、周小川総裁が「ミンスキー・モーメントを防がなければならない」と述べたことは、周小川総裁自身が現在の中国経済について「バブル的状況」にあると認識していることを意味すること。

○年齢的な面で周小川総裁は来年3月の全人代で退任すると見られており、実際、周小川氏の後任人事について、いろいろと推測記事が流されているのが現状である。もうすぐ辞める周小川総裁は、「今は思い切って自分の考えを述べられる時期」であることを自覚していると思われることから、おそらくは今回の発言は自分の考えに基づいてあえて明確な表現で警告を発したものと思われること。

○この発言は、習近平総書記が三時間半にわたって「政治報告」を行った第19回党大会初日の翌日になされた。今、中国のメディアはこぞって習近平政権5年間の成果を礼賛する記事を連発しているし、党大会開催期間中は中国全土において人の集まるイベントが中止されたりするなど、中国国内の全ての活動が「党大会の平穏な終了のために」神経質なほどにコントロールされているのが現状である。そうした中、周小川氏が「ミンスキー・モーメント」という刺激的な用語を使ったことは、政治的にはかなりリスキーであったと思われるが、逆に言えば、周小川氏は、党大会での議論に対しても「現在の中国経済の状況はメディアで礼賛されているような楽観的な状況ではない」という一種の「異議申し立て」をしたかったとも捉えられる。周小川氏は、従来の言動から見ると、周囲には市場経済に基づく経済を重視する方向で経済改革を進めたいと考えている中国共産党の一部の幹部(李克強総理も含む)やエコノミスト、官僚たちがいると考えられることから、今回の発言は「習近平総書記への一点権力集中と経済に対する党の支配力の強化」に反対する意図があった可能性がある。

 このように私は周小川総裁による「ミンスキー・モーメント」という用語を用いた発言は非常に重要だと考えているのですが、ブルームバーク・ニュースが伝えているほか、CNBCアジアでは伝えていたものの、日本の新聞やテレビでは現時点では私が見た限り報道したものはありませんでした(ネットで検索してみると、一部、ネットのニュースでは伝えているようですが)。

 私は、周小川総裁の発言は、中国経済バブルに対する中国の中央銀行総裁の懸念を直接的に表現するものであるので、結構インパクトがあったと思うのですが、マーケットは全く「無反応」でした。周小川総裁の発言の翌日の10月20日(金)に上海株式市場が上昇したのは党大会開催期間中であり「国家隊」による買い支えがなされていると思われるので当然だとしても、東京株式市場では日経平均が57年ぶりの「14営業日続伸」を記録(10月20日終値:2万1,457円64銭)し、ニューヨーク・株式市場ではニューヨーク・ダウが5日連続史上最高値を更新(10月20日終値:2万3,163.04ドル)したのは、「何か変じゃない?」という感じがします。

 世界的な株の上昇傾向は私にはなんとなく変な感じ(特に「日本では大手企業の不祥事が相次いでいるのに株価が上がっていいの?」と思います)に思えるのですが、世界経済にとって大きなリスクのひとつである中国の不動産市場については、「人民日報」ホームページの「財経」サイト内の「房産(マンション資産)」のサイトに、以下のような記事が載っていました。

○2017年10月20日「経済参考報」の記事
「大都市(中国語で「一線城市」)での不動産の投機性需要は抑制されてきている」

○2017年10月21日「中国新聞網」の記事
「中国マンション市場は『降温』、不動産販売面積の増加スピードは持続的に下落」

 大まかに言うと、住宅、事務所スペース、商業用スペースの販売面積について「増加スピードが鈍った」、販売価格について「上昇スピードが鈍った」という話であって、「減少した」「価格が下がった」という話ではないので、別に現時点で「不動産バブルの崩壊が始まった」というわけではないのですが、不動産市場の過熱気味の状況にブレーキが掛かりつつあるのは確かだと思います。こういったニュースは今後とも注意深くフォローしていく必要があると思っています。

 今、世界のマーケットではコンピューターによる取引がかなりの割合を占めており、要人の発言や突発的な出来事が瞬時にして市場に影響を与える状況なのですが、大きな流れを変えるような重要な発言や出来事に対しては、一定の「タイムラグ」を置いてから反応する場合があります(市場に参加している多くの人間が「ちょっと待て。さっきの発言(出来事)はもしかすると重要な意味があるんじゃないのか?」などと一定の時間を掛けて考えを巡らせるからだと思います)。

 2013年5月23日(日本時間)の「バーナンキ・ショック」の時は、FRBバーナンキ議長の議会証言は日本時間未明に終了していたにも係わらず、東京株式市場は通常と同じような雰囲気で9時から取引を開始し、10:45に中国の経済指標(PMI:購買担当者指数)が予想外に悪かったのがわかってもその時は即座には反応しなかったのですが、11時過ぎから「なんか変だな?」という感じになり、午後に入って「暴落状態」となり、結果的には午後3時の大引け時には対前日比1,143円安の大きな暴落となってしまったのでした。

 2015年8月の「チャイナ・ショック」(中国発世界同時株安)の時も、切っ掛けは8月11~13日の中国当局による人民元切り下げだったのですが、実際に世界の株価が下がり始めたのは10日後の8月21日(金)頃であり、その週明けの8月25日(月)のニューヨーク市場はショック的な株価の下落に見舞われたのでした。

 2013年の「バーナンキ・ショック」の時は、当初は「何でこんなに市場が乱高下するんでしょうね」といぶかる人が多かったのですが、後で時系列を整理してみると、「そういえば、バーナンキFRB議長の議会での証言を切っ掛けとしていろいろなマーケットで動きが出始めましたね」ということがわかったのでした。

 明日(2017年10月22日(日))には日本で総選挙があるし、10月26日(木)にはヨーロッパ中央銀行(ECB)が金融政策の変更を決めるかもしれません。トランプ大統領は近日中に来年2月で任期が切れるFRBのイエレン議長の後任を指名する、と言っています。これら様々な要因を受けて、今後世界のマーケットは動いていくのでしょうが、後になって考えると「そういえば2017年10月19日に周小川中国人民銀行総裁が『ミンスキー・モーメント』という単語を使って警告を発したのが、今思えば切っ掛けだったのかもしれませんね。」というようなことになるかもしれないので、あまり日本の新聞やテレビが取り上げないので、今日、このブログに記録しておこうと思って書いた次第です。

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2017年10月14日 (土)

狼少年「党大会後に中国バブルは崩壊」の今回の信憑性

 中国税関総署が昨日(2017年10月13日)発表した中国の貿易統計では、中国の輸出入は順調に推移していることがわかりました。私は、現在の中国経済は10月18日から始まる中国共産党大会の終了後は下落トレンドに入ると見ており、世界の多くの関係者の中にもそういう見方をする人が多いと思われるので、8月頃から中国経済には「ピーク到達感」が出てくると思っていました。しかし、実際は9月の時点でも、中国経済は比較的順調のようです。「中国経済は思っていた以上に好調を維持している」と感じた人も多いようで、そのためか世界の株価はかなり高いレベルを更新し続けています。

 しかし、例えばニューヨーク・ダウが連日のように史上最高値を更新したり(10月11日(水)の終値は史上最高値:2万2,872.89ドル)、日経平均が21年ぶりの最高値を更新したり(10月13日(金)の終値は2万1,155円18銭)しているのを見ると「恐いよう~」と感じている人もいるかもしれません。

 日経ヴェリタスの先週号(2017年10月8日号)の1面トップの特集は「危機に備える投資」でした。日経CNBCが10月10日(火)に放送した「日経ヴェリタス・トーク・スペシャル第二回投資戦略会議」の副題は「山一破綻から20年~危機対応はできているか」でした。一方、日本経済新聞は今月から毎週土曜日朝刊に「平成の30年 陶酔のさきに」という連載企画記事を掲載していますが、今日(10月14日(土))の記事は「バブル許した『国際協調』の金看板」でした。これらのまるで「バブルの崩壊に備えよ」と呼び掛けるような企画がなされたのは、「そろそろ『バブルに始まった平成』が終わろうとしている」「山一證券などの破綻から20年」「日経ヴェリタス発売500号記念」というタイミングが重なったためであり、別に今がバブル的状況であることを意味しているわけではないとは思いますが、先週までの株価の状況や来週10月18日(水)から中国共産党第19回全国代表大会が始まる、というこのタイミングを考えると「なかなか意味深」とも言えます。

 「中国共産党は5年に一度の党大会へ向けて経済状況の好調さを強調するため公共事業投資をはじめとする様々な政策手段を打つので、党大会終了後はそうした当局による下支えがなくなって中国経済は下落に転じ、それまで無理して押し上げられていた中国経済のバブル的状況は崩壊する」といった話は過去何回も語られてきており、その都度、「経済の減速」は確かにあるものの「バブルが崩壊」するところまでは行かないので、この手の話は既に「狼少年状態」となっています。なので、今回の党大会についても、「党大会後の中国経済が心配」と主張する人は少なくないのですが、多くの人は「また狼少年でしょ。多くは心配し過ぎであって『バブルが崩壊する』といったことにはならない。」と考えていると思います。

 そもそも私は十年前北京に駐在していた頃既に「中国経済はバブルではないのか」とこのブログなどでも散々書いてきました。「十年経ってもはじけないなら、そりゃバブルじゃなかったってことでしょ。」と言われれば、返す言葉はありません。

 ただ、「バブルが崩壊する」とまでは行かなくても、党大会後に中国経済が減速することは、ほぼ間違いなく毎回起きています。

 2002年の党大会の後の状況は、私は当時中国とは関係のない職場にいたので詳しくは知りませんが、中国は2002年暮から2003年夏にかけてSARS(重症急性呼吸器症候群)騒動に襲われて、経済的にも大きな影響が出た、と聞いています。

 2007年10月の第17回党大会後の中国経済の状況については、私は北京に駐在していたのでよく記憶しています。当時、党大会後の中国経済の変調を示していると思われる当時の私がこのブログに書いた文章を掲げると以下のとおりです。

・2007年12月22日付け記事「中国の不動産ブームはピークを越えたのか?」

・2008年1月22日付け記事「中国の不動産を巡る報道に『崩壊』の文字」

・2008年3月31日付け記事「不動産や株のバブルの終わりが明確になった」

・2008年6月23日付け記事「中国国内航空:便によっては激安?」

・2008年7月6日付け記事「『中国の不動産市場:急を告げる』との記事」

・2008年7月28日付け記事「中国経済は既に『オリンピック後』に突入」

 これらの2007年暮~2008年夏にかけての中国経済の「変調」が2007年10月までの中国共産党大会へ向けて無理をした中国経済への当局の「押し上げ政策」の反動なのか、あるいは2008年9月にリーマン・ショックとして顕在化する世界経済の変調を受けたものなのか峻別は困難ですが、中国経済は2007年10月の党大会をピークとして、その後「変調」を来していったことは事実です。

 2012年の第18回党大会の時は、2008年秋にリーマン・ショック対策として打ち出さされた「四兆元の超大型経済対策」がまだ効いていたためかすぐには「党大会終了」の影響は出ませんでしたが、翌2013年3月の全人代で中国政府の「習近平国家主席・李克強国務院総理」の体制が固まり「経済改革」が本格化したことで、中国経済は「変調」をきたし始めました。「変調」が最初に明らかになったのは、2013年6月8日に発表された中国の貿易統計で2013年5月の中国の輸出に急ブレーキが掛かった(4月は対前年比+14.7%だった伸びが5月は+1.0%に急減速した(いずれも米ドル・ベース))ことでした。これについて当時の報道では投機マネーを中国国内に流入させるために行われていた香港への「偽装輸出」(実際の価格より高い価格で中国大陸部から香港に商品を輸出し、輸出代金の形で投機マネーを外国から中国大陸部に流入させる手法)が取り締まり強化によって急減したからだ、と言われました。

 この中国当局による「偽装輸出取り締まり」による「投機マネー流入抑制」の措置と5月に起きた「バーナンキ・ショック」により、中国国内の流動性枯渇が起き、上海銀行間短期金利は乱高下しました。その後中国経済は落ち着きましたが、2014年秋にマンション価格がピークを打ち、その後投機資金は株式市場に流れ込んで、2015年前半の上海株バブルが起きました。2015年の上海株バブル崩壊に対する中国当局の右往左往と同年8月の突然の人民元切り下げにより、2015年8月と2016年年初に「中国発世界同時株安(いわゆるチャイナ・ショック)」が起きたことは記憶に新しいところです。

 2003年のSARS騒動が2002年の党大会の直後だったのは単なる「偶然」だと思いますが、2007年の党大会以降は、中国経済が世界経済の中の重要なプレーヤーとして成長したこともあり、党大会へ向けた当局の意図(及び中国企業・人民の期待)による中国経済の押し上げと世界経済の変化から受ける影響が共鳴して、だいたいは中国経済は党大会直後の年末から翌年夏に掛けての変調を来すのが「通例」になったと言っていいと思います。

 中国共産党トップが代わる党大会(2002年と2012年)は、政府側のトップ(国家主席・国務院総理)が交代するのは翌年3月の全人代なので、習近平政権の「中間期」に当たる今回(2017年)の党大会後の影響については、党トップの交代がなかった2007年の党大会後の状況が参考になると思います。ただし、今回の党大会で李克強氏が党政治局常務委員のナンバー2として残るとしても、来年3月の全人代で全人代常務委員長になり、国務院総理が交代する見通しが打ち出されるのであれば、具体的な政策の実施は来年3月の全人代以降になるので、その場合は2012年の党大会後の状況の方が参考になるかもしれません。

 いずれにしても、中国人民自身が「党大会がひとつのピークだ」という認識を持っていますから、私はこの10月第一週の国慶節の連休中のマンション販売は低調になるだろうと予想していました。先週、このブログに「もし仮に『マンション市場での売れ行きが意外に低調だった』ことが事実だったとしても、党大会が終わるまでは、そうしたことは報道されないと思いますけどね。」と書きましたが、これは私の「勘ぐりのしすぎ」でしたね。実際、この国慶節休み期間中のマンション販売は低調だったようで、そのことは中国でもきちんと報道されていました。

 マンション市場の動向は、多くの中国人民にとって関心事項ですから、「人民日報」ホームページ内にある「財経」チャンネルには「房産(マンション資産)」と題する専用のページがあり、マンション市場の動向に関するニュースをまとめて見られるようになっています。この「房産」のページに2017年10月9日付けで「国慶節連休中のマンション市場はひっそり:ホットな大都市(中国語で「一、二銭城市」)でのマンション成約は低調 マンション市場は早々と冬に突入か?」という記事が載っていました。この記事によれば、国慶節の連休期間中、中国指数研究院がモニターしている19の重点都市では、一日の契約成立面積が前年比51.4%の下落だった、とのことです。このうち大都市(中国語で「一線城市」)の下落幅は7割に達し、中都市(中国語で「三線城市」)でも下落幅は5割を超えている、とのことです。また、中原地産研究センターの統計データによると、重点的にモニターしている30都市のネットを使った契約は大幅に減っており、平均下落幅は8割に達し、契約量は2014年以来最低だった、とのことです。

 2014年秋のマンション市場の低調により、マンション市場に流入できなかった資金が株式市場に流入して2014年暮れから2015年6月に掛けての「上海株バブル」に繋がったわけですが、今回はこの「国慶節期間中のマンション成約の低調」は、どのような形で中国経済の中で表面化してくることになるのでしょうか。

 この「人民日報」ホームページ内「財経チャンネル」の中の「房産」チャンネルでもう一つ興味深い記事を見つけました。10月12日付けの「経済参考報」に載っていた記事で「マンション市場の調整政策においては市場の理性は有限である点を考慮すべきだ」というタイトルのものです。この記事は2017年のノーベル経済学賞を受賞したリチャード・セイラー教授が研究している行動経済学(実際の経済活動に携わる人間は、必ずしも常に経済合理性に基づいて行動するわけではないことを考慮すべきとの考え方)を念頭においたものです。この記事では、近年、マンション市場に出現している「頭金ローン」「超短期ローン(中国語では「過橋貸」)」「消費者金融の異常な増加」「偽装離婚」「深夜の隊列」など「理性的とは思えない現象」を指摘しています。

 最初の三つは、中国当局が投資目的のマンション購入を抑制するため、既に住宅を持っている人がマンションを買う場合には一定の割合以上の頭金を用意しなければならない、との規制を導入したところ、頭金を作るための資金貸しが横行していることを指摘しているものです。「偽装離婚」とは、一世帯で二件以上のマンションを購入する行為を規制する当局の政策に対して、夫婦が離婚して二世帯であると偽装してマンションを買う行為を指します。「深夜の隊列」は、マンションを買うために発売日に深夜から並ぶ人たちが現れる現象を指します。この記事は、こうした「理性的ではないマンション購入行為」がある以上、そういう現状を念頭においた政策を採るべきだ、と提言しているのです。

 日本でも、高度経済成長期には深夜に並んで良い条件のマンションを買おうとした人たちはいましたが、それはあくまで「自分が住むためのマンション購入」でした。この記事は、現在の中国では「自分が住むためではない投機のためのマンション購入」が日常的な光景になっている現状を表していると思います。

 「中国のマンション・バブルは崩壊する」という警告に対して、「また狼少年でしょ」と軽くいなす人も多いと思いますが、私は、今でも「中国のマンション・バブルは『いつか』必ず崩壊する」と考えています。ただ、その「崩壊」は、今回(2017年の)中国共産党大会の終了がひとつの切っ掛けになるのか、もっと先の話になるのか、は私にはわかりません。ただ、去年(2016年)12月の中央経済工作会議で「不動産バブルのリスクの防止」が議題の一つとして議論され、今年(2017年)4月の中国共産党中央政治局会議の際に開かれた「集団学習会」において「金融安全の維持」が議論されたことは軽く考えるべきではないと思います。これらの会議は中国共産党中央自身がマンション・バブルの崩壊の危険性を重要視していることを示しているからです。

 今、アメリカ、ヨーロッパ、日本ともに政治面でのリスクを抱えているし、北朝鮮の動向には全く読めないものがあるので、現在の中国経済の状況については相対的に楽観視している人も多いようですが、「中国のマンション・バブル」の問題については「また狼少年だ」と考えずに慎重にウォッチしていく必要があると思います。

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2017年10月 7日 (土)

中国が「暗黙の保証」の問題に対処できていない現状

 今週も「中国バブルはなぜつぶれないのか」(朱寧著、森山文那生訳。日本経済新聞出版社)で述べられている「暗黙の保証」に関する問題点についてです。「訳者あとがき」によれば、この本の中国語版は2016年3月に初版が出版されて以降、中国でもベストセラー経済書上位50冊にランクインするほど売れたのだそうです。「中国では、政府による『暗黙の保証』の認識の下、リスクの実態とは関係なく多くの借金がなされて投資に使われている」と警告しているこの書が中国国内でもよく売れている、という事実は非常に重要だと思います。

 経済学者がこうした「警告」を鳴らし、そうした「警告」を鳴らす本がよく売れていることは、中国社会のひとつの「健全性」を示していますが、一方で、政策面ではこうした「警告」に対して適切な対応が採られているとは言い難い、という点が、中国経済のたぶん最も重大なリスクだと私は思います。中国共産党中央は、こうした「警告」を真剣に受け止めていると思いますが、「現場」では「よくわかっていない人たちによる適切ではない対応」がなされているように見えるからです。

 私がこのブログ内に書いてきたいくつかの点をここで改めてピックアップしておきたいと思います。

○2016年11月26日付け記事:中国の「地方政府の債務リスク応急処置事前対策」

 私はこの記事で、国務院弁公庁が出した「地方政府の債務リスク応急処置事前対策」において「地方政府の債券は、地方政府が法に基づいてその全ての償還責任を負う」とされていることを指摘しました。この部分は国務院が地方政府が持っている「暗黙の保証」意識の問題点を認識していることを示していますが、逆に言えば、現実問題として地方政府はややもすると「最後は中央政府が尻拭いしてくれるさ」と考えてしまう現状があることを示しています。

○2017年4月29日付け記事:中国共産党政治局で金融安全について議論

 この記事で述べたように、習近平総書記自身が、「中国の金融リスクはコントロール可能である」としながらも、外国からの国際金融上の衝撃(具体的には、アメリカFRBにより利上げや資産の縮小、ヨーロッパ中央銀行(ECB)による量的緩和の縮小など)を切っ掛けとした金融リスクに対する対応を考えるべき、と指摘している点は重要です。「暗黙の保証」で膨れあがった経済は、何かの切っ掛けでその信頼の一部が崩れると、雪崩を打って崩壊する可能性があることを、中国共産党中央もよく認識しているわけです。

(注)2008年のアメリカの「リーマン・ショック」はまさに「雪崩を打って」という表現にふさわしい急激なバブルの崩壊でしたが、日本の「平成バブル」は、1989年末の株価のピークの後、1990~1991年頃をピークとした地価の下落、1997年の北海道拓殖銀行と山一證券の破綻、2003年のりそな銀行への公的資金注入と足利銀行の破綻あたりまでを考えると、十年単位の長期間にわたるゆっくりとした地滑りのような「崩れ」でした(りそな銀行と足利銀行はその後の関係者の努力により現在は復活しています)。

○2017年7月8日付け記事:またぞろ「中国の理財商品は大丈夫なのか」という話

 私はこの記事で「人民日報」ホームページ内にある特定の会社と人民日報社が共同で運営管理する「理財商品」を販売する「人民信金融」という名前のサイトを紹介しました。私は、中国共産党中央が本当に真剣に「暗黙の保証」を問題だと考えているならば、こんなサイトは作らせなかっただろうと思っています。というのは、多くの中国人民は、中国共産党の機関紙である「人民日報」を発行する人民日報社が共同運営するサイトで売っている「理財商品」ならばデフォルト(債務不履行)を起こすことはないだろう、と思うはずであって、このサイト自身が「暗黙の保証」の感覚に基づく「理財商品」の販売拡大を助長する役割を果たしているからです。中国の一般人民は、この「人民日報」ホームページ上の「理財商品」販売サイトを見て、このサイトで売っている「理財商品」だけでなく、広く中国全土で売られている「理財商品」全体について、「最後は中国共産党がなんとかしてくれるはずだから、デフォルトするはずはない」と感じているかもしれません(私は、この「人民信金融」サイトについては、今度の中国共産党大会での議論の中で問題視され、共産党大会終了後にはサイトが閉鎖されてしまうのではないか、とすら考えています)。

○2017年8月19日付け記事:中国のインフラ投資とPPPと社債との関係

 この記事の中で、私は中国国家発展改革委員会が「経済参考報」の取材に対して「デフォルト(債務不履行)リスクのある債券については、事前に介入し、市場を使い、法的手段を用い、企業を指導し、仲介機関に償還方法を制定させ、システミック金融リスクを発生させない、という最低ラインを断固として守る」と述べたことを紹介しました。この中国国家発展改革委員会の発言は、「中国政府はデフォルトしそうな社債は事前に介入してデフォルトさせないようにする」と言っているようにも読めます。これは「中国バブルはなぜつぶれないのか」の中で著者の朱寧氏が述べている「デフォルトと破産を容認せよ」という主張とは真逆のものです。

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 以上を比べてみると、中国においては「経済学者や中国共産党中央は『暗黙の保証』の問題点についてはよく理解しており、その対処も必要だと考えているが、現場(経済主体や政策執行部局)においては対処できていない」ことを示していると思います。別の言葉で言えば「頭ではわかっているが、バブルに踊る企業や人民からの反発を恐れて対処できない」のかもしれません。

 なお、経済主体や経済政策執行の現場では「バブルに踊る企業や人民からの反発を恐れて対処できない」のではなく、「全ては市場が決めるべき」という自由主義経済の大原則を理解しておらず、「デフォルトを出さないことが金融リスクを防ぐことに繋がる」と誤って理解している人が多くいる可能性があるのが気掛かりです(そもそも1978年暮に改革開放経済が始まって40年弱、「六四天安門事件」の後、トウ小平氏による「南巡講話」(1992年)で市場経済の重要性を再認識してから25年しか経過していないので、特にそれ以前に教育を受けた人の中には、そもそも「自由主義経済」がどういうものかをわかっていない人が意外に多い、というのが、二回の北京駐在を通じて得た私の中国の人々に対する素直な印象です)。

 この一週間、国慶節の連休中、中国全土のマンション市場でマンションがどれだけ売れたか(順調に売れたか、意外に売れ行きがよくなかったか)が気になるところです。もっとも、もし仮に「マンション市場での売れ行きが意外に低調だった」ことが事実だったとしても、党大会が終わるまでは、そうしたことは報道されないと思いますけどね。

 マンション市場の動向は、中国の新聞等では報道されないとしても、国際的な商品市況(鉄鉱石、原料炭、スクラップ、銅、アルミなど)に現れて来ますし、中国市場でビジネスを行う諸外国の企業のビジネスに必ず影響が出てきますから、そういった国際商品市況や中国でビジネスを行う外国企業からの情報発信には注意深くアンテナを張っておく必要があると思います(今、上海株式市場は「国家隊」(政府系ファンドなど)による買い支え等でコントロールされているので、上海の株価を見ていても、おそらく現状はよくわからないと思います)。

(注)人民元の対米ドル相場と「アメリカ国債の金利が不自然に上昇していないか」を見るのも、ひとつの「手」かもしれません。アメリカ国債の最大の保有者は中国ですが、「マンション価格の下落=資本の外国への流出圧力の増大」により人民元安圧力が強まった場合、人民元安を防ぐために中国当局が「米ドル売り・人民元買い」の為替介入を行おうとすれば、手持ちのアメリカ国債を売却して米ドル資金を得る必要があるからです(中国が米国国債を大量に売却すれば、米国国債の価格は下落(金利は上昇)します(結果としてドル高になる))。2017年10月2日(月)にテレビ東京で放送された「Newsモーニング・サテライト」でソシエテ・ジェネラル銀行の鈴木恭輔氏は、去年(2016年)後半のドル高局面で中国の米国国債保有額が大きく減少していることを指摘した上で「9月ドル高の影に北京あり」と述べていました。

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2017年9月30日 (土)

中国のマンションにおける「住む価値」と価格との差

 今「中国バブルはなぜつぶれないのか」(朱寧著、森山文那生訳。日本経済新聞出版社)という本を読んでいます。アメリカ・イェール大学のロバート・シラー教授(2013年ノーベル経済学賞受賞)が序文を書いている経済書です。著者の朱寧氏は、上海交通大学上海高級金融学院副院長です。著者による「まえがき」には2015年11月の日付があり、今年(2017年)7月25日に出版された日本語版は、英語版から翻訳されたものです。

 中国語の原題は「剛性泡沫」です。邦題は「中国バブルはなぜつぶれないのか」となっていますが、私は「中国バブルはなぜ今までつぶれなかったのか」の方が適切だと思います。というのは、この本では、中国バブル崩壊を防ぐための政策提言もしていますが、著者は「今後とも中国経済のバブル的状況は崩壊しない」とは言っていないからです。

 多くの人は「中国国内では言論統制が厳しく、自由な政策論議が行われていない」と考えていると思います。中国共産党による統治を批判したり、例えば「南水北調」のような国家的プロジェクトについて「生態系や気候を変動させる」と批判的に論じたりすることができないのは事実ですが、「中国バブルはなぜつぶれないのか」で論じられているように、中国経済の現状について警鐘を鳴らし、解決策を提言するようなまじめな議論はきちんと行われていることは認識すべきです。この「中国バブルはなぜつぶれないのか」は、中国の経済の専門家が正直に中国経済の現状を分析して論じている観点から、中国経済の現状を把握する上でも非常に貴重な本だと私は思います。

 この本の重要な点は「中国の経済主体(企業や家計)が『いざとなったら政府が救済してくれる』という認識の下、実際のリスクとは関係なく借金をして投資を行っている」という中国経済の最大の問題点を真正面から分析していることです。この本では、これまで例えば社債のデフォルトや不動産価格の下落が大きくなるような場面で、関係者が騒ぎ出して社会を混乱させることを恐れるあまり、銀行や不動産デベロッパー、最終的には中国政府自身が「下支え」的な行為を繰り返してきたことにより、中国の企業や国民の間に「最後は誰かがなんとかしてくれるのでデフォルトやマンション価格の下落は起こりえない」という「暗黙の保証」の認識が広がっていることを指摘しています。

(注)日本やアメリカにおいても「大きすぎてつぶせない」問題により、過去にいくつかの大型企業に対して公的支援がなされてきていることを考えると、このあたりの指摘は他の先進国の政策を考える上でも非常に示唆的です。また、銀行や不動産デベロッパーなど「政府ではない経済主体」でさえ、多くの人々による社会的騒ぎの勃発をおそれて、経済的損失を被ってでも顧客の損失補填を行うケースがある点は「中国的」であるとは言えますが、日本の平成バブル期以前は、証券会社が顧客の「損失補填」と受け取られるような行為を陰でやっていた、という歴史を振り返れば、中国のことだけを批判するのは適切ではないと私は思います。

 こうした「暗黙の保証」に対する認識と、実際、過去においては不動産価格の下落は一時的かつ限定的で、長期的に見れば不動産価格は常にインフレ率よりも高い割合で上昇してきた、という事実に基づき、中国では多くの人は「住む」という目的ではなく、「資産運用」という観点で(場合によってはローンを組んで借金して)マンションを購入してきました。その結果、中国のマンションは、「住む」という本来目的から見た適正価格とは全く掛け離れた非常に高いレベルまで価格が上がってしまっているのです。「『住む』という本来目的から見た価格」に比べて相当に高い価格で売買がなされている、という事実は、別の言葉で言えば、中国のマンションはバブル化している、ということです。

 中国のマンションの「住む価値」と売買価格との差については、「中国バブルはなぜつぶれないのか」では、賃料利回り(マンションを売買する時の価格とそのマンションを賃貸に出した時の賃料との比)について、中原集団という不動産業者が公表している下記のような数字を紹介しています(第3章「損失を出せない住宅購入者」の「中国の住宅価格はどれほど高いのか」より引用)。

2008年の賃料利回り
北京:3.5%
上海:3%
広州:4.5%
深セン:3.9%

2013年末の賃料利回り
北京:1.8%
上海:2.0%
広州:2.5%
深セン:2.2%

 賃料利回りの低下は、マンションの「住む価値」に対して売買される価格が高騰していることを示しています。2013年末の賃貸利回りは、銀行預金金利(3.5%程度)より低く、2013年末でのマンション購入動機は「将来マンション価格が値上がりすることを見込んだ投資」であることは明らかです。「マンション価格は将来も現在と変わらない」と考えられるのであれば、「投資目的」ならマンションを購入してそれを賃貸するより同じ資金を銀行に預けておいた方が有利だし、「住むこと」が目的だったら、マンションを購入する資金があるのなら、それを銀行に預けておいて、賃貸に住んで賃料を払った方が購入するより得だからです。

 マンション価格の下落傾向が定着した時、または「中国政府はマンション価格が下落することをなんとしても防ぐはずだ」という「信頼」がなくなった時、現在のマンション市場を支えている基盤が崩壊することになります。

 私自身の個人的経験から言っても、中国の「住居の価格」は異様に高い、というイメージがあります。私は、1998年~2000年のアメリカ・ワシントンD.C.勤務(ポトマック川対岸のバージニア州北部の賃貸アパートメントに居住)と2007~2009年の北京勤務(北京市内の賃貸アパートメントに居住)を経験しており、その他の期間は東京で賃貸住宅に住んでいます。引っ越しのたびに不動産屋さんに頼んで複数の賃貸物件を実際に見て住む場所を決めているわけですが、東京とバージニア州北部の家賃については物価水準を考えても「まぁ、そんなもんかなぁ」という程度の違いでほとんど違和感はありません。しかし、北京の家賃は為替レートで計算した東京の家賃とほぼ一緒ですが物価水準(北京地下鉄2元=30円、日刊新聞1元=15円、タクシー初乗り料金(2kmまで)10元=150円)を考えたら北京は東京より5倍程度高い、ということになります。

(注)家賃を考える際には、賃貸物件の物理的条件のほかに、直近の鉄道駅までの距離や周辺にコンビニやスーパーマーケットなどがあるか、といった周辺環境条件も重要ですが、現在の社会経済状況で、日本・アメリカと中国とを同じレベルで比べるのは、そもそも無理があるのかもしれません(別の観点から見れば、緑豊かな自然環境を考えれば、北部バージニアは東京よりは住居の価格は相当に安いと言えるかもしれません)。

 アメリカの場合は現地のアメリカ人も外国人も同じような家賃を払って同じように住んでいるのに対し、中国の場合は外国人用アパートメントは中国人用アパートメントに比べて家賃を相当高く設定している、という事情の違いはありますが、中国の場合、物価水準と比べて住宅価格は高すぎる、というのは、2007年~2009年に北京に住んだ私の実感です。上の賃貸利回りの数字を見ると、現在の中国のマンション価格は、2007~2009年頃に比べてもさらに上がっているようですから、現在の中国のマンション価格は「住むという実態」からは掛け離れたレベルになっているのは明らかだと思います。

 中国では明日(10月1日)から国慶節の連休です。国慶節の連休は、マンションを買いたいと思っている人が現地の物件を見るチャンスなので、マンションを売る不動産屋さんにとっては大きな「かき入れ時」です。なので、毎年、マンション価格を抑制したいと考える都市の政府では、国慶節前にマンション価格抑制策を打ち出すのが「恒例」になっています。今年も国慶節を前にしていくつかの都市でマンション価格抑制策が打ち出されようです。「人民日報」のホームページの「財経チャンネル」には9月25日付けの経済参考報の記事「全国の多くの都市ではマンション上昇抑制策が打ち出され、不動産市場の『脱投資化』のすう勢はさらに顕著になってきている」が載っていました。この記事によると、石家庄、重慶、南寧、長沙、南昌、貴陽、武漢(いずれも省政府があるような地方の有力都市)でマンション価格の抑制政策が打ち出されたとのことです(例えば、不動産権証書を取得した後3年を経過しないと転売してはならない、等)。

 去年の同じ時期には、北京などの大都市でマンション価格の抑制策が出されました。これらの大都市では、この一年間、マンション価格の上昇にはブレーキが掛かりましたが、価格が大きく下落するところまではいきませんでした。今年の有力地方都市でのマンション価格上昇抑制策がどの程度効果を発揮するのかは現時点ではわかりません。2007年(第17回党大会のあった年)にはマンション価格抑制策は実態的に効果を発揮し、2007年12月頃をピークに2008年前半にはマンション価格はかなり下落しました(ただし、2008年の時は、この年後半に出されたリーマン・ショック対応の4兆元の超大型経済対策により、マンション価格は結局は再上昇することになりました)。

 今年の「マンション価格抑制策」がどの程度効くのかは、党大会終了後、中国政府がどの程度までのマンション価格の下落を容認するのか、に掛かっています。上の記事では「『脱投資化』のすう勢はさらに顕著になってきている」と述べていますが、実際に中国のマンション価格が現在売買されている価格ではなく、「住む」という行為に着目した適正な価格に落ち着くのであれば、上記に紹介した賃料利回りのデータを元にして考えれば、マンション価格は現在の半分程度に下落してもおかしくない、ということになります。ただ、実際にマンション価格が半分に下落したら、多くの企業や家計の名目資産が半減することになりますので、「バブル崩壊」的状況になり、単に不動産市場に閉じることなく、中国経済全体に多大な影響を与えることになると思います。

 よく日本の新聞記事等では「中国の不動産市場の軟着陸は可能か」などと書かれます。日本の平成バブルやアメリカのリーマン・ショックを見ればわかるように、不動産市場がバブルになったら「軟着陸」は不可能であり、そうした状態を終わらせるには「バブル崩壊」しか道はないでしょう(そもそも軟着陸可能な状態なのだったら、それは「バブル」ではなかった、ということでしょう)。一方、上に述べたように、中国のマンションについては「住む価値」と売買されている価格が相当にかい離していることから、中国のマンション市場が「バブル」であることは明らかです。なので、中国のマンション市場については「崩壊は避けられるのか」ではなく「崩壊するのは確実であり、それがいつ起きるのか」が問題なのだと私は思います。

 10月18日からの党大会で、来年3月の全人代で李克強氏が全人代常務委員会委員長に「昇格」し国務院総理は退任するという方向性が決まるのかもしれません。もしそうなのだとしたら、私は、李克強氏が住宅バブル崩壊のリスクを察知し、実際にバブルがはじける前に国務院総理を退任しておいた方が得策だと判断しているのかもしれない、などと最近勘ぐるようになってきています。

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2017年9月23日 (土)

「新疆生産建設兵団」の扱いと軍の統率問題

 ここ数日、今度の中国共産党大会で最大の焦点と言われた政治局常務委員の王岐山氏の再任問題について、「再任しない」ことで決着する見通し、と日本の各紙が報道しています。日経新聞と時事通信が報じたところによると「王岐山氏が退任の意向を示し、習近平氏は慰留したが、結局は退任することになった」とのことです。これが事実とすれば、習近平氏は全て自分の思った通りに物事を進められているわけではない、ことを意味するので、ことは結構重大だと思います。

 一昨日(9月21日)かねて失脚したと伝えられていた甘粛省の元党書記の党籍剥奪が決まりました。また先ほど見た(9月23日(土)放送の)中国中央電視台の夜7時のニュース「新聞聯播」によると、中国保険監督監視委員会の元主席(閣僚級)と中国共産党中央規律委員会駐財政部規律検査組組長が腐敗により党籍剥奪となった、とのことです。それぞれかねて失脚が報じられていましたが、党大会を前にして党として正式な決定を下した、ということのようです。地方政府(省)のトップや中央官庁の閣僚級だった人の失脚も「おおごと」だと思いますが、腐敗を取り締まる中央規律委員会の取り締まり現場の組長の失脚も「おおごと」だと思います。「駐財政部規律検査組組長」が収賄で失脚した、ということは、財政部の中に贈賄した人がいる、ということを意味するわけで、ことは重大だと思います。もしかすると、中央規律委員会の規律検査の現場の組長が失脚したことで、中央規律委員会の総元締めである王岐山氏の再任が難しくなった、といった事情もあるのかもしれません。

 10年前の第17回党大会直前のこの時期(9月末頃)、私は北京に駐在していましたが、これほど次々と「大物」が失脚したと報道されていた記憶はないので、今回の第19回党大会は、いつもとは違った雰囲気の党大会になるのかもしれません。

 私が「今回は10年前の党大会とは雰囲気が違う」と感じるもうひとつの要因は、習近平氏が軍の内部に相当露骨に手を突っ込んで改革を進めようとしている点です(胡錦濤前総書記は江沢民元総書記の力がまだ強かったので軍の改革には手を突っ込めなかった、と言った方が正しいのだと思いますが)。

 私は2007年4月に二回目の北京駐在を始めた時点で、その前の北京駐在終了時(1988年9月)以降、ほとんど中国関係の仕事をやっていなかったことから、「タイムマシンで19年すっ飛ばして北京に戻って来た」ような状態でした。そのため「あれぇ、以前とは随分変わったんだなぁ」と気付くところがたくさんありました。その一つが「新疆生産建設兵団」の扱いでした。

 「新疆生産建設兵団」は、人民解放軍の人員で構成され、新疆ウィグル自治区において辺境の防衛にあたるとともに、新疆ウィグル自治区の経済開発のための様々な生産活動を行う集団で、一種の「屯田兵」的存在です(通常、略して「兵団」と呼ばれる)。1980年代には既に存在していましたが、軍の一部の部隊であり、特段「人民日報」などに登場する機会もなかったので、私自身、1986年~1988年の北京駐在時には、「兵団」の存在について意識することはありませんでした。

 ところが、2007年4月に二回目の北京駐在を始めてみると、例えば、全国で何かの問題についてテレビ会議をするニュースでは、河北省、天津市、新疆ウィグル自治区といった地方政府代表者と同じレベルで「兵団」代表者が登場していました。国営通信社である新華社のホームページの「地方」のページを見ると、河北省、天津市、新疆ウィグル自治区と同じレベルで「兵団」のページがありました。

 中国では、地方行政区分として、河北省などの23の省(これには中華人民共和国政府が主張する「台湾省」も含む)と5つの自治区(新疆ウィグル、チベット、内モンゴル、寧夏回族、広西チワン族の各自治区)と4つの直轄市(北京、天津、上海、重慶の各市)があり、基本的に(台湾省以外は)これらは同等に扱われます(このほかに、香港とマカオの特別行政区がある)。「新疆生産建設兵団」は、物理的地理区分上は、新疆ウィグル自治区の内部にあるので、「兵団」を「新疆ウィグル自治区」と同等に扱うのは、どう考えてもおかしいので、2007年の二回目の北京駐在時にニュースで「兵団」と「新疆ウィグル自治区」を同等の別個な主体であるかのように扱うのを見て私は「おかしいなぁ」と感じたのでした。

 私は中国の人民解放軍の内部事情については報道されている以上のことは何も知らないのですが、おそらくは「新疆生産建設兵団」は、辺境の地にあって、国土防衛(最近はイスラム過激派等のテロ対策も含めた治安維持)にあたるとともに、農業経営、工場の運営から、病院、学校まで自ら経営しているため、ほとんど新疆ウィグル自治区政府とは異なる「独立王国」的な性格を持っているのではないかと思います(新疆ウィグル自治区全体では漢民族は少数派ですが、「兵団」は軍の一部であることもあり、漢民族が大多数を占めていることも「独立王国」的性格を持つ原因になっている可能性があります)。しかし、仮に実態的に「兵団」が「独立王国」的性格を持っていたとしても、政治的には(特に中国共産党が新疆ウィグル自治区ではウィグル族等による「自治」を重んじていると主張するならば)「兵団」を「独立王国的」に扱うことはむしろ避ける方が賢明だと私は思います。しかし、実際は「新疆生産建設兵団」はまるで新疆ウィグル自治区とは別に存在する「独立王国」のように扱われています。

 これも私の「想像」の域を出ませんが、二つの私の北京駐在期間の間(1988年と2007年の間)に、独立王国的性格を強めた「新疆生産建設兵団」が中央政府と中国共産党中央に対して独立した扱いをするよう求め、中央政府と党中央がその圧力に屈したのではないか、と私は考えています。

 1980年代の中国の最高実力者のトウ小平氏は、中国共産党中央軍事委員会主席以外の党や政府の要職には就いていませんでしたが、軍の内部には圧倒的な支配力を持っていました。それは、トウ小平氏自身が国民党との国共内戦時に「将軍」として戦闘の現場を指揮した経験があり、その時に生死を共にして戦った部下の多くが人民解放軍の幹部として残っていたからでした。なのでトウ小平氏の存命中は「軍が党中央に圧力を掛ける」などということは誰も考えもしなかったことでした。

 トウ小平氏は1997年に亡くなりましたが、トウ小平氏の後継として中国共産党中央軍事委員会主席になった(国家主席にもなった)江沢民氏、胡錦濤氏、習近平氏は軍での経験はありません。トウ小平氏の死後、軍の党中央に対する声が大きくなっても党中央の中に軍による「圧力」を押さえ込めるだけの力がなくなってしまった、と想像することは難しくありません。

 1980年代の北京駐在時のことはほとんど覚えていないのですが、2007年~2009年の北京駐在時には「新聞聯播」で三日に一度は「軍の○○部隊は××でこういう軍事訓練を行った」といった軍関連のニュースを必ず流しているのに気がつきました。今、「新聞聯播」は、2013年8月から東京でスカパー!経由で毎日見ていますが、今は「新聞聯播」では、軍関連のニュース(どこそこでこういう軍事訓練が行われた、といった類のもの)を毎日放送しています。「新聞聯播」では、政治・経済のニュースのほかに、国際ニュース、文化ニュース、スポーツ・ニュースもやるので、軍関連のニュースもそれと同じようなものであって他意はない、という考え方もあるのでしょうが、軍関係のニュースの放送頻度については今は胡錦濤政権時より明らかに多くなっています。私の率直な感想は「党中央は軍の機嫌を損ねないように相当軍に気を使っているなぁ」というものです。

 中国に行ったことのある人ならすぐ気付くと思いますが、例えば、高速道路の料金所では、軍関係車両専用のゲートがあって、軍関係のナンバープレートの車は、他のゲートのところに並ばずにゲートを通過できるようになっています。おそらくこうした「軍関係者を他とは区別して優遇するシステム」が中国社会には広く存在していることが想像され、それによって軍関係者の「特権階級意識」も強いのではないかと想像されます。もし仮に軍の内部に政府や党中央をも凌駕するような「特権階級意識」があるのだとすると、党中央としては、そうした軍の「特権意識」を排し、軍は完全に党中央の指揮下に入るべきだ、との考えが党中央に芽生えてもおかしくはありません。最近、習近平主席が軍内部においても集中した権力掌握を進めていますが、それが「軍の特権階級意識を撲滅し、軍を名実ともに完全に党中央の指揮下に収める」ことを目的としているのならば、習近平主席による軍内部での権力集中は前向きな軍改革として評価すべきなのかもしれません。

 今、新華社のホームページの「地方」のページに行くと、台湾省を除く22の省、5つの自治区、4つの直轄市に加えて、「兵団」と無錫市、長江デルタ地帯、河北・天津・北京地域を特集したページへ飛ぶリンクが並んでいます。一方、「人民日報」のホームページトップには、台湾省を除く22の省、5つの自治区、4つの直轄市に加えて深セン市を特集したページへ飛ぶリンクが張られています(「兵団」を特集したページへのリンクはない)。なので、新華社の「地方」のページに「兵団」へのリンクがあっても、そんなに深い意味はない、「『兵団』が省・自治区・直轄市と同じレベルの独立王国と化している」とするのは考え過ぎ、との見方もできるかもしれません。しかし、最近、「人民日報」(中国共産党の機関紙)が党大会前の特集として「前回の党大会以後の5年間の発展ぶりを紹介する企画」として、平日の紙面で、毎日、各地方をひとつづつ取り上げる特集を組んだ際にも、台湾省を除く22の省、5つの自治区、4つの直轄市の後に来たのは「新疆生産建設兵団」の特集でした。これも、現在、党中央が、「新疆生産建設兵団」を省・自治区・直轄市と同じレベルで扱っていることの証左だと思います。

 最近、日本の新聞では、軍における習近平主席への権力集中の動きについて、「政権は銃口から生まれる」という毛沢東の言葉を引用しつつ、習近平主席が自分への権力集中にどん欲であるとの印象を強く打ち出しています。それは一面では誤りではないとは思いますが、別の一面として、習近平氏が目指しているものについては、上に書いたように「党中央をもないがしろにしがちな軍の内部を改革し、真に党中央が軍全体を統率できるような体制を構築する」という一面もあることは指摘すべきだと思います(なお、「新疆生産建設兵団」の扱いについては、中国国内では極めて「敏感な」(政治的にセンシティブな)案件ですので、たぶん、中国のネットに私が今日書いたような議論を書き込んだら、例え習近平氏への権力集中を応援するような内容であったとしても、一発で削除対象になると思います)。

(注)日本の新聞等で軍における習近平主席への権力集中を語る際に毛沢東の「政権は銃口から生まれる」という言葉を引用していることについては、引用の仕方が誤りである、と私は考えています。毛沢東の言葉は「西欧型議会制民主主義においては、ブルジョア階級(資本家及び大地主)が資金力にものを言わせて選挙を勝ち抜くので、議会は常にブルジョア階級に有利な決定をし、人民の大多数であるプロレタリアート(労働者や貧農の階級)からの搾取はなくならないので、プロレタリアートは団結して、武力蜂起によって、場合によっては議会を粉砕して、革命を達成させなければならない」と主張するもので、民主主義を確立し議会制度を通して平和裏に(武力を用いないで)近代化革命を進めようとしている勢力に対する批判の中でなされたものです。従って、既に共産主義革命が成立した現在の中国において、為政者が軍に対する掌握力を強化しようとしていることについて、この毛沢東の「政権は銃口から生まれる」という言葉を引っ張ってきて説明しようとすることは、言葉の背景を考えていない誤った引用の仕方だと私は思っています。

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2017年9月16日 (土)

党大会前後で何がピークを打つのか打たないのか

 中国共産党第19回全国代表大会(2017年10月18日開幕)まで残すところほぼ一ヶ月となりました。党大会を境に中国政府による「下支え」がなくなるので、中国経済は党大会をピークとして下り坂に入る、という見方と、中国政府は党大会後の急速な経済減速を望まないので、党大会後も中国経済は堅調さを維持する、という見方が交錯しています。ただ、おそらくは「党大会のピークで一儲けしよう」と考えている「投機筋」が少なからずいると思うので、多くの相場で中国共産党大会が「転換点」のタイミングになる可能性は小さくないと思います。

 党大会前1か月のこの時期、もしかしてピークを付けたのかな、と見えるようなものをいくつか掲げてみたいと思います。

○上海総合指数:9月14日に中国国家統計局が発表した今年(2017年)1~8月の経済指標が予想より悪かったので、週末上海総合指数は少し下げました。ただ、今年(2017年)の上海総合指数は上昇基調にはありますが、2007年の党大会前や2015年夏のような「バブル的な上昇相場」ではないので、これから党大会前後に掛けて、そんなに乱高下はしないのではないか、と私は見ています。2015年の株バブル崩壊以降、国家隊(政府系ファンド等)による株価安定策がかなり効いていると思いますので。

○銅価格:9月上旬に高値を付けた銅価格の値上がりが一服していますが、今日(2017年9月16日(土))付け日本経済新聞朝刊17面には「銅、高値修正は限定的 投機筋の売りで上げ一服 実需の買いが下支え」という見出しの記事が載っていました。世界最大の銅の消費国は中国なので「党大会後、中国での銅の需要は頭打ちになる」と見た一部の「投機筋」が今のタイミングで売りを入れたのでしょう。

○亜鉛:今日(9月16日)付け日本経済新聞朝刊18面には「亜鉛価格、内外で下落 中国経済に減速観測」という記事が載っていました。

○ビットコイン:昨日(9月15日)、ビットコインの価格が大幅に下落しました。中国の規制強化により中国の大手仮想通貨取引所が今月末で取引を停止すると発表したことが切っ掛けでした。今の時点ではビットコイン市場の動向が実態経済に与える影響は大きくないと思いますが、「投機マネー」の動向を見る指標として、ビットコイン価格は一種の「温度計」の役割を果たしていると見てもよいかもしれません。

○中国の不動産市場:「人民日報」のホームページ「人民網」の「財経チャンネル」に経済参考報の記事として「全国のマンション市場の在庫圧力大幅減 多くの都市において在庫は『良性周期』に入った」(2017年9月15日アップ)が載っていました。この記事では、今年1~8月、マンション販売面積は過去最高で前年同期比12.7%増(1~7月比1.3ポイント下落)、マンション販売額は前年同期比17.2%増(1~7月比1.7ポイント下落)だったことを伝えています。「今年はこれまでマンションはよく売れたので在庫が減った。ただし、8月には売れるスピードが鈍化した」ということだと思います。記事では「在庫は『良性周期』に入った」とポジティブに報じていますが、そもそも経済は堅調とは言えそんなに景気が急速に拡大しているわけではない今年(2017年)の1~8月のマンション販売額が前年比17.2%増だ、というのは「売れすぎ(=過熱し過ぎ)」なのじゃないかなぁ、と私は思います。なお、この記事では、政府の方針に従って、手持ちのマンション物件を賃貸にする開発業者も増えていることを紹介しています。賃貸物件に思った通りの家賃で借り手が付くかどうか、も今後の中国のマンション市場の将来を占う上で、重要なカギになりそうです。

 そもそも9月14日に発表された中国の経済指標について、昨日(9月15日)の日本経済新聞朝刊11面では「中国経済、緩やか減速 8月、資産・投資伸び鈍る」という見出しで報じています。党大会を一ヶ月後に控え、中国経済は既にピーク打ち感が出ている、と見るべきなのかもしれません。

 それに加えてちょっと気になるのは、その記事の隣にあった「訪日団体旅行を制限 中国・福建省など 外貨流出警戒か」という見出しの記事です。もし、この記事が指摘しているように、中国当局が中国からの資金流出を懸念して「爆買い」をするような日本旅行を制限しようとしているのが事実ならば、それは中国当局自体が「党大会後の中国経済の減速とそれに伴う資金の海外流出圧力の増加」を見込んで、そのための対策を打ち始めていることを意味しているのかもしれません。

 来週(9月19~20日)、アメリカFRB(連邦準備制度理事会)はFOMC(連邦公開市場委員会)を開いて金融政策について議論します。この会合で「量的緩和」によって積み上がった資産(バランスシート)の縮小を10月から開始することを決定するのではないか、との見方も強いのですが、アメリカFRBが資産の縮小を始めてアメリカの金利が上がり始めるのと同じタイミングで中国で共産党大会後の経済の減速が始まるのだとするとあまりよくないなぁ、とちょっと心配になります。おそらく米欧日の中央銀行は、10月の中国共産党大会後に中国経済が減速するかもしれない、というスケジュール感は頭に入っていて、それを踏まえた金融政策のコントロールをしてくると思いますが、北朝鮮情勢の不透明さもあり、今年(2017年)の秋は、各種の経済指標や市場の相場動向を注意深く見守っていく必要のある時期が続きそうです。

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2017年9月 9日 (土)

内政外交ともに「対処できていない感」満載の習近平氏

 先週日曜日(2017年9月3日)の日本時間12:30頃、北朝鮮が六回目の核実験を行いました。日本の新聞等でも指摘していますが、この日の午後、福建省厦門(アモイ)で開かれたBRICS(新興五か国)首脳会談に先立って行われた経済シンポジウムの開会式で習近平主席が演説をしており、北朝鮮の核実験が習近平主席の演説の数時間前であったことから、北朝鮮の今回の核実験は「中国への面当て」の意図を強く打ち出したものだった、との見方が強くなっています。

 最近の北朝鮮のミサイル発射等の挑発行為は、時刻に係わらず行われていて、「自分の好きな時にいつでもできる」ことをアピールしていますが、5月14日に行われた弾道ミサイルの発射も、北京で行われた「一帯一路」首脳会議に先立つ経済シンポジウムの開会式で習近平主席が演説する数時間前に行われました。この日の習近平主席の演説は午前中に行われましたが、北朝鮮による弾道ミサイル発射は早朝に行われ、タイミング的には「習近平主席が各国首脳とテレビカメラの前で演説を行う数時間前」という意味では、今回の核実験と全く同じでした。

 北朝鮮の貿易の9割以上は中国相手であり、北朝鮮問題については、アメリカのトランプ大統領ならずとも、世界の多くの国が中国に対して「なんとかしてよ」と思っている中で、習近平主席「肝入り」の各国首脳を招いての国際会議の直前のタイミングでの北朝鮮のたび重なる挑発行為は、北朝鮮による習近平氏の「メンツ潰し」としては極めて効果的だったと思われます。こういったタイミングでの北朝鮮の挑発は、国際社会のみならず、中国国内に対して「習近平主席は北朝鮮問題について何も対処できてないじゃないか」との印象を与えたと思います。

 こうした北朝鮮の挑発行為に対する中国側の対応も「中国は北朝鮮に対して有効な対処ができていない」という印象を強めるものとなっています。「一帯一路シンポジウム」の時も今回のBRICS首脳会議に際してのシンポジウムの際も、北朝鮮の「挑発」の数時間後に演説した習近平主席は、北朝鮮の問題について何も触れませんでした。今回のBRICS首脳会議関連のシンポジウムに関しての中国側の報道は、当日の中国中央電視台の夜7時のニュース「新聞聯播」でも翌日の「人民日報」の紙面でも、習近平主席が演説したシンポジウム関連の報道に多くの割合を裂き、北朝鮮問題については、「外交部が強烈な反対を表明した」旨をごく小さく、ほとんど「ベタ記事扱い」で報じたに過ぎませんでした。この習近平主席の「だんまり」と中国側の北朝鮮問題をなるべく小さく扱おうとする態度は、BRICS首脳会議に出席していたロシアのプーチン大統領が記者会見で北朝鮮問題に関してロシアの立場をハッキリ表明していたのとは対照的で、「北朝鮮問題については、中国はロシアに比べても態度をハッキリ表明していない。中国は相当に困惑しているようだ。」という印象を内外に与えてしまいました。

 そうした一方、BRICS首脳会議が開かれていた9月4日と5日、国務院総理の李克強氏は山西省を視察していて、貧困対策等について地元の地方政府幹部と話し合う姿が「新聞聯播」などで報じられました。私は、まるで李克強総理が「習近平主席は福建省でBRICS首脳会議をやっているようだが、私(李克強総理)は関係ないもんね」と言っているような印象を受け、「北朝鮮に対して有効に対処できていない」以前の問題として、習近平主席は中国政府内部も統括できていないのではないか、という印象を持ってしまいました。もし中国政府が政府全体としてBRICS首脳会議を中国の外交上の重要イベントだと認識しているならば、李克強総理もアモイに出向いてBRICS参加国の首相や経済関係閣僚と会談を行うのが普通でしょう(去年(2016年)9月に浙江省杭州で開かれたG20首脳会議の際も李克強氏は杭州へは行っていないので、こうしたやり方は今に始まった話ではないんですけどね)。

 一方、内政問題については、今、中国ではそんなに大きな問題が生じているようには見えません。実際、10月18日から開催予定の第19回中国共産党全国代表大会へ向けて、現在のところ中国経済は順調に行っているようです。ただ、これは、政府によるインフラ投資等による景気下支え策と強烈な資本規制による資金の国外への逃避抑制に起因する中国国内での資金滞留の効果が大きいのであって、中国経済の根本的な問題点は先送りされているだけであまり改善されていない、という見方も強いようです。

 8月30日付け日本経済新聞朝刊8面に「中国の地方政府 土地売却を加速 1~7月4割増の30兆円 景気対策に財源確保」という記事が載っていました。中国の地方政府が「土地は公有制」という中国の特徴を活用して、農民から一定額の補償金を支払った上で農地を収用し、それを土地開発業者に売却して大きな財政収入を得て、それをインフラ投資等に使っているという問題は、私が北京に駐在していた10年前頃ですら「持続可能なやり方ではない」と認識されていました。そうした「土地収入依存体質」という構造が全く改善されていない(というより党大会前の景気下支えのための投資の財源としてより強力に行われている)という現状は、中国政府は「構造改革」についてはうまく対処できていないことを示しています。

 「土地収入依存体質が改善していない」という点については、中国国内でも問題意識は持たれてるようです。「人民日報」ホームページ「人民網」の「財経チャンネル」に2017年9月5日付けの「経済参考報」の記事「1~8月の300都市の土地収入は2.2兆元 不動産企業による土地取得は依然として加速している」との記事が掲載されていました。この記事のポイントは以下のとおりです。

○今年(2017年)1月~8月の全国300都市の土地売り出し総額は2兆2,032.6億元で、前年同期比約34%の増加である。

○中原地産の首席アナリストの張大偉氏は次のように解説している。「不動産企業による土地取得が加速過程にあることは非常に明確である。大都市(中国語で『一線城市、二線城市』)では不動産販売抑制政策の効果が明らかであるが、全国のデータで見ると、不動産企業は今年上半期の販売状況が比較的よかったという状況の下、資金状況は空前の規模で余裕がある状態にあり、現在ある在庫分の販売が成功した後、大部分の大手不動産企業は積極的に土地取得を開始している。」

 この記事は、2017年に入ってからの中国政府による資金の海外流出の締め付けにより、中国国内で資金がだぶつき、またぞろ不動産市場がバブル的状況になっていることを表していると思います。中国政府は、党大会前の景気の過熱を抑制し、党大会後に経済が急速にしぼむことを防ぐ対策をやる必要があることはわかっているにも係わらず、今年については、過熱の抑制に成功していないようです。

 中国当局は9月4日、ICO(仮想通貨発行による資金調達)を禁止する旨の通達を出しました。これも中国国内でだぶついた資金が新しい投資対象であるICOを過熱化させることを中国当局が懸念したからだと思います。規制するのは政策判断として私も「あり」だと思いますが、市場の混乱を避けるためには、全面禁止する前に当局側からICOに関する懸念が表明されるなり、政府内で禁止へ向けて検討を開始した等の情報を流すなりして、ある程度熱を冷ましてから「禁止」の決定をすべきだと思いますので、今回の突然のICO禁止決定は、私には経済政策のやり方としてはいささか「拙劣」だったような気がします。

 2015年夏の上海株バブル崩壊時のあわてふためいた株価下支え策、2015年8月の突然の人民元の切り下げ、2016年年初の株式市場でのサーキット・ブレーカー制度の朝令暮改(制度を導入したら市場が混乱したので数日で制度を撤回した)、そして今回の突然のICO禁止決定といった一連の政策から私が受ける印象は、「習近平政権の経済政策は一貫性がなく、その場しのぎで、中国の歴代政権の中でも『アラ』が目立つ気がするなぁ」というものです。私には、外貨が非常に少ない1980年代に苦労して外貨兌換券制度を編み出し、それを1990年代に混乱なく終了させた過去の中国当局の巧妙な経済・金融政策の記憶があるので、ちょっと昨今の中国の経済政策の「ドタバタぶり」が気になってしまい、今の中国政府は現状の問題点にうまく対処できていないのではないか、と感じてしまうのです。

(注)私には、リーマン・ショック後のアメリカFRB、ヨーロッパECBや日本銀行の金融政策についても「うまく行っている」と判断する自信はないので、中国のことだけを批判的に見るのは公平ではない、とも考えています。

 で、私が一番気になるのは、上に書いたように外交や内政において、中国には様々な問題があり、中国政府の対応が必ずしもうまく行っていないのではないか、という部分もある中、習近平主席が次の党大会での自分への権力集中にばかり関心を向けているように見え、李克強総理もそういう習近平主席から一定の距離を置いて「お手並み拝見」という態度を取っているように見えて、中国政府に一体感がないように見えてしまっていることです。

 特に私の印象では、習近平主席は前任の胡錦濤主席に比べて、テレビを通じて人民に呼び掛ける姿がかなり少ないのが気になっています。李克強総理の方は、よく国際的な経済シンポジウムに出席して、経済人や報道陣からの質疑を受ける場面をテレビで見かけるのに対し、習近平主席の方は用意された原稿を読み上げる演説の場面はたくさんあるのですが、「自分の言葉」で語りかける場面が少ないように思います。特にロシアのプーチン大統領が、テレビによく出て、自分の言葉で国民と世界に呼び掛けるのがうまく、「強い指導者」であるとの印象を作り出すことに成功しているのと比較すると、習近平主席はメディア戦略という点ではあまり成功していないと思います。

 タイトルに掲げた「対処できていない感」は、単なるテレビ等を通じた印象だけの話であって、実際には、習近平主席は中国共産党と中国政府内部では見えないところで強力なリーダーシップを発揮しているのかもしれません。しかし、もし仮に「対処できていない感」を保持したまま、10月の党大会で習近平氏が「中国共産党主席」に就任し、権力を一手に集中させることに成功するのだとしたら、習近平氏は、メディアから受ける印象と実質的な権力集中の不一致、という苦しみに今後苛まれることになると思います。中国人民の気持ちは、やはりメディア等から受ける「印象」に左右されますからね。

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2017年9月 2日 (土)

党大会前の順調な中国の企業決算の信頼性

 中国共産党第19回全国代表大会は2017年10月18日から開催されることが8月31日に公表されました。10年前の2007年の第17回党大会の時は、10月15日から党大会が開かれる旨が8月28日に公表されていますので、それとだいたい同じタイミングです。なので、党大会の重要な決定事項については今の時点で既に「概ね見通しがついた」(=特段揉めているわけではない)と考えてよさそうです。

 一方で、今度の党大会で去就が注目される政治局常務委員の王岐山氏(習近平主席の「右腕」として反腐敗運動の中心を担っているとされる。年齢的には今度の党大会では再任されない見通しだが、習近平主席への権力集中の一環として慣例となっている「定年制」を変更してでも再任されるのではないか、との見方もある)は7月下旬以来、テレビのニュースに登場していません。王岐山氏の再任問題が最後まで調整を要する事項として残っている可能性があります。

 党大会の開催日公表は8月31日でしたが、おそらくは先週末(8月25日)の時点で開催日程公表のメドがついていたのではないかと思います。というのは、8月25日(金)、上海総合指数が対前日比1.80%高と急騰し、年初来高値を更新しましたが、中国共産党内部の情報に通じている投資家が未公表の党内情報を踏まえて株を買った可能性があるからです(公表されていない内部情報を元に株を売買することは、中国でもインサイダー取引として規制されますが、おそらく実態的には党内情報を知った一部の投資家が他の投資家に先駆けて株を売買するようなケースは中国では「よくあること」なのではないか、と私は想像しています)。

 8月29日(火)、北朝鮮が日本を飛び越して太平洋に中距離弾道ミサイルを発射して、日韓の株価が大幅安しているのに、上海総合指数は平気な顔をして小幅に値を上げました。足元の上海総合指数の上昇傾向については、最近の中国企業の決算発表の内容が予想以上によかったからだ、といった理由付けがなされているようです。

 最近の中国企業の業績が好調なことについては、8月31日(木)付けの日本経済新聞朝刊13面に「中国企業 2割増益 上場3,118社1~6月期 資源高やインフラ投資に依存 党大会後は不透明」という見出しの記事で解説がなされていました。この記事によると、業種別では鉄鋼と建材が飛び抜けて最終損益の上昇率が大きく、インフラ投資が大きく企業業績の好調さに貢献していることがわかります。

 実際、今、中国企業の業績は好調なのだと思いますが、私は、最近の中国の「雰囲気」には留意する必要があるのではないか、と思っています。その「雰囲気」とは以下の点です。

○中国共産党は(民間企業も含めて)企業に対する党の指導を強化する方針を強く打ち出していること(企業も中国共産党の意向には逆らってはならない、という「暗黙の圧力」になっている)。

○「反腐敗闘争」の一環として、企業トップが摘発される例も多発していること。特に最近の軍の最高幹部クラスの摘発は、平時にしてはいささか度を越しているように思われ、各界トップに「次は自分が摘発されるのではないか」という恐怖心を植え付けるのに十分な状況であること。

(注)今日(2017年9月2日(土))付け各紙は、中国共産党軍事委員会メンバー11人のうち4人が失脚していることを大きく報じています。ちょうど10年前の2007年の党大会の時に私は北京に駐在していましたが、当時の胡錦濤政権では、こうした「あからさまな権力闘争」と思われる案件は党大会の直前にはありませんでした。2006年9月、陳良宇上海市党書記(江沢民前国家主席に近いと言われていた)が失脚しましたが、この案件は党大会の1年以上前の話でした。党大会直前の時期に大物(特に軍の大物)の失脚が続くという現在の習近平政権のやり方は「ただ事ではない」という雰囲気を作り出しています。

○(これは党大会が行われる際には毎度のことですが)中国全土で「中国共産党大会勝利開催!」の雰囲気の盛り上げが行われていること(個人的な感想ですが、先日、習近平主席も出席して行われた中国全国運動会(日本の国民体育大会に相当)の開会式で、観客席で「第19回党大会勝利開催!」という人文字を作っていたのは、やめて欲しいと思いました。北朝鮮じゃないんだから。)

 このような「雰囲気」の中で中国政府が景気浮揚のため一生懸命インフラ投資をやっているわけですが、こういう「周囲の状況」の中で「残念ながら当期の我が社の業績は今ひとつ振るいませんでした。」と正直に決算発表できる企業トップは相当に勇気のある人だと思います。中国の企業の決算発表の実態(例えば、監査法人や公認会計士による監査がどの程度厳格に行われているのか)は私はよく知りませんが、省レベルの地方政府ですらGDPの「水増し」が行われている中国社会の現状を鑑みれば(先日、遼寧省幹部はGDPの「水増し」があったことを認めた)、中国の企業決算をどの程度信用してよいのか、については、私は疑問に思っています。

 もし仮に、中国の企業トップに「党大会の前の決算はよく見せよう」という意向が働くのだとしたら、昔、バブルの時期に日本企業がやっていたような「飛ばし」(含み損を抱えた資産を決算時期の前に「決算時期の後に買い戻す」という条件付きで他社に売却する行為)のようなことを中国の企業はやっているのかもしれません。もしそうだとすると、党大会前の決算内容は実態よりも「水増し」されていることになります。

 8月5日付けのこのブログでは、金融機関の貸し出し時における「党大会バイアス」(党大会前の企業破綻を避けるため、党大会前は平常より貸し出し条件が甘くなってしまうケース)があるのではないか、と書きました。金融機関によるこうした「党大会バイアス」や各企業の「党大会前の決算を通常より良くお化粧して見せる」という行為が仮に一般的に行われているのだとしたら、中国経済は党大会前は実態よりもよく見えてしまうことになります。

 中国の株式市場の投資家たちがそうした中国における「党大会前の特殊な事情」を知った上で株を売買しているのかどうかは私は知りません。ただ、事実として2007年のケースを書くと、党大会は2007年10月15日に開幕し、当時も「バブルではないか」と言われていた上海総合指数は党大会開幕翌日の10月16日に終値ベースでピーク値6,124ポイントを付けました(翌2008年3月末には3,400ポイント、8月18日には2,320ポイントまで下落。翌月に起きたリーマン・ショックによりさらに下値を探ることになる)。

 今回も上海総合指数が党大会開催翌日にピークを打つかどうかは誰にもわかりませんが、問題は、今回の党大会の開催日が10月18日であることが公表されたことから、「党大会の開催日が様々な経済指標のピークになる可能性がある」と考える「投機筋」がそういう前提で投機マネーを動かす可能性があることです。

 7月下旬、ウォール・ストリート・ジャーナルが10月頃に相場が変動することに賭けた投資家が出たことを報じて話題になりました。アメリカ政府の債務上限問題(9月末がタイムリミットと言われる)やアメリカFRBの資産縮小開始決定(9月20日に決定される可能性が取りざたされている)もありますので、この投資家が中国のことをどの程度考えていたのかは定かではありませんが、中国共産党大会の開催日が決まったことで、ピンポイントのタイミングを狙った投機筋の行動もこれからも出てくるかもしれません。

 ここのところ日経新聞では「中国共産党大会後の中国経済が心配」といった趣旨の記事が非常に多くなっているように感じます。特に今の習近平政権は、明らかに「経済が党大会の時点でピークを打つという懸念」よりも「習近平氏への権力集中の実現」の方に優先順位を置いているように見えるので、「中国経済が党大会のタイミングでピークを打ち、その後、下り坂に入る」という「みんなが心配している懸念」が実際に起きる可能性はかなり大きいと私は思っています。

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2017年8月26日 (土)

党大会前の景気過熱はコントロールできているのか

 中国共産党大会を前にして中国経済は過熱し、党大会終了後に下り坂に向かう、ということは誰もが(中国共産党自身も含めて)わかっていることなので、通常、中国政府は党大会前の経済が過熱しすぎないように適度にブレーキを掛けます。ただ、今回(2017年)の党大会に関しては、既に8月末になっているのに、まだ「過熱状態」が続いているようであり、中国政府による「適度なブレーキ」が効いていない、即ち、中国政府は党大会前の景気過熱をうまくコントロールできていないのではないか、との懸念が出てきているようです。

 その懸念を端的に示す記事が今朝(2017年8月26日)の日本経済新聞朝刊に載っていました。13面の記事「中国発 鉄冷えの秋警戒 世界生産は15ヵ月連続増」という記事です。この記事では「山が高ければ、それだけ谷が深くなる」として、党大会前の過熱が過ぎると、党大会終了後の落ち込みが大きくなると警戒している日本の鉄鋼大手幹部の発言を紹介しています。

 ちょうど一月前の7月29日、私はこのブログで「今年『中国共産党大会前の経済の過熱』は許されるのか」という記事を書きました。私は2007年4月~2009年7月まで北京に駐在していました。その北京駐在期間中の2007年10月に第17回中国共産党大会を、2008年8月に北京オリンピックを経験しましたが、その頃、中国政府は、党大会と北京オリンピックへ向けた景気の過熱をかなり警戒しており、北京オリンピック終了後に景気が急に冷えることを防ぐために、適度に景気にブレーキを掛けるような政策をとっており、実際、それは一定の効果が上がっていたように私は感じました。それに比べると、今回(2017年)は党大会前の景気過熱の行きすぎを抑制するための「適度なブレーキ」があまり効いていないように感じます。それだけに党大会終了後に中国の景気に急ブレーキが掛かることが懸念されます。

 「中国の経済統計指標は信用できない」という人も多いのですが、国際的な市況の動向を見ていると、中国経済の実態もある程度は想像することができます。ここ一週間の日本経済新聞の報道でも、中国経済が現在もかなりホットな状況にあることを背景にしていると思われる国際市況に関する記事が相次ぎました。

○8月23日(水)付け朝刊20面「ばら積み船 用船料上昇 大型船、1ヵ月で2倍 中国向け堅調」

○8月25日(金)付け朝刊21面「鉄スクラップが一段高 直近安値3割上昇 中国輸出減で」

○8月26日(土)付け朝刊17面「NY銅先物が上昇 2年9ヵ月ぶり3ドル超え 中国の需要増に期待」

 これらは「現在の需要が実際に好調だという実需」の側面と「これから需要が好調になるだろうと見込んだ投機」の側面とを両方含んでいると思われますが、党大会の時期(つまり景気のピークになるだろうと思われるタイミング)のほぼ二か月前という現時点での状況にしては、私には「ちょっと景気が熱過ぎる」という感じがします(ついでに言うと、3,250ポイント程度を上限とする範囲内に当局がうまく納めるだろうと思っていた上海株式市場の総合指数が8月24日(金)に3,331.522(対前日比1.80%高:年初来高値更新)に急騰したのも気になります。私は上海総合指数は、2015年の株バブル崩壊以降、国家隊(政府系ファンド等)による売り買いによって「当局が数字をコントロールできている」と思っていたので、今後、上海総合指数の上昇が止まらなくなるようだと要注意だと思います)。

 ここで気になるのは、「過熱の行きすぎが心配になるほどの景気」と習近平氏が党大会で権力集中を図ろうとしていることが関係しているのではないか、という点です。習近平氏が、多くの地方政府や国有企業に関係する党幹部の支持を得たいと考えるならば、党大会直前のこの時期に過熱するくらい「景気のよい」状況を現出させておいた方が得策だと考えると思われるからです。前にも書いたことがありますが、2008年頃、北京オリンピック終了後の急速な景気後退を心配した中国政府は一定程度景気にブレーキを掛けていましたが、この頃、私の耳には「マクロ経済政策の中心人物である周小川中国人民銀行総裁の更迭説」が入って来ました。おそらくは「景気の過熱」を好む地方政府や国有企業の有力党幹部が景気にブレーキを掛けようとする周小川氏を排除しようとする動きがあったものと思われます。

 2008年当時、胡錦濤政権は「景気の過熱を防ぐための適度なブレーキ政策」を堅持し、周小川氏も辞めることはありませんでした。私は、胡錦濤政権は「景気過熱」を求める党内勢力の圧力には屈しなかったのだ、と当時思いました。(2008年9月、アメリカ発のリーマン・ショックが世界を襲い、その対策のために四兆元の超大型経済対策が打たれたため「北京オリンピック終了後の中国経済の後退」は結局は杞憂に終わりました)。

 今日(2017年8月26日(土))の時点で、中国共産党大会の日程はまだ公表されていません。10年前の2007年の党大会の日程発表は8月28日だったので、あと一週間のうちには党大会の日程が発表されると思われます(発表がそれより遅れるようだと、党大会で決めるべき事項の中でまだ方向性が決まっていない「揉めている案件」が残っているからだ、という憶測を生むことになると思います)。

 上に書いたように、「党大会直前になっても景気の過熱が収まらない」という現状は、中国政府の経済政策が「経済の円滑な推移」よりも「党大会での習近平主席への権力集中の実現」という政治的目的の方を優先していることを示している可能性があり、もしそうなら、党大会後、習近平政権は、実態経済から大きな「しっぺ返し」を受けてしまうことになる可能性があります。

 なお、外国メディアが「中国の現在の景気は党大会を前にした当局による大規模なインフラ投資で支えられているので、党大会が終わると景気は急減速する可能性がある」という論調で伝えることが多いことについては、中国当局自身も結構気にしているようです。今日(2017年8月26日(土))付け「人民日報」2面には「経済情勢の新しい変化については全面的に客観的に見るべき」と題する論説記事が載っていました(もともとは8月25日の「経済日報」に載っていたものを「人民日報」が転載したもの)。

 この記事では、最近の中国の経済成長は、新しい産業分野の成長が大きいことや労働生産性が上がっていること、最終消費支出の経済成長における寄与度が大きくなっていることなどを数字を上げて説明した上で、「一部外国メディアはこのような中国経済の重要な変化を理解しておらず、あるいは見て見ぬふりをして、依然として中国の経済成長はインフラ等の投資が引っ張っていると説明している」と外国メディアを批判しています。

 もともと「経済日報」に掲載された記事を「人民日報」が改めて転載した、ということは、中国共産党宣伝部がこの論調を強く主張したいと考えていることの表れです。私のような「中国の新聞をひねくれて読むクセ」のある人から見ると、こういう記事の出し方は、実は「中国経済は依然としてインフラ等の投資が引っ張っている」という外国メディアの論調が「痛いところを突いている」からだ、と見えてしまいます。

 中国共産党の内部には優秀なエコノミストがたくさんいます。おそらくは「経済の円滑な推移よりも政治目的を優先していると、あとで実態経済から手ひどい『しっぺ返し』を受けるおそれがある」ということについては、中国共産党内部の「心ある人々」には重々わかっているのだと思います。上に紹介した「痛いところを突いてくる外国メディアをムキになって批判する論説記事」は、そうした中国共産党内部にいる「心ある人々」の苦しさを映していると私は思っています。

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2017年8月19日 (土)

中国のインフラ投資とPPPと社債との関係

 2015年夏から2016年初に掛けて、世界の関係者に「失速か?」と心配された中国経済ですが、2016年央から2017年に掛けては「意外に」順調で、現時点(2017年8月)でも(若干ピークアウト感はあるものの)それなりの高いレベルは維持しているようです。

 2017年に中国経済が復調した原因は、インターネット通販の拡大やシェア・エコノミーの浸透などもあるかとは思いますが、やはり2017年秋の党大会へ向けての大規模なインフラ投資事業の推進が大きかったと思います。このブログの過去の記事を読み返してみて改めて思ったのは、去年(2016年)5月11日に中国国家発展改革委員会が発表した「交通インフラ設備重要プロジェクト建設3年行動計画」が効いているのかもしれません。この「行動計画」は2016~2018年の3年間に鉄道、地下鉄、空港、道路などに4.7兆元(今のレートで約78兆円)を投資しようというものです。この規模は、2008年11月に出されたリーマン・ショック対応の4兆元の超大型経済対策と比較しても、相当に大きなものであると言えます。

(参考1)このブログの2016年5月28日付け記事「今夏の中国はまた『大都市不動産バブル崩壊』か」

 このほか、2017年4月には、河北省に新たな副都心とも言える「雄安新区」を建設する計画が打ち出されており、この秋の党大会が終わっても、「超大型インフラ投資」は継続されることになるのかもしれません。

 一方、こうしたインフラ投資の資金源として使われていた地方政府による資金管理会社「融資平台」は、負債の額が巨額に上っていることから「融資平台」に対する融資は制限されるようになりました。それに代わって、PPP(官民パートナーシップ事業)が活用されるようになりましたが、これが「地方政府が新たな借金をするための打ち出の小槌」になるのではないか、との懸念がなされています。

(参考2)このブログの2017年6月17日付け記事「中国のインフラ投資のスピード感」で紹介した2017年6月11日付け日本経済新聞朝刊13面記事「官民投資 中国で乱立 地下鉄など総額230兆円 『民』の実態は国有? 不良資産拡大も」

 一方で、最近増え続ける中国の社債の発行残高についても懸念を示す見方が出てきています。

(参考3)このブログの2017年8月5日付け記事「中国の景気循環と『中国共産党大会勝利開催バイアス』」で紹介した2017年8月2日(水)放送:テレビ東京「Newsモーニング・サテライト」の「プロの眼」のコーナーでなされたBNPパリバ証券の中空麻奈氏の指摘「中国:社債市場に要注意」

 これらの「懸念」をひとつに結びつける記事が「人民日報」ホームページの「財経チャンネル」に載っていました。2017年8月17日付けでアップされた「経済参考報」に掲載されていた「発展改革委員会:企業債券(社債)の違約リスク(=デフォルト(債務不履行)リスク)を防ぐ」という見出しの記事です。

 この記事のポイントは以下のとおりです。

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○中国国家発展改革委員会が8月16日に語ったところによると、発展改革委員会は数日前、企業債券(=社債)の分野においてさらに一歩リスク防止のための管理監督を強化し実体経済への効果を上げるための通知を出した。

○企業が新たに社債の発行を申請する場合には、企業と地方政府との間の権利責任関係を明確にし、社債を発行する企業と地方政府の信用を厳格に隔離し、地方政府及びその関係機関と社債を発行する企業との間において、規範的ではない協力関係があったり、政府による購入、財政による補助等があったりするような状況を厳禁する。

○2016年に中国国家発展改革委員会が認可した社債の規模は8,000億元を超えるが、これらは主に、交通インフラ施設、低層老朽化住宅地区(中国語で「棚戸区」)の改造、都市インフラ建設等の重点領域に用いられるものだった。

○社債の発行が絶え間なく拡大している状況の下、中国国家発展改革委員会は、これからさらに一歩管理監督を強化し、社債のデフォルト(債務不履行)リスクを防止する。(中央政府の)中国国家発展改革委員会は、省レベルの発展改革担当部署に対し、社債発行後の資金の使用状況について追跡調査を実施し、規則に反する行為があれば適切なタイミングでこれを是正するよう要求する。デフォルト(債務不履行)リスクのある債券については、事前に介入し、市場を使い、法的手段を用い、企業を指導し、仲介機関に償還方法を制定させ、システミック金融リスクを発生させない、という最低ラインを断固として守る。

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 この記事を読むと、地方政府が行うインフラ投資プロジェクトにおいて、PPP(官民パートナーシップ)の名の下、政府調達や財政補助を通じて地方政府と密着した企業が社債を発行して資金を調達し、その結果、発行された社債の償還責任が企業にあるのか地方政府もある程度の責任を負うのか不分明になっている例があることが想像されます。PPP(官民パートナーシップ)とは言え、中国の場合、多くの場合の「民」は国有企業であり、地方政府も国有企業も「中国共産党による指導」の下にあるので、最終的に社債の償還責任が誰にあるのかわかりにくい現状があるのだと思います。

 そもそも「中国国家発展改革委員会が社債の発行を認可する」という行政行為や「デフォルト・リスクのある債券については、事前に介入して、デフォルト(債務不履行)を起こさないようにする」という考え方自体、「社債を償還する(=借りた金を返す)責任はどこにあるのか」を不明確にしていると思います。(日本等の資本主義国の場合には、社債の償還責任はあくまで会社にあり、インフラ投資プロジェクトにおいてパートナーを組んでいる地方政府や事業を監督する中央政府が社債の償還責任の一端を担うことなどあり得ません。それに対して「中国共産党が全てを指導している」という大原則がある中国では、おそらくは中国人民は、社債の償還不履行が起きた場合には「中国共産党が責任を取れ」と騒ぐことになるのだと思います)。

 これを突き詰めれば、最後の最後は、デフォルト(債務不履行)になる社債が数多く発生して、金融システミック・リスクが起きそうになったら、中国人民銀行(中央銀行)が社債を買い入れる、というようなところもまでやってしまうのじゃないかなぁ、とさえ思います。「最後は中国人民銀行が社債を買ってくれるのだったら安心だ」とも言えますが、もしそういう考え方が流布しているのなら、いい加減な社債発行も横行することになり、中国の金融システムに「モラル・ハザード」が起こることになります。そうなったら中国経済がどうなるのかは、私にはわかりませんが、リーマン・ショックの後、アメリカFRBが「量的緩和措置」と称して住宅ローン担保証券を国債とともに大量に購入した現実があるので、もし中国人民銀行が社債の購入を始めたりしても「FRBと同じことをやっているだけ」と言われるだけかもしれません。

 以前、中国の地方政府は、地方政府債券を発行することは認められていませんでした。そのため、リーマン・ショック後の「四兆元の大型経済対策」が打ち出された時期、地方政府は「融資平台」と呼ばれる企業体(日本で言えば第三セクターのようなもの)を設立して、この「融資平台」に銀行が融資することによって資金を調達して様々なプロジェクトを実施しました。銀行からの融資は、本来業務としての銀行融資のほかに、銀行や関連会社が組成する「理財商品」によって集められた資金も使われたと考えられています。

 「融資平台」の債務が膨張して、「融資平台」への銀行からの融資が制限されると、今度はPPP(官民パートナーシップ)と称してプロジェクトに参加する企業(多くは国有企業)の側が社債を発行して資金を調達するようになりました。その社債は結局は「理財商品」を組成しているファンドが買っている場合が多いようです。つまり、結局のところ「理財商品」という銀行の帳簿上には載ってこない金融商品によって多くの人々から集められた資金が地方政府が行うプロジェクトに流れる、という構図は以前も今も全く変わっていないわけです。

 投資したプロジェクトから十分なリターンが得られない場合でも、中国経済全体が成長して、販売される理財商品が増え続けている間は、償還期限が来た理財商品の利子は新しく販売した理財商品で得られる資金でまかなうことができますが、理財商品の全体規模の成長が止まった時、この構図は崩壊します(おそらく、崩壊を回避する方策は、上に書いたように、社債や理財商品を中国人民銀行が買い入れることしかないでしょう。それが中国にハイパー・インフレを招くことになるのか、中央銀行が大量の国債等を購入してもインフレにならないアメリカや日本のようになるのか、は私にはわかりません)。

 この秋(2017年秋)、中国共産党大会が終われば、中国政府(中央政府及び地方政府)によるインフラ投資はピークを越えるので、中国経済は減速期に入る、という見方があります。一方、「雄安新区」の構想に見られるように、中国政府は党大会終了後も高いレベルのインフラ投資を続けるので、中国経済は減速しない、という考え方もあります。ただ、高いレベルのインフラ投資を続ける場合、その資金源をどこに求めるのか、という問題には必ずぶち当たります。「やめられないインフラ投資とそれを支える借金の積み上がり」という中国経済の「止まったら倒れる自転車操業」的問題は、「融資平台」が「PPP」あるいはそれを支える「社債」に置き換わっただけで、今も本質は何も解決していないことはよく認識しておく必要があると思います。

P.S.

 8月17日に習近平主席はアメリカ軍の制服組トップと会談し、翌8月18日李克強総理はWHO幹部と会談し、それぞれの会談がテレビのニュースで伝えられました。お二人とも、通常通り、にこやかな表情でテレビに映っていました。ということで、今年の「北戴河会議」は終了したようです。今のところ、お二人に特に「変わった様子」は見られないので、「北戴河会議」では特段の「揉めごと」はなかったようです。アメリカのホワイトハウス内部がガタガタして、トランプ政権がほとんど機能不全状態に陥っているように見える昨今ですので、中国の政治には、うまく秋の党大会を乗り切ってもらって、「問題先送り」でもいいから中国経済には、当面「中国経済大減速!」という事態にはならないようにして欲しいな、と思います。アメリカでトランプ氏が大統領をやっている間に中国の政治や経済がゴタゴタしたら世界が壊れてしまうかもしれないので、そうならないように、中国の政治と経済にはぜひ安定を保ってもらいたいと思います。

 「リーマン・ショック」に続いて、今度また「トランプ危機」を中国に救ってもらうような事態になるのだったら、当面アメリカは中国には頭が上がらなくなるようなぁ、と思いますね。アメリカには、もっとしっかりして欲しいと思います。(アメリカ国債の保有額については、去年(2016年)10月の時点で中国は日本に抜かれて二位になっていましたが、アメリカ財務省が8月15日に発表したところによると、今年(2017年)6月時点で、中国は日本を抜き返して首位に返り咲いたそうです)。

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